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第8章 邂逅

 ”エリア1~5へ向かう巨大な人型兵器を見た”

そんな藪から棒なリークを元手に私たちは空を駆けていた。

当初この話が出た時流石のスミスであれど、

このような頓智気メッセージを信じるわけがない...と思い込んでいた。

しかし、スミスは上層部の意見をよく聴いてしまう。

スミスにはもう少しだけでいいから自身の判断を下して欲しいところだ。

イーグルからの命令で私たシャーク隊が派遣調査することとなった。


スミスや我々が野郎にへこへこしている事実が許せない。

そう思い出しながら次の目的地エリア4へ向かう。

「ほんとぉに居るんですかぁ?これ」

ダカルが間抜けた声で誰かに呼びかける。

私とダカル含めて7機が編隊飛行しているが、誰も何の反応を示さない。

目標が近いからか。

ダカルの発言を隊員たちは蔑ろにしてしまう。

仕方ない。ダカル以外の隊員はこれで地上に出るのは数回だ。

皆緊張で口がこわばっているのだろう。

私も黙ってファントムIVのモニターを見つめた。

モニターに表示された位置情報によるとあと1分も掛からない様子だ。


モニターを見つめていると、自分自身が”本当”を見ているのか分からなくなる。

現在ほとんどの乗り物がガラスではなく窓のようなモニターで構成され、

現代兵器は特にその流行を汲んでいる。

液晶で区切られたコックピットからでは何もかも虚構に思える。

昔の経験(あやまち)がそう考えさせるんだ。

だから私は人型兵器なぞ最初は信じていなかった。

あの赤いやつと茶色い人形の戦闘を目の当たりにして

ようやくデジタルから目が覚めた気がする...


私はあの茶色い人形に乗っていた男のことをすんなり思い出した。

私の仕事は軍人。今回も人形を回収または破壊が今回の目的だ。

だが...私はあの人形を捕らえたあと、どうするべきなのだろうかと考える。

”あの茶色いドミナンスの人は私たちに力を貸してくれる筈”

ジーンはそう言ってはいたが...


ちょうど1分。

烈火の揺らめきが見えた。

その揺らぎに私はハッとし、地表を見下ろした。

ノアの箱特有のドーム状の外壁がわずかな跡を残し、押し潰れている。

発電機に外壁の断片が降り、箱内の発電機がさらに爆発炎上。

私たちが見た最後の崩壊で完全に瓦礫の丘となってしまった。


「まさかあの茶色い人形が...?」

「そんなはずはない!!」

編隊の一人ルッソの発言をつい、勢いで否定した。

その発言が波紋だったのか、テレビ通話ごしの全員が顔を見合わせていた。

「とにかく人形を探せ」

私はそう命令を下した。

箱が破壊されているなら手分けして探すのは危険だと思い、編隊はそのまま。

きめ細かい画素に頼りに探していく。


人形を見つけるのにそうそう時間は掛からなかった。

エリア4から数十メートル...いや数百メートル先に転がっていた。

容易に発見できたが、吹き荒れる砂が人形に乗っていき

10分もしないうちに大地に隠れてしまいそうだ。

人形はうつ伏せで5割ほどしか確認できないが、ぴくりとも動かない様子から

あの男も死に体なのだと受け取った。


埋もれた人形の回収を始めようとしたその時


上空から無数のレーザーが飛んでくる。

なんだ!?

何もないところから攻撃が来ただと?

回避の余裕もなく、脇のファントムIV3機がレーザーに貫かれた。

コックピット周辺に直撃。爆散。

私やベンジャミンが大切に育てた部下があっさり死ぬ。

ビデオ通話のせいで私たちはそのことを強く実感した。

死を体感したのは”あの時”以来だ。


「う、うわっ!」

「そんな...」

3人がこの一瞬で消えたことに心が揺さぶられた。

隊員も目に見えぬ脅威を前にただただ恐怖している...

ルッソ、マクリー、レテン...

レーザーの放射を直感で避け、機銃を乱射。

せめて私だけでも冷静さを保って敵を迎撃しなければ。

「全員退け!下がれ!...下がれ!!」

敵は目の前にはいないのか?

どこに下がらせればいいのか?

