3.満点は取れないのが逆張りというもの
俺は何とか壁を登って追手を撒いた後、時間こそ経っていたがそれでも遠距離攻撃や追手が壁を登ってくる可能性を考えてあの場から移動し、今は別の建物の上にいる。
さて、無我夢中で逃げてきたため現在地がわからない。KENに聞いていた訓練所の行き方は初期リスからの行き方だったため、ここからでは向うべき方角さえわからない。こういう時こそゲームのテンプレ、マップに頼るべきである。
「えっと、メニュー画面を開いて。これはステータスだから…お、2ページ目にあった」
マップは初期リスから現在地点までの一本道に色がついており、それ以外の場所は黒く塗りつぶされている。いわゆるオートマッピングだった。
「確か初期リスから南にまっすぐ行けば敷地内に大量の人形が備え付けられている建物があるんだよな」
しかし、いま初期リスに戻るとあのPK(仮)が待ち伏せしている可能性がある。ここは迂回していこう。マップを見るに俺は西へと逃げてきているので、一度南に下って東に行き、そこから初期リスを目指す形でこの村を散策していこう。
一応慎重を期して建物の屋根の上をつたって移動する。そうしてしばらくすると訓練場と思われる建物に着いた。中に入ると等身大の藁人形が等間隔に敷き詰められたスペースや段階的に遠くなるように設置された射撃用の的などがあり、訓練場という名の通りの施設だった。受付と思われるNPCに話しかけてみる。
「あの、ここって全部自由に使っていいんですか?」
「はい、ご自由にご利用ください。武器は種類ごとにあちらの方に置かれているので御自由にお使いください。ですが外に持ち出すことのないようにお願いします。気に入った武器があれば販売することも可能ですよ」
「なるほど、ありがとうございます。色々と試してみます」
俺がまず手に取ったのはシンプルな両刃の片手剣。まず片手で柄を握って振り下ろしてみる。次に横振り、振り上げ、予備動作の大きい薙ぎ払い、思いつく限りの動作を試してみる。次は別の手で、さらにその次は両手で同じ動作を繰り返す。
うーん、結構重いな。振り上げ、振り下ろし、袈裟斬りに逆袈裟斬り。最低限の形にはなっているが、それ以外の動きでは剣先が不安定で、むしろ俺の方が振り回されている。ステータスが足りないのだろうか。そんな調子で訓練場にある武器を一通り試していく。
総評としては俺が扱える武器の重量は片手剣が限界だった。両手剣以上の重量の武器は持ち上げるのが精一杯でとてもじゃないが扱えるものではなかった。かといって片手剣も満足に扱えるというほどではなくショートソードとかレイピアぐらいの軽さならまだ実戦でも使えそうなレベルだった。
弓も試してみたが命中精度がすこぶる悪い、動かない的相手にあの結果だと実戦では使い物にはならないだろう。杖などの魔法職が使うようなものもあったので、試してみたが何も魔法的なものは出なかったし、ただ振り回すことしかできなかった。ちなみに鏡も探してみたがなかった。
ここで一つの仮説が浮かぶ。武器の扱いやすさには、加護によって得られる専用称号の補正がかかっているんじゃないか?この予想が正しければ俺にとって特別扱いやすいものが一つもなく、どれもしっくりこなかったことにも説明がつく。
でもKENからはどうすれば加護を得られるか教わってないんだよな。俺の仮説が正しいならこのゲームは加護がないとまともに戦闘ができないということになる。本来ならチュートリアルで加護を得られるところを俺はスキップしてしまったのか?
「うーん…わからん。しかし考えても仕方ないか、なんせ今の俺は素手なわけだし」
藁人形相手にも色々と試してみたのだが、どの武器でも十分な傷をつけることができなかった。斬る、貫くことはできず精々短剣で削るのが関の山だった。それでも今の俺が一番攻撃力を発揮できるだろうとふんで短剣を購入しようとしたのだが、まさかの俺は一文無しだったのだ。
ニュービーが皆一文無しの素手スタートとはさすがに考えにくいので多分前回のログインで初期の所持金を使い切ってしまったのだろう。
でもそのくせしてインベントリは空っぽで何かを購入した形跡がないんだよな。このアバターのことといい、金銭事情といい前回の俺はなにしでかしたんだ?もしくはバグが発生したアカウントを放置していたのか?
