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7.逆張りで目指す先は

「えっと、ここを右に曲がれば…お、あった『智果庭園』」 


 今日はKENとリタイトルズの中で会う約束をしている。集合場所はKENが提案した、レゼリアにある店だ。俺はその店の扉を開け、中へと足を踏み入れる。


「おー来たか、こっちだ」


 唯一の客が手を振りながら声をかけてくる。俺は店員の案内もなかったため、そのまま手招きに従って声の主の対面に腰を下ろす。


「KENでいいんだよな?」


「そう、俺がKEN。ここじゃメタトロンって名前。「オーロラフォージ」って確認するまでもないな、まんまお前のネーミングセンスだわ。しっかし、何でヒューマンなんだ?」


 KENは俺の頭上、ネームタグを一瞥した後に俺の全身主に頭部に目をやって、そう言葉にする。


「ちょっと待ってくれ、ほらこれで」


 髪と瞳の偽装を解いて俺は輝きを取り戻す。


「オーロラフォージは面倒事に巻き込まれやすいって聞いて、それで偽装してたんだ」


「ふーん、てっきり坊主で髭面のごついやつが来ると思ってたから、ちょっと拍子抜けしたよ」


 メタが眉をひそめながら、じろじろと俺を見てくる。


「おまえ、見た目も華やかさの逆を行きたがるじゃん。髪が長いのは置いといても、なんだよその可愛らしいアバターは」


「なんか既にキャラは作ってあったんだよな、そんで丁度()()()()前のことだったからさ、このアバターを作ったときのこと何にも覚えてないんだよ」


「おまえも難儀だな」


「てか、おまえおまえって…ちゃんと名前で呼べよ」


「だってさー長いじゃんオーロラフォージは」


 こっちは真面目に言ってるのに、メタは悪びれた様子もない。


「じゃあ、ロラフでいいよ。他のプレイヤーからそう呼ばれてるし、ここ(リタイトルズ)ではそう名乗るから」


「おっけ、俺のことはいつも通りメタと呼んでくれ」


 俺がいつも名前を逆張りに合わせるように、KENはいつも名前に「メタ」をいれる。「メタリオン」とか「メタリカル」とか。


「そういえばメタ、貴様オーロラフォージが坊主スタートなこと俺に言わなかったな。最低限の情報だけでいいとは言ったがさすがにそれは伝えとくべきだろうが」


「わりぃわりぃ、でもロラフなら坊主なんてかえって喜びそうだし、その程度のことでオーロラフォージを選ばないわけがないと思ってたが故のちょっとしたサプライズだよ。てか、キャラクリ時の記憶が無いって言ってたのに、それ知ってるってことは…攻略サイト見たんですか~?あんだけ攻略サイトは見ないと豪語してたのに~?」


 こいつ隙あらば煽ろうとしてくるな…まぁおれもやる側だから文句言えないけど。


「馬鹿言え、見てねぇよ。さっき言った俺のことをロラフ呼びしてるプレイヤ―から色々聞いたんだよ」


「なるほどね、でどうよリタイトルズは?その口ぶりからして既に色々やったんだろ?」


「ああ、すごいぜこのゲーム。まだ少ししか触れてないが、グラフィックも、システムも明らかに既存ゲームの遥か先を行く出来だ。メタが俺を誘いたくなるのも納得だわ。特にこの街が一から百までプレイヤーの手によって作られたなんて今でも信じ難いくらいだしな」


「進捗はどんなもんよ?ロラフのことだから既に不遇称号取りまくってんそうだけど」


「称号?まだ一個だけだよ」


「マジか、ちょっと意外。まぁ、そんな簡単に手に入るもんでもないけどさ」


「それで進捗ていうか既に結構行き詰ってて、聞きたいことがあるんだよ」


「ほう、とりあえず言ってみな」


「まず一つ目はレベルがずっと1のままなんだよ。何度もモンスターは倒したんだけど」


「…ちょっとロラフのステ見たいからメニュー開いてくれ、フレンド登録して許可もらえば直接見えるから」


 その表情は、軽い興味というより、どこか警戒めいていた。


「わかった」


 少し不安になりながらもメタの指示通りメニューを開く。すると「メタトロン」からのフレンド登録の要望という通知が表示される。その要望を承諾してフレンドへのステータスの直接開示という項目をオンにする。


