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8話 危うげじゃね?

「落ち着きましたか?」

「はい……もうしわけないっす」


 卵スタンドと同レベルでどうでもいい存在な俺の涙に、終始寄り添ってくれた救井君。

 ひとしきり泣くと、ペットボトルのお茶を渡してくれた。


「うぅ……ありがとっす。救井君」

「あれ? 僕の名前、ご存じなんですか?」


 あ。

 あまりの親身っぷりについ口から零れてしまった。

 避難の道中、多分俺は意識が無かったか朦朧としていた、という設定になっているはずだ。

 彼の名は知らないはずなんだ。


「あー……その彼女……い、癒仕さんが君を呼びに行ってる間に周りの人にちょっと、ね」

「ふぅん……周りの人、ね」


 そう言って周囲に視線をやる癒仕さんに釣られ俺も同じようにする。

 一人。あるいは何人かのグループで、それぞれが自分のパーソナルスペースを守るようにしていた。

 やけに空気が重く、とても他者に干渉の余地なんてなさそうに見える。


「あ、あの人に、聞いてさー」

「妙ですね。私達がこの体育館に避難してきた時、素性を教えた人たちの中には居なかった方ですけど?」


 う。

 ヤブヘビを引いてしまったか。


「あ~、そう。そんなこと言ってたけど、あの人も誰かに聞いたんだってさ」

「あら? ごめんなさい。やっぱり私の記憶違いみたいでした。あの人、名乗った時にいましたね」

「「……」」

「?」


 嫌われてる。絶対この人に嫌われてる。

 救井君は今のやり取りにピンと来ていないみたいだけど。


「おかしいと思った。やっぱりずっと意識あったんじゃない」

「ところで―――」

「なんでしょう救井君」


 癒仕さんがボソッと呟いたのはスルーし、救井君の話に乗っからせてもらう。

 まじでもう、俺は救井君のファンだよ。


「先程のGとかHというのは?」

「そ、それはね……外にいた怪物たちのこと、だね」

「やっぱり、あなたは何かご存じなんですね!? あの怪物たちについて」


 ここで会話が途切れてしまえば、癒仕さんの追求がまた来そうだ。

 もう、どうにでもなれ。


「う、うん。大きさ? とは言ったけど具体的には怪物の『(くらい)』を表す隠語でね」

「位。ですか……A判定、C判定みたいな?」


 とにかく、純粋で実直な救井君がまぶしすぎて、浄化されないように目を逸らしつつ何度も頷く。

 申し訳ないのと、あまりに素直な救井君が刺さったのでもはや後には引き返せない。


「そ、外にいた様なゴブリンとかスライムとか。まぁ、Fってところだろうね。アルファベット順で、Aから遠くなればなるほど位は低い。み、みたいな?」

「それでも、あんなに容易く多くの人たちを殺めてしまうのか……」


 そういや、人死にが出てるんだったか。

 保身のウソにしては不謹慎が過ぎるぞ、俺。


「ふーん……ラノベか何かで仕入れたみたいな知識ですね」

「ごめんなさい。その通りです、流れで知ったかぶりしました。ぶっちゃけあんな化け物の事なんか知りません」


 もうダメ、この子怖い。

 綺麗な女の子の冷たい目ってマジ怖い。すぐ謝っちゃう。


「英雄。この人の言うこと、真に受けちゃだめだよ。ラノベの知識を現実に持ち込んでる非常識で軽薄な人だよ」


 うわっ。

 今の俺をそうやって言語化するとやばいな、アイタタだな。

 こんな生き恥を晒すくらいなら、あの時スライムかボブに……


 いや、別にそこまででもないか。

 あんな清涼感のあるゼリーで溺死するのに比べたらこんな恥じ、全然致死量じゃないや。


「そうですよ? ラノベで聞きかじったフィクションのバケモンが居たから言ってみただけですが? なにか?」

「いや、なんで急に強気」

「? なんだか分からないけど、恵。この非常時、常識的な観点だけで物事を判断するのは危険だよ。目安でも何でも、外の怪物たちの脅威度はある程度把握しておかないと」


 ……この救井君、なんかしっかりしてんなー。

 でも、なんかこう……なんか危うげじゃね?

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