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15.逆張りの核2

「爺さん…申し訳ないんだが、道具も貸してくれ」


「どうした?おぬしには既に自分のを渡したであろう?」


「その…眷属には異空間にアイテムをしまえる、インベントリって権能があるんだが、それが今は使えなくなっちまったんだ。爺さんにさっき貰った道具もそこにしまってたから取り出せなくなっちまった。というかインベントリは説明するまでもないか、爺さんだってウィンドウ越しに俺にキット渡してたもんな」


「なにを言っとる?儂は道具をしっかりおぬしに手渡ししたではないか?」


 は?一瞬、頭の中が真っ白になった。爺さんが突然、妄言じみたことを言い出す。


「爺さんこそ何言ってんだ?じゃあ、爺さんが道具を手渡ししたっていうなら、その道具は今どこにあるんだよ?」


「それは…おぬし、どこにやったんじゃ?」


「だからインベントリにしまったんだって」


「そうか…神の権能だったか…」


 なぜ、こんな認識の齟齬が生まれたんだ?ベネット爺さんはさっきまで普通に会話できてたのに、突然認知症みたいな反応を示していた。インベントリというプレイヤ―特有の仕組みを不思議に思わないようにNPCには何かロックがかけられているのか?だが、結局眷属特有の権能と認識しているようだし釈然としない。


「てか、爺さんこそ俺に渡した道具をどこにしまってたんだ?ここの門を叩く眷属達全員に渡してるんだろ?そんな数の道具の存在なんて感じられないぞ」


 このぼろ小屋はそもそも狭いし、その中にあるものも寝食と錬金術のための家具なり道具だ。どこかに保管スペースがあるようには見えないし、爺さん自身にインベントリ的な能力があるようでもない。


「儂はあの数数の道具をどこにしまっていたのじゃ…?」


「おいおい、まさかもうボケたのか?」


「違う…儂は保管などしてなかった。そもそも、あの道具は誰が作ったものだったんじゃ…?」


「は?自作か村の誰かに作ってもらったんじゃないのか?」


「違う、儂は作ってなどいないし、他の誰にも製作依頼なんてしておらん。眷属どもに渡すときにそれは、突如として現れていた…そして眷属どもはその道具を直接手にすることも無く、皆口をそろえて「受けっとた」と述べておった。儂はその異常な様を何故疑問に思わなんだ…?」


 アイテムがあるから渡すではなく、渡すからアイテムがあるか。ゲームにおいてNPCから渡されるアイテムの出自なんて一々気にするものではないし。プレイヤーが知りえないゲームの裏側で、システム的なアイテムの複製・生成が行われてたとしておかしいことではない。


 ただ、そのことにゲーム世界の住人(NPC)が自ら疑問を持つだと?最初はそれを疑問に思わないようになっていたみたいだが、俺の何気ない一言で、爺さんの中の“認識の枷”が外れてしまった。目の前のベネットというNPCは、まるで自己認識に目覚めたAIのように、言葉を失っていた。


 NPCにシンギュラリティまがいの思考が発現したことも変ではあるが、それよりも何故そうなりうる認識がNPCに植え付けられていたんだ?インベントリにアイテムが消えるのも、クエストの度にアイテムがどこともなく生み出されることも最初からただ”そういうもの”だと認識していればいい。どうしてわざわざNPCとプレイヤーで事実に対する認識が異なっていたのだろうか。


「もしや…儂は神の掌の上で踊っておったのか…?支配を打ち破ると豪語しておきながらこのざまだと…」


 爺さんが膝から崩れ落ちる。その姿は本人の自称する賢老というより、今にも砕けそうな一人の人間だった。


 しかし、これ以上考えたところで答えは出そうにないので、さっさとお題の緑ポーション錬成をしよう。幸い素材だけでなく道具も机の上に置かれたままであったので、爺さんにも既に一言かけているのだからそれを使ってしまおう。


 薬草をちぎって、潰して、水と混ぜて火にかける。三回目となれば火力の調整にも問題はない。ここまでの工程にはなんの問題もないはずだった、だというのにいくら火にかけても、完成を知らせる煙が発生しない。


 さすがに前回に比べて十分以上経過しているのに、失敗にしろ成功にしろ錬成作業がおわらないというのはおかしい。釜の中の緑の液体はどんどんと黒くなっていく。いくら煙が上がらなくとも、これ以上火にかけるのはまずい気がする。


「なぁ、爺さんこれって何が起きてるんだ?」


 一度加熱を辞め、視線を釜から外して爺さんへとむける。爺さんは床に手をつき、項垂れていた。俺が緑ポーション作っている間、ずっと落ち込んでたのかよ。


「なんじゃ、愚かな儂に何を問おうというのじゃ…」


「いい加減、機嫌直せよ爺さん」


 爺さんがそんな、不貞腐れてても誰にも需要ないから勘弁してくれ。


「それに、もし神の掌で踊ってとしてもよ、今そのことに気づいているのはその掌から脱したからなんだろ?後悔するだけじゃなくて、未来に向けて立ち上がるべきなんじゃないか?ほら手を貸してやるから」


