3話・二人は部隊に所属していた? (サーシャ視点)
「ボクくんの怪我が治っても、お尻蹴ったら駄目ですからね!」
「あぁ。気づけなかった、俺にも非はあるからやらねぇよ」
私の小隊の人達は、この速度でも着いてくるので精一杯。
でも、この人達は背中に大きな鞄を背負い、体に負荷が掛かっているはずなのに、疲れはおろか余裕と言わんばかりに、お喋りしながら着いてくる。
別世界の人達って、全員この人たちみたいな身体能力が?
ミャ~。想像しただけで恐ろしいにゃ~。
「サーシャさん?」
「みゃ!な、なんですか?」
「あはは。驚いたときの反応かわいぃ」
「貴女はうるさいです!ダイスケさん、どうしましたか?」
「あぁ、宿営地までどれくらいの距離があるのか教えてくれないか?」
「山を二つ超える必要があるので……大体四百キロくらいです」
二人共喋れるくらいの余裕があるし、渓谷を通る方が……。
いやいや!大幅に距離を短縮できるとはいえ、私の責務は二人を安全に宿営地まで案内する事だし、後で隊長に怒られるだろうから――
「わわ!なにするんですか!?」
「ごめんね。なるばく揺らさないようにするから、少しだけ我慢してね」
「な、なに言ってるんです!ダイスケさん。この人を……」
あれ?サユリさんが背負っていた鞄をダイスケさんが持ってる。
自分の鞄をダイスケさんに預けて、私を背負って言ったってことは…
「にゃぁぁああ!!」
は、はは、速すぎにゃ!
遠くの物が前から後方に移動するのは見えるけど、近くの物は映りもしない。
私に着いてきてた時は、この人達にとって駆け足レベルだったの!?
「サーシャさん。この先の渓谷は通れる高さと幅はあるかい?」
「何でわか……いや、私もそこ通ってきたので、ありますにゃ~!」
「ありがとう。紗友里、行けるか?」
「行けなかったら、アイコンタクトしません。サーシャちゃん、少し揺れるかもだけど我慢してね」
坂道を下る時もだけど、渓谷に入ってから足場のためなのか左右に移動しているのに、微塵も揺れを感じない。それどころか、サユリさんの走り方は、馬のように力強いものとは対照的に、軽やかだから浮いているんじゃないかって思っちゃう。
この速度で腰にある二本の短刀を使われたら、私じゃ絶対勝てない。
サユリさんが隊長並みに強いのは分かったけど……ダイスケさんの言った事を聞くって事は、ダイスケさんはサユリさんよりも強い? スキンシップ?を止めてくれた時の圧は凄まじかったけど、左手首だけじゃなくて左目も見えてないだろうし、サユリさんと違って武器は持ってないから、サユリさんより強いとは思えないけど…。
「サーシャさん」
「は、はい!?なんですか!?」
「さっき聞きそびれた良い報告、良ければ聞かせてくれないか?」
「あ、私も聞きたい」
「その事ですか。ダイアス様とヒョウカ様が戻られたんです」
…………なんで何も言ってくれないの!?
「すまない。その二人は調査隊や防衛隊とは、別の隊の隊長さんなのか?」
あ、調査隊と防衛隊の現状から考えていただけか。
なにかおかしなこと言ったかもって、焦っちゃったぁ。
「ダイアス様とヒョウカ様は魔術士なので、別といえば全く別ですね」
「その人達も…。戻られたって事は、どこかへ行っていたのかい?」
「はい。一週間前に私達の最終弔い目的のアグニ様、アクア様、フウカ様が一斉に暴れて、ダイアス様とはアグニ様を、ヒョウカ様はアクア様を抑えに行ったんです」
あの日ほど自分自身を、自分の無力さを憎んだ日はない。
今回は無事に帰還されたけど、また無力さを憎まないために、大切な方を失わないために、もっともっと修練を積んで、今度は私が奥地にある王国跡地まで行って闘うんだ。
「個々で抑えに……全員で協力して誰か一人の弔いに集中しようとは思わなかったのかい?」
「私も同じ事を言いましたが、ダイアス様に『アグニの相手をしている時に、アクアの荒波で大地を削られ、天を隠すほどの高波を起こされたら?逆も然り……其方の想いは分かるが、此ればかりは他に方法がない』て言われたら、何も言えなくなっちゃって」
御二人の活躍で抑える事は成功したけど、それは根本的な解決じゃない。
またいつ暴れ出すか分からないけど、部隊の再編制と宿営地の復興とやるべき事は沢山あるから、辛くても哀しくても止まっている時間はない。
「あ、私からも二人に聞いてもいいですか?」
「あぁ。答えられることなら、何でも答えるよ」
「えっと……その……」
「あはは。ほらほら、遠慮せずに言ってみて」
「あの…どうすれば、二人みたいに強くなれるのかなぁって」
…。
……。
…………。
「先輩なんで答えてあげないんですか?」
「どうすればって部分が、何て答えればいいか分からん」
「へ?先輩は私と違って国際テロ阻止組織の入隊テストを受けたんですから、その時の方法を教えてあげればいいんじゃないですか?」
コクサイテロ防止組織?初めて聞く言葉だけど、何かカッコいい!