「ほら、これが俺のステ」

==================

名前 : オーロラフォージ    

種族 : オーロラフォージ    

加護 :            

称号 :【限界突破】 0/10       

LV : 1          

HP : 12 (4×3)   

MP :  9 (3×3)   

ATK:  4 (4×1)   

INT:  4 (4×1)   

VIT:  4 (4×1)   

MIN:  4 (4×1)   

AGL:  4 (4×1)   

DEX:  9 (9×1)   

LUC:  9 (9×1)


胴:無垢の胴衣

脚:無垢の脚衣

足:無垢のブーツ   

==================


 メタはおれのステータス画面を前に何やら難しそうな顔をして黙り込む。


「なんか、異常な点があるのか…!?」


 メタがようやく重く閉ざしていた口を開く。


「…あぁ、おかしいぞこれ。加護が空欄なんて初めて見た」


「そうなのか?昨日ログインした時、最初からこうだったけど…」


「本来はキャラクリの時に加護を一つ選ぶんだ。むしろ選ばなきゃ先に進めないから加護が無いなんてことは起こりえない。もちろんゲームを進めていけば加護の変更・追加取得はできるが無くすなんてことはできないはずだ。それにこの【限界突破】も見たことも聞いたことも無い、少なくとも攻略サイトだとかに載っていないだろうな」


「称号ってそんなに網羅されているものなのか?」


「ほとんどのプレイヤーが自然と取得するような称号は当然、効果から取得条件まで知れ渡っているし、一部のプレイヤーしか取得していない称号に関しても名前ぐらいはそれなりに出回っている。ごく一握りのプレイヤーしか知らない最上位の称号も少なくともこんな序盤で取得できるようなものではないはずだ」


「じゃあ、やっぱりバグなのか?」


「いや、その可能性は低いと思う。ここまで完璧な世界観でバグの報告例もほとんどないこのリタイトルズでこんな初歩的でシンプルなバグが起こるとは思えないんだ」


「確かに…」


 俺自身もこのゲームを始めて実質一日しか経っていないがその考えには賛同できる。


「となると…()()()()前のたった一回のプレイ、そこに原因があるんだと思う。Lv1のままなのも加護が無いからじゃないか?因果関係がありそうなのはこれぐらいだし」

 

「そうか…まぁ、()()()()前のことはいくら考えてもわからないしそれはいいや。聞きたいことはまだあって、最初の森を十分くらい進んだところで透明な壁に阻まれてそれ以上進めないんだよ、なんかフラグ立てが必要だったりするのか?」


「最初の森って…どこだ?」


「いやいや、初期リスの村のすぐ外にあるあの森だよ」


「ああ~あそこか。あの森全然最初に行くところじゃないぞ」


「は!?え、でも位置的に明らか最初の狩場だろ、開始地点のすぐ隣なんだぞ」


「そうかロラフはチュートリアルの時の記憶がなかったな、それじゃ気づかないのも無理はないか。いいか、初期リスのすぐに目の前に「余燼の鏡」っていう色々なフィールドに転移できるゲートがあるんだ。本来最初に行く狩場はそこからいくんだぞ」


 なんか俺、順調とは真逆のスタートだったんだな…


「てか、ボーダーの傍まで行ったんだよな?それ一応このゲームの最前線のひとつだぞ」


「いやそれはさすがに嘘だろ。Lv1、加護なし、ソロの俺ですら苦戦こそしたが攻略できたんだから」


「確かに、あの森のモンスターはレベルこそ高くないがAIが割と賢い方で高度な集団戦を仕掛けてくるからレベルがあってもソロだと普通に難易度高いぞあそこ。というか加護なしで攻略ってお前…まさか、素手で行ったのか!?」


「うん、あとこの竹刀も使ったけど結局ほとんど素手だったぞ」


「竹刀…?」


「お、やっぱこれは知らない感じ?」


 俺の予想どおり訓練場の個室とそこにある竹刀の存在は知れ渡っていないのだろうか?


