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11.【錬金術】を学ぼう2

「それに、必要なのはMPだけじゃないわ。生産業には総じてDEXが求められるし。素材の判定には【鑑定眼】なり【薬草学】とか【調剤学】とかの判定スキル持ちの称号がいる。他にも専用器具の扱いには【錬金術師】【鍛冶士】【木工士】とかの称号とレベルがいる。といっても簡単なものは称号が無くても攻略サイトの情報だけで作れるし、称号の取得もそこまで難しくはないから、今は気にすることないけどね」


 にっこり笑いながら軽く言うリーズさん。けれど俺からすれば、そのさらっと出てくる専門用語がすでに壁なんだが。


「それってLv1でもこなせるものなんですか?」


 聞き返さずにはいられなかった。完全に初心者質問で恥ずかしいが、後で詰まっても困るし。


「一応できるんじゃないかな?称号の熟練度とキャラ自体のレベルは別枠だし、MP問題以外は大した障壁じゃないと思うわ。あ、でも自力である程度の素材採取はできないと厳しいかな」


 つまり、低レベルでも生産は可能。でも結局、素材は自分で集めろと。


「ちなみに、初心者ってどこで生産業するんですか?訓練所みたいに設備が借りれる場所があったりするんですか?」


「そういうのはあるにはあるんだけど、おすすめはしないかな。「黎明工房(あけの園)」っていうギルドが無料で生産設備の貸し出ししてるけど、公共のスペースで仕切りとかないから情報は駄々洩れだし。なにか成果をあげて、名が知れ渡るようなことすると後々対価を要求してくるんだよ。どこかから借りたいなら有料で貸し出してるクランから借りるといいよ。無料でやってるクランもいるにはいるけど、その分勧誘がしつこかったり色々めんどくさいからね。ここを貸し出せたらそれが一番いいんだけど、ロラフ君だけに優遇ばっかしちゃうと他のプレイヤーから反感かうだろうし、ロラフ君も悪目立ちしちゃうだろうから。他をあたってほしいな、ごめんね」


 そういう事情があるならしかたない、というかまだ何も要望していないのに貸し出そうとしてくれているだけありがたい。それに確かに無料サービスっていうのは裏があるもんだからな。


 最悪、訓練場の個室があるし作業場には困らないと思うけど。問題は道具の方だよな。


「作業スペースに関してはあてがあるので大丈夫なんですが、道具はどこで用意すればいいですか?」


「最初のキットは【錬金術】の称号獲得クエストの報酬としてもらえるわね。追加で欲しいなら村の売店で買えるわよ」


 なるほど、まずは称号を取れってことか。


◇◇◇


 そんなこんなで錬金術についてレクチャーを受けた俺は初めてのクエスト【入門:錬金術】を受けるために村へとやってきた。


「リーズさんが言うにはここだよな」


 マップを確認しながら足を運んだ先は見事なまでのぼろ小屋だった。藁ぶき屋根は半分沈んでいるし、壁板も所々剥がれている。これ本当に人住んでるのか?


 リーズさんから聞いた話では、この中に錬金術の教鞭を執っている老人が住んでいるらしい。……どう見ても廃墟なんだが。リーズさんの工房と比べてその差は歴然。こんな場所でも錬金術って営めるものなのか?


「すみません。誰かいますか?」


 意を決して扉を叩き、返事を待つ。


「なんじゃ?新たな錬金術士志望か?」


 ギィィ、と不吉な音を立てて扉が開く。姿を現したのは、緑のローブに身を包んだ、いかにも偏屈そうな老人だった。背丈ば向こうの方が幾許か高く、俺が見上げ老人が見下ろす形で目が合う。目が合った瞬間、値踏みされるような視線に射抜かれて思わず背筋が伸びる。

 

「その顔どこかで見たような…」


 老人が俺の顔を覗き込み、眉をひそめる。


「あの、ここで錬金術の手ほどきを受けられると聞きまして」


「気のせいじゃったか?まぁ詳しいことは中に入ってから話してやるでな。入りなされ」


「では、お邪魔します」


 招かれて足を踏み入れると、そこは外観どおりのな雑然とした空間だった。走り書きの紙が床に散乱し、家具はすべて埃をかぶっている。ここで本当に研究とかできるのか。


「さて、そうしたら緑ポーションをの錬成を実演してやるでな、後で同じように作ってみい」


《【入門:錬金術】を受注しました》


 老人が手際よく緑ポーションを作り始める。見知った工程だった。こういうシーンをスキップできないのはVR、それも時間軸がプレイヤー間で統一されているMMOの弊害だな、なんて思いながら眺める。


