5.逆張りの宿命2
「嬢ちゃん、あんたゲーム始めて真っ先に訓練場に行った口だろ?」
リーズさんの工房を後にし、髪の毛の報酬として金を手に入れた俺は、レゼリアの武器屋で武器を物色していた。すると、店主の男からそんな一言が飛んできた。
「なんで分かったんですか?」
「そりゃな。やたらいろんな種類の武器に手を伸ばす奴なんて、大体初心者だ。しかも訓練所で全種類試して、全部使える気になってるタイプな。短剣の棚を重点的に見てるところや、装備がまるっと初期装備なあたり、後衛職だろ? いざって時の近接武器が欲しい、って顔してるぜ」
カウンター越しに肘をつきながら、店主はにやけ顔でそう言った。
「専用称号の適正がない武器は、ちょっと振っただけでもスタミナがアホみたいに減る。絶対に使えないってわけじゃないが、レベル低いうちは素直に自分のメイン武器に専念した方が身のためだな」
……スタミナをバカ食いする?俺の記憶じゃ、訓練場でいろんな武器を試したとき、スタミナはほとんど減らなかったはず。使って減った分も走ったり跳んだりしたせいで、武器を振ったこと自体ではなかった。それに俺はまだ「加護」すら持ってない。当然「専用称号」なんてあるわけがない。なのにどういうことだ?
「スタミナ効率が悪いって、どういう意味ですか?」
「ん? ああ、訓練場の中じゃ武器を振ってもスタミナは減らねぇようになってんだよ。勘違いして、できもしない魔法剣士とか目指すアホも多くてな」
と、店主は肩をすくめて続けた。
「さっきも言ったが、剣とか斧なら【戦士】、盾とか甲冑なら【騎士】、弓なら【狩人】って具合に、それぞれの称号がないとまともに扱えない。試しに、その短剣でも振ってみな?」
「じゃあ、お言葉に甘えて──」
俺は目の前の短剣を手に取る。訓練場で握ったそれよりも明らかに重い。質のいい武器ほど必要なステータスも上がるってやつだろうか。とりあえず一度空を斬ってみる。
──スタミナ、ゴリッと半分近く減った。
「な? とてもじゃねぇが、実戦じゃ使えたもんじゃないだろ?」
「……確かに、これはちょっと無理ですね。適正がなくても使える武器って、他にないんですか?」
「あるにはあるんだが……どこにやったっけな……」
店主はインベントリを操作し始めた。どうやら、俺でも扱える武器は一応あるようだ。これで素手生活とおさらばできるかも……!
「お、あったあった。ほれ、こういうのなら適正がなくてもスタミナをバカ食いしないで使える」
店主の手に握られていたのは──
「……ハリセン?」
「そう、ハリセン。殺傷能力はないが、叩けば一応ヒットストップが発生する。素手よりマシってだけだがな。まぁ、ぶっちゃけ携帯するだけ邪魔くさい」
「他には……?」
「他にもあるにはあるが、こういうネタ武器は総じて殺傷能力ゼロだからな。嬢ちゃんの望むもんじゃねぇだろ」
……マジかよ。どうやら、俺はまだしばらく素手で戦うことになりそうだ。
「えっと、加護ってどうやったら手に入るんですか?」
「なんだ、もう今の加護に飽きたのか? ……まぁいい、説明してやる。加護は初期リス村の神殿で扱ってる。神殿に入るのは誰でもOKだが、加護を授ける神の“承認”が必要なんだよ」
「承認……?」
「神によって条件は違うが、どれもゲーム開始直後で手に入るような簡単なもんじゃない。すぐ別の加護が欲しいなら、キャラクリやり直すしかないな」
「なるほど……ありがとうございます」
やっぱり、今から新しい加護を手に入れるのは現実的じゃなさそうだ。けど、加護がなきゃ武器すらまともに使えない……これ、詰んでない?