まぁでも、一応素手の攻撃にダメージがあることは確認できたし、このゲームでの身体の動かし方にも慣れてきた。そろそろモンスター狩りをしよう。ということで野外フィールドまでやってきた。あの村は木造の壁で囲われておりそれより外にはモンスターが生息しているようだ。
森に踏み込んですぐに最初のモンスターが現れる。ラットという名前で見た目はいわゆるドブネズミ。成人の腰まである大きさの躰と大抵の得物は咬み切れるほどに発達した巨大な前歯。攻撃パターンは嚙みつきに体当たりってとこか。横や後ろからなら素手の短いリーチでも攻撃が通りそうだ。
ラットが俺の首筋目掛けて跳びかかってくる。左足を半歩下げ、腰を捻りながら上体を右後方へ反らすことでラットを躱す。そしてすれ違いざまに右の拳をラットの側頭部に叩き込む。
思ったよりもノックバックが弱い。大してダメージは入っていないようでラットはすぐさま立ち上がり今度は地を這い突撃してくる。
半身をずらして突進を躱しながら脚を上げ、右の拳を左手で握りこみ、膝と肘でラットの頭部を勢いのままに挟み込む。
「ピギッ」と鳴き声をあげてラットが倒れこみ、動かなくなる。ラットの死体は霧散していき巨大な齧歯一つを残して消滅した。
素手でも結構戦えるな、反動ダメが痛いけど。こんなのは序の口でどんどんと森の奥へと進んでいく。次に現れたのは雑魚敵の定番、ゴブリン。ラットよりは小さな体躯だが、その右手には粗雑な作りの石斧が握られている。今度は武器持ちか。
まずは様子見。両手を頭の前で構え、防御姿勢をとる。向こうの初撃は俺の体長を優に超える跳躍から繰り出される頭部への斧の一撃。その姿勢は着地のことなど頭にない野蛮なもので、斧の握りこみも片手で不十分だった。
往なせると判断し、前へと踏み込む。裏拳で斧頭の腹を弾き、もう一方の拳をゴブリンの鳩尾へ振り抜く。さらにもう一歩足を進め、振り抜いた拳に躰を追従させる。踏み出した足を軸にもう一方の脚を浮かせ、全身を捻りながら爪先で弧をなぞるように一回転。宙を舞うゴブリンの側部へ踵を叩き込む。
ひしゃげたゴブリンの体が地面に叩きつけられ、ドロップ品の耳を残して消えていく。
「耳か…あの斧ドロップしてくれないかな」
素手での攻撃はゴブリン相手には反動ダメージを喰らうことはなかったが、ラットのような巨体や硬いモンスター相手だと被弾しなくても攻撃の反動ダメージでそこそこHPが削れてしまう。
長く使えるものでなくてもいいので、さすがに武器が欲しい。LUCは極振りとまではいかなくとも高い方だから。何体か倒したらドロップしないかな。LUCがドロップ率に影響するのか知らないけど。
期待外れでも、ドロップはドロップだ。インベントリに収納しようとゴブリンの耳を手に取ったその時、茂みが大きく揺れる音が聞こえた。
咄嗟にかがんでいた姿勢から前転し、その場から緊急回避する。振り返ると一体のゴブリンがさっきまで俺がいた場所に石斧を叩きつけていた。さらにはもう一体のゴブリンが向かいの茂みから現れる。
「あっぶね、こいつら奇襲してくんのかよ…!」
加えて1対2か。ここ初心者が来る場所だよな?ボスでもないのになんか難易度高くね?しかし、接敵してしまった以上、泣き言を言っている暇はない。さて、どう動いてくる?またとびかかってくるか?それとも数の利を活かした挟撃か?
