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9話・何もないからお蔵にしようか迷ったけど、せっかくだし投稿しようと思った話!

 ヒョウカさんが行った、弔いの儀。

 天を覆っていた雲は氷の大木によって貫かれ、遺体もろとも爆散させた時は、細かい氷の結晶が月明かりに照らされ空で煌めき、迫力がありながらも、どこか幻想的だった。


『アクアちゃんと闘ったけど、抑え込む事がやっとで勝負にならなかったわ』


 アクアはかつて水の魔法の頂点だった魔法使いという話。

 この世界が滅びの危機の主な原因の一人に単独で挑み、抑え込むことが出来るだけでも十分すごいが、勝負にならないとは……アクアという魔法使いは、どれほど強いのか想像もできない。


「ふぅぅ」


 ボク君から聞いた、紗友里は絶命寸前の傷を負っていたという話。

 発見した時は無数の切傷と酷い火傷を負っていたらしいが、僅かに火傷痕はあっても切傷は見当たらなかった。シルディアさんが開発した回復を飲ませて治ったとの話だったが……どうやら、この世界の医学に関しても、俺達の中の常識は一切通用しねぇだろうなぁ。


「だめだ。集中できねぇ」


 紗友里は一度目覚めて、水を飲んだら気絶するかのように寝た。

 清水先輩の妹なのだから、同じ才能を持っていてもおかしくはないんだが、あれはデメリットが大きすぎる。なるべく使わないで欲しいんだが……いや、恐らくクリスタル王国の騎士相手に使って絶命寸前の傷を負わされたのだから、使っていなかったら確実に殺されていただろう。


「……」


 果たして、この世界で俺達の力は通用するのだろうか?

 サーシャちゃんにはああいったが、俺も二年間で訛った体を元に戻す必要あるな。


「すぅ、すぅ」

「ふへへ、にゃたたびぃぃ」


 共に苦戦、死線を超えた事を機に、互いに親睦を深めてほしいものだ。

 願わくば……いや、どうしたものか。


「……」


 一昨年、昨年から作物の収穫量が明らかに減少している。

 家畜の放牧,緑肥(りょくひ),冬起こしと対策を施していると言っていたが、収穫量が半分以下にまで減少しているのは異常だ。気温や天候のせいもあるから一概には言えないが、何かの病気や害虫の仕業かもしれないし、一度見せてくれるほうに頼んでみるか。


「ん?」


 各所から貰った記録の間に挟まった、身に覚えのない紙。

 えっと、フ?フィエ……いや、ヒョウカか!達筆すぎて何て書いてあるか分からなかった。ええっと、本棚の一番上の左から三冊目の本……これか。


「……」


 すぐそこで紗友里とサーシャちゃん寝ている。

 耐えきれる自信がねぇし、これは外に出ないとヤバい!


「くっ、ぷ、はっはは!」


 何から突っ込めばいい?

 紙には【調薬に興味があるなら、一番上の左から三冊目の本を読んでみたら?】と書かれていたから、手に取った本のタイトルが【馬でも分かる!超お手軽簡単な調薬入門!】ときた。

 これに笑ってしまうのは、俺の頭がおかしいのか?


『む…。大介殿、こんな夜更けにどうなさいました?』

「わるいわるい。それより、これ見てくれよ」

『む…。これは、数多の調薬士の心を折ったとされる魔本ですね』

「魔本?読むと危険なのか?」

『いえ、ただ……説明するより、一度読んでいただいた方が理解できるかと』


 奥歯に何か挟まったような言い方だな。

 まあ、本当に危険な物なら止めてくれるだろうから、目を通してみるか。


「……」

『どうでしょう?』

「あぁ。どうやら、俺の理解力は馬以下らしい」

『はは』

「なーに笑ってんだよ」

『失礼。大介殿でも理解できぬ事があると安心したら、つい…』

「分からねぇ事なんて腐るほどあるわ」


 俺の理解力が高くねぇのは元より、この本書いた奴も大概だろ。

 素材と生薬名だけで必要な素材の量が一切書かれていないから、A+B=Cが出来るのは分かるが、調薬しても試作品か粗悪品もいいところだ。


 この本を紹介してヒョウカさんもだが、こんな出鱈目なタイトルかつ意味不明な本を誰が……


「お前かい!」

『ど、どうされました?』


 私が育てましたみたいなノリで、な~にが僕が書きましただ!

 今はこの純粋無垢な屈託のない笑みがむかつくぜぇ。

 まぁ、それでも……


「シルディアさんって、凄い人だったんだな」

『はい。願わくば……最後まで共に戦いたかったですが……残念です』


 薬はmg単位でも狂いがあれば毒になりうる。

 それが薬ではなく、薬になる前の原料の段階なら尚更のこと。

 怪我の具合を見て頭の中でAはmg,Bはmgと判断して、生薬にしていたんだろうから、この本の著者であるシルディアさんは、魔術だけでなく、医術に関しても天才だったんだな。


 しかし、ボク君から渡された回復薬。

 使用禁止になっただけあってか、この本は書かれてないな。


 そういえば……


「なぁ、こんな事を聞くのもなんだが、シルディアさんの葬儀は別に行うのか?」

「シルディア様の遺体は、東の墓地を管理するダイアス様が埋葬する事に決まったそうです。ボク達はお墓に手を合わせるぐらいしかできません」


 ヒョウカさんの話では、たしか土の魔術士だった…け?

 それ以前に、この宿営地にいる兵士全員に武術の基礎を教えたらしいから、シルディアさんの墓に手を合わせるついでに、訛った体を解す相手になって……いや、やめておこう。


『む…申し訳ない。自分は用があるので失礼します』

「こんな時間に……ボク君も見張りをするのか?」

『いえ、紗友里殿が斬り伏せた魔法使い様の墓を掘る必要があるので…』

「弔いの儀で一緒にやらなかったのか?」

『何度か試した事があるのですが、何故か魔法使い様の遺体は表面だけで体の芯まで凍ることはなく。弔う方法も、魔法使い様だけは土葬ではなく火葬とダイアス様に言われており、心身的に辛い作業になるので、ボクが……はは』


 魔法使いだけ……差別的な内容に聞こえるが、土の魔術士が言っているのだから、土葬してはいけない理由があるのだろう。まぁ、その理由はいつか確認しに行くとして……


「それなら俺も手伝うよ。二人でやった方が早いだろ」

『大助殿がいろいろやってくださっている事は聞いています。これ以上は――』

「あ~、あ~。聴こえねぇなぁ。ほら、さっさと行こうぜ」

『…………』

「あ、その懐にある握り飯半分くれよ」

『全ての作業が終えた後にしてください』

「今から力仕事するんだから、今食おうぜ」

『吐きますよ』


 遺体を焼き埋葬するための穴を掘るのは、想像していたよりも辛い。

 祈りを捧げ、宿営地に戻ったときには、既に朝日が昇り切っていた。

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