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8話・秘伝薬 (大介視点)

 切傷は浅いから縫う必要はないが、問題は火傷だな。

 揃えてくれと書いた物は全て揃っているが……


「ダイスケさん。これで……足りませんよね?」

「足りんねぇ。この薬の材料はあるかな?」

大緑草(おおりょくそう)以外はありますが、大緑草の採取時期は三ヶ月も先なので…」


 この世界で主流の火傷薬を調合する事は出来ねぇってことか。

 そもそも、こんだけ広範囲かつ深い火傷は、医療機関で治療するレベルだから塗り薬では治せない。かと言って、処置が遅れれば感染症で最悪命を落とす事になりかねんし……どうしたもんか。


『ダイスケくん。入ってもいいかしら?』


 この声はヒョウカさんか。

 元々ヒョウカさんの医務室なのだから、本人の自由に出入りすればいいと思うが…。


「どうぞ」

『失礼するわね。あらあら、ひどい火傷ね』


 この医務室にある薬や薬草は、全てヒョウカさんが管理しているもの。

 俺はさっき文字や薬草の事をざっと教わっただけで、ここにある物でこの傷にどう処置すればいいか分からないが、ヒョウカさんなら分かるかもしれない。


「ヒョウカさん。またお聞きしたい事があるのですが――」

『それは火傷薬が足りない。大緑草がなくて調薬も出来ない件かしら?』

「そこまでお見通しとは、流石ですね」

『ふふ、ありがとう。その薬、少し改良するから貸してくれないかしら?』

「それは勿論ですが……改良するとは?」

『細かい説明は後でね』


 百味箪笥(ひゃくみたんす)から出したのは、何かの葉と根の二種類を薬研(やげん)で粉末状にしはじめた。恐らく粉末にした物を生薬に混ぜるつもりなのだろうが、たった二種類の物を加えただけで、そんなに効果が違ってくるものなのだろうか?


『ダイスケくん。申し訳ないけど、その子の血と皮膚を少し採取して持ってきて』

「それも薬の改良に必要なものなのですか?」

『ええ。あ、ごめんなさいね。気が引けるなら私がやるわ』

「いえ、僅かでもお手伝いさせてください」


 アルコールで濡らした生地を貼り、綺麗な布で撒いてあるが……うっ、何度見ても酷い傷だ。生薬を改良してくれているヒョウカさんには申し訳ないが、これは皮膚を移植した方が……いやいや!それだと別の問題が浮上してくるから、今は改良された薬の効能を信じるしかない。


「これくらいで良いでしょうか?」

『ええ。これを混ぜて…うん。それじゃ、みんなに使い方を教えるわね』


 血液を混ぜたせいか、白だった物がほんのり赤くなっている。

 二つの薬草と血と皮膚を加えて、どれほど効果が変わるのか。


『この生薬はこの子専用だから、使う事はおろか触ることも厳禁よ』

「お言葉ですが、サーシャ隊長に意識はございません。サーシャ隊長以外に触ることができないなら、どうやって塗ればよろしいのでしょう?」

『そうね……ダイスケくんはどう思う?』


 医療班の子が言ったとおり、サーシャちゃん以外触れてはいけないから、意識のないサーシャちゃんが自ら塗るのは不可能だが…


「難しい作業になりますが、サーシャちゃんの薬を付けた指を傷まで運び、薬を塗り伸ばす…ぐらいですかね」

『正解。次は塗り方だけど、外側から内側……軽度の部分から重度の部分に撫でるように』


 塗り方や使い方に難があるが、まるで傷など始めから無かったと思わせる即効性と治癒力。検診と設備,完治までの時間のなどを考慮すると皮膚移植を凌駕している。


「……」


 まるで絵具で塗ったように綺麗な状態に治っている。

 いや、この薬が傷を治しているというよりも、薬そのものが体の一部になっている?


『ふふ、随分興味深々ね』


 あぁ、なるほど……そういうことか。


「えぇ。先程の火傷薬と違って、武器…毒にもなり得ますので」

『……どうして、そう思うのかしら?』

「その生薬はサーシャちゃんの細胞を材料としています。何も伝えず他者に使わせれば、高確率でアレルギーとして拒絶反応を起こし、最悪死ぬことだってあります」

『…………』

「ヒョウカさん?」

『ふふ、懐かしいわね……はい、これで終わり』


 か細かった呼吸も脈拍も戻ってきている。

 一時は覚悟したが、ヒョウカさんが来てくれて助かった。

 しかし、さっき言った事に対して『懐かしい』とは、昔も同じやり取りをした事があるのか?