無駄弾の響きがスピーカーから聞こえるのみ。

僚機の動きが不安定だ。ともかく下がらせなければ。


カメラを切り替えて、熱源反応を探る。

周囲を見渡す意味もなく、はっきりとした熱を検知した。

数十メートルの範囲に強い熱のオーラ。

まるで靄だ...。

その箇所だけが霧状に赤い塗料をぶちまけてるかのようで

輪郭をなぞることもできない。


熱の塊がごっそりと地上へ行く。

敵は熱のオーラを纏わせているのか?熱源中央にやつは居るのか?

「下かあぁぁ!!!!」

我々の腹を取るつもりだ。鮫の腹の臓物を美味しそうに睨む熱源へ

私は急降下し、戦闘機の切っ先を真下へ向ける。

空対地ミサイルを用意。左手側のスロットルに手を伸ばす。

首のエアロックも確認した。

いけ、わたし(アル・イネス)


真っすぐ落下していく様に生唾を飲むこともできない。

空気中の砂が少ないせいで正に地面に直通していることが嫌でも分かる。

レーザーの発射直前の閃光が見えた瞬間

また弧を描くレーザー線が撃ちあがってくる。

パターン化された軌道だ。

さっきの攻撃でレーザーの軌道は読んだぞ。化け物め。

しっかりと手をレバーへ結びつける。

速度は落とさない。このままいく。

一発、空対地ミサイルを放る。


標的...というより目標の熱源は目の先。

落下していったミサイルが熱気にぶつかる。

円筒状が高熱でひしゃげるのが見えた。

歪に曲がりくねったミサイルが爆発。

その衝撃で敵の皮が剥げ落ちる。

仕組みは知らんが、やはり光学迷彩のようだ。


ベールが落ち、角ありの深紅の頭部が見えた途端

一気にすべての迷彩が晴れ、全身が露わになった。

その赤い装甲群に強烈なデジャヴを感じる。

「赤いやつ!」

人形の眼光がこちらを見つめている。

その目は確かにジーンを襲った”RE(アイツ)”だ。

迷彩を剝がされた苛立ちか

それともこの突っ込む戦闘機に好奇心を向けるのか

どちらにせよ

その目にどんな感想を持とうが、私のやることは一つだ。


肩の突起物から何かが発射される。

放たれた弾頭が素早く破裂し、飛んでくる。

金属片がコックピット周辺と羽根に受けてしまった。

肩にショットガン?を仕込んでいるようだ。

キャノピーはひび割れたカメラ映像が右往左往している。

急降下しているこの状態で目線が散らかさる。

”やはりモニターは糞だな”

私は心中で吐いた。


迷わずキャノピーを取り払った。

遮られていた風と砂粒が私の足元へ入ってくる。

風でシートに後頭部が打ち付けるが、ともかくミサイルだ。

戦闘機の最大火力を野郎にぶつけてやる。

飛んでいきそうな手で無理くりミサイル発射スイッチを押す。

ミサイルの着弾と同時に機体を逸らし、間一髪で赤を避ける。


よし...これで

と思った瞬間。

どこからともなく飛んできた刃が私のファントムの主翼を斬り払った。

羽根が完全にばらけている様子を目視した。

人形は逆上がりし、上下を正しく整えた。


終わった...か。






すると不可解なことが起こった。

急に機体が持ち上げられる感覚に陥った。

機体を持ち直された衝撃でこのままゲロってしまう生気の衝動も感じた。

私の顔に影が被った。

その影の中から影の持ち主を確認した。

ファントムIVがタコ足を使って私のファントムを持ち上げている!

「ダカル!?」

そのままでは赤い人形にやられてしまうぞダカル!

火器管制が生きてはいるが、ダカルとうまくタイミングを合わせられるか?

いや、ダメだ機銃ぐらいしか武装がない。

どうすれば。

「隊長は今そのままで」

そんなことを言う。

無論ファントムIVは同機を持ち上げて飛ぶようには設計されていない。

さっきよりもふらついている...

やつに攻撃されたらひとたまりもないぞ!


そう考えているうちに赤いやつの損傷を確認するため首を後ろに捻った。

...赤いやつが居ない?

