白湯と王国と記憶の泉後編
レオン……いや、れおくん、だった?」
ぽつりとゆのが呟く。
泉のさざ波が静かに広がると同時に、記憶の断片がつながっていく。
「……ゆの」
「覚えてる。小学校の帰り道、いつも白湯作ってくれたよね。魔法瓶に入れて。あれ、地味にすごい嬉しかったんだよ」
レオンハルト──かつて“れお”だった彼は、驚いたように目を見開いた。
そして小さく笑って、そっとゆのの髪に手を伸ばす。
「君の髪に、あの頃の陽だまりの匂いが残ってる気がする」
「それって褒めてる?それとも匂ってるってこと?」
「どっちもだな」
「ちょ、セクハラだよ王子!」
ゆのがぽかっと彼の肩を軽く叩くと、ふたりの間に、幼馴染だったころの空気が流れ始めた。
そのとき、泉の奥に光の渦が生まれる。
まるで泉が“次の記憶”を見せたがっているかのように。
「これは……なに?」
光の中に浮かんだ映像は──かつての世界、現代日本。
温泉の湯けむりの中、魔法陣が浮かび上がり、ふたりの姿が微かに重なるように見えた。
「……私たち、一緒に飛ばされた?」
「運命ってやつかもな」
ふたりの手が、泉の光に導かれるように重なった。
「ポロリーノ、君も見えた?」
「ボクは……白湯の女神が微笑むのを見た気がするブウ……!」
「それ絶対幻想だから!」
ゆののツッコミが炸裂したその瞬間、泉がふわっと白く輝き、ふたりを包み込んだ。
そして、泉が静まり返ったとき、彼女たちは新たな決意を胸にしていた。
「よし、温泉を探そう」
「え、王国の危機とかじゃないの?」
「違う!癒しが優先!」
こうして、“白湯と記憶”をたどるふたりの旅は、本当の意味で始まろうとしていた。