「…言われんでも自分で立てるわ、手もいらん」


 杖も俺の補助もなくすぐに立ち上がって見せる爺さんは、どこか吹っ切れたかのような顔だった。


 男のツンデレとかキツイな…


「して、儂に何の用じゃ?」


「釜の中身を見てほしいんだ」


「こ、これは!?」


「言われ通り、緑ポーションを作ろうとしたんだ。だが、全く同じ手順で進めたというのに一向に完成しそうにないんだよ」


「儂が幼き日のものとそっくりじゃな…今のおぬしはまだ【錬金術】の称号を得ていなかった頃の儂と同じ状態のようじゃな」


「なんだ、称号が無い状態ってだけなのか?」


 既に【錬金術】の称号は獲得しているが、装備していないから反映されていないだけなのか、称号というシステムそのものが反映されなくなったのか。さすがにそんな、このゲームの醍醐味を全否定することにはなっていないと思いたい。


「それだけではないわい。眷属ならば称号の有無にかかわらず、錬金術の成果は神が失敗か成功の二つに分けてしまう。錬成完了の合図が必ず発生し、成功ならば新たな創造物が残り、失敗なら何も残らない。しかし眷属以外の者が称号無しで錬金術を真似ても神に判断されることは無いのじゃ。つまり今のおぬしは自分で錬成の完成を判断しなくてはならないのじゃよ、それだけではない。ポーションを作るのならその容器の用意も梱包も自分でしなければならないであろうな。儂も今、理を正しく捉えられるようになり、【錬金術】が虚構の術だとわかったわい」


 つまりだ、今俺の目の前にあるこの煎じ過ぎた緑茶みたいな液体は、既存の【錬金術】においては失敗にも成功にも当てはまらない。定義できない“第三の結果”ってわけか。


 しかし、未完成だからなのか、はたまた瓶詰めされていないからなのか、何の説明も表示されない。


「いや、これも脱眷属の影響か?爺さん完成品の緑ポーションを一つでいいから貸してくれ」


「その机の上に転がっとるから好きに使え」


 錬成作業をしたのとは別の机を爺さんが指さす。その机の上には色の異なる大量の薬瓶が置かれており、緑色物のだけでもいくつかある。しかしよく見ると、ガラス瓶の細部のデザインが異なっており、円柱型、丸底、球状などの形に限らず、蓋がコルク、袋をかぶせただけ、そもそもなくガラス状の先端を折るのであろう物など容器ににも様々な差異があった。その中で既に知っているデザインで緑の液体が入っているこれが緑ポーションだろう。


 しかし、手にとっても情報を表示するウィンドウは現れず、答え合わせはできなかった。一応他の薬瓶達も手に取ってみるが何の情報も表示されない。


「やはり、アイテム情報の表示もUI消失の範囲内だったか」


 今の俺はアイテムの情報が見れないときた、いやアイテムだけでない。あらゆるシステムな表記が見えないのだ。リアリティーが過ぎる…不便とかいう次元じゃない。どうにかこの魔改造緑茶がポーション判定のアイテム、というかそもそもアイテムなのか、どんな効果なのかを調べないとな。


 まずは瓶詰めしないとダメか?空の容器を作ろうと、緑ポーションの中身を飲み干す。すると中身が消えたのと同時にガラス瓶までもが消滅してしまった。


「まじか、容器も消えるのか。まぁ、本来ならおまけみたいなもんだから、消えてもおかしくはないけどさ…爺さん空のガラス瓶とかってあったりする?」


「なんじゃ、それが欲しくてそれの中身を飲み干したのか?しかし、悪いがそんなものはここにはないのう。なんせ【錬金術】で生み出す薬品は、神から消えてしまう容器に強制的入れられておるからのう」


 なるほど。この世界の【錬金術】では、“空の瓶”という概念すら存在しないのか。となるとこの場でこれを瓶詰めするのは無理か…どう処理しよう、情報がわからない上に、死んでも復活できない俺やNPCの爺さんが安易に飲むわけにはいかない。使ってる材料が回復薬を作るためのものだから飲んだら即死とはいかないと思うが、それでも飲む気にはなれない。


「安心せい、これには危険な効果はないわい、役に立つ効果もないがのう。ただの苦い汁じゃ」


 釜の中を凝視してあれこれと考えていたら、俺の考えが爺さんに透けていたみたいだ。儂の幼き日と同じとか言ってたし、爺さんもかつて俺みたくこの魔改造緑茶を作り出した経験があるのだろう。しかし容器を用意しないことには俺の錬金術はこれ以上前に進まなそうだな。


「じゃあ、これでお題はクリアということでいいか?」


「そうじゃな、いいであろう。そしてすまぬが今日はもう帰ってくれぬか?正直、今でも混乱しておってな。一人で頭の中を整理したいんじゃ」


「そういうことなら、今日はもうお暇するか。あ、そうだ最後に見た目を男らしくする呪いとやらをかけなおしてくれよ」


「それはできん」


「なんでだよ?一度既にかけたんだろ?」


「だからこそじゃ、この呪いは被術者の肉体を瞬時に変化させるが故に肉体への負担が大きい。そんな術を眷属としてのあらゆる権能を失った今のおぬしにかけたら、おぬしの肉体がもたぬ。一度ならまだしも二度目となれば命にもかかりうることじゃ」


 ネカマが発覚しただけに留まらず、継続ですか、そうですか……





やっと、この説明パートが終わる

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