 しかし、リーズさんの工程と違う点もあった。使う材料は薬草と水のみ、加熱に用いる釜も片手に乗るぐらいの小さなもので火元はアルコールランプのような携帯炉であった。


 錬金術の教鞭を執っているというだけあって、釜にはあっという間に煙が上がり、緑ポーションが出来上がる。


「ほれ今度はおぬしの番じゃ」


「はい、やってみます」


 二度目の作業となれば慣れたものだ。手早く作業を進めていく。しかし加熱の段階で問題が発生した。リーズさんの工房と違い火力が一定に保たれず、調整しようにも、つまみ一つで出来るものではないため手こずってしまう。しかし、火の噴射口と空気の流れこむ穴をレバーを動かして窄めていくことで火力を下げることに成功。そうして釜から煙が立ち上がる。


=======================

緑ポーション:HPを10回復する。

=======================


 処女作のものに比べて回復量が落ちてしまった。追加効果の有無は使っている材料が違うため仕方ないが基礎効果量が低下してしまったのは俺の腕の問題だ。


「ほう綺麗に完成させたのう。初めてでこれなら十分じゃ」


 初めてではないのだがNPCにわざわざ言うほどのことでもないか。


「ほれ、今回使った錬金入門キットをくれてやるから今後とも精進せい」


《【入門:錬金術】をクリアしました》《【錬金術】を獲得しました》《【初心者錬金術キット】を獲得しました》


 クエストをクリアしたなら、もうクエストクリアを優先して言動に気を使う必要はない。


「ご老人、お聞きしたいことがあります。錬金術とはなんですか?」


 ずっと気になっていたことを、思い切って口にする。


「なんじゃ急に。そりゃ素材を掛け合わせることで新たなものを生み出す術じゃよ」


 俺が聞きたいのはそういった表面上の意味ではない。


「そういうことではありません。なぜこんなことが可能なのか、何故錬金術と呼ばれているのか知りませんか?」


 老人は眉をひそめて、しばし考え込む。室内は静まり返り、やけに時計の音が響いているように感じる。俺も息を飲んでその答えを待った。


「…そういうことか。儂も長いこと錬金術に身を費やしてきたものだが大したことは知らんの。ただひとつ知っているのは錬金術は神代から伝わる神の御業であり、神代から錬金術と呼ばれておったということだけじゃな。なぜこんなことが可能かといわれても神の御業であってそれ以上でもそれ以下でもありはせん」


 ここでも神とやらが出てくるのか。それに「神の御業だから」それが理由か…まぁ、生まれてから液体を火にかけたら瓶詰めされる世界で生きてきたら、それを疑問には思わないだろう。現実を知らないNPCじゃ仕方がないか。


「その神の御業を俺たちが自由に行使しているということですか?」


「そうじゃよ、それが称号であろう?」


 つまり、このNPC曰く称号とは神の権能、神から分け与えられた力ということなのか?


「そりゃ、当然称号が無ければこんな芸当はできやせんよ」


 それはおかしい。俺は称号がない段階で錬金術を実行したし、リーズさんもそれを変だとは思っていなかった。


「実は私はあなたからご指導いただく前に錬金術を試してみたのですがその際、緑ポーションの錬成に成功しています。あなたの話と食い違うのですか…」


「それはおぬしたちが眷属だからじゃ。眷属は容易に称号を得るだけでなく、称号がなくとも神の御業を 再現することもあるからのう」


 眷属?初めて聞く言葉だ。プレイヤーのことを指しているのか?


