18話 ってなんじゃぁ!?
「上の階っぽかったな」
校舎中が静まり返ってるからよく聞こえた。
中に入る前に見たけど、この学校は全部で3階。
何階で音が鳴ったかは知らんけど、上なのは間違いないと思う。
「ひぇ~……存在仄めかさないでよぉ……」
いくら静かったって、多少の物音なら聞こえないだろうから、人為的なもんの可能性が高いじゃん。
「人ならまだいいけど……」
救井君達であってほしい。
もし外に居た化け物の類だったらマジ勘弁してほしい。
広くて開放的な屋外ならまだしも、隠れられるところだらけの室内じゃもう、心臓が持たん。
「あーもう、一気にホラゲーになったじゃん」
この保健室から出たくなくなっちゃったな。
絶対セーフティールームでしょ、ここ。
扉壊しちゃったけど。
「……まぁ、狭い屋内のが、かえって立ち回りやすいか」
こちとらパルクーラーぞ?
つま先でもひっかけられれば、くるりんぱで逃げおおせてやるわ。
「よし、いくぞー」
まってろ、新聞記者のおねーさ……じゃなくて、救井君。と、おまわりさん。
「扉。このまんまでいっか」
なんせ緊急事態だかんね。お咎めなしでお願いします。
「階段どっちだろ――」
保健室出て右行くか左行くか悩んでたら。
「ってびっくりした!」
「!」
長々と続く廊下、窓ガラスが飛び散った場所にしゃがみ込む人物発見。
「え。窓破って入ってきたん……?」
今探している救井君でもない、おまわりさんでもない誰かに、思わず鉈を持つ手が上がる。
「……あ。それやったん俺か」
廊下を見渡してもガラスが飛び散ってるのは一箇所だけだから、当然不慮の事故でダイブした俺の仕業ってわけだ。
「あの~。体育館に避難してた方ですかぁ?」
「……」
若いな。
あの年齢層の高い体育館では見かけなかったと思うけど。
「どこかでおまわりさん見かけませんでしたかぁ?」
両手を頭の高さまで上げて、無害ですよアピールしながらソロリソロリと寄ってく。
あ、鉈持ったままじゃん。
俺今相当怪しい奴になってるんじゃ……
「お」
見知らぬ人が立ち上がった。やっぱ若い。
男……だよね? 救井君みたいにジェンダーサプライズ潜んでないよね?
「あの~――」
おん?
なんだ、拳握り込んで両手振りかぶって……言語コミュニケーションに対してボディランゲージで返すんじゃありません。
さては陽キャか?
この距離間の計れなさ――
「っらぁ!」
んで振りかぶったそれをオーバースロー? なんそれ?
ラップバトル的なやつの新手なスタイル?
『問を投げかける』の肉体言語バージョン?
「――ってなんじゃぁ!?」
風みたいなんがビュアーって!
ほんであっちとこっちに連なる窓ガラスが――
「は? 割れ――べ」
呑気に観察してたらすぐ横のガラスもパリーン。
直後に顔面、というかもう、体の前面全体がググっと。
バカでかいバランスボールでぶん殴られたみたいな衝撃――
「ぐああああああ!?」
突如訪れる激痛。
口から洩れる悲鳴を抑えられないまま後方へと飛び転がった。
「――か、っは」
「ひっ、ははは!」
なにが、起きた?
「飛び過ぎだってぇの!」
「ま、待って……」
いや、ナニが起きたかなんてそんなことは俺自身がよくわかってる。
「おいおいおいおい。抵抗も無く命乞いって……お前それでも――」
「うるせぇ! 待てっつってんだよこの野郎!」
正面から、あの男から発せられた見えない圧。
そいつが、この身にもたらした深刻な……ダメージ。
「んだぁ? 急にイキって……たまにいるんだよな。お前みたいに、弱いくせして去勢だけ張るやつ」
「うるせぇ。ちょっと黙ってろ……」
全身を硬直させる、肉体の痛み。
「気に喰わねぇな。お前、もう死に確だわ。たまたま俺に出くわしたてめぇの不運を――」
「たまたまたまたま、うるせぇ!」
回復だ。回復を図らねば。
「……つか、なんでずっとそんな声量ちっさいんだ?」
話しは変わるけど、パンチングボールってあるじゃん?
あの、ボクサーとかが上から吊るした球をチョンって叩くと、バルルンって揺れるやつ。
「タノムカラマッテッテェ……!」
「……あっ。あぁ~……あぁ……」
どうやら察してくれたみたいだ、若干引き気味なのがムカつくけど。