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9.草原世界のボスを攻略しよう

これはBLじゃない。これはBLではない。

「なぁそういえばこの世界って名前とかないの?」


「言われてみれば確かに無いな。公式の名称はとくにないし皆草原エリア、草原世界とか呼んでるな。もしくは一番エリアとか一番世界とか」


「雰囲気的にここが最初の狩場ってのはわかるんだけどさ、ここもボーダーの拡張に伴って段階的にエリアが解放されてるんだろ?それって急にモンスターが強くなったりするの?」


「余燼の鏡からの距離を”深度”といって、深度が深いほど出現するモンスターは強くなる傾向にある。だが、そういった攻略難易度は深度の強弱よりもどの世界かで大きく変わるからな、この世界のボーダー端まで行っても要求される能力はそこまで高くないぞ」


「その深度って具体的にどういう尺度なんだ?」


「一回の拡張で進めるようになった距離が”深度1”として扱われる。今は大々深度5ぐらいまで来たとこだ。そんで言った通りここはチュートリアルの役割を持つ世界だ、当然浅い深度で最初のボスが出て来る」


 メタがそう口にした次の瞬間大地が揺れる。地面が割れ、そこから土煙を纏って何かが勢いよく飛び出す。一瞬で高くそびえ立ち、太陽を遮断して現れたモンスターの名は《喰緑花王マングローディス》。


「GYAAARAAARRAAAA!!」


 登場の合図とばかりに奴が咆哮する。木の幹よりも太い巨大な茎。その先にラフレシアのような大きな花弁を携えており、その内側には得物を咬み砕かんとする鋭利な歯がびっしりと敷き詰められていた。そして咆哮の後、奴の四方の地面から奴の半分くらいのサイズの蔓が触手のごとく現れる。


「さぁ、まずは単独撃破を目指してみな」


「まかせろ、メタの出る幕はないからよ」


 メタは下がり、代わりに俺が前に出る。さて、見るにプルームプラントと同系統のモンスターか?一番の違いは攻撃手段であろう触手が本体からではなく地面から伸びてる点だ。別個体判定でHPは共有ではないのか?プルームプラント程動きは遅いのか?…わからない、なら――


「――検証と行こうか!」


 しかし現段階でもわかることはある。それは――


 真正面から喰緑花王マングローディスへと新緑の大地を駆けていき。左右から振り下ろされる触手の攻撃を躱して本体へと肉薄する。


――奴の触手は上からの振り下ろししかしてこないであろうということ。本体から横方向に触手が生えているプルームプラントと違いこいつの触手は地面から垂直に生えている。その可動域は見た目以上に狭く。地面にいる俺を攻撃するとなれば振り下ろしでの攻撃しかない。


 触手攻撃の後隙を狙う。時計でいう5時くらいの位置から、本体に拳での攻撃を叩き込む。背後で唸る触手の音を合図に二回目の攻撃を回避して安全圏へと一度退避する。


 拳では大したダメージを与えていられないようで喰緑花王マングローディスはピンピンしていた。本体から狙うのでは効率が悪い。触手を先に撃破しないと本体にダメージが通らないギミックボスの可能性もある。まずは触手をどうにかしよう。


 今度は右の触手目掛けて駆けていく。


 さて、奴の二回目の攻撃は右の触手のみによるものだった。つまりプルームプラント同様に位置取りによって攻撃してくる触手が変わる。花弁のついてる本体を中心とした円を四分割したのがそれぞれの触手の攻撃範囲とみていいだろう。そしてその攻撃範囲の境界にいれば二本が同時攻撃してくる。


 空を切って何もとらえることなく地面に打ち付けられる触手。その先端に乗り込み触手への騎乗を試みる。騎乗というか単にしがみついているだけだけど…


「おおおおうおおおううおお!」


 結果、触手が俺を振り放そうとあらぶる。これめちゃくちゃ目が回る…三半規管ミキシングをくらいながらも地面が近づいたタイミングでなんとか離脱する。


「あれはヤバイ…攻撃どころじゃない。もう少しで地面に打ち付けられそうだったし」


「なに遊んでんだ~遊園地気分か~?」


 メタがまたもや野次を飛ばしてくる。あれが遊園地のアトラクションだっていうならせめて安全バーをつけてくれ。


 おとなしく地上から攻撃するしかないようだ。こいつの攻撃を避けるのは簡単だが、おれの攻撃力では指輪込みでも与えられるダメージが低く、攻撃を躱しては一心不乱に拳を打ち付ける泥沼の展開だった。それでも時間をかけて何とか一本触手を沈めることに成功。そこでスタミナ回復のために一度退避する。


 そうして俺が奴の攻撃範囲から抜け出すと同時に本体が動き出した。茎をしならせる予備動作が始まり新たな攻撃方法かと身構え、尚のこと奴から距離をとる。奴は最初の咆哮の時のように花弁を俺へとむける。


