17話 学習しねーなー。俺も
(うひー。こえー……)
体育館を出て、あまりに見通しが良すぎるもんだから、おもわず手近な茂みに屈んで隠れちゃったよ。
(つか、あほだな俺。職員室の場所とか知らんし)
この学校のOBでも何でもないから、敷地内がどうなってんのか分かるわけねーじゃん。
救井君達と避難した時は狸寝入りしてて、周りよく見れなかったし。
「ま。とりあえず安全第一で行きましょうかね」
もう何時間も音沙汰無いんだから、今更俺が数十分の誤差急いで探したところで結果は変わんないでしょ。
(生きてっといいけど)
でも、あんまいい予感はしないなぁ……化け物がうろつく中、拳銃持ってたおまわりさんが帰ってこない。
それを追って、怪物を焼けるイケメ……美少女ヒロイン。
(体育館の避難組で、生存率高そうな二人が行方知れず……)
……え。
なんで尚更俺が行かなきゃなんないの?
欲に駆られて、選択肢ミスった感まんまんじゃん。
「……今からでも戻ろ――」
――と思てんのに、なぁんでこのタイミングで。
「まじかよ。今誰かあそこら辺通ったぞ」
あー、やだやだやだ。
見間違いじゃないとして、まず二人なわけないじゃん。
こっちから見えてんだから、あっちからも見えてるに決まってんのに、一切コンタクトとってこないのよ?
「こちとらリアルの人間ぞ? フィクションの死にたがりモブと一緒にすんなよな」
……いや、わかるよ?
今の人影が化け物だったとして、なんで襲ってこないん? て。
いま、あの人影には『救井君たち』と『化け物』の二つの可能性が混在してるのよ。
シュレってんのよ。
「……あーもー、やだやだ」
右、ヨシ。
左、ヨシ。
茂みから見た感じ、さっきの影以外動いてるもんは無し。
「あ。この花懐かしー。蜜吸うと甘――くねぇじゃん。全然」
待って、急かさないで。
幼い記憶に足先だけでも浸って、気休めでも緊張ほぐしたいの。
「……よ、よし。いくかんなー」
目標は約五十メートル先の、校舎。
窓際まで全力ダッシュ。その後、壁際に沿ってセコセコ進んでればどこかから入れるだろ。
目立つ行動は最短に、物音立てずに。
(裸足。裸足が良いな。多分足音小さいはず)
ちょい砂利っぽいからね。
(っし。走れ走れ走れーー!)
およそ7秒あるかないかくらいの短い疾走。
(いない、見つかってない。多分オッk――)
――衝撃。
「え」
走りながら周囲を確認、背後に首をねじった一瞬に、側頭を打つ、衝撃。
次に、耳に響くけたたましい破壊音。
それらが示唆する現象は――
「ぎゃあああああ!?」
堂々たる窓からの、ダイナミックお邪魔します。である。
「いだだだだ!」
うっそだろおい。
何しちゃってんの俺は、白昼堂々窓ガラスダイブって。
「いってー。頭切った」
奇行が過ぎるぞ、俺。
でも、多分これレベル上がった変化について行けてないお約束だから許して。
「学習しねーなー。俺も」
というか、試す猶予が無さすぎるんよ。
強制イベント多すぎなの。
「とりあえず、隠れよ」
折角裸足になってまで抜き足差し足してたのに、窓ガッシャーンとかやってたら無意味じゃん。
体育館の窓見ても、みんなポカーンとこっち見てるし。
つーか、俺がダイブしただけで窓なんて壊れんのに、よくあの体育館無事だよな。
「いで! いだ! 靴! はよ靴履かんと」
上履きなんて気の利いたもの無いから、土足だけど許してね。
「背徳感あんな、これ」
やべ。学校の廊下に土足ってだけでなんかテンション上がってきた。
この前まで俺も高校生だったからなぁ。大学行ったらこの感動もすぐに薄れるんだろうか。
「……お。保健室じゃん」
おいおいおい。
ダイブして真っ先にお目当ての本丸……ではないか。
ついでのお使い、医療品を蓄えしお宝部屋発見。
「って、鍵掛かってんじゃん」
生徒が急に体調悪くなったらどうすんだよ。
「あー。祝日だっけか? 今日。ってか、わちゃわちゃ始まった日」
てことはあの日以来ここは手つかず。
破られたっぽい感じもないし、おまわりさんと救井君もここには来てないっぽいな。
「んー……とりあえず、何があっかわかんないから物色してくか」
ホントは荷物増やして動きたくないんだけど。
買い出しでスーパーはしごするとき、冷凍モノと生モノはあとに回したい的な。
「よっ」
無理くり力入れたら鍵のかかったドアが、バキッと外れた。
さっきの窓ダイブの騒音でもなんかザワザワしてないし、大分物音に対してルーズになっちゃってんな。
「レベル上げ、偉大。筋トレしといた俺もっと偉大」
乾パンの缶を潰した時はよくわからんかったけど、扉バキィだもん。
前の俺じゃ無理だったわ。
「とりあえず、使えそうなん突っ込むか」
爪切り、毛抜き、ハサミ。
包帯、ガーゼ、絆創膏に、消毒液。あとは常備薬いっぱい。
「――こ、これは!」
厚みのあるビニール的な素材で、中の真空が保たれてて、手のひらに収まる四角いアイテム。
「……い、一応もらっとくか」
ほら、ね?
救井君達を見つけるミッションが成功したら、使うかもしんないじゃん?
いやこれは、下心とかじゃなくて、あの新聞記者のおねーさんともしそうなってしまった場合、お相手を守るためのアイテムでもあるんだから。
その可能性がある、という以上は、そりゃこちらとしても準備は万全にしておかないといけないわな。
「歯ブラシセットもあんじゃん。至れり尽くせりじゃん」
そんなつもりで置いてあるんじゃないだろうけど。
でも、保健室にこの神器が置いてあるのって……なんかエッチじゃない?
「……俺、相当キモいな。と、とりあえずこんなもんだろ」
持たされたバックパックがだいぶ太っちゃたよ。
でも、こういう物資調達ってなんかそそるな、おい。
実は備蓄とか、非常用の在庫に思いを馳せるのワクワクする性質なんだよね。
「ノってきたなおい」
この調子でどんどん物資を確保して――
「……今、なんか聞こえたよね?」
ちょ、なんだよ……興が乗り出した途端、水差すように『ドンっ』って今の物音。
確かに目的を忘れそうになってたけどそんな怒らんくてもいいじゃん。