まずは様子見と、再び防御の構えをとる。しかし俺の予想に反してゴブリンたちは奇襲が失敗することを想定していなかったのかこちらの動きを警戒するばかりで攻撃を仕掛けてこない。俺から動くべきか…。そんな膠着状態の中、目の前のゴブリンが笑みを浮かべる。
なんだか数時間前に経験したような既視感のする光景に嫌な予感がする。すぐさま頭の前に構えていた腕を後頭部を守るように構え直し、背後からの攻撃に備える。
直後、右腕に鈍い衝撃が走り、膝が崩れる。右膝が地面についてしまった。だが、逆にその姿勢を利用して脱出を試みる。
まず体を左へ傾ける。後頭部を守ったままの両腕も追従するように傾ける。右腕に押し付けられ、肉に食い込んでいる刃の角度を少しでも垂直からずらす。次に左腕を右腕に沿ってスライドさせるように刃の腹に拳をぶつける。
肉がえぐれる感覚と共に刃が右腕から離れていき、代わりにさらなるダメージを喰う。だが俺を縛るものから逃げ出すことはできた。
間髪入れることなく次の動作に移る。側転の要領で左へと逆立ちを挟みつつ腕の力で跳び上がる。一瞬前まで敗北への兆候であったはずの右膝がバネの役割を果たし、右腕が解放されたことによってこの姿勢からでも受け身をとることができる。足先がこの回避軌道上、半円の頂点に達したタイミングでカウンターに背後の敵の顎を蹴り上げる。
残りHPは4、三割を切っている。それでもあの窮地からは脱することができた。ここからは俺のターンと行きたいところだが…敵は三体。
二回目の奇襲の実行犯もコブリンだった。最初の奇襲攻撃、それが外れても二体目がカバーに入り膠着状態を作り出す。そして俺の注意を惹きつけた上で背後から三体目が攻撃する。そんな二段構えの奇襲攻撃。
この三体は偶然この場で俺と同時にエンカウントしたわけではなく、最初から三体での連携攻撃を仕掛けてきていたのだ。こいつら序盤に出てきていい敵じゃないだろ…
さて、どうしたものか。前後を挟まれている状況から何とか散開こそしているが前方に三体をとらえる状況までは持ってきたが。それでも三体を同時に相手取るのは難しい。
HPはもちろん、スタミナの残りも心許ない。ゴブリンの敏捷性がどんなものかはわからない。一般的なイメージのゴブリンに素早いイメージはあまりないが目の前の三体は雑魚敵としてはあり得ない連携を披露しているのだ、俺より全然足が速い可能性は十分にある。逃げるのは得策じゃない。
幸いなことにゴブリン達は、俺があの奇襲攻撃を凌いだのを見て警戒してくれているのか、すぐさま襲い掛かってくることはなかった。それでも状況としては俺の方が明らかに不利だ。そもそも俺はまだレベル1だぞ、おまけに武器もなければ、この状況をどうにかできるようなスキルもない。自分で言っていて悲しくなってくる。だが
「俺は逆張りストだぞ…!不利な状況?理不尽な対面?必然的な逆境?そういうのが大好物でゲームやってんだよ!いいかゴブリンども!逆張りの価値は与えられるものじゃない!自ら勝ち取るものだ!」
まずは既に一撃を入れている、かつ孤立している三番目のゴブリンから潰す!
