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ソラウ ⑤

 家系の繁栄に貢献するには役不足・・・。ソラウは結婚を申し込む男たちを拒絶した理由について告げた。まるで、自分の気持ちなど考慮するに値せず、ただ家系の隆盛を確実になすためだけに存在する部品のように自身を規定しているといった口ぶりであった。いや、貴族の結婚とは本来そういうものだとケイネスもよく理解している。結婚した者どうしの間に育まれる親密さや愛情など入り込む隙はなく、それが両家の栄華にとって利益になるかで是非が判定されるのだ。しかし、たとえ家どうしが定めた結婚であったとしても、その相手に対しては何かしらの感情を抱くのが普通であろうとケイネスは考えている。それが愛情となるか嫌悪となるかは別として。


 しかし、彼女の場合、その本来あるべき感情が欠如しているようにケイネスの目には映った。自分の望みなど持ち合わせておらず、ただ家から下される指示に忠実に従うだけの人形のような存在。ソラウがそのような人物になったのは、彼女の育成された環境に一因があるとケイネスは考察していた。彼女はかつて、ユリフィス家の魔術刻印を受け継ぐ候補として厳格な教育が施されてきた。しかし、それはあくまでも予備としての候補に過ぎず、権力闘争の最中で命の危険にさらされていた兄の代替でしかなかった。その兄が無事に生き延び刻印継承者として正式に認定されて以来、彼女の魔術師としての資質は無視され、もはやユリフィス家にとって政略結婚の道具でしかなかった。


「誰かの代わりとしてしか認められない日々を過ごせば、周囲に何かを期待することはなくなるか・・・。」


ケイネスは心の中で呟いた。


 高慢で怜悧に見える態度は、彼女が高貴な婦人であるという印象を力強く周囲に与えていた。その結果、卑しい者たちは排除され、身分・実力ともに優れた人物のみが近づくことを許されていた。これは結婚相手としてのソラウの商品価値を高め、彼女の家系に相応しい人材を厳選するための処世術であった。それは、彼女の家系が望んだ立ち振る舞いであり、彼女自身の本当の姿ではないのかもしれない。


 ソラウが心の底から笑う姿を誰も見たことはない。もちろん静かな笑みを見せることは多くあったが、それはあくまで計算の上ではじき出された結果であり、感情の赴くままに自然に湧き出した表情ではないとケイネスは理解していた。他の者の目は誤魔化せても、自分だけは彼女の本来の姿を知っている、と。彼がそこまで考えていた理由は単に独りよがりな妄想から来るのではなく、彼女の作り物でない本物の笑顔を昔に一度だけ目撃したからであった。

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