王子とポロリーノと湯気の記憶後編
ゆのとレオンハルトは、かすかな記憶の断片を頼りに、過去の真相を探ることにした。
「この国の東に、“記憶の泉”って呼ばれてる場所があるんだ。失われた記憶を取り戻すことができるらしい」
「いやいや、その泉の水、白湯にして飲んじゃダメ?体に良さそうじゃない?」
「それ、完全に台無しになるやつ」
軽口を交わしながらも、ゆのの胸は少しずつ高鳴っていた。
記憶の中にいた小さな男の子。小さな指。柔らかな笑顔。
(あれが……レオンなのかも)
一方のレオンハルトも、胸に小さな違和感を抱えていた。
「なぜ、彼女の笑顔を見ると、懐かしいと感じるのか」
「なぜ、彼女の前でだけ、心が素直になるのか」
そして。
「ふたりとも~~~!ポロリーノおいてかないで~~~!!」
ゆのとレオンハルトに必死についていくポロリーノ。
何気なくぴょこぴょこ跳ねながらも、その背中にはほんのりぬくもりが宿っていた。
(……ポロリーノ、地味に癒し力高い)
泉へ向かう道すがら、ふとした拍子に、ゆのがつまずいた。
レオンハルトが咄嗟に手を伸ばし、彼女の体を受け止める。
その瞬間──。
「……思い出した」
「えっ……?」
「ゆの……君のこと、知ってる。幼い頃、僕の世界にも、一度だけ“魔法陣”が開いて……」
言葉の続きが出てこない。だけど、確信があった。
ゆのの瞳が、大きく見開かれる。
「……レオン、なの?」
「やっと……会えた」
二人の距離が、ぴたりと重なる。
長い時を越え、二つの魂が再び巡り合う瞬間。
「って、ちょっとーーーー!!おふたりさんーーー!!ポロリーノの立場ーーーー!!」
「ポロリーノはそのままでいてくれ」
「よし来い結婚式!!ご祝儀用のトリュフ探しとくから!!」
泉にたどり着く前に、すでに“記憶”は彼らを選んでいた。
白湯のようにじんわりと、体の芯に染み渡るような、やわらかな縁。
そして──彼らの物語は、新たな幕を開ける。