俺はそれまでの受けの姿勢を捨てて、攻勢に出る。スタミナの温存なんてしていられない、今の俺が出せる最高速度で標的に近づいてく。当然向こうも石斧を手に応戦の構えをとる。他二体の向かってくる姿が視界の端に映る。
「お前らの攻撃は決まってジャンプから繰り出されるものだったな!頭を狙っててのもあったんだろうが、それって純粋な膂力じゃ大した攻撃は出せないってことだよな!」
接近の末、お互いの射程範囲が重なる。奴が振り下ろす石斧をダメージ覚悟で蹴り上げる。まだ歩みは止めない、今度は振り上げた脚を奴の顔面に振り下ろす。そして踏み台にして上へと跳ぶことで後続の攻撃を避ける。
「確かに武器はない、なら現地調達するしかないよな?」
宙に放たれた石斧へ手を伸ばす。ここにきて念願の武器を手に入れた。だが、落下地点で残りの二体が待ち構えている。ならばと、片方にはとれたて新鮮石斧を、片方にはインベントリから取り出したラットの齧歯をそれぞれ空中からプレゼントしてやる。
「ライダーキック兼パイルバンカーー!」
石斧をくれてやった方には、サービスとして全身でプレゼントの重みを感じさせてやることにした。
着地の衝撃をゴブリンで和らげる。俺の足下のゴブリンが消滅していく。残念ながら石斧も俺のパイルバンカーに耐えられず、共に消えてしまった。
齧歯をくれてやったゴブリンが怒りのままに顔を歪めて跳びかかってくる。いい加減見飽きる攻撃に石斧を裏拳で往なし、拳と蹴りのコンボを決めて二体目を撃破。
しかしそこで、視界が歪みはじめ立つことがままならなくなる。後一体それも瀕死の最後の敵、そこまで来て俺のターンは終わりだとパラメーターが告げてくる。それでも、スタミナ切れの感覚の中で最後の力を振り絞り、言葉を紡ぐ。
「【限界突破】!!」
崩れ落ちる体に再度力が駆け巡り、倒れこむ寸前で踏みとどまる。まだ俺のターン継続だ…!今まさに態勢を立て直さんとする最後のゴブリンに疾走からのパンチでとどめを刺す。
「ハァ…ハァ…勝ってやったぞ…」
戦闘が終わり、確認する余裕のなかったステータスを見る。依然としてスタミナは0の黒塗り。HPは1のドット。本当にギリギリの戦いだった。やっぱりこの戦闘スタイルは限界がある。早急に加護か武器を手に入れないと。
しかし、おかしい。スタミナ切れの感覚が一向にやってこない。【限界突破】で先延ばしはできてもスタミナ切れそのものは回避できないはず。
「まさか…!?」
不運なことにおれの推測は当たっていた。HPが0になり、同時に視界が暗転する。次に目に光が飛び込んできたとき、俺は初期リスに立っていた。
「まさか最初の死因が自滅とは。【限界突破】って死ぬとしても自動でストップがかからないのか…文字通り限界突破が過ぎるだろ」
まぁ、過ぎたことをことを悔やんでも仕方ない。今回の戦績を確認しよう。齧歯と石斧は消費してしまったし、最後の戦闘ではドロップ品があったとしても回収できなかったので持ち帰れたのはゴブリンの耳一つのみ。
「これ、金になるのか?しかし換金できたとして一つじゃあってないようなものだな…気にするだけ無駄か。ドロップに関しては仕方ない、そもそも戦闘回数自体は少なかったしな。それよりもレベルよレベル。かなりハードな戦闘だったからな、一気に10レべル位上がってたりしてもおかしくないぞ。なんなら新しい称号を獲得してるかも」
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名前 : オーロラフォージ
種族 : オーロラフォージ
加護 :
称号 :【限界突破】1/10
LV : 1
HP : 12 (4×3)
MP : 9 (3×3)
ATK: 4 (4×1)
INT: 4 (4×1)
VIT: 4 (4×1)
MIN: 4 (4×1)
AGL: 4 (4×1)
DEX: 9 (9×1)
LUC: 9 (9×1)
胴:無垢の胴衣
脚:無垢の脚衣
足:無垢のブーツ
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「え、一レべルも上がってない……何故?まさか本当にこのキャラバグっているのか!?」
そんな驚きも束の間、何かに腕を引っ張られ俺は自分の世界から引きずり出される。その正体は誰かの手だった。
「やっと、捕まえたわ。もう逃がさないからね」
そういえば…俺、今PK(仮)に追われている身だったわ…
今回の戦闘描写は、ゲーム的な補正やスキルに頼らない“素の戦い”を表現したかったため、少し細かくなってしまいました。そのぶん理解に時間がかかる部分もあったかと思いますが、今後はここまで一つ一つ丁寧に描くことはあまりありませんので、気楽に読んでいただけると嬉しいです。