光学迷彩でくらましたか。

熱源を確認したいが、モニターは先ほど不法投棄してしまった。

「ダカル!熱源は!?」

「隊長そんなこと言ってる場合ですか!?

 捨て身の攻撃とかシャレにならないっすよ!」


ダカルの怒った口調が刺さる。

啜り泣きのような音声も聞こえる。

「戦線を離脱します!」

ダカルは念じるかのように”遠くへ”と呟き続けた。


私は...

私はさっき何をしたか、ようやく理解した。

ダカルに続く隊員たちも心配の眼。

「わかったダカル、みんな...私が悪かった」

私はやること、いやすべきことを脳内で纏め

深呼吸した。


「一つだけお願いするよ、あの茶色い人形を確認しよう」

彼方へ進むダカルの羽根の速度が緩んだ。

「隊長、自分からもお願いします」

「ご自身の命を大切にして下さい」

私は静かに”解った”と返事をした。

解ったとは言ったが、その言葉の中身がハリボテなことに気が付く。

私、嘘つきなのか...?

私たちは茶色い人形を回収するため進路を再びエリア4へ向けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺は寒々とした空気を肌に感じ、目が覚めた。

ここは一体どこなのだろう。室内ではある。

裸のコンクリート壁、小さな窓、同室の便器...そして目の前の格子。

牢屋というものはこうどうして分かりやすい構成をしているのだろうか。

想像していた牢獄よりは遥かに綺麗だったが、

そのことで周囲の人の気配がないことに気が付いた。

隣人はいないようで呼吸音すら聞こえない。

無音と暗闇。窓から差す光のみ。その細長い光が床の奥へ伸びていくだけ。

少しばかりここは死後かと思った。


が、

俺の目の前で足音がカッと静止する音で、この考えを引っ込めた。

細長の光が分厚いブーツのつま先を照らしている。

顔を上げるとそこには一人の女性が立っていた。

金髪で前髪をすべて後ろへ持っていく髪型。オールバックだ。

そして赤い瞳。切れ長の目。

顔つきだけで職業が分かったが、

彼女の黄土色のジャケット姿が彼女が軍人であると決定づけた。


「ようこそ地下連邦の牢獄へ...あんたがチュイ・フンセンだな?」

きびきびした口調かと思いきや、意外と穏やかな口ぶり。

その手のファイルは尋問調書ではないのか?

「ああ...そういう貴方さんは?」

「私は地下連邦軍所属のアル・イネスだ」

地下連邦...

あれから連邦軍にアインと01が回収されたのか。

エリア4とドミナンス03、あの戦闘。

寝ぼけている暇などないな。

段々意識がはっきりしてきた。


「ドミナンス01はどうした?」

まず問うことはそれだ。

「安心しな、きっちり回収して仮初の格納庫で寝かしてある」

その一言にほっとし、胸をなでおろした。

これからどうなるか分からないが、少しは安堵できそうだ。

軍人の彼女がこちらを不思議そうに見つめる。


「あんた真っ先にあの人形の心配をするのか?

 あんたも結構重症だったと軍医から聞いてるけどね」

「俺のことは二の次だ」

「そんなことを言うんじゃあないよ、もっと”い...」

彼女は喉を急に詰まらせると、咳払い。

発言を取り消して何か思い出すような仕草だ。


「ともかく、あんたに聞きたいことがある」

「何だい?」

「プロジェクトDについて知ってることを喋って貰う」

”プロジェクトD”

穏やかな雰囲気が引き締まった。

その単語に俺は身構えた。彼女も俺と似た顔つきでその場を凌いでいる。

今一度彼女の制服を確認し直す。

高官には見えない。高官のように派手なバッチを何個も身に着けていないし、

思ったよりも着崩しているラフさがある。

位は少佐から准尉ぐらいだろうと思い込んでみる。

その位の人物が計画を知っているのだろうか?

「どこでその名前を?」

手探りで話題を出してみよう。


「名前だけはある少女から...

