13話 Gachari
真に、国民を守っているのは何だって?
憲法? 法律? 違うね。
道徳? 正義感? スーパーヒーロー?
いいや。
違うね。
「おまわりさぁぁあああん!」
「君さっきからどうした!? 血ぃでてるから落ち着きなさい!」
「これが、大和魂ぃぃいい!」
もうね、この国の大和魂は死んでないって、思わせてくれました。
納税だろうが何だろうがもってけ泥棒。
あ、泥棒って言っちゃった。
とにかくこんなお巡りさんなら、俺は喜んで臭い飯でも増税でも何でも――
「それはそれでいやぁぁああ!」
「誰かこの中にお医者さんいませんかぁ!?」
いろんな感情がごった返して床頭突き。
一市民の苦悩を現代アート化したら、多分こんなんが出来上がると思う。
「……おまわりさん」
「あ。お、お医者さんですか? この方が――」
お巡りさんが肩を叩かれ振り向くと。
「――大和魂。見せていただきました」
「……え。と……君たち知り合い?」
そこには感涙の涙を人目も気にせず流す、キャップのおねーさん。
あ。なんか、初見よりだいぶ高嶺感さがってきたな……富士山の十合目から八合目くらいまで。
「彼への事情聴取。私も同席させてください」
「は、はい? いえ、それは――」
「この非常時、多くの注目を集めたこのデリケートな状況での聴取。公正を期すのと、おまわりさんの立場のためです」
「……では、特例で」
え~……何今の、コワ。
ちょっと親しみ湧き始めた途端閉めるじゃん。親しみの源泉。
まぁ、化け物が蔓延る外に放り出されなきゃそれでいいんだけど。
「では、別室にて聴取を行いますので……この避難生活はどのくらい続くかわかりません。危険な思想など周囲に吹聴して、不用意に不安を煽らないように。きっと、助けが来ます」
「そ、そんないやですわぁ。そんなことしよる人はこの中にはいませんよぉ……え、えっとぉ。お嬢ちゃん達、大丈夫? 立てるかしら?」
おーおー。すっかり団地妻に戻ってやがる。ざま――
ガチャリ。
え、待って。
「おまわりさん。なに、今のGachariって」
「オノマトペがネイティブなの珍しいね。どこの言語圏?」
「あのおばさんの味方をするわけじゃないけど、理由がどうであれ、あの子たちが泣いてるのはあなたのせいなのは明白です。当然、get busted。です」
おねーさん、なかなかウェットな返ししてくれる。
……えぇー、いや……そうだよねぇ。
なんというか、おばはんが派手に目立ってヘイト吸ってるように勘違いしてたけど。
そもそも、俺の失態といやそうなんだった。
名前も知らない避難民たちの視線も痛い。
こちらを視界に入れる事すら拒み、体を庇う癒仕さんと救井君達の姿が、更にチクリと来る。
(俺、もしかして。何かやっちゃいました? つって――)
おもんな。
「……大変ご迷惑おかけします」
「とりあえず、舞台の袖を仮の聴調室にします。来なさい」
「散らばった彼の物資は、私が片付けておきます」
初めて手首に感じる、冷たさと、思いのほか軽い僅かな重み。
(マジで、どうなんだよ……これ)
しょっ引かれるという人生初の経験に。
化け物と対面した時と同じくらい、心拍数が爆上がりしているのが、なんかおかしかった。
~一章 完~
一章完。
主人公お縄エンド。これで区切りとなります。
彼の物語が続くかは……まだわかりません。