15話 行方不明?
「おじゃましま~……ぅ」
幕をめくってこちら側に入ってきた途端、お顔をおしかめになるとは。
中々、歯に衣着せぬ振る舞いじゃないの。
「や、やっぱ臭いっすか?」
「ぃ、い゛え。条件はみんな同じ、だかぁ……」
鼻つまんでる鼻つまんでる。
「……で、何か御用で?」
久々の対人で、きれいなおねーさんに臭がられるなんて、正直メンタルもたない。
さっさと用件を済ませてもらってお引き取り願おう。
「えっと、実は――」
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「あのおまわりさんが行方不明?」
「うん。避難生活三日目にして、物資が底を尽きるのは目に見えてきたから。何か役立つものがないか探索するって言って、外に出てしまって」
ほえー。
ゴブリンとかうろついてるのに、流石警官。
俺みたいなパンピーとは比べ物にならない胆力だわ。
「んで? 無事、物資は見つかったんすか?」
「行方不明って言ったでしょ? 今朝、四時ごろに出てから戻ってきてないの」
へー、道理で今日は顔は顔を見なかったわけだ。
今は午後三時だから、十一時間くらいか。
まー、普通なら別になんてこともない外出時間だけど、今はちがうもんな。
「だいじょぶなんすかね? やばい事になってないと良いけど」
「うん……スマホも相変わらず圏外だから、連絡の取りようもないし」
タプタプ、とおねーさんはポケットから端末取り出していじる。
てか、それ畳めるやつじゃん。
金持ってんなー。
「……救井君に相談してみたらいいんじゃないすか?」
こういう状況であまり追加の捜索人員出さない方が賢明っぽいけど。
とりあえず、俺が知る中で一番死亡フラグに呑まれなさそうな人間の名前を出してみた。
「救井君……英雄ちゃんのこと?」
「ひいろ……あ。そうそう。おねーさん知ってる? あの人、不思議な力持ってるの」
「……女の子に危ない橋を渡らせようとするのはどうかと思うけど」
いや、昨今的にさぁ?
そういう括りは、この非常時にこそいらないと思うわけで。
「あー。いいです。君が何を言いたそうにしてるのか、なんとなくわかるから」
「え。すごくない? この短期間で俺の分かり手じゃん」
「その、不思議な力……っていうのは、『炎』のことね?」
あ。
おねーさんも救井君に聞いたんだ?
そういやさっき、英雄ちゃんって呼んでたし、順調にコミュニティ築けてるみたいね。
「そそそ。あれで実際俺も助けてもらったし。外の化け物にも対抗できるよ」
「……そう、なんでしょうね。あの子もそういって、いっちゃったから」
ん?
「あ。もう探しに行ってるの?」
「ええ。一時間以内に戻るって行ったきり戻らない、おまわりさんを心配して……その英雄ちゃんも五時間近く音沙汰無しで」
「……まじ?」
いやいやいや……いや、まぁ。
行くよなぁ、あの感じ。
「恵ちゃんも、かなり心配していて、今にも飛び出しそうな様子で。何とか、周りの人になだめてもらってるけど……」
あれ、もしかしてこの感じ……
「癒仕さんは残ったのね……まぁ、置いてかれたって感じかね」
「他人に興味なさそうなのに、よくわかるね」
いやいやいやいや、まさかね。
てゆうかハイリスクすぎでしょ。
リターンがさぁ……
「まぁ、肉体言語で語ったので」
「女の子のおっぱい揉んだのを都合よく言い換えた。全然合法じゃないからね?」
ちょ。
美人のおねーさんの口から『おっぱい』って単語は俺に効く。
控えてもろて。
「お、俺だって、髪引っ張られたりおもクソマウントで殴られたりしたんす」
「……まぁ、そうだね。合意ではないとしても、それと釣り合う対価があれば、合法になるかもしれないね」
「そ、そうっすよ。うん」
……ん? 対価?
んな話してたか?
「……今。君が何考えてるのか。手に取るようにわかるなぁ」
「ほう。続けて?」
おねーさんの細い指が俺の膝に乗せられ、謎に甘い声色。
鼻の穴膨らましながらも、くくくくくく、クールに先を促すぜ。
「ふふっ。口にはできないかなぁ」
「ほ、ほぉーーん」
おいおいおい。
そんな前傾に寄られたら、ご立派なお山が強調されちゃ――
え、なに? 胸元に指かけて何してんの!?
「んっ。この部屋、暑いね」
「はわわわわ」
今起こったことを、ありのまま話すぜ。
前爪乳帯解放垂下巨乳揺谷絶景。
何を言ってるのか分からないって?
二度は言わん、想像力を働かせろ。
「君、名前は?」
「ししししし、下句 四季っす」
あー、何だこの人。
めっちゃいい匂いする。
なんか、頭シビレるきもちいーい感じ。
「下句君――」
「は、はひ」
いい匂い過ぎてキマってきたのか?
「君の望み」
「俺の望み?」
「――叶えてあげる」