校長の話
「えー、以上で、28クラスの合唱を終了します。次に音楽教諭のフクイ先生、お願いします」
「はい、みなさん合唱コンクールお疲れ様でした。みなさんとても上手くてね、えー先生みんな順位つけるの大変でしたよ。ーー」
ぼんやりと先生の話を聞きながら、合唱コンクールを振り返る。
全校の中で一番手に歌うことになってしまった、くじ運の悪い我がクラス。失笑が漏れるほど悲惨な出来の合唱を披露した。指揮者賞を取るためなのか、指揮途中に観客席に向かって振り返る人が続出した会でもあった。長くはない学生時代の思い出になると思えばまぁ、悪くは、ない…のかも…しれない。
そこから思考は、早く先生の話が終わらないのか、という愚痴に移る。だって、一曲五分×28クラスぶんの時間ずっと座っていたのだ。そりゃあ疲れる。
ふと気がつくと先生の話が終わっていて、校長の話に移ったところだった。
こういう時の校長の話は長いと相場が決まっている。
早くも軽く疲れを覚え、舞台上に立った校長を眺める。
「はいみなさん。もうこの一言です。お見事」
そう言っただけで颯爽と舞台を下りていく校長を賞賛の念を込めて見送り大きな拍手をした。隣の友人と顔を見合わせ、流石だね、校長。わかってる。と囁き交わした。周囲からも似たような話し声が聞こえるのでみんな同じような感想を抱いたのだろう。
とても上手なクラスの合唱を聞いたあとと同じくらい、いやそれよりも大きな拍手が会場を包んだ。
ーーそのあと、最優秀賞を獲得したクラスがもう一度合唱した時の方がさらに大きな拍手だったのだが、それは余談かもしれない。