「眷属というのは死んでも村の中心で蘇ったりする人たちのことですか?」


「そうじゃよ。なんだいお前さんら自分たちが神々の眷属だという自覚がなかったのか?」


 NPCからしたら俺らプレイヤーは完全に異質な存在ということか。


「いや、どうでしょうか。私が特別無知なだけかもしれません。しかしその反応ということは他の、その眷属から同じようなことを聞かれたことがないのですか?」


「何度か質問攻めしてくる輩はおったが、なんの対価もなしに儂の研究内容を教えるわけがなかろう」


「それにしては、入門とはいえ無償で錬金術の教鞭を執っているではないですか。それに俺には教えてくださったのは何故です?」


「質問が多いの。しかし、ここまで言ったからにはおしえてやろう。まず儂が無償とはいえ錬金術を教えているのは錬金術を途絶えさせたくないからじゃよ。そしておぬしの質問にこうも律儀に答えているのは気まぐれじゃな」


「…気まぐれですか?」


「今まで多くのおぬしら眷属が儂の元を訪ねてきた。どいつもこいつも敬意を大して感じない奴らばかりだったが、その中で一人だけ変わった奴がおった」


 変わった奴?ここでいきなり昔話が始まるのか、これはシナリオフラグか?


「そいつは錬金術を学ぶためでなく、儂の旧友の手紙を儂に届けに来た奴だった。これがかなり意地の悪いやつでな手紙を渡す代わりに儂の知っていることを話せとのたまいおったんじゃ。おぬしはそいつにそっくりなんじゃ、顔は生き別れの兄妹がごとく、背丈もそれぐらいであった。違うのは奴は女のくせして坊主であったのと瞳が輝くオーロラフォージであったこと。瓜二つであるがヒューマンであるおぬしとは別人ではあるがのう。しかもあやつその一回きりで忽然と姿を消しおったからな」


 坊主のオーロラフォージということは、その人物はゲームを始めてから数日でその旧友からの手紙とやらを見つけた上で、ここを訪れた可能性が高い。素材採取のために髪の毛を全剃りしていた可能性もあるが、女性ということを加味するとその可能性は低いはずだ。


 そしてその旧友の手紙を持ってきたのがその人物一人だけ。そのことに関与していない俺にもNPC自身からこの話が伝えられている。ということはその旧友からの手紙がフラグとなるシナリオがその人物しか進行できないうえで放置されてしまっているのだろう。


 もしかしたらずっと見つかっていない神遺物はこのシナリオの先にあるのではないだろうか。だが、神遺物の秘匿によって進行不能になることはないとメタはいっていた。その神遺物につながるシナリオに関しても進行不能にならないように運営が管理しているようにも思える。


 だが神遺物の発見にかかわらず未発見のシナリオとなれば攻略する価値は大いにある。その前任者がオーロラフォージ一人だけとなれば、シナリオ発現の条件の一つがオーロラフォージであることの可能性も高いだろう。このシナリオの攻略が現状の打破につながるかは定かではない。それでもPVP大会出場への光が僅かながら見えた気がした。


「その人物の名前を伺ってよろしいですか?その人物について興味が湧いたので調べてみたいのです」


「残念ながら奴は名を名乗らなかったんじゃ、何度名を聞いても「俺はオーロラフォージだ」というばかりじゃった」


 うん?名前がオーロラフォージということか?そうだとしたらまんま俺と一緒じゃないか。なんだか親近感がわく。しかし女性なのに一人称が俺なのか、もし今その人物がこのゲームにいるなら簡単に見つかりそうだ。まだオーロラフォージでのままでいればだが。


「ではその人物がここを訪れたのはいつですか?」


「確か…三か月ほど前じゃったかのう」


 三か月前といったら、()()()()前の俺がログインしたタイミングだ。ちょうどその人物も俺と同じタイミングでリタイトルズを始めたのだろうか。女性で坊主スタートのオーロラフォージを選ぶくらいなんだ、俺と同じ逆張りストかもしれない。もしそうだとしたらその人物とは仲良くできそうだ。


「その人物の装いはどんなものでしたか?」


「今のおぬしと同じ。眷属の衣であったわ」


 俺と同じ初期装備ということか。装備を整える前に、いきなり未発見のシナリオに首を突っ込むなんて余程の幸運に恵まれたのか、はたまた余程の実力者なのか。もはや、シナリオどうこう関係なくその人物に個人的な興味が湧いてきた。


