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兄弟 ②

「その話を聞いて思い出したが、校長先生はヨハンのことを優秀な学生だと褒めちぎっていたな。」


ケイネスは弟の言葉に応ずるように答えた。すると、ヨハンは片目をギュッと閉じてウインクし、口元から少しだけ舌を出しながら、


「魔術学校を圧倒的な主席で卒業する兄を持つ弟ですから。」


と屈託のない笑顔で返事した。実際、弟のヨハンは兄に勝るとも劣らず魔術学校では優秀な成績を収めているのだ。それに加えて、この陽気で人当たりのよい振る舞いが相乗効果を発揮し、学校では老若男女問わず人気者の地位を確保していた。ケイネス自身はどちらかというと家柄と自身の能力を誇示してやや高慢とも捉えられる態度が垣間見えるときがあるため、彼の才能を認める人々からは好意的に遇されるものの、万人受けするような人物像ではなかった。また、それはケイネス自身も自覚するところであり、特に人たらしの才能がある弟との比較でより一層明確に認めざるを得なかった。



「来年は順当にいけばヨハンが卒業生主席を務めることになるかな。」


ケイネスが穏やかにそのように言うと、


「兄上に続くよう頑張って精進いたします。」


と、右手を聡明そうな額へ当てて敬礼しながら、茶目っ気のある笑顔で即座に返答した。本人は冗談めかして話しているが、実際のところ、ヨハンは同学年で比較するときわめて優秀な生徒であった。ケイネスほど圧倒的な実力差をもって他者を引き離すわけではないが、それでも突出した才能をもつことは周囲の目にも明らかであった。これは、兄として誇らしいことであると同時に、将来の不安を早くも予期させる事実であった。


 おそらく弟はこのまま順当に魔術師としての階段を昇り続け、いつか自分に比肩する存在となるだろう。いや、もしかしたら自分をも凌ぐ実力を身に着けるかもしれない。その時、父は私を刻印の継承者として選ぶだろうか。伝統ある家系では、魔術師としての力が拮抗している兄弟がいる場合、長子にその相続が優先される場合が多い。しかし、それはあくまで慣例というだけであり、年長が刻印を継承する保証はどこにもなく、現在の刻印所有者である父の一存ですべて決まってしまうのだ。仮に父が不慮の事故で継承者を指名せずに亡くなってしまった場合、次世代の継承をめぐって血生臭い争いが起きうることは過去の歴史が雄弁に物語ってきた。


 父と母は弟を私よりも可愛がっている、少なくともケイネスの目線からはそのように感じられた。もちろん、アーチボルト家の長子であり、刻印継承者の筆頭候補である立場を自分に自覚させるため、父は幼少時から毅然とした態度でケイネスに接してきたことは彼も十分に理解していた。むしろ、そのような父の自分に対する厳格な振る舞いにより、ケイネスは自分が刻印継承の候補者であるという自信を得ることができ、安心する材料となっていた。しかし、それでも父の弟に対する溺愛ぶりはケイネスの心中をかき乱すものがあった。


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