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12話 おまわりさぁぁあああん!

「……今のは、誰だい?」


 螺髪ヘアーのおばはんが問う。

 ……いや、ていうかなんでパンデミック避難所のボス的なポジにいるん? このおばはんは。


「わ、私……です」

「あんたぁ、確か……新聞記者さん、だったかねぇ?」


 いや、貫禄えっぐぅ。

 言葉の端々にボスの貫禄漂わせるじゃん。井戸端会議でも中核を成す怪物じゃん。


「『待って』といったね。この性犯罪者を庇うのかい?」

「庇う、というか、その……外には、怪物がいるから……」

「いるから?」


 なんでそんな痺れる返しなん? 

 世界観に順応しすぎだって。手の甲に書かれた買い物リストが、逆にドラマ性あるわ。


「その人、死んじゃいますよ……?」

「死ぬからぁ?」

(……あの人が俺を庇ってくれてるのか)


 世紀末キャラに転向したおばはんに、早くも飽きてしまったので首をねじって、俺を庇うような言動をしてくれてる人物を見る。


(うわ。かわいい)


 物腰的にはと仕草的には清楚よりなのに、恰好は中々にスポーティなおなご。

 深めにキャップ被って髪は後ろに束ねて、手足ほっそ。なっが。

 んでもって癒仕さんの若干下位互換的凹凸。

 いや、むしろ清楚の気配が含んでる分この人の方がそそる――


「ん゛ーー! ばか! そういうとこじゃん! 俺! キモ!」

「お、おい! なに床に額を打ち付けているんだ!? 正気を失ったのか!」


 お、落ち着け。

 言葉に出さなかっただけ、多分反省してんだよ、きっと。

 無意識に自制が働いてんのよ。この状況を作った己の煩悩を制御してんのよきっと。


「わ、私は、報道関係者です! 真実を大衆に伝えるのが仕事です! このような道徳に背いた非人道的な行いが明るみになれば――」

「その果てに、若い女の子の涙があるなら。そんな道徳(ルール)、クソ喰らえさね」


 百面相じゃんこのババア。

 無駄なカリスマ性、一主婦に与えすぎだろ。


「そ、そんな横暴な――」

「皆! よく聞いとくれ! 今、外には化け物がうろついている! とても現実とは思えない状況! 外との連絡手段も今は無い! 助けが来るかもわからない! 限られた物資で生き繋がなきゃならない! まるで悪夢さ!」


 俺に分配された一週間分の物資が入ったリュックの中身をぶちまけて、さらに注目を集め演説。

 独壇場じゃん。

 って、おい。そのペットボトル水俺の――


「ぶはぁっ! ……とても、現実とは思えないよ」


 何勝手に俺の水に口付けてんだこのババアーー!

 飲み口についた口紅がめちゃくちゃ殺意煽るんだけど。

 人の生命線をクサい演説の小道具にしやがって。


「今朝まで、何気ない日常を送っていただけなのにね……信じられないよ。いつもの顔、うんざりするほど見てきた顔が、もう、見れないなんてね……悪夢さ」


 緩急エグぅ……酒でも入ってんのそれ?

 まぁ、状況に酔ってんのか。

 ……いやしかし、思いのほか見応えあんな。限られた物資と言いつつも、それを無計画に浪費する振る舞いが、どこか悲壮感と置かれた状況の理不尽さを……


(んなわけあるかぁー! クソババアー!)

「どうした!? 暴れるな落ち着け!」


 出かかる暴言を、何とか床にたたきつけて押し込めることに成功。

 お、おちつけ。こういう感じの状況で、被告が感情のままに発言したところで、事態が好転したところなんて見たことないもん。

 頭に上った血を下ろすんだ……ていうかおでこ切って血でた。


「だけどね! この子たちの涙! これはまごうことなく現実だよ! これは曖昧にしちゃいけない問題なのさ! 今、何をすべきなのか前後不透明な状況だからこそ! これが始まりなんだ! この性犯罪者を――」


 指さすな。


「追放することが、この狂った世界で生き抜くための、最初の決断なんだ!」

「そ、そんな! そんなの絶対おかしいですよ!」


 俺を庇ってくれてる新聞記者のおねーさんが、尚も意義を申し立ててくれる。

 ちょ、追い詰められてる感じでそんな優しくされると泣いちゃうから。


(ど、どうなんだよ。これ)


 おねーさんが、公然のフィクサーと化したおばはんに抗議してるけど。

 目ぇ閉じて手を広げながら天を仰いで、聴衆のアンサーを求めようとしててガン無視。

 気持ち、天井の証明が気ぃ効かせてスポットになってるし。

 え、どうなってんのそれ? 完全に天もおばはんに味方してんじゃん。


「――さぁ。審判は成されたよ」


 いや、まだ誰もレスしてねぇんだけど。

 ねぇんだけど――


「待って! はな……人の話を聞けー! ババアー!」

(うわー絶対だめだこれ)


 ごめんなさい名も知らぬおねーさん。

 どうか俺が追い出された後も、立場が悪くならないことをお祈りしています。

 生まれ変わったらあなたみたいな、清楚と健康美と勇ましさの三位一体みたいな素敵な女性とお付き合いしたいです。

 色々、したいです。


「さぁ! その犯罪者を追放するんだよ!」


 取り押さえられた俺へ指を突き付け、警官に命令――






「いえ。まずは法令遵守です。この方にはきちんと私が事情を聴取し対応します。この災害は一時的な状況で、その後の市民の皆様が早々に社会復帰できるように努めるのが、私の責務ですので。過激な発言はお控えください」

「「「……」」」



 お



「おまわりさぁぁあああん!」

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