12.俺も知らない偽装が発覚しました
「おぬしはあの時のオーロラフォージではないか!何故儂を騙すようなことした?」
杖の先が床をコツンと鳴らし、老人の声が部屋に響いた。
やばい…マジで状況が呑み込めない。えっと、まず目の前の老人に見た目を男らしくする魔法かなんかをかけてもらったんだよな?そしたら何故か俺に胸が生えた。そしてその原因である老人は俺が自分を騙していたと思い、俺のことを敵視とまで行かなくとも警戒している。
「あの、これ何で俺に胸生えてるんですか?…」
「先に儂の質問に答えんか!」
ご老人めっちゃ激怒しとる…。「あの時のオーロラフォージ」って件のオーロラフォージと俺を同一人物だと思っているのか?確かに共通点は多いが性別が違うだろう…って今の俺、外から見たら女性だわ。
「違うんです!」
「何が違うと?」
「俺も何故こんな姿になっているかはわからないですけど、その件のオーロラフォージさんとは別人です!」
「見え透いた嘘をほざきおって。あやつとおぬしが同じということはわかりきっている。しかし、儂が問うているのはそこではない。なぜ儂の前から音沙汰もなく姿を消しておいて、何食わぬ顔で戻ってきたのじゃ?」
どうやらこの老人の頭の中では俺=件のオーロラフォージが確定しているようだ。どう弁明したものか…
「わからないんです!自分には三か月よりも前の記憶がないもので、どうして消えて、再びここを訪れたかと言われてもわからないんです」
「…なんじゃ。そういうことなら、はよう言わんかい。無駄に警戒したではないか」
あれ、急にお怒りモードが解除された。正直そんな説得力のある弁明だとは自分でも思わなかったが、とにかく暴力沙汰は回避できたみたいだ。
「納得してくれるんですか?」
「一旦信じてやろう。でなければ話が進まん。それに記憶がないというのなら、おぬしのここまでの言動にも説明がつく」
「ありがとうございます」
突如発生した修羅場の一旦の沈静に胸をなでおろす。これ腕がつっかえるな…というか問題はまだ解決していない。
「それで、なんで俺に胸が生えてきたんですか?俺にかけたものって外見を男らしくするものですよね?」
間違って女らしくする的な魔法をかけてきたのかとも思ったが、それだと老人が女性版の俺にああも驚いたことに説明がつかない。まじで何だったんだ?
「呪いそのものに誤りはなかったわ。誤算であったのはおぬしに呪いが新たにかけられるのではなく。おぬしに元々かけられていた呪いがとかれたことじゃ」
呪いがかかるのではなく解かれた?スイッチをONにするつもりが逆にOFFにしてしまった的なことか?
「しかし、俺は誰かに呪いなんてかけられた覚えはないですよ?」
「いや、確かに既におぬしのその身を呪いが侵攻しておった。なんせその術者は儂じゃからな」
老人が既に俺に魔法をかけていただと?
「…この外見を変化させる魔法って、件のオーロラフォージにかけたとき、結局どう変化したんですか?」
「胸のふくらみが消えおった、現れた変化はそれだけじゃ。呪いを掛けた後の姿は、髪型以外先ほどまでのおぬしと同じ見た目であった」
そういうことか。つまり、件のオーロラフォージは俺だ。正確に言えばリセット前の俺。性別が唯一の相違点だと思っていたが、その一点すらも老人の魔法によって一時的に変わっていただけ。
ということは俺自分でネカマスタイルを選んだのか?そのくせして男らしい見た目を求めていたという。あまりにも行動に一貫性がない。
「最初はおぬしが再び訪れてきたのかと思ったが、蓋を開けてみれば初対面かのような反応ばかり。こうして呪いを解くまで騙されてしまったわい」
「教えてください!三か月前の俺がここで何をしたのかを」
「記憶がないとなれば、当然気になるものだわな。いいじゃろ教えてしんぜよ。三か月前、おぬしと儂の間に何があったかを」
不幸中の幸いである。実はネカマであったことが発覚したものの、リセット前の俺の足取りに関して情報が出てきた。もしかしたら加護が無い、Lvが上がらない原因がわかるかもしれない。
◇◇◇
「あんたがベネットか。なぁ、あんた真理の探究者なんだろ?」
儂の元を訪れた客人が開口一番に放った言葉は驚きのものじゃった。
かつて友に誓ったその言葉を何故知っているのか。あるいは偶然にも、儂にとってのその言葉の重みを知らぬまま口にしたのか。
いずれにせよ、胸の奥を鋭く抉られたようで、とてもじゃないが律儀に相手をしてやる気にはなれなかった。
「…そりゃ、錬金術師じゃからな」
「それは違うぜ爺さん。あんたは錬金術師としての研究の果てに、この世界の構造がハリボテだって見抜いたんだろ?」
「小娘、それをどこで知った?」
