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11話 ……なんか、泣き顔、色っぽくね?

「あ、あ、ああ、あんた。む、むむ、人の胸……! 誰にも、触らせたこと、ないのに」

「ごっつあんです」


 さっきまでのヒステリック具合が嘘のように乙女チックな反応。

 大層動揺した様子でマウントを解き、尻もちをついてらっしゃる。


「癒仕さん」


 ちなみに、今の一揉みで受けた物理ダメージの元は取れたようで、自分でも不思議なくらいに穏やかな気持ちになってしまった。

 この感触は世界を救うって。


「今、俺に胸を触られてどうだった?」

「……は?」


 あまりに短い付き合いだけど、癒仕さんを見てれば一発で分かる。


「誰にも、って言ったよね……けど、裏を返せば『ある誰か』のためにその初めてを取っておいている。ってことだよね?」

「……」


 そう。

 初対面の人間相手にここまで、ボコボコにするほど激昂する起因。


「その『誰か』は、言わないさ。でも、大事な人に大事なことを伝える時は、その方法を間違えちゃいけない。それは、相手だけでなく自分も傷つけてしまうから」

「……」

「恵……」


 どうやらおしゃべりしている間に、放心気味だった救井君も立ち直ったようだ。

 そして、俺を見上げるように尻もちをついた癒仕さんの元へ寄り添う。


「……もっとも、間違った方法でも、絶対に伝わらないなんてことはないんだけどね」

「……ぅ、うぅ」

「恵……ごめんね、恵……」


 自分の体を抱きしめるように肩を震わせる癒仕さん。

 それを包むように抱きしめる救井君。


「すれ違っても、何度すれ違ってもいいんだ」


 二人の姿を見て、俺は確信する。


「そのあとに、すぐに振り向けりゃ、自分の足跡と相手の背中が視えてきて。それで目と目が合えれば、御の字さ―――」


 キマッた。

 と。



「この人が痴漢です!」

「―――へ? ぉぐっ!?」


 なんだ?

 颯爽とニヒルな笑みをキメながら、二人に背を向け去ろうとしたのに、ほっぺたに体育館の冷たい床があるんだけど。


「え。ちょ、なに―――いだだだだだだ!?」

「動くな! 拘束する!」


 背中に人一人分の重みと、何より小指が捩じりあげられて痛い。

 これマジで痛い。


「あたし見ました! その人がその子の胸を鷲掴みにしたのを!」


 多分俺を痴漢呼ばわりした声の主、コッテコテパーマあて過ぎおばはんががなり立てる。

 なるほど、やっぱ変に注目集めてたか。

 そりゃこんだけ騒げば目立ちもするよな。


「ちょ、おばはん! ちげーの! これはそういうんじゃねーの!」

「白昼堂々女の子の胸鷲掴みにして、何を言い訳するってんだ!」

「いやまぁそれは揉んだ! 確かに揉んだ!」

「貴様、触るだけでなく揉みしだいたのか!?」

「いだだだだだ!」


 腕がさらに締め上げられる。

 いや、小声で羨ましいとか言ってるお前もこっち側みたいなところあるから。


「お巡りさん絶対離さないで!」

「ご安心ください!」


 お巡りさんかよ。

 そう言えばさっきいるって聞いたな。


「その男、その子たちにセクハラめいた事言ってたから、怪しいと思ってたのよ!」

「はぁー!? おいババア! 大仏様みてえ頭しやがって! もうちっと頭使って物言え!」

「このあたしの誇り、螺髪(らほつ)ヘアーを褒めても許さないわよ! その子の胸見ながらGとかHとか言ってたの、しかと聞いてるんだからね!」


 いや、言ったけど。


「そ、それはほら――」

「しかもその後、『お、俺に胸を触られて、どd、どうだった?』とか、セクハラの感想を求めて!」

「い、いや。あの――」

「挙句、『は、あはっ、初めてを、デュフッ……取っておいている。ってことだよね?』とか、自分が初めての人と言うのを誇示するかのような、気持ち悪いこと言ってたじゃない!」

「……え。俺そんなキモい言い方してた?」


まてまてまて。決して、そんな変態上級者みたいなムーブはしていない。

今証明してやるから、とりあえずその似ても似つかない俺の顔マネみたいなのやめろやババア!

俺と目があった時だけすな!


「い、癒仕さん。このおばはんに言ってやってよ。俺は――」

「うっ……ぅぅ……ひっ……ぅ」


いや、あたかもじゃん。

あたかも俺がこの子に性的暴行を働いたような感じじゃん。


(え。まって。俺ただ女の子の胸……え? 俺、口論の末、同意も無く女の子の胸揉んだん?)


あれ、おかしい。

ホントに待って。


「す、救井君。あの――」

「はなし、かけないで下さい……! 女の敵!」


女の敵て。主語がでかすぎんだろ。

てか、さっきの流れ的に俺の言葉に無茶をしようとしていた救井君が、思い直した感じじゃないの?

なんで一緒に座り込んで泣いてんのよ。女の子座りだし。


……なんか、泣き顔、色っぽくね?


「もう大丈夫よ。変態はお巡りさんが捕まえてくれたから。こんなかわいい女の子二人に手を出すなんて……本当に最低!」


……え?


「「女の子なん(ですか)!?」」


体育館に俺、とついでに俺を取り押さえる警官の声が響く。


「――ら、こんな変態にはもう近づかない方がいいですよ!」


この警官誤魔化しやがった!


「そうよ! そんな変態、ここから追い出してちょうだい!」

「え゛」


やば。

今のやり取り、間違いなくここにいる全員に聞かれてるんだけど。

この後の流れが容易に想像でき――



「ま、待ってください!」


る?

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