19話 粘る気も争う気もボコボコにされる気も無いんですけど
「……おい。つか、今の喰らって玉痛いだけか?」
だけ、とはなんだ。だけとは。
メンズにとってこの上なく致命傷だろうが。お前も同じ目に遭わせてやろうか?
ペチンってチープな音が鳴るくらいの感じのが一番悶絶するんだから。
「っかしいなぁ? あのお巡りは骨折れたんだけどな」
……おっとぉ?
「お、お巡りって……警察の?」
「ん? それしかいねぇだろ」
「……俺一応、校舎に来てるはずのおまわりさん探しに来たんだけど」
「は? お前、警官なの?」
あ。
また変なポーズとってる。
「待て待て待て。おまわりさんってどうしたん?」
「こうしたんだ、よ!」
まぁたなんも持ってないのにオーバースロー。
見えないくせに通り道散らかしてくるし。
「おま、なんなんだよその握りっ屁投げるやつーー!」
「屁じゃねーよ!」
また玉を揺らされてもかなわん。
手近な扉をバキっと拝借――
「どわわ!?」
盾にした扉のほうがバキィか。
でも、さっきみたいに体が吹っ飛ばされずに済んだな。
ぶつかると止まるのかな?
「てめぇ、粘るんじゃねぇよ」
「粘る気も争う気もボコボコにされる気も無いんですけど」
まいったなこれ。なんでいきなりこんなバトル展開になっちゃうんかな。
ゴブリンの時みたいな怖さは無いけど、こういうの慣れてないんだって。
(どうしよ。いやまぁ、こんな展開は予想外ではないよ? お約束的に)
ステータス、レベル、不思議な力ときたらこんなんなるもん。
漫画じゃ。
(でも俺、特別な力ないっぽいしなぁ……相手のレベルでもわかれば、逃げるかどうか即決するんだけど)
目を凝らしてみてみても、そういうの見れる力もなさそうだし。
とりあえず、扉壊した教室から椅子拝借。
「ほいっ」
ぶん投げとこ。
「! い、意外と馬鹿力だなおい!」
どうしよ。
このあんちゃんが言う感じ、おまわりさんやられちゃったんかな。
それかどっかに拉致られてたりするんかな。聞いたら教えてくれないかな。
(大人しく話してくれなさそうだしなぁ。つか、救井君みたいな不思議な力あるっぽいしあんま関わりたく――)
「っぶねぇ!」
……おや?
今めっちゃ避けたね。
「のやろぉ!」
「扉ガード」
バキっと砕けて。
……1……2……3……4……5。
「くそが!」
んでまたスロー。
ははーん。
「この5秒の間、なに?」
「! てめ――」
そうと分かればおもクソダッシュ。
70メートルくらい? 窓ダイブした時の間隔だと余裕で5秒内にお触りできそう。
「ちぃっ!」
あ、後ろ向いて逃げた。思ったよりあっさり。
これじゃ5秒で追いつけないかも?
(んー。負けん気強そうだし、透明投げられるようになったら――)
「――おらぁ! 死ねや!」
振り向くよねぇー?
「! 居ねぇ――」
「パンチングボールって知ってる?」
人がいきなり消えるわけも無く、超低空スライディングしてるだけ。
オーバースローの大股開きアーチにぶら下がる福音の鐘を――
「はぐぉ!?」
鳴らすのは、あなたじゃなく私。
「ふ。峰打ちだ」
素手でパァンはなんか嫌だったから、鉈の峰でぶっ叩いてやった。
これ傷害罪で訴えられたら、金的破壊の量刑ってどうなるんだろう?
金は命より重いっていうし……
「はひ――」
「だ、大丈夫っすか?」
ちょっとビビってきちゃったよ。
人のこんなビクンビクンしたの初めて見るし。
下手に出とこ。
「あのー。ほら、正当防衛って言うか……ん?」
スマホ落ちた。
このあんちゃんのか……ロック画面に女のドアップ顔て。
どんだけかわいい顔――
「……もう何もしないんで、おまわりさんがどうなったか教えてもらえればいっすよ。あと――」
なるほどなー。
こうしてみると、イケメンってより――
「このボーイッシュ美少女。紹介してもらってイっすか?」
寝顔の救井君、ちゃんと美少女だな。