「なにか発射するつもりか!?」


 周囲には遮蔽物となるものが無く、やり過ごすのは無理だと判断。防御姿勢をとりつつバックステップでさらに距離をとる。しかし俺に何かが飛来することも。花弁の口が俺に向けられたまま固定されることもなかった。そのまま奴は花弁を地面へとむけて体を傾けていき逆U字の姿勢になる。


 そして奴は地面を喰らい始めた。草も土も奴に飲み込まれていく。


「土塊を弾にして発射でもしてくるのか?」


 もしそうだとしたらそのまま花弁の口が発射口となるはず。ならな安置は奴の根元。ここは距離を詰めるべきだと判断し、離れた過ぎた距離を急いで駆けていく。


 幸いなことに奴の3時から6時の位置は完全な安置のはず。何とか奴が遠距離攻撃に移行する前に安置へと辿り着いた。しかし――


「な、触手が復活している!?」


――そこはもはや、安置ではなかった。不意打ち気味に放たれた触手の攻撃をギリギリで躱す。本体に目をやれば花弁は再び天を向いている。その前方に大きなクレーターだけが残されていた。


「こいつ、回復持ちかよ!?」


 俺の奮闘はクレータ一つで帳消しにされてしまい、戦況としては絶望的だった。名前の”喰緑”ってそういうことかよ…


 回復の条件は地面を喰らうこと、そして攻撃範囲に誰もいなければ回復しだすってとこか?つまり回復させないためにはヘイトを買い続けなければいけないが、そんなの【限界突破】があってもスタミナが到底持たない。


 その仕様上触手の復活も無限にできるわけではないだろうが、その上限は途方もないだろう。回復切れを待つのはさすがに無理がある。どうにか短期決戦に持ち込まなければ勝てない…考えをまとめるためにも、とにかく再び奴の攻撃範囲からでる。


「かといってどうしろと…攻撃力もスタミナも足りないんだ。触手の相手をしながらの短期決戦なんてできっこないだろ…いや、()()があればできるか?」


 ()()を使うには奴の花弁までたどり着く必要があるが当然そんな跳躍力は俺にはない。奴の本体をよじ登ろうにもさっきみたいに本体が暴れだすか触手の妨害が入るだろう。無理なのか…?いや、あきらめるな今までの戦闘に何か鍵があるかもしれない。


 しばらくの長考の末俺は一つの結論にたどり着く。


「できたぜ、お前を倒す道筋が!」


 まずは正面から奴へと接近する。駆けていくは左右の触手の攻撃範囲の境界。


「初撃は回避!次は乗る!」


 本体への距離感を調節した位置にて二回目の攻撃を待つ。左右からの挟撃、同時の触手による打ち付けが降りかかる。それをバックステップで回避し、出来上がった二つの触手の連結部へと乗り移る。


「片方に乗るだけならただ振り払われるだけだが二つ同時に乗ったなら!」


 触手は攻撃から復帰するとき一度垂直に伸びる形に戻り、触手の先端を定位置へと戻す。それはプレイヤ―を振り払おうとするときも変わらない。その先端部分の跳ね返りを跳躍へと変換する。片方では斜めに飛ばされるが、左右への跳ね返りが同時にこの躰に伝わるなら――


「――垂直方向に跳べる!」


 思惑通りの大跳躍に成功した俺は目的の花弁へと肉薄する。


「ほらよ、()()。地面喰うくらいなんだから果物も大好きだろ?大地の味を嚙み締めな!」


 念のため指輪をDEXへと付け替えておいた。コントロールは十分だ。奴の花弁へとプルームプラントの果実を投げ込む。そして僅かな滞空時間も終わり、落下ダメージをくらいつつも着地する。


「GyAaara…」


 喰緑花王マングローディスが低く、か弱い唸り声をあげて、ぐでんと萎びる。触手も天に向かって聳え立つ力を失い、地面へと倒れこむ。


 触れるだけで麻痺に陥る劇毒なんだ、それが濃縮された果実そのものを経口摂取なんかしたらボスだろうと麻痺は免れない。


「ここからが本番だ!」


 本体の捕食によって触手が再生した、触手も麻痺している、ということはこの触手たちは本体とつながっている。なら先に触手達を叩く!指輪をATKへと着けなおし、【限界突破】を起動して奴が麻痺のうちに触手へとスタミナ回復もいとわず連撃を叩き込む。


「一本目!二本目!三本目!ラスト四本目!」


 すべての触手を撃破し、残すは本体のみ。やっと本体へと拳を撃ちつける、だが――


「クソ!解除だ解除…!」


――限界が来た。【限界突破】でも越えられないHPの壁が。残りのHPが1になってしまった。【限界突破】を解除するしかなかった。解除の宣言と共に全身から力が抜け落ちて、立つこともできず倒れこむ。もう指一つすらしばらくは動かせない。スタミナ切れだった。


