2.間違えだらけのスタート
「まさかリタイトルズが既プレイだったとは…」
俺は大会を終えてすぐにKENの誘いに乗っかってリタイトルズを自分のVR端末にダウンロードしようとした。そしたら既に俺のVRの中にリタイトルズのデータが入っていたことが発覚した。プレイ履歴を確認してみたところ約三か月前に一度だけログインしていたようだ。
三か月前だったら丁度リセットの直前のはずだから記憶にないのも無理はない。
KEN曰くリタイトルズではユーザーが同時に持てるアカウントは一つだけらしい。三か月前の俺がNOT逆張りのナンセンスなキャラクリをしていて、一度キャラデータを消す必要があることを危惧していたが、杞憂で済んだようだ。俺はリタイトルズにログインするなり真っ先に自分のステータスを確認したところ種族欄には『オーロラフォージ』との表記があった。
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名前 : オーロラフォージ
種族 : オーロラフォージ
加護 :
称号 : 0/10
LV : 1
HP : 12 (4×3)
MP : 9 (3×3)
ATK: 4 (4×1)
INT: 4 (4×1)
VIT: 4 (4×1)
MIN: 4 (4×1)
AGL: 4 (4×1)
DEX: 9 (9×1)
LUC: 9 (9×1)
胴:無垢の胴衣
脚:無垢の脚衣
足:無垢のブーツ
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名前も逆張りで選んだオーロラフォージと一致している。俺が色々なゲームで逆張りを敢行していく中でトッププレイヤーを倒したり、大会やランキングの上位に食い込んだり、と何度か注目されるようなことがあった。その際に俺自身ではなく、周囲が目もくれなかった不遇だとか最弱とされてきたものを見てほしい、というのが俺の信条の一つである。だからいつも名前は逆張りで選んだものと同じにしているのだ。
俺はリタイトルズをするにあたってKENから最低限の情報を聞いている。攻略サイトを見るのは好きじゃないので逆張りするのに必要最低限の情報だけを教えてもらった。
まず種族、これはキャラクリの際に決めたものから変えられないらしい。少なくとも現状は種族を変える方法は見つかっていないそうだ。選べる種族の数はかなり多く「ヒューマン」「ドワーフ」「エルフ」等の定番のもの。「ドラゴニア」「ハーフリング」「ホムンクルス」等の変わり種。「エーテルヒューマン」「オーロラフォージ」「レジスター」等のこのゲームでしか見ないようなものまである。
種族ごとに色々な特徴があり、ステータスの成長率も違う。ヒューマンの成長率が全て5であり、それが標準値とされているらしい。俺が選んだオーロラフォージはDEXとLUCだけが高く、それ以外は僅かに標準を下回っている。しかし、特化数値といえるのは10を超えてかららしく、DEXとLUCも特化しているとまではは言えない。かといって万能やハイブリッドという言葉がふさわしい種族は他にたくさんいる。
成長値の合計はどの種族も等しいらしいがその中で最も微妙な配分だといわれるのがオーロラフォージという種族だ。加えて強力な特性や仕様もないので劣化ヒューマンとも呼ばれているらしい。
加護というのは他のゲームでいう職業であり、各加護ごとに成長率に補正が入るのと専用の称号がもらえるらしい。
そして称号というのは他のゲームでいうスキルのことだ。何故スキルをわざわざ称号という言い回しをするのかというとプレイヤーがスキルを習得する条件がレベルアップや加護によるものだけではないからだ。特定のシナリオのクリアや特別な条件下でのモンスターの討伐などいろいろなものがありその全貌は未だ明らかにはなっていない。中には100回戦闘から逃げだす、レイド戦で味方を裏切る、死因のほとんどが毒、落下の場合に得られる称号などがあるらしく、ゲーム内のあらゆる行動が称号の獲得につながるのだ。
称号ごとの異なるスキルやバフ効果を装備してこの世界を探検するのが、このリタイトルズというゲームの大まかな流れらしい。
加護に関しては後からでも変えられるそうだ。また種族との組み合わせによってできることが大きく変わるため、これが最強の組み合わせ、逆にこれは最弱と断定できるほど開拓は進んでいないらしい。
「てか、髪長!?」
視界の端でちらつく黒い束……どうやら腰まであるロングヘアのようだ。
一人称視点のVRでは今の俺のアバターがどんな姿かは鏡越しでもないかぎり自分で見ることはできない。本来ならキャラクリの段階で細部に至るまで確認できるが俺にはその時の記憶はない。しかしいくら記憶がないとはいえ、俺が望んでロングヘアーのアバターを作るとは思えない。となるとオーロラフォージは強制的に髪の毛が長かったりするのか、何故?
