ぼくの家は、ずっとカメラの中
ぼくの家には、いつだってレンズが向いていた。
白い輪っかのライトが光り、カメラの赤い点がぼくを見て、パパとママが笑っていた。
「はーい、今日はタクミが初めてブロッコリーに挑戦しまーす!」
パパの声は大きくて明るい。ぼくがまだ幼稚園のころ、泣きそうな顔でブロッコリーをつまんでいる動画が、“タクミの成長記録”として人気だったらしい。
そのころは、ただ「楽しい家族ごっこ」みたいに思っていた。
でも、小学校に入ると、それは“違う”ってわかった。
「かぞくじまんを書きましょう」
先生が言ったその瞬間、クラスの何人かがこっちを見た。
知っているのだ、ぼくの家が“あれ”だって。
書きたくない。
だけど書くことは他にあまりない。
しぶしぶ「YouTuberの親です」と書いたら、その日の休み時間に男子が言ってきた。
「お前んちってあれだろ?タクミが野菜食べないで泣いてるやつ!母ちゃんの変顔100連発のやつ!」
笑われた。
ぼくの胸の奥で、何かが沈んだ。
ある日、知らない六年生にまで声をかけられた。
「お前、なんであんな動画出てんの?恥ずかしくね?」
恥ずかしいなんて言葉じゃ足りない。
あの頃から、ぼくはカメラを見るだけでイヤな汗が出るようになった。
家でパパとママはいつも楽しそうに編集している。
ぼくが“ネタ”にされているなんて気づきもしない。
「タクミ、今日もう一本だけ撮らせて。ほら、宿題やってる風のやつ!」
「……やだ」
「えー?最近数字落ちてるんだよ。タクミが出たほうが再生数上がるの」
パパのその言葉は、今でも心に突き刺さっている。
ぼくは商品なのだろうか。
家族じゃなく、数字の材料?
そう思った瞬間、ぼくの中の何かが壊れた。
ある夜、ママが言った。
「ねぇ、明日の撮影どうする?タクミ、お菓子我慢チャレンジの回、やれるよね?」
ぼくは、泣くつもりなんてなかった。
だけど、涙が勝手に落ちた。
「……やだよ。もう、カメラの前にいたくない。学校で笑われるの、もう嫌だ」
ママは最初、冗談だと思ったみたいだった。
けれどぼくの泣き方を見て、パパとママの顔から笑顔が消えた。
静かになったリビングで、やっと家族になった気がした。
パパはしばらく配信を休んだ。
ママは古い動画をいくつも非公開にした。
「タクミ、ごめんな」
謝られるなんて思ってなかった。
パパが泣いていたのも初めて見た。
だけど、ぼくは思う。
家族って、動画を作る仲間じゃない。
ぼくは“ぼく”として生きていい。
レンズの中じゃなくても、ちゃんと見てほしい。
この家は、やっとカメラの中から出られた。




