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10.【錬金術】を学ぼう

「錬金術ですか?」


「そう、錬金術。基本的には使い切りのアイテムを作る生産業ね、ポーションとかバフ・デバフアイテムとか。あと、錬金術に限った話じゃないけど中間素材作を作ることも多いわ」


「もしかしてオーロラフォージって錬金術適性が高いんですか?」


「それはないわよ。錬金術に一番必要なのってMPなの、なんならオーロラフォージは錬金術とは相性最悪ね」


「なら、何で勧めたんですか?」


「錬金術は適正がない種族でもやる人多いからね。他の生産業、例えば鍛冶は「ドワーフ」、木工は「ニンフ」、裁縫は「ハーフリング」、回路系は「ノーム」以外がやるのは論外とか言われてるけど、錬金術に限っては代名詞である「エルフ」以外でも、MPのある種族だったら誰でもやる価値があるのよ。使い切りのアイテムを毎度毎度他人から買うと高くつくから、出来が悪くとも自前で用意することは多い。リアルの自炊とか内職みたいなノリで皆やってるわ。オーロラフォージはMPがかなり低いから相性がいいとは言えないけどMPが余っている時だけでもやってみたらいいんじゃないかな?それに基礎ステータスに依存しない強化方法ってアクセサリーか使い切りアイテムによる一時的な強化ぐらいしかないと思うな。今のロラフ君にできるのはそれこそ錬金術くらいじゃないかな」


「なるほど。現状MPの使い道無いですし、他の手立ても無いですからやってみたいです!ご指導いただけますか?」


「おーいいね!お姉さん思い切りのいい子は好きだよ。じゃ早速やってみようか」


 リーズさんはインベントリからいくつかの素材を取り出して机に並べる。次にこれから使うであろう各道具を用意する。 


「まずは私がお手本を見せるね。いまから作るのは緑ポーション。一番グレードが低くて、使う材料も現世で揃う錬金術の基礎中の基礎だよ」


 まずリーズさんが手に取ったのは何かの草と擂鉢。


「最初にするのはこの薬草を細かく摩り下ろすこと。あらかじめ薬草を乾燥させておくと効能が高くなるよ」


 リーズさんが手で薬草をちぎってから擂鉢に放り込む。そして擂粉木を手に取り力を込め始める。


「この工程はやりすぎもやらなすぎもダメ。どれぐらいでやめるかはほとんど感覚だけど、目安があるとしたら透明な汁が出始めたらそれはやりすぎだよ。薬草から水分が分離しすぎるとかなり品質が低くなっちゃうから気を付けてね」


 リーズさんが次に手に取ったのは何かの植物の根の部分。それを擂鉢に追加する。


「次にこのユメリ草の根っこを加えてさらに細かくしていきます。緑ポーション自体は薬草と水だけでできるけど、それだとすごく不味いし効能も低いからね。ここで相性のいい素材を追加していくよ。今回は売り物を作っているわけじゃないし、紹介目的だから加えるのはこれ一つに留めておくね。この追加材料を加える工程だけど最初の内は別々に手を加えることをお勧めするよ。慣れないうちはどっちかを十分に細かくしたときにはもう一方はやりすぎてることとか多いからね」


 そうして、擂鉢での作業を終えたリーズさんは次に擂鉢の中身を大釜へと移す。


「最後に水と混ぜて火にかけていくよ。材料を混ぜる、火にかける、ここら辺の順番と工程の有無は作るものによって変わるよ」


 リーズさんは大釜に火をかけながら中身の液体を棒でかき回しつつ、説明を続ける。


「火加減は調整が必要だけど火にかける時間は気にしなくていいよ」


「どうしてですか?」


「まぁ、見てて」


 リーズさんがそう口にしてから数分後、突如として大釜が煙に覆われて中身が見えなくなる。


「このエフェクトが錬成が終了した合図だよ。見ての通りアイテムの作成完了はシステムが判断するから火にかける時間は気にしなくていいの。でも、こうなったら火を止めてね。そうしないとせっかく作ったアイテムが破損しちゃうから」


 煙が晴れて大釜の中身が露わになる。そこにあったのは先ほどまでの緑の液体ではなく、釜の中にぽつんと一つ佇む、ガラス瓶だった。


「ほらこれが完成品だよ」


 リーズさんが釜の中からガラス瓶を手に取り、俺に手渡す。渡されたガラス瓶はコルクで蓋がされていて、そのなかで緑の液体がゆらゆらと動いている。その色は錬成での工程中のものよりも濃く完成品であることが見て分かった。


