10話・些細な変化 (ボクくん視点)
あれから二日が経ち、時期に三日に入ろうとしている。
魔法使い様の遺体を埋葬し戻ってきた時に、サーシャは目覚めていた。
安静にと言っても聞かず、人目を盗んでは修練に励んでいる。
少し心配ではあるが、いつも通りで、どこか安心している。
『ふぅ』
現在最も心配なのは紗友里殿だ。
時折目を覚ますことはあるが、水を飲んだらすぐに寝てしまう。
ヒョウカ様は寝ているだけと仰っていたが、果たしてそうだろうか?
『……』
否…考え過ぎだ。
傷が癒えたとはいえ、紗友里殿は騎士様と一対一で闘い疲労困憊。
今眠り続けておられるのも、その疲れを癒すための……否!ボクが飲ませた回復薬は本来使用禁止だった薬。あの薬に何か副作用的な事も考えられる。
『…………』
頭に霧がかかったように、もやもやする。
大介殿なら何か分かるやもしれぬ。
――――
「それで、俺の所にきたと?」
『はい。夜分に誠に申し訳ございません』
「って言われてもなぁ。まぁ、少し散らかっているが入ってくれ」
机上に積また調薬と医学に関する書物。
作物の収穫量,食料の備蓄量に、薬草の在庫に武器の書類まで置かれている。
各所の民から大助殿の事を聞かれたのは、こういう意味だったのか。
「ほい、お待たせ」
『これは?』
「サク爺から貰った新茶」
あの頑固者で知られるサク爺様から、直に茶を貰っているとは…。
サク爺様も認める程、大介殿が皆のため勤めてくれているのだろう。
「それで紗友里のことだったな」
『はい。紗友里殿の寝顔を見る度に心配が膨れるばかりで…』
「ふーん。それだけか?」
『それだけとは……他に理由などございません』
「まぁ、いいか。それより、その件は紗友里に直接聞いた方がいい」
『もし、答えていただけなかったら?』
「そん時は、まだボク君が信用に値する人物じゃないってだけの話だ」
ふむ…話の流れから、原因は回復薬の副作用ではないように思える。
しかし、誠の答えを得るためには、紗友里殿の信用を得る必要があるのか。
「あ、俺からもボク君に聞きたい事があったんだ」
『何でしょうか?』
「サーシャちゃんから聞いたんだが、紗友里が斬った魔法使いは、最期に弱弱しく喋ったらしい。ボク君は、魔法使いは自我がないと言っていたが、今迄に似たような事はなかったのか?」
その件はボクも気になっていた。
紗友里殿に確認しようにも熟睡されておられるから、未知の部分は多々あれど大介殿は聡明でもあるし、これを機に意見を聞いてみるも良いだろう。
『事切れる僅かの間に、喋る事例は何度かありました』
「そうなのか。しかし、即死させれば最期の言葉は聞けず、最期の言葉を望み手を緩めれば、自分が危機に瀕することになる。複雑で難しい問題だな」
『はい。ボクは死後魂が消滅させられてもおかしくない程、魔法使い様を斬り伏せてきましたが、口から声として最期の言葉を聞けたのは、お二人だけで…』
「ん?口から声としてってのは、どういう意味だ?」
しまった……さて、どうしたものか。
否、何と思われようと、あった事をそのまま伝えるべきか。
『信じて頂けないかもしれませんが、刃を交えている時に声が聴こえるのです』
「あー。俺は一生分からんけど、剣士が刃を交えて互いの心の声を聴くって現象は、紗友里や課長、清水執行官から聞いたことがあるから変な話じゃねぇよ。悪い続きを聞かせてくれ」
『はい。刃を交えて声が聴こえるのも、最期の言葉を聞けるのと同じく条件は不明ですが、聴けたときは、過去の貴重なことを知れます。現在ボク達がクリスタル王国を目指しているのも、騎士様と刃を交える中で、当時のことや狂魔病の真相を探れればと…』
紗友里殿は回復薬を『これを使え』と渡されたと言っていた。
刃を交えて心を通わせたかは分からぬが、最期の言葉を聞いたのは間違いない。
「ボク君は騎士さんと刃を交える中で、どんな声を聴いたんだい?」
『ボクは剣や鎧もろとも一刀両断するスタイルなので、声が聴こえるのは一瞬でありますが、世話を掛けた、申し訳ない、やっと解放されると言った言葉を聴いた事があります』
紗友里殿は薄刃二刀流で動きと太刀捌きは独特だが、ボクとは対照的に手数で攻める戦闘スタイル故、もしも刃を交えて言葉を通わせたなら、より様々なことを聞いたはず。
「…………」
『大介殿?どうされましたか?』
「ん、あ、あぁ、すまん。少し考え事をな。それより、この件は不明な点が多い。狂魔病の事は俺も気になるが、今は火傷薬すら調薬できねぇから、騎士さんが攻めてきたとき、俺かボク君で対応するってことでいいか?」
『いえ、全て斬ります』
「頼もしいな。それじゃ……悪いが、今日は休んでもいいか?」
『はい。夜分に失礼しました』
結局紗友里殿が何日も熟睡される原因は分からなかった。
『……』
命に別状はなく、寝ているだけだから待っていればいいだけのこと。
そう、それだけのことなのに……
『ねぇ、ボクくん!これ唐揚げっていって、すごく美味しいんだよ!』
『私、ボク君の世界に行きたい!』
『ボクく~ん!』
二度と会えないわけではないのに、何故こんなに寂しいと思うのだろう?