「いや、竹刀自体は知っているがそれって剣カテゴリで―加護なしじゃ扱えないだろ」


「なにいってんだ?これ適正なくても使えるネタ武器の類だろ?ほら現に振ってもスタミナ全然消費しないし、当ててもほとんどダメージ無いぞ」


「ちょっとそれ借りていいか?」


「いいぞ、ほれ」


 メタが目の前で自分の腕や頭に竹刀を打ち付けている。飲食店の一席で真剣に竹刀で自傷しようとするメタの姿はかなり滑稽だった。


「ほんとだ…今は剣の適正がないのに、振ってもスタミナは減らないし、ダメージも微々たるものだ。これは知らなかった…」


「そんな驚くことか?所詮ネタ武器だろ」


「馬鹿言えこれめちゃくちゃ有用だぞ、リーチも芯も耐久力があって適性が無くても使えるんだ、防御手段としては十分すぎる。魔法主体のビルドのプレイヤーは喉から手が出るほど欲しいだろ。もし入手方法が秘匿されているのなら、100万ぐらいでも買うやつはごまんといると思うぞ」


「100万!?」


 桁が違いすぎて、思わず変な声が出た。これ原価1000だぞ…。俺の髪の毛、掌に乗るくらいの量で5000だったのに…


「ほんと変なとこで規格外だなロラフ。どうする、転売するか?買い手に繋げてやってもいいけど」


「いや、やめとくわ。オーロラフォージの名を冠してるのに価格釣りあげて転売なんて、ヘイト溜まる行為したくないし」


「…ロラフ気を付けろよ、聞いてたのが俺だけだからよかったけど、「転売」てどこかから仕入れましたって言ってるようなものだ。儲けるつもりがなくてもしつこく聞いてくる奴はいる。せめて自分が作ったことにしとけ」


 メタは真剣な表情で釘をさしてくる。


「…気を付けるわ。てか竹刀が剣カテゴリーってどういうこと?」


「プレイヤーメイドの竹刀や木刀はそう珍しいものじゃない。剣スキルで打撃判定が出るからそれなりに需要があるんだ。そんでその竹刀とかはロラフの竹刀と違って剣カテゴリーなんだよ」


 なるほど、この竹刀はあの訓練場産だから特別なのか。


「俺は詮索するつもりはないが、安易に他人の前でこの話はするなよ。絶対面倒なことになる」


「ああ…。で、話戻すけどあの壁が最前線ってどういうことなん?俺全部すっ飛ばして攻略しきっちゃったの?」


「そうだな…ロラフはチュートリアルを実質受けてないしネットの情報も知らないんだよな。1から説明するわ。まずその透明な壁ってのはリタイトルズの根幹の仕様だ。初期リスにある余燼の鏡を中心に球状のバリアみたいなのが張られてる。そのバリアは通り抜けることも、壊すこともできない。プレイヤー間では『ボーダー』と呼ばれている。そんでそのボーダーはサービス開始時点であの村をすっぽり囲むぐらいのサイズしかなかった、それが徐々に広がっていった結果今のボーダーラインが出来上がったんだ。ここまでわかったか?」


「おう」


「そのボーダーを広げる方法は余燼の鏡に『神遺物』ってのを捧げること。神に関してはあとで説明するから一旦置いとくが、その神遺物は余燼の鏡で行けるエリアで見つかる。そしてその余燼の鏡で行けるエリアは現在30こぐらいあって一つ一つにこの現世と同じボーダーがある。一つの神遺物でボーダーが広がる距離は高々数メートルだが、それが全てのエリアに適用されて、時には新しいエリアが解放されることもある。そんなふうにして、少しずつ行ける場所を広げていくのが、このゲームの主な目的なんだ」


 俺たちはボーダーの内側にいて中から押し広げていくのか。


「なぁ、それって誰かが神遺物とやらを隠し続けたらその時点で攻略不可にならないか?」


「その心配はない、神遺物はインベントリに入れたりできないように所有権が存在しないし、紛失したとサーバーが判断したら元の位置に戻るようになっている。だから誰かが意図的に神遺物の発見を滞らせることはできないんだ」


「なるほど、じゃあその神遺物の神ってなんなんだ?」


「このゲームにおける神とは加護の大本みたいなものだ。例えば勇猛さを司るとされている勇猛の神の加護を受ければ【戦士】の称号が得られる。Lvがあがっていけばこの称号が【剣士】【槍士】【機甲戦士】とかに派生・進化していく。加護を得るにはそれぞれの神から下されている試練を達成したうえでその神の石像に触れればいい。別に生きた神がいるってわけじゃなくて、ただ概念として神ってのがいる。まぁ、多分ストーリーに大きくかかわる存在ではあるんだろうが、現時点じゃ結構ふわっとした存在だよ。それで神の石像は最初の村の神殿にあるだけじゃなく、各地で発見されている。ダンジョンの中とか海の底とかな、大抵は神遺物とセットで発見されてる。とまぁ、これがリタイトルズの世界観だな」


