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【実話】スマホを捨ててしまった!

作者: 新竹芳

久しぶりの短編は実話です。

多少脚色はしてありますが本当にスマホを捨ててしまった時の一幕


楽しんでくれると、嬉しいです。

 それは2年前。

 コロナ禍がやっと収束に向かっていた晩秋であった。


 珍しく私は仕事が休みで、妻も同じく休日。

 子供たちは学校があるとはいえ、仕事のある日に比べて、非常にゆったりとした朝を迎えていた。


 妻の淹れてくれたインスタントコーヒーを飲みながら、溜まっていた封書の束を整理していた。

 何かと慌ただしいことがあったため、1週間分くらい溜まっていただろうか。

 封を乱暴に破りながら中身を確認していく。

 とはいっても、あらかたは一目見れば十分の内容。目の前のテーブルの上にゴミの山となっていく。


 そんな時だった。


 上の階から妻が慌てたように降りてきた。

「8時よ!ゴミ収集がくるの!」

 すでに時計は7時45分を回っていた。

 妻の視線が私の前のごみの山に刺さった。

「それ!いらないんでしょ!この中に入れて!」


 持っていた自治体指定のごみ袋を開いて私に突き付けてきた。

 その剣幕に押されて、自分の前のテーブルに広がっていた書類、いやゴミ屑を慌てて集める。

 ほとんど私の顔にその袋をぶつけるのかって勢いで開かれた袋の口に、まとめたゴミを懸命に入れた。


 7時55分。


 妻は私がゴミを入れるとすぐにその口を閉め、玄関から外に飛び出していった。

 妻が帰ってくると、その背後から、ゴミ収集車のエンジンと機械の回る音が、結構な音量で聞こえてきた。

 玄関が閉まると、エンジンの音が低く唸るようして、やがて消えていった。


 そのまま妻は倒れるようにソファに座る。

「なんとか、間に合ったよ。」

「お疲れさん。」

 私はそう言って、沸かしなおしたお湯を、ドリップ式のコーヒーをカップに注ぎ、妻に渡した。

「ありがと。」

 妻が私に入れてくれたのはインスタント。

 私はそれに対してドリップで入れたコーヒーを渡したことで、一人悦に入っていた。


「いってきます。」


 妻の慌ただしさに比べると、妙におっとりとした感じで子供たちが学校に向かっていく。

 すでに冷めてしまっている私の残りのコーヒーを飲みながら、自分の座っていた椅子の周りを見た時だった。


 最初は何気なく、やがて真剣に私は探し始めた。


 テーブル付近には見当たらなかったので、2階の寝室まで早足で階段を上がる。

 ベッドの上の掛布団をひっくり返し、サイドテーブルに無造作に置いてあった文庫本を放り投げるようにして、懸命にそれを探した。

 だが、見当たらない。

 すぐに階下に降りた。


「パパ、どうかした?」

ゴミ収集へのタイムトライアルの疲れからやっと立ち直ったような妻がソファから私に声をかけた。

反射的に妻を見て、思ったより大きな声で言ってしまった。


「スマホがない!」






 妻に自分のスマホを呼び出してもらったが、全くどこからもあのとぼけたような呼び出し音は聞こえなかった。

 私は起きてから自分の行動を思い出す。

 

「起きて、しばらく動画を見ていた。それは間違いない。で、リビングに降りてっと…いや、ちゃんとその時は持ってきていた…はずなんだが。いや、待てよ、もしかしたら…」

「どこに置いたか分かった?」


 妻の問いかけに、そちらに視線を向けた。

 もしかしたらかなり私は深刻な顔をしていたのかもしれない。

 妻の顔が一瞬引きつっていた。


「私がゴミをかき集めてた時…、水色のカバーみたいなの見なかったか?」


 当然私のスマホカバーのことだ。


「えっ、う、ううん、見なかった、と思う。」

もう一度その可能性を考える。何気に紙くずをテーブルに散らかしてた時、その下に…

であれば、行き着く先は。

「まさか、パパ…」

「捨てたかも………」






 すぐに私は妻のアシスト付き自転車にまたがった。

 多少、私の体重に負けそうになる自転車は気の毒だと思ったが、今はそれどころじゃない!