「ふぅぅ」


 とりあえず、サーシャちゃんの傷が治って良かった。

 今回はヒョウカさんが手と知識を貸してくれたから助けられたが、俺達だけだったら確実にサーシャちゃんを救えなかった。


 ボク君にあんな事を言っておきながら、この事を伝えたら……殴られるだけで済ませてくれるか?

【とある魔術士の冒険記録】


「シルディア」

『???』

《ヒョウカ》



「ねぇ、お腹空いた~」

『……』

「ねえねぇ!お腹空いた!」

『そうだね』

「だよね!それじゃ、どこかお店――」

『今、対価になる物なにも持ってないよ』

「キミの最終奥義使えばいいじゃん」

『あれは7日目の手段。まだ4日だから使わない』

「もう4日なの!あ、そうだ!ちょっと付いてきて!」


―――――


《あらあら。また会えて嬉しいわ》

「ヒョウカさん!ボク達お腹空いてて、ご飯作ってくれないかぁって…いで!」

『無礼でしょ。突然申し訳ございませんでした。それでは失礼し――』

《待って。すぐ準備するから※※※君も食べて行って?》

『お気持ちは嬉しいですが、まだお腹空いて……』

《あらあら、お腹は正直ね~。さぁ、入ってゆっくり待ってて》


――――


「ふぅぅ、お腹いっぱいだぁ」

『ご馳走様さまでした。ありがとうございます』

《ふふ、お粗末様でした》

「ねぇねぇ、何で手首に布巻いてるの?」

《昨日火傷しちゃったのだけど、薬を塗ってあるから平気よ》

「ふ~ん。ねぇねぇ、その薬ってまだ残ってる?」

《え、えぇ、まだ残ってるけど、貴方も火傷してるの?》

「ううん。ご飯食べさせてもらったから、そのお返しとして、ヒョウカさん専用の火傷薬に改良してあげようかなぁって思ってね」


――――


《まぁ、材料はあれだけど……凄い効果ね》

「でしょ!そうだ、重要な部分を抜いた薬を持って、困ったときは対価として――」

『それは駄目』

「どうしてさ」


『効果は凄まじいけど、供給が追い付かない限り交換できる人は限られる。それに医術士はそれを基準に

火傷薬の開発や改良をするだろうけど、群を抜きすぎてるから頭を抱えることになる。あとは重要な素材が塗る本人のものである必要があるのが一番の問題』


《私も正気って思ったけど、そこまで問題だと思わないけれど?》


『そんな者は居ないと信じたいですが、本人の体液を抜き、混入させるふりをして第三者の体液を混ぜて出した場合。塗った本人の体は拒絶反応を起こし、最悪は絶命……正しく使えば薬ですが、悪用すれば猛毒。そんな物を市場に出回らすわけにはいきません』


「理屈は分かるけど、世界や技術の発展を妨げてるのと同じだよ?」


『苦があるから楽を望む。楽な手段を得ても、次第にそれも苦に感じ始め、楽を求め続けるようになる。その過程の努力は否定しないけど、結局は楽になる術は人を堕落させる行為に等しいから、魔法も技術もこれ以上発展する必要はないと思う』


《ふふ、そんなに深く考えているなんて、流石は四元魔の一人ね》


『アグニ、フウカ、アクアは、今や国にこの時代に必要不可欠な存在になりました。それに比べて……ボクは……何もしていない……この世界で一番不必要な存在なんです』


《※※※くん》


『長々とお邪魔して申し訳ございませんでした。それでは失礼します』


《あらあら、もう行っちゃうの?もう少しゆっくりしてもいいのよ》

「そうだよ。なんなら今日は泊めてもらおうよぉ」

『そう……なら、キミは泊めてもらいなよ。それでは、失礼します』

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


《シルディア》

「ん?なんですか」

《昔あなたが※※※くんを求めたように、今の※※※くんにはあなたが必要だと思うの。何かあったとき、あの子を支えてあげてくれないかしら》

「そんなの言われるまでもないよ!それじゃ、またご飯食べにくるね~」

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