こうなってくるとキャラクリが思うようにできなかった可能性が浮上してくる。髪型だけが俺の思い通りにいかなかったとは限らない。現状確認できない顔にもその可能性がある。つまり顔面が崩壊しているかもしれない。大して見た目にこだわりはないが、逆張りのプレイスタイルが霞むほどのインパクトを持つ見た目の場合はさすがによろしくない。これは顔を隠すものを用意すべきかもな…
周囲を見渡すとたくさんの人型の種族たちがプレイヤー、NPCを問わず行きかっている。その人口密度は多くけれど皆が一目で見て区別がつくような個性、あるものは竜の鱗と尻尾を、あるものは小さく、けれども筋肉の詰まった強固な躰を、あるものは岩石に土や草で構成された巨体を持っている。まさにファンタジーな光景だった。しかし気になる点が一つ。
「なんか、文明レベルが低い?」
こういったファンタジーものは総じて中世ヨーロッパのような場所が舞台だが、このゲームのおそらく初期リスと思われる現在地は町というより村という表現の方が合う場所だった。床は一部こそ石畳が引かれているが、そのほとんどが整備はされているものの土床だった。建物の密度も低くそのほとんどが木造で二階建て以上の大きな建物もほとんど見つからない。その割にめちゃくちゃ人でごった返している。すごいアンマッチな光景だった。
「現状確認はこれぐらいにしてさっそく訓練場とやらに行ってみるか。訓練場には鏡あるかな」
まぁ、これ以上気にしても仕方ない。まずはこのゲームのことがわからないなり色々手探りで検証していこうとKENに教わった訓練場に向かおうと足を動かす。
……何か声が聞こえた。最初は周囲の雑音にまぎれてよく聞こえなかったが、
「黒髪オーロラフォージのプレイヤー!ちょっと切らして!」
その一言はかろうじて聞き取れた、そして今耳を疑っている。「斬らして」?黒髪のオーロラフォージというのは俺のことを指しているのか?再び周囲を見渡すも声の主が誰かはわからない。黒髪の人物も何人かいるがオーロラフォージかどうかは判断できない。
「斬らしてくれ」と言っていたのだ、声の主は俺が初心者だと見抜いてPKでもしようというのか?だが普通こんな大衆の目がある場所でPKするだろうか。そもそもわざわざ「斬らしてくれ」なんて言うだろうか。いや、どんな行動でも称号の獲得につながるんだ、突飛な行動をとるやつがいてもおかしくはない。オーロラフォージは不人気でその数は少ないはずだ。あの言葉が俺を指している可能性は高い…よし、逃げよう。
今の俺はレベル1で何の装備もない。このゲームの戦闘システムを知らないしPKの仕様もわからないのだ。戦うという選択肢はあり得ない。とにかく声の方向とは逆方向へと駆け出す。
「ちょ!ま、待って」
今の俺はAGLは4しかない。この数値が直接足の速さを表すのかはわからないがレベル1の俺のほうがPK(仮)より足は遅いはずだ。振り返っている余裕はない。
「ねぇ!待っててば!」
声との距離が離れない。このまま直進しているだけでは追いつかれてしまう。地の利はむこうにあるし、通行人を壁に視線を切ろうにもこの道はさっきの場所と違って人の密度が少ない。
「別に何か危害を加えようってわけじゃないから待ってよ!」
声が少しづつ近づいてくる。第一声が「斬らして」の奴の言葉が信じられるか!完全にPKジャンキーの発言じゃねえか!?このままじゃヤバイ、マジで斬られる。さらには視界の左上の黄色いゲージが徐々に減少していく。これスタミナか?マジかよこのゲームスタミナの概念あるのかよ!?こんなタイミングで知りたくなかった。さっさと撒かないとヤバイ。
とりあえず、少しでも距離を稼ごうと柵で囲われた牧場らしき場所へ柵を跳び越えて中に侵入する。賭けだったが今のステータスでも障害物を飛び越えるぐらいの身体能力はあるようだ。
「え、そんなマジ逃げしないでよ…」
どうにか声との距離も少し離せた。声の主は軽快な動きが得意ではないようだ、後衛職の人間だろうか。だが撒くまではいかない、牧場の中とはいえ家畜の数は少なく視線を切れる壁としての役割は期待できない。牧場横の迂回路も大した距離はなかった。
再び手を掛け、柵を跳び越えて向こう側へと脱出する。今のうちに視線を切ろうと建物の影と入り込む。しかしそこは建物に囲まれた、出入口が一つしかない行き止まりだった。ヤバイ引き返すか?いや、今引き返したら確実につかまる。戦うのも無理だ、何よりもうスタミナが尽きる…。絶望的だった。足音がどんどん近づいてくる。いや、出口ならもう一つある。上に!
「…ぜってぇ諦めねえ、成功してやるよ壁ジャンプ!」
このゲームを始めて、高々数分。レベル1のステータス、なんのスキルもない、このゲームのオブジェクトに触れた経験も柵を跳び越えたあの一瞬だけ。万全の準備をしたところでできるのかもわからない芸当だがやってやる。
壁に足を賭ける前に一度ジャンプして今の跳躍力を把握する。そして両脇の壁を見上げ、ルートを構築する。
「この高さなら7回か」
息を吸い込み、地面を蹴る。左の壁に足を乗せた瞬間、反動を生かして右の壁へ。一見壁は脆い木造に見えるが、体重を預けることに躊躇はいらない。さっき柵に手を掛けたとき、ほんの一瞬とはいえ俺はそこに全体重をかけた。だが柵は壊れなかったし、軋むような気配すらなかった。
……俺の今のステータスや力じゃ壊すのは無理というだけかもしれない。破壊不能オブジェクトなのかは はっきりとは分からないが、少なくとも“今の俺”が破壊する心配はない。この躰に受ける反作用を少しでも多く推進力へと変換し続けて上へ上へ進む。
───タンッ。一回
───タンッ。二回
───タンッ。三回
軽快に、交互に壁を蹴る。靴底が弾むように返ってくる。まだ呼吸は整っている。いける。そう思えた。
──タッ。四回
──タッ。五回!
