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1話 地球っていつか滅ぶんだろーなー

「地球っていつか滅ぶんだろーなー」


 しけたワンルームで思わずそんなことを呟く。


「南極? 北極? の、氷溶けるってやばいっしょ。マジ温暖化」


 畳に寝そべり、小さいテレビに映る映像をそのまま口にする。

 ちなみに流れてる映像は、国民的アニメのオープニング。

 溶けた氷の中に恐竜が居たら芸を仕込みたいとか、最高にイカれた事を言ってるやつだ。


「あち~……」


 白Tに下はパンイチ。

 こんな開放的で涼しげな格好をしているというのに、汗ばんできた。


「あ~。温暖化、温暖化っと」


 テレビの音がうっとおしくなってきたので電源を落とす。

 代わりにエアコンのリモコンを手に取り、


「暖房OFF」


 ゴウゴウと熱された風を、部屋中に送り込んでいたそいつの息の根を止める。

 そう、今は別に日差し照る真夏でも、雪吹き荒れる真冬でもない。


「うへ~。春一番」


 部屋にこもった熱気を逃がすために窓を全開。

 ぽかぽかと程よく温まった春の風が全身を撫でた。


「……暇だ」


 冒頭から行われる奇行、言動。

 それらすべては『暇』、の一言に起因する。


「もう大学行っちゃおうかな」


 今の俺はピカピカの大学一年生。

 ――直前の、高卒無職マン。

 ようするに、のらりくらりと受かった大学が始まる前の暇人だ。

 事前の準備も全部終わった。


 友達と遊びに行けという諫言は受け付けない。

 地元離れて今ボッチ。


「暇。ひ・ま。あ~、世界終わるレベルの面白い事起きないかなぁ~」


 春のどこか浮かれた空気に乗せられて、とんでもないことを言い放つ。

 普通に大学いきたいから、世界に終わられても困るんだが―――






 《下句(しものく) 四季(しき) Lv.1》






「……あん?」


 なんか今、声聞こえた?

 ていうか名前呼ばれた?






「きゃぁあああぁああー--!!」

「ぇえ……?なにぃ……?」


 なんか、鮮明な幻聴聞いたと思ったら、恥も外聞も関係ないって感じの吹っ切れた悲鳴が聞こえてきたんだけど。

 真昼間から公でそんな大声出し腐るなんて、絶対まともな状況じゃないか、まともな人間じゃないよね。


「だっれだよおい。イかれてるって、マジでー」


 と、止せばいいのにかかわらなければいいのに、暇を持て余しまくった俺は猜疑心より好奇心が勝り、窓から身を乗り出し悲鳴の出どころを覗き込む。


「ゥ゛アァアア……」

「いやぁあああーー!!」

「……ん?」


 そこには望み通りのイかれた光景。

 白昼堂々顔色の悪い……酔っ払い?

 的な男が、悲鳴を上げて逃げ惑う女を追いかけていた。


 いや、ていうか―――


「撮影? フラッシュモブ?」


 逃げる女は鬼気迫るものがあったが、顔色の悪い男のほうはヨタヨタとおぼつかない足取りで、一向に女に追いつく気配がない。

 何が目的なのか、と聞くのも野暮だろうけど、目的を達成する気があるのだろうかと疑いたくなる。

 そうなると、途端に演技臭く見えてしまった。


「えー、これどっちだ?」

「いやぁー! 来ないでぇー!」


 外は昼間。されどここは表通りから離れた路地裏。

 人通りは無く、今この空間を共有しているのは俺と女と顔色の悪い男のみ。


「警察呼ぶか?」


 見て見ぬふりをする罪悪感と、お巡りさんコールした後の面倒くささの間で揺れる。

 そんな最低で小市民的な思考をグズグズ練ってると。


「誰かぁー! 誰か助けてー!」

「いやいやいや――」


 ついに女が誰かに助けを求めるフェイズに突入してしまった。

 これでここで見て見ぬ振りした場合の罪悪感はマシマシだ。無料の強制トッピングだ。


 まぁ、あれがマジの救援要請ならの話――


「――ッ!」

「……あ」


 などと、馬鹿な事を考えてると窓から頭を出した俺と女の目が合う。


「た、助けてぇ!」

「マジかぁ……」


 ご指名が来てしまった。

 これは、きっと見て見ぬ振りしたらもう後生残るやつやん。


「……おい! おっさん! 警察呼んでるぞ! やめといてどっかいけ!」


 仕方ない。

 警察の方々に面倒かけるのも忍びないし、その後の対応が面倒だけどセオリー通りに国家権力を―――


「そんなの意味ないわよ! こいつおかしいの!」

「ヴァアア、ア」

「んん?」


 こっちの警告に全く動じない。

 なるほど、こんな真昼間から女の尻を追いかけまわす豪胆の持ち主。

 中々に肝の据わった変態のようだ。


「えーっと、じゃあ……」

「きゃあ!?」


 若干焦りを感じてきていると、事態は最悪の方へ。


「あ、足が……!」

「お、おいおい」


 高いヒール逃げてたからだろう、それはもう見事に足首をぐねって身動きが取れなくなってしまったようだ。


「ア゛ァアア……」

「ひぃぃいー!?」


 うずくまる女の服を掴む変態。

 身をよじり袖を千切りながら這いずり逃げる女。


「力、すご」


 女の根性も大したものだが、布が千切れるまで離さなかったおっさんの握力も半端じゃない。


「あ。もしもし。あの、女性が暴行にあってまして」


 ここに来てようやくただならぬ場面に出くわしたと思った。

 いつもこの裏路地は、夜中になるとアングラな出来事が起こりがちだから、バイアス掛かってたわ。


「おーい! 警察呼んだぞー! がんばってもう少し逃げ―――」

「ガ、ァアア……」

「ぎゃあぁああぁあ!!」


 ほんの少し目を離したすきに女は捕まってしまったようで。


「……え? それ、あれ? 血」

「か……ぁ……ひゅ」


 女に覆いかぶさる男の背で良くは見えないが、赤い液体がアスファルトを流れているように見えた。

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