 ゴミ収集車の行き先を懸命に考え、ペダルを漕ぐ。

 本当に最近のアシスト付き自転車は楽だ、などとのほほんと考えることもせず、10分以上は町内をめぐっていた。


 いなかった。


 ほとんど諦めかけていた。

 スマホのなかのデータもまずいのだが、スマホケースにクレジットカードやマイナンバーカードまで差してあった。こちらのほうも関係会社や役所に連絡しないとならない。

 このまま諦めてそういった煩雑な事態を招くわけにはいかなかった。


 自転車を家の方向に向け、帰り始めた時、そこに待望の車の後姿をとらえた。

 まだ、神は私を見放さずにいた。

 これまで、神をいいように書いてきた私だったが、やはり私に味方する神もいたのだ。


 そんなバカなことを考えながら、ペダルを漕ぐ。ゴミ収集車を追いかけて。

 通常であれば追いつくはずはないが、何か所もあるゴミステーションのおかげで作業中の車に追いつくことに成功した。

「す、すいません!さっきあっちのごみステーションの回収した方ですか?」

「いえ、私たちはそのルートではないんで。」


 神に対する冒涜の限りを書き続けた報いなのだろうか。

 天国から地獄に突き落とされた気分だ。



「どうかされたんですか?」

 そのゴミ収集車のお兄さんがそう聞いてくれた。

 私はスマホを間違って捨ててしまったかもしれない可能性を、その優しいお兄さんに語っていた。


「そういうことでしたら、ちょっと待ってください。問い合わせてみますよ。ああ、ごめん、ちょっとこの人のことで事業所に連絡とってみる。」


 後半は一緒に作業していたごついおじさんへの言葉だった。

 お兄さんは携帯を取り出し、連絡を取ってくれた。


「何とも言えませんが、その作業者には連絡を取ってくれるそうです。ゴミ処理場の場所はわかりますか?」

 そう言って紙を1枚渡してくれた。

 そこにはゴミ処理場についての案内が書かれていた。

「あ、はい。あの温水プールの横の施設ですよね。」

「そう、そこです。申し訳ないんですが、そちらからこの電話番号…って、スマホがないんですよね?」

「大丈夫です、妻の借りてきましたから!」


 心優しい妻が、連絡をとれるようにと貸してくれたのだ。

 まだ家には固定電話があるので、妻との連絡はとれる。


「ありがとうございます、この電話番号ですね。」

 もらった紙に書いてあったのは、連絡場所と一緒に誤ってゴミに必要なものを出してしまった人への案内と注意書きだった。


「一応連絡がとれていれば、ゴミ処理を止めているはずです。そこでそちらで探してください。作業員は手出しはできない決まりです。それと1時間までという時間制限があります。長い間探されても、こちらの作業が滞ってしまいますので。」


