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ぼくの家は、ずっとカメラの中

作者: ドク
掲載日:2025/11/18



 ぼくの家には、いつだってレンズが向いていた。

 白い輪っかのライトが光り、カメラの赤い点がぼくを見て、パパとママが笑っていた。


「はーい、今日はタクミが初めてブロッコリーに挑戦しまーす!」


 パパの声は大きくて明るい。ぼくがまだ幼稚園のころ、泣きそうな顔でブロッコリーをつまんでいる動画が、“タクミの成長記録”として人気だったらしい。


 そのころは、ただ「楽しい家族ごっこ」みたいに思っていた。


 でも、小学校に入ると、それは“違う”ってわかった。




「かぞくじまんを書きましょう」


 先生が言ったその瞬間、クラスの何人かがこっちを見た。

 知っているのだ、ぼくの家が“あれ”だって。


 書きたくない。

 だけど書くことは他にあまりない。


 しぶしぶ「YouTuberの親です」と書いたら、その日の休み時間に男子が言ってきた。


「お前んちってあれだろ?タクミが野菜食べないで泣いてるやつ!母ちゃんの変顔100連発のやつ!」


 笑われた。


 ぼくの胸の奥で、何かが沈んだ。




 ある日、知らない六年生にまで声をかけられた。


「お前、なんであんな動画出てんの?恥ずかしくね?」


 恥ずかしいなんて言葉じゃ足りない。

 あの頃から、ぼくはカメラを見るだけでイヤな汗が出るようになった。


 家でパパとママはいつも楽しそうに編集している。

 ぼくが“ネタ”にされているなんて気づきもしない。




「タクミ、今日もう一本だけ撮らせて。ほら、宿題やってる風のやつ!」


「……やだ」


「えー?最近数字落ちてるんだよ。タクミが出たほうが再生数上がるの」


 パパのその言葉は、今でも心に突き刺さっている。

 ぼくは商品なのだろうか。


 家族じゃなく、数字の材料?

 そう思った瞬間、ぼくの中の何かが壊れた。




 ある夜、ママが言った。


「ねぇ、明日の撮影どうする?タクミ、お菓子我慢チャレンジの回、やれるよね?」


 ぼくは、泣くつもりなんてなかった。

 だけど、涙が勝手に落ちた。


「……やだよ。もう、カメラの前にいたくない。学校で笑われるの、もう嫌だ」


 ママは最初、冗談だと思ったみたいだった。

 けれどぼくの泣き方を見て、パパとママの顔から笑顔が消えた。


 静かになったリビングで、やっと家族になった気がした。




 パパはしばらく配信を休んだ。

 ママは古い動画をいくつも非公開にした。


「タクミ、ごめんな」


 謝られるなんて思ってなかった。

 パパが泣いていたのも初めて見た。


 だけど、ぼくは思う。


 家族って、動画を作る仲間じゃない。

 ぼくは“ぼく”として生きていい。

 レンズの中じゃなくても、ちゃんと見てほしい。



 この家は、やっとカメラの中から出られた。




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