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1話・別世界のアルカディアへ

 蒼白の空間をジェットコースターのように延々と流される感じ。

 どれくらいの時間が経ったのか…これは転移ってより転送に近いな。


『聞こえてる?聞こえてたら答えてくれると嬉しいな』


 声?二人の内のどちらかが近くにいるのか?

 口調は紗友里に近かったが声質が違うし、ボクくんの喋り方でもなかった。

 しかし、答えろって言われても…


『うんうん。聴こえてるみたいだね』


 ん?俺が思ったことは、声として聴こえてるのか?


『うん。はっきり聴こえてるよ』


 それなら話は早い。この荒々しい転移……何とかできないか?


『転移魔術を施しているのは、僕じゃないから出来ないね』


 これが貴方の魔術でないなら、何故こうして干渉できるんだ?


『あの子から白い石を貰ったでしょ?あれは言論石っていってね。転移中にお話できる様に、あの子に渡す前に少し細工をしておいたからだよ』


 白い石…あぁ、翻訳機みたいなやつか。

 あれが無ければ、ボク君と意思疎通は不可能だったから感謝する。


『ううん。お礼を言うのは僕の方だよ。ねぇ?このままお話しない?』


 悪いが荒々しい転移のせいで、冷静に話を聞ける気がしねぇ。

 そっちの世界に転移した後に、ゆっくり話をしないか?


『僕も出来ればそうしたいけど、多分……それは叶わない』


 出来ない?何故だ?


『理由は幾つかあるけど、一番は魔術の使い過ぎだね。きみ達の転移が終わったら、僕は死んでると思う。でも生きて残れたら、沢山お話しようね?』


 あぁ、もう勘弁してくれって言うまで話を聞かせてもらうからな。

 それで?なんの話をする?ボク君が俺達の世界で大暴れしてた話でもするか?


『それは凄く気になるけど……今は僕達の世界が抱える問題の話をしたいな』


 あぁ、魔法使いだけが発症した狂魔病(きょうまびょう)だっけか?

 ボク君の話を聞いて真先に思ったのは、俺達の世界でも人間が快適性や問題を解決するために開発した物が、悪用や不具合で惑星の危機になるって題材の作品があるから、それが魔法に置き換わっただけのことだと、あまり驚きはしなかった。


『う、ん。えっと、真先にってことは、別の何かも思ったのかな?』


 ああ、確認なんだが…狂魔病が世界的に蔓延したのは数百年前、その後に一人の魔法使いが封印の儀で魔力を奪ったって事で合ってるか?


『うん。その認識で合ってるよ』


 だったら、おかしいというか裏があるな。


『……どうして裏があると思うのかな?』


 逆におかしいと思わないか?

 封印の儀で魔力を奪ったってことは、その魔法使いは狂魔病と魔力は密接な関係があると気付いていたはず。魔力を奪い取り込めば、自分の狂魔病の進行を加速させることも含めてな。


 それに、その魔法使いは世界でも五本の指に入るほどの実力者だったんだろ?

 自分が狂魔病に侵されたら、どうなるか容易に想像できたはずだ。

 それなのに、その魔法使いは人々から魔法って武器を奪い、自分が狂魔病になる事を選んだって事は……その魔法使いが解決したかった問題は、狂魔病とは別にあるように思えて仕方ねぇ。


『あの子…とんでもない人を見つけてきたなぁ』


 ん?何かおかしなこと言ったか?


『もっとお話したかったけど……時間がないみたいだ』


 おいおい、さっき転移後にゆっくり話そうと――


『僕もキミと同じ考えだけど、その答えを出すためのヒントを得るためには、狂魔病に侵され自我を失い、人を殺すためだけに彷徨い歩く魔法使いを…魔法使いを……始末する必要がある』


 あぁ……だろうな。


『狂魔病の犠牲者になった魔法使いも十分脅威だけど、かつて各大陸を統治していた三人…アグニくん、アクアちゃん、フウカちゃんが使う魔法は次元が違う。挑む前は十分に栄養と休息をとって、無理と思ったら、誰が何と言おうと、何が起きても逃げるんだよ』


 ……。


『キミ達のために遺産を用意しておいた。少し癖があるから悩みの種になるかもだけど、必ずキミ達の生活と戦いの道標になってくれるはずだ』


 …………。


『それから……村や宿営地の人達には、雨の後には必ず光がさすと。サラちゃんに、今キミに必要なのは頑張る事じゃなく、自分を大切にすることだと伝えてほしいな』


 あぁ、必ず伝えると約束しよう。

 しかし、俺の願いも聞いてくれないか?

 

『叶えると約束できないけど、聞かせてほしいな』


 本来なら会った時に聞きたかったが……貴方の名前を教えてほしい。


『シルディア。シルディア……グラン――』

【とある魔術士の想い】


 他の誰に何と言われても、僕がやりたいんだ。

 その先にあるものが死だとしても、やりたい事をやって死ねるなら本望だ。


 さ、さすが歴史に名を残す魔術士を育てた方。

 いや、あの人達を育てたから寛大かつ寛容なのは当然か。


 別世界へ通じる道は目には見えないトンネル。

 この方が亡くなった事で、トンネルの出入り口は瓦礫で埋もれてしまった。

 最期まで瓦礫を除去する方法は分からなかったけど、この方を呼び覚ますことで、別世界へのトンネルを再び開通させる事ができた。


 それにしても…。

 あの子を別世界に転移させた時に比べて時間が掛かっている。

 これは…誰かの、何らかの強い意志が、こちら側に来る事を拒んでる?

 いや、来る事を拒んでいるというより、魔術そのものを拒んでるのかな?


 ああ、あぁ……そういうことか。

 ふふ、やっぱり新たに発見したり、新しい事を知れた時はゾクゾクするなぁ。


 この人たちにも、少なからず教えてあげたいけど…。


 く…そ……意識が遠のく…。


 あ…れ?僕……名前……最後まで言えた……か…

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