跳躍のキレが鈍ってきているのが分かる。足が少し遅れる。視界がわずかに下を向き始める。スタミナの限界が、着実に追いついてきていた。
─トッ。六回…!
失敗した。踏み込みが甘すぎた。まるで壁をなでたような音、跳ねるというより滑った足を壁にぶつけているだけだった。このままでは落ちる、次の壁が遠い、それでも──
────ドオンッ!!
無我夢中だった、全力の蹴り上げ。破壊不能であるはずの壁が悲鳴のように軋み、空気が裂けた。下がってしまった高度を取り返すように、重力を振り切るように身体が跳び上がる。目指すはほんの指先分先にある屋根の縁。
───ゴン!!
勢いをそのままに体が壁に叩きつけられる。肩が激突し、躰の奥で鈍い音が鳴る。最後の跳躍はスタミナだけではなくHPまでもを大きく削るものだった。それでも、なんとか指がひっかかってくれた。痛みも、苦しさも、確かにあった。
「うおおお!!」
それでもアドレナリンの力か、限界を超えて上体を引き上げる。風が肌を撫で、空が目の前に開ける。
「そこは行き止まりよ!観念なさい、初心者なのでしょう?その髪をくれたら…ってええええ!?」
追手の声が反響する。けれどその場に倒れこんだ俺の視界は空に向けて固定され、追手の姿を拝むことはできなかった。
「これがスタミナ切れか…ハハ」
呼吸が上手くできない、足の感覚がない、腕が悲鳴をあげている、しばらくは指一つ動かせやしない。けれど心地よかった。スタミナゲージが三割ほど回復すると反応は鈍いが体が動かせるようになった。こりゃ戦闘中にスタミナが切れたら大変だなソロの場合は確実に嬲り殺される。
《称号【限界突破】を獲得しました》
まさか称号を獲得できるとは。なるほど確かにあれは”限界突破”だった。屋根に手を掛けていた時点でスタミナは0だった。なぜあそこからさらに動けたのか、本当にアドレナリンの力だったかはわからない。
《【限界突破】スタミナが0の時ヒットポイントを消費することで行動を続けることができるようになる》
「取得条件は書いていないか…ともあれ逃げ切った……」
ようやく動くようになった上体を起こして試しに手や足を動かしてみる。やはり微妙に違和感を感じる。だが別にスタミナを使い切ったことによる後遺症というわけではない。6回目の跳躍の時思わず足を踏み外してしまった。体が思うように動かなかったのではない、思ったよりも動きすぎたのだ。スタミナが切れかけたことによって最初は知覚すらしていなかったこの違和感が顕在化したのだろう。
そりゃあゲームごとによって生成されるアバターは異なり差異が生まれるのは当然で、プレイを始めたばかりではその差異が顕著に感じるのも無理はない。だが俺には現実との差異は無いし、逆張りのために数多のゲームをまたにかけてきた人間なのだ。初見でもその差異には対応できる自信がある。となると…
「このオーロラフォージって種族の身体構造に起因してるのかもな」
なんというか、リーチの長さとかそういうレベルじゃない。可動域そのものが普段と違うというか…関節の位置?筋肉の使い方?そのへんが決定的に違ってる感じがする。オーロラフォージは人型ではあるものの正確には人間ではないはずだ、それなら人間と違う身体構造に違和感を感じるということで納得がいく。
他にも普段と違う点がないか今のうちに調べておこうと色々な動作をしてみる。そのうちで視点の高さと発声に違いがあることに気づいた。
一人称視点なので具体的にどれだけ背丈に差があるのかはわからないが明らかに普段よりも視点が低い。
「あーあ、やっぱり声が高い気がする。声もアバターごとに異なるものだけど、それでも今までのアバターでの声に比べて結構高いな。一応少年ボイス…若々しい声ともいえるのか…?」
UI上には表示されていないがキャラクリの際に年齢の項目があり、何らかの理由でそれが俺の実年齢よりもかなり若い数値で設定されているのだろうか?もしくはこれもオーロラフォージの特性だったりするのか?
ただ声が高くなる、若くなる。背丈に、もしかしたら髪の毛が長いなんてのも種族特性だとして、逆張りに関係するようなこととは思えない。最低限の情報だけくれといった手前、KENが俺に事前に伝えていなくてもおかしくはないだろう。明日KENとリタイトルズの中で会う予定だからその際に答え合わせ、KENもわからないというなら最悪攻略サイトを少し覗くか。
てかそれよりも
「ここどこ?」
逃亡者の次は迷子かよ…
ステータス画面の装備欄は装備している部位だけ表示されます。




