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水銀の友 ②

不可解な声の発生源を探すため辺りを見回したが、その努力は無意味であるとケイネスはすぐに悟った。何故ならば、その声は音として彼の耳へ届いているのではなく、頭の中に直接話しかけらることで認識しているからだった。これは、誰かの口から放たれた声を聴き取るという単純な仕掛けではなく、思念を伝達する魔術に類するものであると理解したのだ。


「何者だ!?どのような思惑をもって私に思念を送り続けるのか!やましいところがないならば、正々堂々と私の前に姿を現すがよい!」


ケイネスの問いただす口調は自然と語気を強めた。相手の承諾なく一方的に思念を押し付けるなど、迷惑以外の何物でもないのだ。そして、そのような状況を意図せず許してしまった自身の油断と相手の無作法に、ケイネスの自尊心を少なからず逆なでしたのだった。


「私をアーチボルト家の長子、ケイネス=エルメロイと知った上での狼藉か!自身の行いが清廉潔白だと自覚するならば、私の前に姿を見せてから主張のひとつでもしたまえ!」


ケイネスの言葉は次第に熱を帯び始め、怒声へと変化していった。それは、彼の呼びかけに対して相手側が沈黙を続け、なんらの反応を示さなかったからである。



「いったい何者だったのだ・・・。」


すっかり拍子を抜かれたケイネスは、やや乱暴に自身の体をソファへと沈めた。部屋には再び静寂が訪れ、一度は燃え上がった苛立ちの炎も、徐々に鎮火の一途を辿るようだった。彼の心中の火はすっかり消え去り、落ち着きを取り戻したその時であった。


「ケイネスはん、こっち見てください。ワイは机の上に居りますねん。」


頭の中に再び思念が流れ込み、不意を突かれたケイネスは驚きでソファから勢いよく立ち上がった。


「机の上に何があるんだ・・・。」


部屋に置かれた古びた木製の机へ視線を向けたが、そこには魔道具や実験器具などが普段通りに整然と並べられていた。机の真ん中には陶器の小瓶が鎮座しており、その中には1年前に作成した水銀の礼装を収められている。彼の目には特に不審な様子は見当たらない。


「そう、それですねん。ワイはケイネスはんの目の前に最初から居りますねん。きちんと見えてるでしょ?」


思念が呼びかける言葉とは裏腹に、ケイネスには状況が把握できなかった。いや、彼の思考は一つだけ可能性を見出していたが、そんな馬鹿げた状況があるわけないと否定していた。


「そうですねん。机の上に小瓶が見えてるでしょ。それがワイですねん。」


独特の言い回しでその思念はゆっくりと語りかけた。それを聞き届けたケイネスは、驚きのあまり口を半開きにしたまま固まってしまうのだった。


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