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2話 急に回り込んでくるじゃん、現実。

「おいおいおいおい! ダメだろって!?」


 窓の外の手すりに手を掛け飛び出す。


「おい! おいって!」


 ここは三階。

 そのまま落ちたら怪我をするので雨樋に手を掛け、勢いのまま一つ下、その隣部屋の手すりを蹴る。


「聞けって! 待てって!」


 非常階段へ飛びついたのち、その向こうへ飛び降り、女と男の位置へと伸びる塀の上を走ると。


「ダメだろってぇの!」

「ギャ……!」


 その勢いのままおっさんのわきっ腹に両足を突き出す。

 いわゆるドロップキックね。


「うーわ! もう、こっわ! やっば」


 さっきまで暇とか言ってたのが嘘みたいだ。

 パルクールめいた動きをしたおかげで、アドレナリンもドーパミンはどっばどば、心臓ばっくばく。

 つかパルクールめいた動きと言うか、パルクールだ。

 なんで俺がこんなに動けるかって?


 趣味がパルクールだから。

 ただそれだけだ。


「つか。そ、それ大丈夫なのか?」

「っは……ひ……ひゅ」


 覆いかぶさっていた男は派手に吹っ飛んだが、やや手遅れだったようで、女の首元は真っ赤に染まり、なんというかジュクジュクしていた。


「え、やば……救急……だよな?」


 気合の入った変態だと思っていたけど当てが外れたようだ。

 完全に通り魔。


「もしもーし!? あの、なんか、女の人がおっさんに、こう、かぶさって……首から血が出てますぅ!」


 あれ? 逆か?

 あーわっかんね!

 くそ! テンパるわこんなん!


「え?大丈夫ですか?って、大丈夫だったらコールしないよぉぉ!?」

「ゥ゛、ァ……」

「あ。警察もセットでお願いします」


 背後で変態改め、通り魔が起き上がる気配を感じて、思わずファストフードの気軽さで追加の注文。

 救急車って自費だっけ? これって救急車呼んだ俺が金取られるのかな?

 どうしよう、クーポンとかあるのかな。


「……とか、バカやってる場合じゃないってぇの」


 身震いした。

 というか、継続的に体が震え出した。

 男の口まわり、赤く濡れてる。


(噛んだのか? こいつが)


 かなりぶっ飛んだ状況。

 でも、既視感はあるやつだ、これ。


「セオリーだと、これ……」

「ア゛アァアア゛」

「ほらぁー!!」


 仰向けに倒れ出血しながら痙攣していた女がいきなり上体を起こした。

 てか反動もサポートも無しで足ピン状態からの上体起こしって、すっげぇ!


「うわ、やーっば……」


 突然のドッキリに何とか腰を抜かさず動いた俺は、走ってきた塀に飛びつきよじ登り一息つく。

 下を見ると、足首を掴もうと手は伸ばしているが届かないらしい。


「えーっ? これ……えぇー」


 足もガクガクだし頭の整理が追い付かない。

 いやだってそんな、フィクションじゃん。

 認めがたいでしょ、こんなん。

 もう、現実逃避のためにわざとあの三文字の単語ださな―――






『『ゾンビ』だぁぁあああああぁああ!!』


 ……。


「誰だゴラァァアアァア!?」


 誰だよそれ言っちゃう奴、あり得んわマジ。

 現実逃避してたのに急に回り込んでくるじゃん、現実。

 せめて自分のタイミングでさぁ……もう、ゆるせんわぁ。


「おらぁああ! 死ねボケぇええ!」


 野暮な第三者の声への憤怒を原動力に、路地裏から表通りに駆け出す。


 ……いや、ウソ。


 ホントはアーウー言いながら海藻みたいにゆらゆらこっちに手を伸ばす、通り魔改めゾンビ男と、デビューしたてのゾンビ女が怖くて人の気配をあてに走った。


「わあ゛ー---!」


 塀、(とい)、エアコンの室外機、明かりの落ちたネオン看板、さび付いた非常階段、はしご。

 目につく障害物は、全部足場で、全部遊具。


 アホみたいに叫びながら、パニクる、

 パルクる。


 数メートル先の、ビルの切れ目。

 日当たり良好の歩道がゴールだ。


「夢ならこういう時じたばたしてるだけでぜんっぜん前に進まないけどめっちゃ進むからマジだぁァアア―!」


 ギャラリーもいないのに、とりあえず息継ぎも無しに当方の所感を言い切り申した。


「スカーーーイ!!」


 叫んでゴールに思い切りジャンプ。

 もちろん夢でなくリアルだから、いつもなじんだ高さでスカイ。



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