 もっともな話だ。

「そこまでしてくれれば有難いです。」

「私どもは作業に戻ります。こう言うのもなんですが、結構そういう方、いらっしゃるんですよ。でも、今はコロナとかの関係があるんで、感染症には十分注意してください。」

「ありがとうございます。」

 私は優しいお兄さんと、そしてごついおじさんにもお礼を言って走りゆくゴミ収集車を見送った。

 私はわずかな希望を胸に、家に戻った。






 車でゴミ処理場に向かい、30分後にはその場所に妻と共にいた。

 家から指示された連絡先に電話して、汚れても構わない格好と感染症対策のための手袋の用意を言われ、

手早く準備をして、飛び出した結果だ。

 あとはお兄さんが言っていた通り。作業員は手を出さないということ。

 そして妻も付き合ってくれた。本当にいい妻と結婚したと思う。


 受付で名前と要件を言うと、受付票を書くように言われた。

 そして、すぐに処理場に案内された。

 連絡が入っていたため、スムーズに処理場の作業場、焼却炉にゴミを入れるところだと思われる広大なスペースに誘導された。


 1台のゴミ収集車と、その横に自治体指定ゴミ袋が、中身が満たされた状態で2つの山ができていた。

「あのゴミステーションは、収集の最初の方だから、多分、こっちの山の中にあると思うよ。」

 作業着を着たおっちゃんがそう親切に言ってくれた。

 確か作業員は手を出さないって話だったんだけど、すでに当たりはつけてくれていた。

 それでも結構な量だ。


「まず、鳴らしてみるね。」

 妻がそう言って、スマホを操作する。

 しばらくして顔を上げた妻。どうやら私のスマホに向けて呼び出しているらしい。


 が。

 全くあの間の抜けた呼び出し音は鳴らず。


 もしかしたら、この中には無いのかもしれない。


 そんな不安な考えが私の頭の中に湧き上がってくる。

「この中じゃ、聞こえないかあ。ほら、パパ、早くしないと時間が。」

 妻の声に現実に引き戻された。

 そうだ、とりあえず片っ端から探していかないと。


 幸いにも、自分が捨てたゴミがゴミ袋のほぼ上にあるはず。

 であれば、なんとなくだが、見分けることは可能。だと思う。


 軍手をつけた。

 できれば長靴が欲しかったが、家にはなく買っている暇もなかったため、家で一番ひどい状態のスニーカを履いてきた。

 マスクはしていたが、さらにその上にもう一枚マスクを装着。

 私はそれほど鼻がいい方では無いのだが、妻は結構敏感。みるとマスクは3枚していた。

 作業員のおっちゃんが指し示した山に向かう。

 そしてスマホの探索を始待った。





 正直しんどかった。

 みんな袋がしっかり閉まっていれば、それほどの労力、というか注意をする必要はないと思っていた。

 その包みを一つ一つ見ながら、かき分けていけばいい。そう思っていた。


 ところが、である。


 全ての人たちが行儀良くしているわけではない、ということに思い至らなかった。

 人は人の数だけの考えや行動がある。

 それでも大抵の人のゴミ袋は、うちと同じようにしっかりと閉めてはあった。

 そういう人の袋でも、中身によっては割り箸が袋を突き破っていたり、何か固いものの角で袋が擦れて、持ち上げた途端、崩れて中身が飛び出してきたりもした。


 ごみ収集車には、作業の方々が放り投げるように入れていたのを思い出す。

 それは決して悪いという意味ではない。

 なんと言ってもゴミなのである。乱雑に扱うこと自体に問題はないし、さらに放り投げて、ゴミ収集車の中に移動することは、効率的だ。

 その衝撃で、または車移動時の振動で、破れるものも当然あったはずだ。


 さらに状態を悪くしていたのは、そのゴミ袋の中から液体が漏れているということだ。


 まさか、直接汁物などをゴミ袋に入れたわけではないと思う。

 それでも、生ゴミには水分が含まれているだろうし、液体の入っていたポリ袋など、乾燥させてから捨てるという面倒なことはしないだろう。

 お茶や、出汁のもとのパックなどは、十分水の中に入れて抽出してから捨てるのだから、染み出してくるのは当たり前。

 で、破れたところから床にこぼれてくるという次第。


 そんな中で、私は最初こそ躊躇していたものの、そんな綺麗事など言っている訳にもいかず、そのゴミ袋の山をかき分けていく。


「ああ、あんた、投げてっていいぞ、そいつら。」


 おっちゃんから声がかかった。

 変に場を荒らしてはいけないと思っていたが、その声に安心して、中身を見てすぐに空いたスペースに放り投げ始めた。

 妻も私の捨てたゴミをうっすらと覚えてくれていたようで、投げたゴミ袋をもう一度見ていてくれた。

 こんなとこで二者確認をするとは思わなかった。


 それでも、うちのゴミ袋らしきものは見つからない。

 たまに似た感じのゴミを見つけて、これだ!と思っても、違う家のものだったりする。

 結構似たような封書があるもんだと、変に感心してしまった。


 山がなくなった。


 だが、目的のうちのゴミが見つからない。

 ということはもう一つのゴミの方か?