 そしてあんたのドミナンス01のデータ解析でファイルを見つけた」

「ドミナンス01のAIに手は加えてないよな?」

俺は念を押した。

彼女は俺に落ち着くよう促す手つきをした。


「俺も01を拾って、乗り始めてそれから最近になって知ったさ」

彼女を膝を抱えるようにしゃがむと、長話を聞く覚悟を決め込んだ顔をする。

...そんなに知っていることはないのだが

そんな真剣な目で訴えかけられると俺も誠実に答えるしかないんだろう。

かなり端折った形だが俺は素直に話した。



ドミナンスは対人用兵器として開発されていたこと。

ドミナンスは操作補助のAIが搭載されており、確かな人格があること。

ドミナンス2機は何者かが地下都市から地上へ持ち出し、放棄。

放棄されていた01を俺が拾ったこと。



...ざっくりとこんな風な内容を話した。

「分かった...とりあえずあんたは待機だ

 私はREの目的を掴んでやつを止める」

ペンを止めると彼女はすくっと立ち上がり、去っていこうとする。

彼女が聞きたかったことを出したからか。

俺はもう不要なのだろう。俺は今彼女に自身の知りうることを話すしか

牢屋の中では何もできない。

だが決めた筈だ。

俺はエリア4の惨劇を繰り返さないと決めた。


「待ってくれ!」


彼女を呼び止めた。

彼女は驚くどころか、待っていたかのように慎重に振り返った。

品定めの目をこちらに向ける。

格子を両手で掴み、質問を投げつけた。

「貴女はエリア4を見たか?」

「...確かにこの目で見た

 あんたとドミナンス01を回収したのも私と私の部隊だ」

人の死を幾つも見てきたのだろうか、一瞬虚ろな光ない目に変わった。

何も描かれていない壁へ目線を逃がしている。


俺は今ここであの苦い思いを彼女にぶつけるんだ。

「俺はあの悲劇を止められなかった」

彼女は腕を組み、俺に体の正面を向ける。

「だからこそ自分の手で悲劇を止めたいと思っている」

...俺にできることはドミナンスを動かすことだけだ

たったそれだけ。

それ以外はただの凡人だ。しかしその一手でREを止められるなら...


「俺はREに”君がしたことは間違っている”と伝えなきゃいけない」


「俺も君に協力したい」

単純過ぎて空っぽに思われるかもしれない。

彼女の刹那に見せた瞳がそう俺に思わせてくる。

俺はREとほんの少ししか関わってない。

それどころかREからすれば俺は蚊帳の外の存在だ。

REの目的はいまだ不明だが、あの無邪気な殺戮は必ず止める。


「一つ答えて貰うか」

「地下都市で赤いやつが現れた時、私たちを助けた?」

...私たちを助けた?

確かに03がまだ人の形を保っていた時、刑務所前で戦った。

あの時も被害が出てしまった...

その時の生存者の一人が彼女なのか。

「あの時、君がどこにいたかは知らないが、俺はどんな人でも助ける

 ...君やほかの人が無事で良かった」

足を立て、立ち上がる。目線の高さを彼女に合わせる。


「俺は8戦争の前は人を助けることなど興味はなかった」

すべて失った跡に気が付いた。

「でも気が付いた...目に見えるすべての人が大事だったんだと」

「限られた今を守るために俺は立ち上がる」


彼女はそこに立ったまま、微動だにしない。

「大層な意思だな...こだわり強いんだね」

窓の光へ吸われるかのように小さく呟く。

彼女の後ろポケットから引っ張り出された古臭い鍵を格子の間へ入れる。

中に鍵が置かれる。

「もし何かあればこの鍵で出て、人形のもとへ行ってくれ」

囚人に鍵を渡すなんて聞いたことがない。

明らかに正規の軍隊のやり方ではないと気が付いた。


「君は一人でREに挑むつもりだったのか!?」

「まぁ...これから仲間を集めるさ」

ええっ...

そんな行き当たりばったりな雰囲気を出されると困るのだが!?


「人形は修理は済んである...私が上層部と話している間

 REの手下とかが来たら頼むぞチュイ・フンセン」


彼女は足早に行く。

REの行動は彼の意志なのか、それともプロジェクトDの一環なのか。

REが3号機の強化パーツを作るためにはそれなりの施設が必要な筈。

まずは上層部に問い詰める線しかないということだろう。

...彼女に会って20分も経過していない気がする。

しかし彼女を信じることにした...


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