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ソラウ ⑥

 それは、1年前にある屋敷で開かれたパーティーにケイネスが参加したときであった。魔術師としてはそれなりの歴史を誇るある家系で刻印継承の儀が完了し、当主が代替わりしたためそのお披露目といった名目であった。その家系はアーチボルト家やユリフィス家とも少なからず親交があり、ケイネスやソラウもその場に参加していたのだった。

 赤い絨毯が敷かれた大広間には円テーブルがいくつも並べられ、それらを覆う白い布は艶やかな光沢を放っていた。その空間を多くの人々が行き交い、グラスを片手に集まっては短い談笑をし、しばらくしたら離散していくという行程を繰り返すのであった。テーブルの上には手の込んだ料理が並んでいたが、あまり手をつけられた様子はない。それとは打って変わり、シャンパンやらワインやら酒の入ったボトルは次々と消費されていった。壁際には油絵で描かせた歴代当主の肖像画が横並びに掛けられ、典型的な魔術師の貴族が催したパーティーといった様相であった。



「やあ、ケイネス君。久しいね・・・」


パーティーの様子を遠目に眺めていたケイネスは間延びした重厚感のある声を耳にし、そちらへ向き直った。深く彫り込まれた顔貌に白く伸びた髪と髭をなびかせ、漆黒を塗り固めたような雰囲気をもつ壮齢の男であった。重苦しい空気を周囲にまとう人物であったが、その丸眼鏡の奥からケイネスに送られる眼光は底知れない威厳を感じさせ、思わず身構えるのであった。


「ユリフィス様、お久しぶりでございます。」


その男が放つ独特の威圧感にいささか気後れしながら、ケイネスは応答したのであった。

彼の眼前に立つ男の名はルフレウス=ヌァザレ=ユリフィス。魔術協会の降霊科に君臨するロードであり、ユリフィス家の現当主であった。「死せるもの、すべてユリフィスに頭を垂れる」と言われるほど霊的存在の使役で彼を凌ぐものはなく、また時計塔のロード達の中でも魔術師として群を抜く実力者で会った。


「・・・きみは翌年には時計塔に入るのかね?」


「はい、その予定でございます。」


「そうか・・・。ふむ、きみならばそうだろうな・・・。」


ケイネスは目の前にいる異質な男からの問いかけに率直に答えた。単なる世間話なのか、それともその言葉の奥に遠大な意図が隠されているのか、まったく計り知ることはできなかった。しかし、短い沈黙をところどころに挟みながらゆっくりと語りかけるその口調は、ケイネスの背筋を凍らせるような得体のしれない恐ろしさを含んでいるのだった。


「お父様、アーチボルト様が探しておりましたわ。」


底知れない暗がりの洞窟へ足を踏み入れたと思っていた最中、それを凛とした声が制止したのだった。ケイネスは暗い穴蔵へ差し込む一筋の光のような声の方向へ体を向けると、その声に相応しい気品のあるうら若い女性が立っていた。白いドレスに身を包み、それは彼女のルビーのような赤い髪と絶妙な美しい対比をつくりだしていた。


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