 そう思って体をそちらに向ける。


「あんた、そっちにはまず、あんたんとこのゴミはないぞ!」


 私のちょっとした行動におっちゃんがそう言ってきた。


 そうは言っても…。

 そう言いそうになった時、おっちゃんが私の方に、さっき放り投げてたゴミ袋を投げてきた。

 一瞬、何しやがんだ!と思ったが、


「こっちも使っていいから、平たくしな。そっちの方が見つけやすい。」

 そう言って、床が見えてるところに、放り投げて積み上げていたゴミの山を並べるような感じで移動してくれていた。

 役所の担当の人も、違うゴミ収集車の人も、作業員は手伝わないと言っていたはずなんだが。


 本音はさっさと終わらせて、本来の仕事に戻りたい、ということかもしれない。


 それでも、私は嬉しかった。


 言われるままに、私もゴミ袋を平たくしていき、そうしながら黙々とうちのゴミを探す。

 時折、妻がスマホを鳴らしていたが、反応なし。

 スマホはもしかしたら、このゴミの中にはないのかもしれない。

 それでもうちのゴミは絶対に、ここにあるはずだった。

 スマホに関してはすでに半分諦めかけていた。

 そして、なかった場合の対応を考え始めてもいた。 それでも最低限、自分のゴミは探し出さなければならない。


 当たり前だが、それだけはしないと、確認の取りようがなかった。

 ほとんどのゴミ袋が一面に広がり、その中をそれらしいものを見始めた時…。


「あった!」


 間違いなく、私が捨てていた紙ごみの束。

 そして、その陰から自分のスマホケースの水色がチラリと覗いていた。

 私は慌ててそのゴミ袋に近づいて、ガッチリ固めてある口の部分を懸命に開いた。

 そして、上に重なっている紙ゴミを、ずらした。


 間違いなかった。

 水色のスマホカバーが出てきた。汚れている自分の軍手を外し、素手で拾い上げる。

 見た目には汚れなし。ケースを開けてスマホを確認。

 これも見た目には問題なし。

 顔認証も問題なく、ざっと操作した限り、作動不良は見当たらなかった。


「呼び出してくれる?」

 俺の声で近くまで来ていた妻に頼んだ。

 すぐにあの間の抜けた呼び出し音が鳴り、通話を確認した。

「大丈夫?」

「ああ、なんともなさそうだ。クレジットカードもマイナカードもあった。」


 場所が場所でなければへたり込んでいたところだ。

 腰と腕に痛みを感じ始めている。


「おお、無事見つかったようだな。」

 おっちゃんがそう声をかけてくれた。

「はい!ありがとうございます。無事見つかりました。」

「ありがとうございます。」

 私の言葉に妻の言葉が重なる。


「まあ、大事なもん捨てちまう人は結構いっからな。でも、見つからん人もいるし…、あんたら、運が良かったよ。」


 結構人好きのするような笑顔でおっちゃんが言ってくれた。


「本当にありがとうございます。こちらには何人くらいの方が働いているんですか?お茶菓子でもお礼に買ってきたいんですが。」


 妻が笑顔のおっちゃんにそう言った。

 こういったところ、妻の感心するところだ。

 私には咄嗟には出てこない。


「ああ、気持ちだけで十分。一応、俺らって公務員だから、あんまそういうの、よくないんよ。」

 少し困った顔で、おっちゃんがそう言ってきた。

 言われてみればそうなんだが…。

 それでも、感謝の気持ちは伝えたい。


「もしなんなら、役所宛にこの処理場で世話になったなんてことを送ってくれると、俺らの評価が上がるらしいんでな。俺だけでなく、ここで働いてる奴らにはそっちの方が嬉しいいんだ。」

「は、はい、すぐに送ります。でも、それだけで本当にいいんですか?」

「ああ。十分、十分。それと、ここはもうこのままでいいから、早く帰って、風呂にでも入んな。俺らはここにあるやつ使えるけど、部外者に貸す訳にはいかんでな。」

 そんなに臭いのだろうか?

 元々鼻の効かない私は、この環境でさらに鈍くなってる様だ。妻もなんか歪んだ笑みをマスク越しにしている。

 とはいえ、

「本当にありがとうございます!」

 俺たちはおっちゃんやその周りでこちらを見ていた人たちに向かって言った。


 私は妻ともう一度感謝を伝えてその場を後にした。

 受付で無事に見つかったことを報告。「良かったですね。」と受付のおばちゃんに笑顔で言われながら、来た時に書いた受付票に退出時間を書いた。

 すでに11時を過ぎていた。1時間はとっくに過ぎている。


「なんだかお腹すいちゃったね。」

 この事態にまともに朝食を食べている余裕はなかった。

 気が緩んだからか、私も空腹を覚えていた。


 帰りがけのハンバーガチェーンに入り、セットを注文。

 2階に空席を見つけて、そこで食べ始めた。

「私たちって、結構臭うのかな。」

 食べていると急に妻がそんなことを言ってきた。

 言われて私は周りを見た。


 結構混んでいたはずの私の席の周りから、みんないなくなっていた。





 あれから2年。

 すっかり作業するおっちゃんと妻は仲良く挨拶しています。

本当に臭かったようです。

帰ってから、外着、靴は処分しました。

スマホもカメラに少し傷が入っただけで、問題なく使用できました。

でも、やっぱりこういう時の人の優しさは、心に沁みますね。

皆さんもスマホに限らず、大事なものは捨てないようにお気をつけください。

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