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5話・弔い合戦 (サーシャ&???&紗友里視点)

「サーシャちゃん!魔法使いで間違いない!?」

「はい!外見からして、火の魔法使いです!」


 あれが、魔法使い!?

 魔法使いは数百年前の人だから、ゾンビみたいな見た目を想像していたけど、服や肌の汚れを除けば、見た目は私達と殆どかわりない。


「ん?」

「サユリさん!!」


 一瞬光ったと思ったら、突然光った地点に炎が現れた。

 あのまま気づかずに進んでいたら、炎に自分から……


『サユリさん。魔法使いと戦う時に基本となるのは、全方位警戒しながら立ち止まらないことです』


 なるほど、立ち止まらないってのは、こういう意味だったのか。

 でも、何かを触媒にするんじゃなくて、空間そのものに炎を出現させた。


「サユリさん?!」

「どうしたの?燃やさないの?」


 立ち止まるが危険なのは重々理解している。

 でも、空間に炎を出現させられるなら、動き回っていても危険だ。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず……自殺行為に等しいけど、たしかめないといけない。



 立ち止まったら駄目って教えたのに、サユリさんは何してるにゃ。

 いや!理由は後で聞くとして、サユリさんが魔法使いの気を引いてくれている間に……


「――ッ!」


 軽く上げた右手の握りこぶし。

 宿営地直前に停まる前にダイスケさんに見せたのと同じ。

 あれが停まれって意味なら、手を出さないでって意味でもあるにゃね。

 サユリさんも戦争を経験していて、あの速さを見れば強いのは分かるけど、魔法は見るのも戦うのも初めてって言っていたから、腕に自信があると言っても一人は…あ、そうか。


「あ、あぶな――」

「惜しかったですね」


 よ、避けた!光ってから発火するまで一秒もない。

 しかも、発火させれるのは一カ所だけじゃない。初めはサユリさんの胸元を発火させ、その直後に回避した進路上にも炎を出現させていた。


 この魔法使いが発火に特化して、サユリさんの速度に反応できているのは凄いけど、自分の腹部が光った事を把握してから発火する前に回避して、避けた先にある炎まで避けるサユリさんも凄い!


 ――!!


 左右に移動しているだけのに、サユリさんが何人もいるみたい!

 サユリさんの姿は認識はできるけど、速すぎて目で追えない。


『……』


 炎も全く的外れな所を発火させてる。

 もう進路上を発火させられる恐れもないから、一気に斬って弔ってあげれば……

 

「サーシャちゃん!大股四歩下がって!」

「ふぇ?は、はい!」

「すぅぅぅ…………斬‼」


 ……は?


「サ、サユリさん。息が止まるまで近づいちゃダメにゃ!」

「だいじょうぶだよ。仮に魔法を使えたとしても、殺傷力は無いだろうから」

「そうかもしれないですけど…」


 サユリさんの方を向いていた正面だけじゃなく、背中や脚にも切傷がある。

 大きく息を吸って、立ち止まってから『斬』て言った後は全く見えなかった。

 戦争は強くないと生き残れないから、ここまで強くなる必要があったってことは、サユリさんは自分の世界でどんな人達と闘っていたんだろう。


 ――――――


 何かに引っ掻き回されず、自分の考えを持てたのは…いつぶりだ?

 ここがどこなのか、この子達が誰なのかも知らない。

 たしかなのは、俺はここに至るまでに、あの日未来を託した仲間を殺したってことだけ。


 狂魔病で自我を失うことを知りながら、自刃する勇気もなければ、みんなの胃を満たす料理を調理するために習得した魔法を仲間を殺すために使うようになるとは……


『はぁぁ。俺は何を……あ、すみません。本日は閉店で……アグニ様』

『ガス。おまえも……狂魔病の初期症状が?』

『はい。レシピの大半を忘れてしまって…申し訳ないですが、もう料理は…』

『……』

『……』

『ガス。悪いが、もう一度料理を作ってくれないだろうか?』

『それは…無理です!アグニ様に不出来な料理を出すことなど――』

『味は関係ない。俺はガスが作ってくれた料理が食べたい。頼めるか?』

『……はい…………はい!』


 結局、あの日は次々に客が来て忙しかった。

 あの日は狂魔病の事を忘れて、みんなで楽しく食事をする事ができた。


『な~にが忘れただ!この料理の味は変わってねぇじゃねぇか!』

『がっはっは!店の看板メニューのレシピ忘れたら、それこそ終わりでさ』


 あれは紙に書いてあった手順通りに作っただけ。

 注文を受けて紙を見てさえ、それが何の料理なのか分からなかった。

 自分で考えた料理のレシピは忘れるくせに、調理に必要な魔法の使い方は忘れず、挙句にその魔法で未来を託した仲間を殺すなんて…


「おじさん。おじさん?」

『……ア……ガ……カ』


 俺を狂魔病から解き放ってくれた恩人に礼も言えないなんて。

 本当に…俺の人生はどこまでもクソだな。


「おじさん。もし生まれ変わってきたら、私にも料理を作ってね?」

『――!』


 どうして、俺が料理人だと分かった?

 お嬢ちゃんにも、美味いもんを作ってあげてぇが……無理だな。


「これは?」

『嬢……ちゃ……ん』

「しゃ、喋ったにゃ?!」

「サーシャちゃん待って!なに、なんですか!?」

『世話を……辛い事をさせ……すま、なかった』


 多くの仲間だけじゃなく、お嬢ちゃんも殺そうとしたのに、何言ってんだか。


「狂魔病でおじさんの方が辛かったでしょうから、謝る必要はないですよ」

『…………』

「それに、私おじさんの料理食べたいので、平和になったら必ず生まれてきてくださいね」

『……ふっ、そのとき、おれ、が……料理人、なかったら?』

「その時は私が作り方を教えます!」


 心を照らすような、笑顔に言葉と性格……アグニ様にそっくりだ。

 アグニ様の優しさに惹かれて身を置いていたが、もし嬢ちゃんが国の長になったら、アグニ様には申し訳ないが、今度は嬢ちゃんのところで腕を振るいたいものだ。


 ――――――


 もっと聞いておきたい事があったけど……脈がなくなった。


「サーシャちゃん。この人…最期は苦しまずに逝けたかな」

「それは分からにゃいけど、こんな穏やかで笑ってるみたいな死に顔は始めてみたから、多分苦しんだりしてないと思います」

「そっか……そうだといいなぁ」


 発火魔法と左腕のバンド、最後に見た太い腕と指の太さやむくみ。

 憶測に過ぎなかったけど、やっぱり料理人だったんだ。


「サユリさん?」


 このおじさんは、火の魔法使いの料理人だったのは分かった。

 そして、闘っている間ずっともやもやしていた事も、おじさんを弔ったからこそ確信を得る事ができた。


「サーシャちゃん。次は一人で勝てる気がしないから、出来る範囲で力を貸してくれない?」

「もちろんです!次は私も一緒に……にゃ?この金属が擦れる音……まさか!」


 宿営地で感じた憎しみと哀しみの混じった感情に近い気配。

 あの気配はおじさんが発していたものじゃなく、今は遠くから何かを引き摺りながら歩いてくる、あの人が発していたものだったのか。


「サーシャちゃん」

「にゃ、にゃんですかにゃ?」

「初めから全力で行くから……本当に気を付けてね」

「気を付けてねって――」


 全力で距離を詰めて、全力で刀を振るったのに……止められた。

 しかも、右手に持ってる燃えてる剣じゃなく、左手の素手で…。


「くっ……」


 あ……ヤバい!


「サユリさん!」

「サーシャちゃん!駄目!逃げて!」

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