「まぁまぁ焦るな。今の加護と適正武器でも、レベルが上がれば少しずつシステム側の補正で手になじむようになる。新しい加護を求めるのはそれからで遅くないさ。気楽にやれよ」
店主は俺が後衛系の加護を持ってると思ってるようだが、実は「加護がないんです」は言えなかった。加護のことを話せば、種族のこととか突っ込まれそうだし、今の姿だとそれはちょっとマズい。
「でも、ここまでしてもらって何も買わないのは……」
「しょうがねぇさ。使えない武器買っても金の無駄だ。……そうだな。うちの武器が扱えるようになったら、その時はぜひうちで買ってくれ」
「はい、そうします。ありがとうございました」
……ま、詳しい話は明日KENに聞こう。
「おう、達者でな──ヒューマンの嬢ちゃん」
武器屋を後にし、俺は再び訓練場へと向かった。今度は武器ではなく、ステータスの検証のために、だ。
「てか……あの店主が言った通り、今の俺ってヒューマンに見えてるんだな」
一応、自分でも鏡で確認してみたが、やっぱりリーズさんの作った塗料はすごい。今の俺は、髪も瞳も光を失い、ただの黒髪黒目のヒューマンにしか見えない。ロングヘアーのままだから、この体と声もあいまって外見は少年というよりは少女に見えるようだけど……
そもそも、なぜこんな変装をしているのかというと、リーズさん曰く「長い髪を持つオーロラフォージは一目でオーロラフォージだとバレる」とのこと。そのせいで、色々と面倒ごとに巻き込まれやすいらしい。
髪の毛を素材として狙ってくるやつ。
不遇ジョブだからと心置きなく悪口を言ってくるやつ。
野良パーティでは地雷認定されて煙たがられる。
挙げ句の果てにはオーロラフォージに関して出回っている情報が少ないため考察ガチ勢に目をつけられて質問攻めに遭い、監視&追跡までされる可能性まであるという。ホラーか。
そんなわけで今はリーズさん印の変装アイテムでオーロラフォージバレを回避している。ちなみに、髪の報酬でもらったのは金と変装だけではない。もう一つ、今俺の左手の小指には、指輪がはめられている。この指輪、ちょっとしたスグレモノだ。
部位によって効果が変わり、左手の小指につけるとHP+10、左の中指ならATK+10、といった具合。
左小指から右薬指まで合計9部位にそれぞれステータスが割り振られていて、右小指につけると全ステータス+1。
ぶっちゃけステータスの上昇値は微々たるもの。だから相場的には大した価値はないらしく、「おまけ」としてもらえた……が、今の俺にとっては超便利な検証アイテムだ。
ステータスの影響をピンポイントで確かめるには、これ以上ない代物。レベル上げて訓練場戻って検証、を何度も繰り返すよりはるかに効率がいい。それに、いまだにレベル1のままだしな……
レゼリアを出て、初期リス村へ戻る。村の中心やレゼリアへの道には人が多いが、村全体で見るとNPCの数はやけに少ない。こんなにプレイヤー密度が高くてNPCが少ないゲームって、珍しいよな。何か意味があるのか?
などと考えているうちに、訓練場に到着した。
中は相変わらずがらんどう。受付のNPCが一人いるだけ。一応、全武器種が試せるというだけでかなり有用だとはおもう。それでも備品は物足りなく感じる。ATKなら藁人形相手に検証できるが、VITみたいな耐久系のステータスの検証はここでは無理そうだ。
「すみません。ここの設備とか貸し出してる武器ってあれで全部ですか?」
ネタ武器、たとえばさっきのハリセンみたいなものが裏にあるんじゃないかと思って受付に聞いてみた。
「有料になりますが個室をご利用いただけます。個室にしかない設備もございます」
なるほど、まだ見ぬ設備があるのか。わざわざ金を取るくらいだから、それなりに有用な設備が揃ってるってことだよな?
「じゃあ、お金払うので個室を使わせてください。いくらですか?」
「1000ミルです」
「高ッ!!」
聞き間違いかと思った。だが、100じゃなくて1000。参考までに言っておくと、100ミルあれば最低グレードのポーションが買える。1000ミルあれば、今の俺ならそこそこの防具が何点か買えるし、この指輪ですら1500ミルくらいだ。あっミルっていうのはこのゲームの通貨のことね。
それで一部屋借りるだけで1000?
「……高い。でも、攻略サイトに頼るのはできるだけ避けたい……限定設備って、具体的にどういうものがあるんですか?」
「それは実際にご利用になって、お客様ご自身でご確認ください」
このNPC、足元見てきやがる……!
相手は人間じゃなく、決まったパターンでしか応答しないNPC。ここで値切っても無意味だし、最悪もう利用できなくなる可能性すらある。……まぁ、リーズさんからもらった5000ミルがあるし、多少大胆に使ってもいいだろう。
「……わかりました。払います。でもその前に確認させてください。この1000ミルで、どれくらいの期間使えるんですか?」
「ご利用期間は無期限です。お客様に割り当てられた個室であれば、何度でもご利用いただけます。ただし、その個室を他のお客様が、あなたの支払額以上で買い取った場合、所有権は移行します。再利用には、その額以上での買い戻しが必要になります」
なるほど。実質、購入型のレンタルスペース。しかもオークション形式か。
「専用部屋……ってわけか。……よし、じゃあ1100ミルで契約します」
少し上乗せしておけば、他のプレイヤーが上書きするのも面倒になるだろう。……誰もこんな設備に目をつけてない可能性もあるけど。
「お買い上げありがとうございます。こちらにご同意を」
NPCと俺の前に、ウィンドウが出現する。《1100ミル ⇆ 訓練場個室Aの所有権》と表示され、俺は同意ボタンをタップした。
所持金から1100ミルが消え、取引成立。
「契約が完了しました。個室は、こちらからどうぞ」
NPCがスッと横にずれると、その背後に隠し扉が現れる。今までまったく気づかなかった……!俺が借りたのは「個室A」だ。もしかして、誰もここに気づいてないんじゃ……?
案内された先にあるのは、まさしく「個室」だった。
天井から吊るされた藁束。壁には穴があり、当て棒の先端が顔を出している。下にはレバーがあり、それを操作すると棒が動いて敵の攻撃を再現できるようだ。広場にあった藁人形も、防具を着せた状態で設置されている。
これは、確かに有料の価値あるな。ていうか、よく考えたら、外の武器も設備も無料で使えるって方が異常だよな……
「さて……やるか」
まずは、今のニュートラル状態を確認しよう。それから、指輪でステータスを1項目ずつ上げ下げして、効果を検証していく。
指輪による対照実験、開始だ。




