6話 こんなユナイテッドステイツみのある語感だったっけ?
「ぅ、ぅぐう!?」
せり上る吐き気。
抗うことも無くぶちまける。
原因は当然、目の前で爆ぜ散らかしたメスゴブの頭部だったもの。
「おぇええ……ぅええ……」
そこまでの過程はよく覚えてなくて、その間ずっと自分の中で問答してたことだけは覚えてる。
(きもちわり……昼めし食ってないのに結構出てくんなぁ……)
昔から嘔吐感は大の苦手だから、この緊急時だってのにわけのわからん現実逃避。
《下句 四季 Lv.2からLV.3に上昇》
「あーもーっ……ぁあ゛ーーーーっもお゛っ!!」
またしても頭に響く声に現実に戻された。
「……なんだ? やけに、静かだな」
謎の声に悪態でもついてやろうという思いだけで、何とか立ち上がると。
不自然なまでの周囲の静けさに言葉が引っ込む。
「ゴブもスライムも居なくなったのか?」
ついでに普通の人間も。
ざわざわもがやがやも、これだけわけのわからん乱痴気騒ぎの大パニックだってのに。
お祭り騒ぎに対して斜に構えるっていうか、そういうところあるよね、日本人―――
「あーー……あれ、かぁ~」
静けさの原因っぽいのを見つけて思わず、呆れた様な間の抜けた声が出ちゃうよね。
そのくせ、お膝はガックガクだけど。
「でかい……よな」
そこら中に路駐された車たち。
その向こう側から覗く……多分、頭。
まぁデカいと言っても……
「に、2.5メートルくらい?」
いやデカいな。
こうして目の前に立ちふさがられると。
は?
逃げるなんて無理ですけど?
もう、怖すぎて足動きませんけど?
つか、こんな巨体に追われたらもう逃げきれないでしょ。
「いやーこれ……いやぁー」
思わず自覚ありの薄ら笑い浮かべちゃうよね。
こいつあれだ、ゴブリンの中ボス未満みたいなやつ。
「ボブ的な。ボブゴブリン」
あれ? 限りなく近いんだけど、こんなユナイテッドステイツみのある語感だったっけ?
化け物の名前を教えてくれる親切モブに微かな期待したけど、どうやら近くに人間はいないらしい。
「ボブ」
「グガァ……?」
でかい図体に見下ろされながら、ある方角へ指を差す。
その先にいるのは、動かなくなったさっきのモブゴブリンだ。
「っしゃらあああああ!」
ボブが指さす方へ釣られ注意を逸らした瞬間、血と脳漿にまみれた看板を振る。
さっきよりいくらか軽い。
(当たった! 横っ面! 絶対死ぬ!)
パイプの先についたコンクリートの塊がボブの頬付近を撃ち抜く。
こんなん俺だったら頭はじけ飛ぶか、意識飛ぶわ。
そんくらいのクリーンヒット。
「見たかこら! 絶っ対痛い!」
仲間のゴブリンの死体を見せてからの、不意打ち。
よく考えたらメチャクチャクズいけどそんなん言ってられませんて――――
「ちょ、ちょーちょちょちょちょ……無しじゃん、そんなん」
ボブがどれだけ痛がってるか見てみると、体は殆どグラつきもしないわ、殴った個所はかすり傷しかついていないわで……てか、こっちの手の方が裂けてるし。
「――無理無理無理!」
さっきまで膝がガクブルしてたのが嘘のように回れ右で逃亡開始。
やればできるじゃん、おれ。いやもう、最初っからこれしか選択肢ないよね。
だってもう、サンドバッグに濡れタオルで殴りつけた程度のダメージしか入って無いもん。
なんかよくわからんけど。
(見てる。まだ、メスゴブの死体見てる!)
さっきは完全に俺の事補足してたから逃げる気も起きなかったけど、注意逸れてるっぽい今ならワンチャン――
「――ゑ?」
なんか一瞬暗く……皆既日食?
あ、でもすぐ明るく――
「うわびっくりしたぁ!?」
ガチダッシュの進路に突然の障害物。
というか落下物。に、ドンガラガッシャンと道を塞がれた。
「く、車……あいつ、車投げてきよった……」
このシチュエーション的にそれしかありえない。
現に、後ろからズッシズッシ、聞きようによってはコミカルな足音聞こえてくるし。
「これ、流石に……無理ゲー――」
恐怖のキャパが決壊して腰が抜けたわ。
漏らさないだけ大したものだと思う。それだけが自慢。多分一生自慢する。
「ぐべ……!?」
足音が大分近づいてきたところで振り向いたら、ボブにおもっくそ首を掴まれて。
(息! 息できねーから! おい!)
ものっそい力で気道が塞がれた。
本日二度目の窒息死王手。
(あ。スライムで溺れる時よりも全然もたない――)
ガチンコで首絞められると、呼吸できないとかそんな感じじゃないんだなぁ。
なんか、命の猶予を絞り出されてるみたい、な。
(目、飛び出そ……)
眼圧が急速に高まって、これ、窒息と言うか首から上破裂するんじゃ――
「び、び、ぃぃぃいい゛」
いや、別に何か言いたかったわけじゃないんだけど、食いしばった口の端からなんか漏れ出るのよ。
(あっ。死――)
一気に遠のく意識。多分ここを超えたら死ぬんだろうなっていう、境界線みたいな感覚。
その一線を……越、え――