3話 これゾンビのやつじゃないの!?
「ぎゃあぁああぁあ!!」
「へぶ」
あれ?
おかしいぞ、おもっくそ前にジャンプしたの視界が横にブレ――
「いでぇ!」
ちょっとこれなんだよ、どういう状況だこれ。
喧しい悲鳴が聞こえたと思ったら、俺の体はアスファルトに転がされて。
「何なんだよクソが! 何かに吹っ飛ばされた誰かが、俺のジャンプ先に飛び込んできてぶつかってきたみたいなこの状況h―――」
「ブゴォォオオ!」
「ひ、ぃ。た、助け……」
何かと! 誰かと! 俺!
ハイ正解、QED。
「デカっ!? ってか、顔、ブタ!? テッカテカ!」
クソみたいな韻を踏んでちょっと気持ちよくなったけど、誰かの向こう側にいる人の形をした何かの衝撃が、ちゃっちい脳内麻薬を消し飛ばす。
「うわぁ! あれだ! ポークだぁ!」
「君ィ! 助けてくれぇ! あとそれただ見た目の特徴―――」
「ブガァアア!」
ポークが図太い両腕を上げて雄叫びを上げると、それが合図の弾丸ライナー。
「うわぁああ! 助けて! 見捨てないでぇ! オークがくるぅぁ―――!」
「ごめんなさいごめんなさい! 無理ですぅ!」
すまない、出会い頭にぶつかってきた人間弾丸の人。
もう根に持ってないから、どうか逃げる俺を許してください。
オークって名前も思い出させてくれてありがとうございます。
「あぁあぁ゛あぁああああ゛!!」
「やばいやばいやばいやばい」
遠ざかる背後から叫び声。きっとこれが断末魔ってやつなんだろう。
耳を塞ぎたくなる衝動も、足の震えも、全身に伝番する恐怖心も。
どれも逃走するのに邪魔な枷、そいつらを引きずりながら体を前へ。
「なにこれなんだこれ!? これゾンビのやつじゃないの!? なんだよオークって!」
いや、あれも人間っぽい化け物だからゾンビ換算?
いやいやいや、何ハザードなん?って。
「いやぁああぁああ! やめてぇええぇえ!」
「ゲギャギャギャギャ!」
うわ、あっちはあれじゃん。
緑がかったスキンのチビッ子おじさん。
「いやぁ! ゴブリンに犯されるぅ!」
「ウギャハァー!」
公衆の面前で集団わいせつ行為……!
常軌を逸した繁殖への執念は間違いなく、よく聞くゴブリンだ。
というか、皆よくポンポン名前出てくるな。
日本のサブカル浸透度はやっぱすごい。
かく言う俺も、ラノベとかで聞きかじってるけど。
いざ目の前に出てきたらそんなに頭回らないって。
ワード出ないって。
「プキュ」
「うわ! なんか踏んだ! キモッ! 水溶き片栗粉に踵落とししたみたいな嫌な感触!」
そんなダイラタンシー(※)みのある嫌なものを踏んだ。
※液体に力を加えると固体のようになる現象。
やったことないけどそんな感触。
「なんだぁ? この、寒天みたいなゼリーみたいなクラゲみたいな、スライム的なやつは―――」
ぷるぷるとおかしな物体に足を取られ、たたらを踏みながらそれを見る。
そこはかとなくうまそうな半透明の中に玉っこ。
「うわぁああ!? スライムが! スライムが口の中……! がぼっぼぼぼ!!」
「やっぱスライムだぁああああ!!」
大人は質問に答えないって格言あったけどそんなことないじゃん、めっちゃ教えてくれる!
俺も、この人達みたいに自分を犠牲に誰かを助けられるような人間に―――
「ご、ぼ……がぼ……―――」
「なりたくないですぅぅううう!!」
こっわぁ!
スライムの得物の仕留め方こっわぁ!?
「プキュプキュ」
「来んなー---!」
俺の絶叫がスターターピストル。
運動会とかで走る時に鳴らすあれね。
「なんか無理! 本格的に無理ぃ!」
あ、結構遅い。
走れば簡単に距離を離すことができた。
でもスライムの登場はやだわ。
「お前、なんかロケーションがさぁ!? 湿り気じゃん! もっとウェットな環境に居ろってぇ!」
例えば、カニとか伊勢海老とかいるじゃん?
あれがそこら辺の草むらから出てきたら、ヒェってなるでしょ?
ぶっちゃけ見た目おぞましいもんがお前、こっちのホームで出てくるのはそれはだめでしょ。
伊勢海老は海だから許されてるの。
スライムもそう。
なんかもう、パッと見クラゲみのある生き物が、しかもそれなりのタッパあって、逃げずにむかってくんのよ?
「俺お前嫌い! 二次会にジョイポリをチョイスするズレた陽キャ並みに嫌い!」
「プキュ―!」
こちらの罵倒にさぞお怒りの様子で甲高い鳴き声を上げるぷにぷに。
つかどっから声でてんのそれ?
「そんな威嚇したって、流石にナメクジみたいな推進力に追いつかれないっての!」
「プキュ」
「わぷ」
あ。
「もがー-----!?」
捕まっちゃったよ。