「では最後に。髪型と瞳以外で外見上の特徴は何かありましたか?特定の武器を携帯していたとか」


「あやつはなにも持っておらんかったよ。武器も加護も失ったと言っておった」


 加護を失った…?俺の場合は最初から加護があって途中で失ったのかどうかはわからない。だがそれでも加護が無いというところまで俺と共通しているのか?ここまでくると少し不気味だな。もはやその人物と俺は同一人物で、()()()()前の俺なんじゃないかと思える。だが女性という一点でその説は否定される。


「もしかして、この姿とその人物の姿は全く一緒ですか?」


 俺は変装を解いて、真の姿を老人に見せる。


「な!?おぬしヒューマンではなかったのか?」


「ええ、本当はオーロラフォージなんです。訳あってヒューマンに変装していたのですが、そこまで俺とその人物がそっくりだというなら一度見てもらった方が早いかなと」


「まさにあの時のオーロラフォージじゃ、それこそ違うのは髪の長さと胸のふくらみぐらいじゃな。まさか瞳の色も同じとは…」


 となれば、俺の顔写真を掲示板にでも貼れば案外すぐにそのオーロラフォージさんは見つかりそうだな。


「もしかしておぬし、あやつの身内か?」


「違いますよ。俺に姉や妹はいないですし、母となると歳がだいぶ違うのでそのオーロラフォージさんが俺の身内ということはないかと」


「そうか…」


「そのオーロラフォージさんは何か家族に関することを言っていたんですか?」


「いや、あやつは自身の家族どころか出自に関しても何も口にはしなかった。そういえば一つ不思議なことを言っておったの」


「どんなことです?」


「「自分は本当は男だ」とか言っておったの。眷属は精神と肉体が乖離しているものなのかの?」


 件のオーロラフォージさんネカマだったんかい。


「ええ眷属(プレイヤー)の中には精神の性別と肉体の性別が異なる人物がそれなりにいますよ」


 しかし、わざわざNPC相手に自分からネカマだと吐露するものだろうか?もしかしたら今の俺みたく見た目が女性に見えるだけで肉体としてはちゃんと男だということか?しかしこの老人曰く胸が膨らんでいたらしい、やっぱりネカマなのか?わからん。


「それでな、儂が高名な錬金術師だと知ったあやつは「見た目だけでも男にできないか?」とうるさくてな。ちょっとばかし(まじな)いをかけてやったのよ」


「そんなものがあるんですか?」


「ああ、デメリットが大きいから、死んでも蘇る眷属にしか使えないものだがのう」


「それ、俺にもかけてくれませんか?背丈なり、顔なりがもう少女とは見えないようにしたいんです!」


 もし、もっと男らしいアバターになれたらこれ以上メタにからかわれずに済む!さすがにメタも髭面のおっさん相手にお姫様抱っことかしないだろう。


「効果の割に命に関わる呪いじゃぞ?本当にいいのかい?」


「お願いします!!」


「錬金術より食いつきがすごいのう…そこまで言うならかけてやろう」


 老人が杖を手に取り、聞き取れない言葉で詠唱を始める。やがて俺の足元に妖艶に光る魔法陣が現れて、魔法陣から放たれた閃光が視界を埋め尽くす。


「呪いは成功したようじゃな」


 視界が回復し眼前に老人の姿が見える。その顔の位置はまだ俺よりわずかに高い。身長は変化なしか…リーチももっと伸びるだろうし、身長が伸びてくれるのが一番良かったんだが、仕方がない。となると変わったのは顔か?


 そう思い、顔に手を這わせてその造形を今一度確認する。しかし髭も生えていないし、骨格も変わっていないように思える。鼻や目に関しても位置も形状すらも変わっていないように思える。髪の毛も長いままだ。鏡で確認しないとわからないほど微細な変化しか起きていないのか?


「これ、本当に成功したんですか?どこも変わっていないような…」


「おぬし!その胸……儂を騙しておったのか!?」


「胸?ていうか騙してたってどういう…」


 何のことだ?疑問と共に手の中にやわらかい感触が伝わる。あまりの衝撃に俺は硬直した。今まで喰らったどんなヒットストップよりも長い硬直時間の末、見下ろしてみればそこには胴衣を押し広げるように双丘が鎮座していた。


「なんだよこれーーーーー!?」


 一拍おいて、「もにゅん」と俺から出たと到底信じられない擬音が静寂の中で響いた。

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