 不幸なことは重なるもので俺が動けなくなった同時に代わりに奴が動き出す。麻痺から回復してしまったのだ。


 今度は俺が嬲られる番か…。


 悔しかった。もう少しATKがあれば、もう少しHPかスタミナがあれば、Lvが1のままでなければ、武器が扱えたら、加護あったら、オーロラフォージより物理ステの高い種族だったのなら勝てたのに。逆張りだからこそあと少しで勝てなかった。俺は早くも壁にぶつかったのだ。


 目の前の奴が動き出す、直接俺を喰らうのか、また地面を喰らうのか。どちらにせよ俺の負けだ。


「頑張ったな」


 その声と同時に、世界が裂けた。


 天を覆う巨体の頭上に、ひとすじの光が走る。太陽を割いて降り注ぐかのような白刃の弧。空気が悲鳴を上げ、衝撃波が遅れて全身を叩いた。


 次の瞬間、喰緑花王マングローディスは硬直する。咆哮を上げる間もなく花弁から根元までが淡い光をまとって裂けていく。


「……!」


 巨体が崩れ落ちていく。俺の視界にはただ一閃の残光だけが焼き付き、巨花の輪郭を白く縁取っていた。


 俺が何十手もかけてようやく触れた相手を、あいつはただの一振りで終わらせた。


 その事実を理解した瞬間には、俺の身体は宙に浮いていた。気づけばメタの腕に抱えられていて、揺れる視界の先に太陽が戻ってきていた。


「やめろ…」


 だが問題が一つ新たに発生した。ようやくスタミナが回復して声を発せるようになりメタに直訴する。


「何を?」


「この運搬方法!」


 メタが俺を抱きかかえる姿勢は所謂お姫様だっこだった。


「わがまま言うな、引きずられるよりいいだろう?敗者は大人しくし休んでろ」


 敗者か…それを言われては何も言い返せない。癪だが、大人しくこの屈辱は甘んじて受け入れるしかないか…というか俺を出し抜くためなら男同士だろうとお姫様だっこするのかよ。俺そこまでこいつの恨みを買ったか?身に覚えがない。もし()()()()前のことならどうしようもないぞこれ…


「もう一人で歩けるから、いい加減降ろせ!」


「わかった!降ろすから暴れるな!」


 やっとスタミナ切れから復帰してメタから解放される。


「負けて悔しいか?」


「本気で行ってるのかそれ?そりゃそうだろ、こんな序盤の敵に詰まるとかゲーマーとしての恥だわ」


「わお見事に不機嫌。だがそう気を落とすな。マングローディスは確かに序盤のボスだが誰かがヘイトを買い続けなきゃいけない仕様上パーティ戦前提のボスだ。ソロであそこまで行っただけすごいよお前は」


「下手な慰みはやめろ。第一お前は一撃で倒したじゃん、パーティとか関係ないだろ」


「それはLv差の暴力だよ。適正レベルじゃパーティはほぼ必須だ。おまえはもっと自分のことを誇れ、そのステに加えて初見であそこまで行くなんて少なくとも俺が知る限りじゃ他の誰にもできないことだ」


 KENの言葉は混じりっ気のない本気の賞賛と励ましだとはわかっている。それでも、今の俺にその言葉を投げかけられても惨めなだけだ。だが、不機嫌のままメタを突き放したくはない。悪友といえどただ一人の大切な友人なのだから。


「そうか…ありがとうなKEN」


「…ああ、おまえなら次は一人で倒しきれるさ」


 そうして、俺たちは草原世界から現世へと帰還した。


◇◇◇


「ってことがあったんですよ」


「へー?」


 また髪の毛を採らしてほしいというリーズさんからのメールを受け取った俺は再びリーズさんの工房に来た。ついでに自己強化案について相談しようと、草原世界でのメタとの冒険をの顛末をリーズさんに伝える。


 話した途端リーズさんがニヤニヤというか温かい目で見てくる。何故?


「なんですか?」


「いや別に何でもないわよ…」


 聞いてみてもはぐらかされるし一体何なんだ?


「それにしてもLvと加護以外で強くなる方法ね~?」


「そうなんです。何も思いつかないんですよ。武器の新調は論外だし、防具も要求ステータスが結局足りないし。装備頼り(テムパル)できないからなぁ」


「じゃあさロラフ君も錬金術やってみる?」

モンスター図鑑:喰緑花王マングローディス:周囲の緑を捕食する生態を持つ巨大な植物。その生態上ほかの植物モンスターとは敵対関係にある。花弁の中の歯は岩石などを砕くためのもの。周囲の蔓は地下で本体とつながっているがHPは個別に割り振られている。触手は無視しても攻略できるが触手と本体でヘイトの蓄積が分かれているので放置しているとアタッカーを無視して後衛を攻撃しだす。序盤のスキルや魔法では長射程の技は少なく触手を先に撃破した方が効率的である。毒物を花弁から経口摂取させるという手法は裏技程度に知られているがボスモブに有効なレベルの毒物を用意するぐらいなら普通に倒した方が早い。


ちなみに麻痺が弱点というわけではなく。麻痺を誘発する魔法や武器は本来効かない。プルームプラントの果実が劇毒すぎるだけである。

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