「リタイトルズ自体に関しては大体わかったよ。本題に移ろうぜ。メタの言う”逆張りのしがい”ってなにを指している?」


「まぁ簡単に言えば近々大きいPVP大会が開催されるからそれに出場しないかってことだ」


「そのPVPのルールは?」


「団体戦とソロの二種類。エントリーの締め切りまではあと2週間ある」


「いや、無理だろ…二週間って。どうせ相手はレベルも装備もカンストしてるやつばっかなんだろ?」


「確かにエントリーするほとんどのプレイヤーは現時点での最高戦力を揃えているだろう。だが、既にロラフは身をもって知っているだろう?このゲームはただ数値の強い方が勝つ単純な戦闘システムではないと」


「それでも不利なことには変わらないだろ、というかそもそも同じ土俵に立てないのは逆張り以前の問題だろ」


「それでも挑戦する価値はあると思うぞ、この大会は実質このゲームのトップを決めるもんだからな」


 メタの声が、ふだんの軽口とは違って、わずかに熱を帯びていた。


「トップをPVPで決めるって…このゲームのメインコンテンツってPVEだよな?ここの運営ってそんなにPVP推奨してるのか?」


「いや、この大会に運営はかかわっていない。全部プレイヤ―契機だよ。一応大会が開催される経緯も説明しておくか。この大会が開催されるのは新たなギルド設立の権限が誰の手に渡るか決めるためなんだ」


「ギルドっていうと所謂集団コミュニティのことか?そんなの好きに設立すればいいだろ」


「リタイトルズにおけるそこら辺の仕組みはちょっと特殊でな、まずそういったコミュニティは『クラン』と『ギルド』に分けられる。クランってのは誰でも好きに作れるがただの仲良しの輪で別に何の恩恵もない。対してギルドは一つの組織としてNPCやプレイヤー間で公正に認められたコミュニティなんだ。自分たちのギルドハウスやレゼリアの中での優遇など利点は色々あるが、現時点であるギルドは2つしかない」


「ギルドってそんなに設立するのが難しいのか?」


「システム的な条件は大してないんだがシンプルに土地が足りないんだと。一つの街に巨大な組織、ましてやその根城が乱立すると一般プレイヤーには厳しいことになるし、ゲームの流れを作ってきたトッププレイヤーのほとんどがギルドを不用意に作ることに反対してる。街全体の風潮としてギルドはを余程のことがない限りは新設されることはないんだと」


「土地って別に森を切り開けば十分にあるだろう?レゼリアもそうやって作られたって聞いたぞ」


「あのな…森を切り開いた物資だけでこの街ができるわけないだろ。土地があっても、文化圏を形成するには莫大な物資が必要なんだ。その物資は長い年月をかけて余燼の鏡を介して現世に持ち込まれたんだ」


「じゃあなんで新しくギルドが設立されるなんてことになったんだよ?」


「もう最後にボーダーが広がってから新しい神遺物が見つからないまま3か月が過ぎた。つまりPVEに進展が生まれなくなったんだ。そうなったらプレイヤーの興味は自然とPVP、そして新たな街の開拓という方向に向くようになった。新しい街ができたら当然ギルド設立の話もついてくる。そこで新しい街を統治する新たなギルドの座を賭けて今回のPVP大会が開催されることになったんだ」


「なるほどだから実質トップを決める戦いなのか」


「そう。このゲームで、たった2人しかいないギルドマスター。その座に、新たに加わるのが…」


 俺とメタの口元がニヤリと持ち上がる。


「「オーロラフォージなら最高の逆張りだろ」な!」


「どうだ、やる気がでてきただろ?」


 俺はこれまでの懸念が一転して、これからの逆張りのしがいにワクワクが止まらない。


「あ、そうだあと一つエントリーの条件だけど神遺物を一度でも余燼の鏡に納品していることだから。ソロ部門に参加したいなら神遺物の捜索がんばれよ。無理だったら俺の団体戦枠に入れてやるから」


「は?」


 こいつ最後の最後で爆弾落としやがった。

主人公はこの時KENにLv1なことが伝わりやすいように指輪を外しています。

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