あれ?入隊テストって事は、ダイスケさんも部隊に所属していた。でも、今ここにいるって事は、その部隊は抜けてきたってことになるよね?
「あれは強さ以上に極限状態の中で生きる意思を磨くのが目的で、強さを得るためとは目的が違う」
「いや、目撃されたクマを素手で始末してこいとか、ジャングルで一週間生活を終えた直後に、百二十キロの荷物渡されてアマゾン横断させられたとか、強さも必要だと思いますよ」
何を言ってるのかさっぱりだけど、修練よりも実戦で学んだってこと?
そう考えると、同じ調査隊でも隊長の方が調査範囲が広いし、魔法使い様と闘った数は圧倒的に多いから、いくら修練を積んでも隊長の間にある差が縮まらないのも納得できるかも。
「あ、先輩が稽古つけてあげたらどうですか?」
ダイスケさんが修練を見てくれる!?
サユリさんが認めてるって事は、ダイスケさんも只者じゃない。
それに一人で修練を繰り返すより、誰かが相手になってくれた方が実戦に近い。
「俺が教えるの下手なのは――」
「ぜ、是非お願いします!」
「ほらほら、サーシャちゃんもこう言ってますから、ね?」
「……宿営地の現状把握と、問題と思う事が解決した後でいいなら」
「はい!よろしくお願いします!」
兵士になる前はダイアス様に毎日修練を見てもらえたけど、兵士になってからは順番待ちでなかなか見てもらえる機会がなかったから嬉しい。
「あ、ひらけた。あの防壁前に見えるのが宿営地?」
「わっ、もう着くんですね」
あれ?今サユリさん、ダイスケさんの方を……わわ!
「な、なんで止まるにゃ?」
「サーシャさんは第二小隊の隊長さんでしょ?隊長が別世界の人に背負ってこられたら、威厳……サーシャちゃんの指揮に関わるでしょ?だから、ごめんだけど、ここからはまた走ってくれない?」
サユリさんは何も悪い事をしてないのに、謝るる必要もないのに…。
「あ…ありがとにゃ」
「やっぱり、かわいいぃぃ!」
「にゃ~!耳触るのは、二人だけの時にするにゃ!」
「え!?二人っきりのときはいいの!?」
「ささ、宿営地で隊長を探すにゃ」
「ねぇ、二人の時は良いんだよね?良いんだよねぇ!?」
幸い声は聴こえないけど、宿営地から隊長の音は聴こえる。
筋肉の音は心臓だけで他にあまり聴こえないってことは……横になってる?
なにより呼吸が乱れているのが気掛かり!本当に無茶ばかりして、良い報告の二つ目が無くなるような形だけにはなってほしくない。
【とある魔術士の調査記録】
獣人。
世界中の石碑を見て回ったけど、獣人がいつ誕生したのかは謎。
劣化、文字、壁画から先日見つけた遺跡は、現在の中では最古の物だと思う。
そこの壁画にも獣人と思われる絵が描かれていた事から、獣人は少なくとも魔法はおろか魔術が誕生する前から存在していたんじゃないかと推測される。
古代の獣人と現代の獣人では明確な差があり、現代の獣人は耳や尻尾といった体の一部に人間とは異なる部分が残っている。しかし、古代の獣人は見た目は完全に魔物だけど、二足で立っている様子が描かれていた。
同じ獣人でも古代と現代では大きく見た目が異なる。
何故現代の獣人は、耳や尻尾といった一部しか残っていないのか?
これは僕の憶測になってしまうけど、悠久の時の中で交配を続けた結果、原初の魔物の血が薄まり、人間に近づいているのではないかと思う。
それよりも、最近この魔術書を開いた形跡が見られる。
まぁ、この魔術書に干渉できる人は一人しかいないから、犯人は分かってる。
見せてほしいなら言ってくれれば見せるんだから、わざわざ僕が寝ている間に見るのやめてよ!
あと、キミがこれを見て思ったことと、言おうとしてること当ててあげようか?
肌の色や容姿でどうこういうのは愚行の極み。容姿が違えど、その者も現在を生き、現在から未来へと針を動かすための、重要かつ唯一無二の偉大な歯車に変わりない……でしょ?
朝食の時にぐちぐち言われるの嫌だから釘をさしておくね?
僕も心底どうでもいいし、古代の事を知るためには考察は必要不可欠なの!
あと!明日の朝から近くて露店祭があるみたいでさ!僕がいろいろ買ってくるから、朝食は宿の食堂よりも、露店祭で買ってきた物を食べようね?
何者かの走り書き。
きみも文字でぐちぐち書かずに、言葉で言ってきなよ




