勇者カインと異世界漂流記
こんなのもあっていいんじゃないかと思って書いた、逆異世界転送ものです。
自分なりには結構楽しんで書けたので、読んでもらえたら光栄です!
我が名は勇者カイン。古の戦士アバディンの血を引きし者。
大陸グランレイの帝国エヴァンに仕え、王の命を受け、魔王ドルーアを倒す旅をしていたのだ。
聖剣リアースを使い、何とかドルーアを追い詰めたまでは良かったのだが、奴は闇の秘術を用い逃げてしまった。
そこで、エヴァン魔法師団に頼み、我が身を魔王の元へ転送してもらったのだが……
ちょっと今、大変困った状況に陥っている。どうやら、どこかの大国のど真ん中に辿り着いてしまったらしい。
この大陸にも、まだ知らぬ大国があった事に驚きを隠せない。
うううむ……世界とはやはり計り知れぬものだ。
お、とりあえずあの者にここが何処かを聞いてみるか。
「そこの者。すまぬがここは何という国だ?」
「え? いや、ここは日本だけど……東京の新宿。おじさん外国の人?」
どうやらここは、ニホンという国のトウキョウノシンジュクという場所らしい。しかし、見た事も聞いた事もない国だ。
ここに住んでいる者達は皆、見た事もない様な装備を身に纏っている。
ここではまだ、発掘されていない未知の資源があるのかもしれない。
それにしても、民家や店、何もかもが巨大だ。すべての建造物が空へ伸びていっている。我が祖国とはまったく異なる建築方式だ。
本当にここは、我の知っているグランレイなのか?
幸い言葉は一緒らしいが……仕方ない。一度エヴァンまで戻るか。
「すまぬが、ここからエヴァンまでは遠いか?」
「え? どこって?」
「東の帝国エヴァンだ」
「聞いた事ないなぁ……漫画喫茶? まぁ、JR乗って秋葉にでも行けばあるんじゃね?」
この者はいったい何を言っているのだ?さっきから、当たり前の様に分けの分からぬ言葉を吐いているが、どこかおかしいのか?
唯一把握できたのは、ジェイアールなるものに乗り、アキバという場所に行けばいいという事だ。
ジェイアールとは、この国で使われている瞬間転送用の魔方陣か何かなのかもしれない。
とりあえず、そのアキバという場所に向かえば手がかりが得られるだろう。
しかしこの者、エヴァンを知らぬとは……万死に値するな。
「その……ジェイアールなるものには、どうやったら乗れるのだ?」
「えっとね、そこのGAPの角曲がると階段があるから、そこ上ったらすぐ新宿駅だよ」
困った。また新たな未知の言葉が出てきた。
我が推測するに、ギャップとは名前からしてギルドか何かだろう。とりあえず、言われた通りに進むしかなさそうだ。お腹痛い。
しかし、ここの国の人口は半端じゃない。
エヴァンものその名を帝国として知らしめているが、それを軽く凌駕するほどだ。
これほどまでの大国が、今だに知られずにいるのは何か特別な理由があるのかもしれないな……。
これは、エヴァンに帰り次第、即刻、調査隊を送り込む必要がありそうだ。
それを機に、新たな国交と交易が交わされれば、我が帝国はより一層豊かになるであろう。
むふふ。我ながら賞賛してしまう程の愛国心。
む? 何やら見た事のない仕掛けを人が行ったり来たりしているな。
あれがジェイアールなる魔方陣なのか?しかし、どこかへ転送されている様子はないし。いったいあれは何なのだ。
まさか!? この国では独自の文明を築いていると言うのか!? ば、ばかなぁ……!!
いや、だがそうだとすれば、あの建造物や未知の言語の説明も付く。
だがそうなると、相当に高度な文明を、今まで他国に知られる事なくここまで発展させた事になる。
とすると!! 国交や交易など言ってる場合ではないぞ!!
これはドルーア以上の我が国への脅威になりかねない。どうする、どうする勇者カイト!!
もうやだ。正直、我一人には荷が重過ぎる。ドルーアなんてどうでもいい。帰りたい。
「あのー、すいませーん。ちょっといいですか?」
「む、何か用か?」
「えっと、外国の方ですか? 日本へは観光で?」
「そうだ。我は帝国エヴァ……いやいや、とにかく旅をしていてここへ辿りついたのだ」
危ない危ない。今となっては、うっかりエヴァンの名前を出した事によって攻め込まれかねない状況だからな。
まったく我とした事が。この、うっかりカインめ。
「そうです、かぁ。旅行中……と。あの、その腰に差してるのって本物ですか?」
「あたりまえだ! これは伝説の聖剣リアースだ!!」
「はい。伝説の聖剣……と。その服はご自分で作られたんですか?」
「失敬な! これは我が家に代々伝わりし聖なる鎧だ!」
「あ、それ鎧だったんですね。すいませーん。えーと、失礼ですがお名前は?」
「我が名はカイン! 古の戦士アバディンの血を引きし者ぞ!!」
「カインさんですね。えー、ご出身は?」
「そ、それは、その、ひ、東だ! 東の方の国だ!」
「東……。はて、どこだろ? 一応、日本も東なんですけどねー」
「はっ! 貴様、もしや……我がどこに仕える身か、すでに気づいているな!?」
「あ、お仕事してらっしゃるんですか? 何やってるんです?」
「勇者だ!!!」
「はい、分かりましたー。申し訳ないんですが、ちょーっと、一緒に来てもらってもいいですかね?」
「む、なんだ! 何をする!!? やめろっ! きさまああ!! ただではおかんぞ!!」
「はーい、暴れないで下さいねー。別に逮捕する訳じゃないですからねー。おい、ちょっとそっち持って」
「あっ、ちょ、うわっ! はい、すいませんすいません」
なんたる失態!!勇者ともあろうものが、呆気なく捕まってしまった!
だが、この統率の取れ方……。こいつら、初めから我を捕獲する気だったのは間違いないな。
しかし、これからいったいどこに連れて行かれるのか。
拷問か? いや、洗脳か? それとも、魔法か何かをかけてくるか!?
まずい! 非情にまずいぞカイン! うかつにドルーアの後なんて追うんではなかった。
む! 小部屋が沢山あるな。牢屋か、何かか?
という事は、我の他にも同じように捕まっている者達がいるという事だな。
よし、脱走するしかない。まずは捕虜同士の結束を固めるべきだ!
そして、食事を運んでくる隙をみて看守を気絶させる。
そいつを盾にここから抜け出し、なんとしてもエヴァンへ帰ってやるぞ!!!!
がんばれカイン!!! がんばれ勇者!!! 我ならやれえええええる!!!!
あ、あれ? ドルーアがいる。
こうして、魔王ドルーアとの熾烈を極める戦いは未知の大国までも巻き込み、更なる激しさを増すのであった。
いったいどうなるカイン!? ドルーアを倒せる日は来るのか!?
そして、異世界の魔の手から逃げられるのか!?
果たしてこの戦いの行方は!?!