 そしてただ実物が手元にあり、外観からのみ情報が得られるわけではない。直接手に取ることで緑ポーションの情報がウィンドウ上で表示される。

=======================

緑ポーション:HPを15回復する。

 追加効果 :患部での直接摂取可能(回復量半減)

=======================


「あれあんま驚かない?いきなり瓶詰めされているの結構なとんでも描写だと思うけど…」


「…驚きましたよ。むしろ驚きすぎて声が出ませんでした」


「やっぱそうよね?いやー私も最初はおったまげたものだわ。VRの普及で良くも悪くもすべてのゲームのリアリティが底上げされたせいで、こういう自由な創造って材料集めるだけ、とかで省略されるか、そもそも無いのが普通だからね。こういう風にゲーム性とリアリティの天秤を上手く保っているのはユーザーとして嬉しいし誇らしくもあるのよ。とまぁこれが緑ポーションの作り方ね。」


「この追加効能ってデフォルトの効果ではないってことですよね?」


「そう、それはあのユメリ草の根を加えたことによる追加効果。錬金術で作るものは基礎レシピと付与レシピの組み合わせで出来るの。基礎レシピというのはそのアイテムを作るのに最低限必要な素材と道具と工程のこと。付与レシピはそこからさらに品質を高めるための素材、道具、工程のこと。付与レシピは色々な効果を付け足すだけじゃなくて元の効果を高めたり変質させることもできる分重視されがちだけど、基礎レシピも同じくらい大事よ。基礎レシピをおろそかにすると追加効果に対する許容量が低下して大本のアイテム錬成そのものが失敗してしまうから」


「錬金術では基礎レシピと付与レシピの塩梅が大切なんですね」


「そういうこと。さ、次はロラフ君の番よ」


 リーズさんが先ほどまでいた位置に今度は俺が移り。作業を開始する。先のリーズさんの作業工程を思いだしながら臨む。まずは薬草をちぎる。次にちぎったものを擂鉢ですり潰していく。


 リーズさんはこの工程での見極めを感覚だといっていた。だが正直なところ、擂鉢と擂粉木自体の重さ、それらがぶつかり合う震動しか感じられない。指先に伝わるもの、そこには薬草の存在なんかないように思える。いくらやれども変化も感じられずだんだんと不安になってくる。


「これぐらいでいいですかね」


「うーん、もう少しやった方がいいかな」


 この一工程での所要時間は俺の方がリーズさんより明らかに長かった。それなのにまだ足りないとは。ATKの差だとかもあるかもしれないがやはり初心者とプロではかなりの差があるものなんだな。


 ゆっくりと擂粉木を動かして時間をかけて作業を続行する。そして、ついに俺でもわかる変化が現れた。音が変わったのだ。擂鉢と擂粉木に挟まれた草がそれまでの掠れた音の中に、泡の弾けるような粘り気のある音が現れた。


「ここらへんですか?」


「お、すごい。ちょうどいいところで止めたね。本来DEXがもっと高くないとわからないものなんだけどな、ロラフ君勘が鋭いね~」


 あぁ、かなりすごい、このゲームのサウンドは。無意識に溶け込むような些細の音の変化がこうも自然にかつ意味を持ったものとしてあるなんて。行き過ぎたリアリティだ。俺がこの音に気づけたのも、人よりも()()()()()()()()()()()()からこそ、かえってこのリアリティに違和感を感じたからだ。それでも水分の分離という点に事前に意識を割いていなかったら気づけていなかったと思う。


 次の工程に移る。リーズさんは薬草とユメリ草の根を一つの擂鉢に入れていたが、俺は別々ですり潰していく。別の擂鉢にユメリ草の根を入れる。


「この根っこは細かくするにあたって何か目安はあるんですか?」


「うーん…強いて言うなら摺りすぎると若干色が薄くなるから、それがやりすぎのサインかな」


「なるほど。色ですね」


 色の変化となる音のように直観的にわかるものではない。しかもその手前で止めなければならないのだ、完璧にするためにはどうしたものか。いや、ここまでリアリティに優れている世界なんだ。現実に即して考えればわかるかもしれない。


 何が契機で色が薄くなるんだ?摩擦による熱か?いやそれだと加熱の際に品質が落ちることになるから違う。擦れば色が薄くなり品質が低下するという設定だとして何故そんな素材を擂鉢で細かくする?