目の前の奇怪な見た目をしたやつは、残念なことにその言葉の真意を得ておった。ただの戯言で片付けられるものではない。儂の心臓が一瞬、嫌なほど強く脈打った。
「クリントっていう奴の手記を見つけたんだ」
「な、あやつがどこにそんなものを遺したというのだ!?」
かつての、唯一の友の名を前に儂は冷静ではいられなかった。声が震える。
「それを知りたいならまず俺の質問に答えてくれ」
「…聞くだけ聞いてやろう」
儂が言えたものではないが、隠すこともなく打算的な奴だ。だが、安易に口を割るような輩の手にクリントの遺物が渡るよりかは、まだましであろう。
「まず神っていうのはなんだ?」
「詳しいことは儂にもわからん。ただ言えるのは奴らは元々我々と同じ人類であった可能性が高いということだけだわな」
「クリントが書記に残していた文言、『神の支配』ってなんだ?」
「それは加護のことじゃよ、加護を授かることは。本来できないことをできるようにする恩寵だといわれとるがその実態は全くの逆。本来できることを神の望む形でしか実行できなくする。人類の創意工夫を奪う一種の麻薬だわな」
口にしながら、幾度も考えた理屈が脳裏を過ぎる。自分の言葉ながら、やはり忌々しい理だ。
「最後にひとつ。あんたとクリントはどうやってこのことを知ったんだ?」
「一度だけ壁の外の世界に出たんじゃよ」
「な!?あの壁って越えられるのか?」
「今は無理じゃよ。あれは何十年も昔のこと、余燼の鏡のエネルギー切れによって、壁が消失しかけていた時を狙い、村の総力をあげて壁を僅かに破ったんじゃ、そして壁の外を大々的に探索した。クリントとはその壁の外で出会ったんじゃよ」
今でもあの光景は脳裏に焼き付いている。裂けた壁の向こうの景色、そして彼との出会い。
「つまり、壁の外にもNPCがいるのか…」
「そら、答えてやったぞ。儂の問いにも答えんか」
「ああ、もちろん教えるさ。これは村のすぐ外の大木のそばに埋めてあったんだ」
その場所はクリントと儂の別れの地。彼と最後に時間を共にした場所であった。胸の奥に重いものが落ちる感覚が走る。
「そうか…クリントが何かを儂に手向けるならそこしかないわな…疑うまでもないわい。しかし何故そんな場所を掘り返しのじゃ?」
「ああ…ちょっとな、他の目的の最中で偶々そこを見つけたんだよ」
気まずそうな表情で、目の前のオーロラフォージがクリントの手記を差し出してくる。
何を隠しているのか。まぁ、こやつがどんな経緯でこれを見つけたのかは、儂にとってはどうでもいいことだ。
眷属伝いとはいえ、偶然にもクリントの意思が儂に届くのは至極嬉しいことであった。この巡り合わせには、憎き神といえど、感謝せねばならぬかもしれぬ。
「しかし、何故これを儂に届けに来たのかのう?」
「その手記の最後に『もし、これを見つけたのが君でないなのならどうかこの手記をベネットという人物に届けてほしい』って書いてあったんだ。ここまで大変だったんだぜ?プレイヤー達は皆ベネットなんて人物知らないって口をそろえて言うし、村の住人に聞いてもいい反応されないしでさ。あんた嫌われてんのか?」
「好きにぬかせ。奴らは儂の崇高な知恵を理解できないだけじゃよ、眷属どもにも名を明かすようなことはせん」
そうか…クリントはちゃんと儂にこれを手向けてくれたのだな。
どんな文言が連ねられているのか、手記を後ろから開く。
「もし、これを見つけたのが君でないなのならどうかこの手記をベネットという人物に届けてほしい。彼曰く彼は大層御高名な錬金術師殿らしいから容易にみつかることだとろう。しかし、考えたくはないがこれを第三者の誰かが読んでいる時には僕もベネットもこの世にはいないかもしれない。人探しを依頼しておいてなんだがもしかしたらそちらの方が君たちには幸運かもしれないね」
「クリントらしい文言じゃな…しかし、儂らが死んだ後からこの手記が発見されることの方が幸運というのは…?」
「爺さん懐古は済んだようだな、そしてその疑問の答えはしっかりこの手記に記されているぜ」
「そうか、これを届けてくれて感謝する眷属の者」
「ああ、爺さんも達者でな」
「まぁ、待ておぬし。話はまだ終わっておらん」
立ち去ろうとする背に呼びかける。胸の奥に、先ほどまでとは別種の熱が灯っていた。
「なんだよ爺さん?手記は無事届けたろ、報酬もないのにイチャモンはつけるなよ」
「手記のことではないわい。おぬし神の支配から抜け出したくないか?」
儂の声は、気づけば低く重い響きになっていた。
作中の「人類」という言葉の意味はプレイアブル種族の総称のこと。
ベネットが自分で魔法をかけておいて主人公の正体に気づかなかったのはそれだけリーズさん印の変装道具が高性能だからである。またベネットのいう呪いはただ単に魔法とかを古風に言いまわしているだけ。




