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9話 あれ。なんもでないや。

「英雄。まさかと思うけど、外にいる怪物を、自分でどうにかしようとか考えてるの?」

「え。まじ?」


 癒仕さんと俺の視線を受け、救井君。


「人がたくさん死んでいる。死んでしまう……誰かがなんとかできるなら、何かをするべきだ」

「こんな状況で、私達みたいな未成年に何ができるの? 警察や自衛隊に任せたほうがいいよ」


 癒仕さんのご意見は至極真っ当だ。

 自宅の窓からゾンビに襲われてるのを見て通報に足踏みしていた俺でも、今みたいな状況なら即座に国家権力に頼るわ。


「状況……そう言えば、今どうなってんの?」


 避難している時も体育館についてからも、別に意識が途切れてるわけじゃないけど、ずっと狸寝入り決めこんでいたから詳細はよう知らん。


「今のところ、この体育館は安全みたいです」


 俺の質問に答えてくれるのは救井きゅん。


「外の怪物たちは何故かここには近づかないようで、僕たちのほかにも避難してきた人が大勢います」

「へ~。ここは安全、ね」


『何故か』、というのもわかる。

 外で見たゾンビとかスライムくらいなら戸締りすれば防げそうだけど、ゴブリンとかオークとかは、窓なり扉なり破って中に入ってきそうなもんだ。


「よっぽど頑丈なのかね。この体育館は」

「頑丈、というか……あまりこちらに興味を示していないというか」


 言われて、そろりそろりと窓際に向かい、恐る恐る外を覗くと。


「うわ、マジだ」


 まばらに、人外の影が見えるけど、体育館の周りには一定の間隔を置いているようにも見えなくもない。

 建物の中には入れない的なやつなのか?


「なんだ。安全っぽいし、癒仕さんの言う通りここに籠城してれば―――」

「110番しても、繋がらないんです」

「……というより、スマホが完全に圏外なの」

「えぇー……あ。俺スマホ部屋に置いてきたんだ」


 ホントかどうか確認しようと思ったけど、ゾンビ男に襲われる女を助けるのに必死でスマホなんか持ち出す余裕も無かったんだ。

 しかも結果助けられてないし。


「じゃあこれ……やばくね?」


 外には化け物。

 外部への連絡はできなくて、助けが来るのかもわからない。

 体育館にはそれぞれに避難してきた沢山の人。


 こんなん厄介事の臭いしかしない。


「避難してきた人たちの中に、近くの交番の警察官の方が居て、一応この場を仕切ってくれています」

「はい。これあなたの分の物資。体育館に備蓄されてたもので、およそ一週間分」


 癒仕さんから防災リュックを受け取ると、思いのほかずっしりとしていた。

 確かに一週間は凌げそうな量。

 緊急避難先にも指定されているだろうから、ここに避難してきた人たち、ざっと30人分はあるんだろうな。


「いやいやいや。ゆうて一週間て……」


 冷静に考えなくても、余命宣告受けたような状況じゃん。


「はい。化け物が現れたのがこの街だけじゃないとしたら、連絡手段の有無に限らず救助が来るかもわからない」

「皆、それは分かってる……きっと、一週間と待たずパニックのようなことが起こる。よね」

「うへぇ……こわいわぁ」


 災害大国の日本だけど、それでも大規模な災害が起きた時、その避難生活の中で、裏で、何が起きてしまうかなんて、もう色々と想像できてしまう。

 あれだ、化け物より人間の方が怖くなるパターンだ。


「そう。だから、誰かがこの状況をどうにかしないと」

「英雄……」

「それってあれ? 俺を助けてくれた時のやつ?」


 なんだか遠回しな話し方なので、一応具体的な明言は避けつつ聞くと。


「……はい。この『炎』で」


 立てた人差し指の先に小さく燻る炎がちらっと踊る。

 手品の類じゃなさそうだ。


「あ、熱くないん?」

「はい。不思議と」

「うーむ……」


 正直驚きはするけど、困惑はしないな。

 化け物のフィクションサプライズの後にこれを見ても、『そういうやつね』としかならない。


「それ、いつからできるよになったの?」

「ほんの数時間前。恵と一緒に怪物たちから逃げてる時に気付きました。炎を出せることに」


 やーっぱ、同時期なんか。


「この炎は怪物たちを焼けます。この状況を何とかするには戦って―――」

「英雄! 自分の力を過信しないで! どうしてそんなに結論を急ぐの?」


 まぁ、心配にもなるわな。

 二人は大分親しいみたいだし、その相手があんな化け物に立ち向かおうとか言い出すんだから。

 救井君、偽善的なところの思い込み強そうだし。

 初対面の俺でもわかるくらいに。


「――って、まて?ということは、俺にも救井君みたいな不思議な力が?」


 議論に火が付きそうな二人をよそに、一人色めきたっちゃう。

 それを聞いた二人も反応し。


「そう、ですね。多分そうなると思います」

「……一応、私にも不思議な力が使えるようになってるから」


 おいおいおい。

 さっきは、『そういうやつね』。

 みたいなリアクションとったけど、自分事なら話は別だよ。


「おぉ……ど、どうやって使うの?」

「え? えぇっと……僕の場合は、離れた位置を見えない手で触れるイメージ。ですかね」


 なんだそりゃ。

 よくわからんし、ピンとこないな。

 まぁやってみるか。


「よぉーっし。せーの―――」

「あ! 待って! こんな目立つところで……!」

「炎ーーー!」


 ……。


「あれ。なんもでないや。じゃあ、水! 風! 雷! 土!」

「「……」」


 おかしい。

 マジで何も起きない。


「相手がいないと使えないとか? 私は多分、そうだから」

「相手」


 あれか、治療系のやつとかか。

 一応何が出るかは分からないから、二人にかますわけにもいかない。


 自分自身に意識を集中……


「……」

「「……」」


 ……うん。


「何も起きないじゃん」


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