「一応確認なんですけどこの根って、切ったりちぎったりじゃなくてなんで擂鉢で細かくするんですか?」


「それが一番効果量が大きいからかしら。もちろんちゃんと実験して確かめたわよ」


 となると、すり潰すのに適した素材ではあるんだよな。


 何かないかと今一度この根っこを観察してみる。細長い根の集合体で土は付いていない。色の変化は他の素材との混ぜ合わせではなく、この根の部分だけで起きるはずだ。というか土のついてない根っこって初めて見る気がする。糸みたいだな…糸…繊維…


「そうか!繊維だ」


「え、繊維?どうしたの突然?」


「気づいたんですよ、色の変化の正体に」


「どういうこと?」


「見ててください」


 満を持してユメリ草の根を砕き始める。


「この根っこって洗って乾燥させてますよね?」


「ええ、一応口に入れるものだからね」


「だから色が変化するんです。この根はいってしまえば繊維の束のようなものです。厳密にいえば内と外側の区分があり、それが摺られていくことでほどけていき内側が露出していくんです。乾燥している外側に比べて内側は幾分か水分を持っているため、僅かな差ですがそれは色の違いとして現れる。だから繊維がほぐれてきたぐらい、ここで止めるのがベスト!」


 あとは難しいことはない。それぞれ細かくした素材を水と合わせて火にかける。火力はこの工房の施設が一定に保ってくれるから一定速度でかき混ぜることにだけ注意を払えばいい。そうして大釜に煙が立ち込め、初めての錬金は成功した。


 そうして出来上がった緑ポーションを手に取る。

=======================

緑ポーション:HPを15回復する。

 追加効果 :患部での直接摂取可能(回復量半減)

=======================


「嘘!?私が作ったのと同じ品質…!」


「そんな驚くことですか?同じ材料だしたかが緑ポーションですよ」


「ええ、嫉妬するぐらいにはあまりにも出来が良すぎるわ。そもそも私は錬金術関連の称号の補正があるうえでこの出来だったの。それなのに経験もスキルもない子と同じだなんて…もはや私のほうが負けてるわね。これでも錬金術職のトップとして名が通ってるんだけどな…っていけない。これは喜ばしいことよね、それだけロラフ君が才気あふれているってことだから」


 やっぱり、戦闘に限らず生産行為までもが数値の高さが全ての出来レースではない。緑ポーションしか実例はないが、初めての俺ですらも論理だてて行えば熟練者のリーズさんと同等の結果が出せた。


 まるで、従来の数値で支配されたゲーム像を否定するかのようだ。そのスタンスはリアリティの追求という形で表れているように思えるが。となるとおかしな点がある。ここまでリアリティのある作業工程の果てがいきなりの瓶詰という点だ。突如として理由もなくガラス瓶が無から生まれて、梱包されているなんていうのはリアリティさとは真反対の在り方だろう。


 ゲームなんだから多少は仕方ないと思うかもしれないが。それでもこれはあまりにも矛盾が過ぎる。リーズさんはこれをゲーム性とリアリティの調和と称していたが俺にはそう思えない。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()かのような不和を感じる。


「ちょっとオーロラフォージなのがもったいなく思えてくるわね。私と同じエルフなら錬金術部門のトップも夢じゃないだろうにな…あ、でもそれだと髪の毛手に入らないわ…」


 リーズさんが俺の両肩をに手をのせる。


「オーロラフォージは色々と大変だと思うけど、強く生きてね!」


「あ、はい。あれ、というか錬金術ってMPが必要なんですよね?MPってどこかで使いましたっけ?」


「ああ、今回はMPを使ってないけど。もう少し錬金術を進めていくと素材の加工や複製に使うようになのよ。MPなしでも錬成自体はできないことはないけどそれだといくら時間とお金があっても足りないし、十分な効能のアイテムは作れないわね」


 てっきり、俺でもそれなりに錬金術を極められるのかと思ったが、ここでもLv1の壁が立ちふさがるのかよ…

種族図鑑:エルフ:ヒューマンから変異することで誕生した種族。体格はヒューマンと変わらず、唯一の外見的特徴は尖耳であること。森林に適応した種族を期待されて誕生したため、最初期のエルフは完全な草食だった。しかし、ヒューマンと生態が大きく異なりすぎるようになり。森林伐採問題でヒューマンと対立を起こし、小規模ながら戦争が勃発した。そのため元々数の少なかった第一世代のエルフは絶滅してしまう。いま生きているエルフは正確には第二世代であって、草食から雑食へと食性が変化している。ちなみに尖耳に特別な機能はなく、エルフ誕生の際にヒューマンのステレオタイプなエルフ像によって生まれたものである。老化が緩やかではあるものの寿命もヒューマンと大して変わらない。

エルフのステータス成長値

HP :3   

MP :8  

ATK:2  

INT:8 

VIT:3   

MIN:6  

AGL:5 

DEX:7  

LUC:3 



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