?話 レベル付き
ちょっと息抜き短期。
一章まで、って感じで一休みかもしれません。
イントロで終わるみたいな。
「見つけたぞ! 『レベル付き』!」
「んあ?」
人が行き交う雑踏で吠える青年と、呼び止められた者。
その者が、声を振り返ろうとした瞬間。
「貫かれろ」
「ちょ――」
『レベル付き』と呼ばれた者の足元は隆起し、岩の槍が突き出す。
複数のそれらは、軌道上の物体を貫き、赤い内容物を辺りに散りばめた。
「……躱したか」
異変に気付いた周囲から、どよめきと悲鳴が上がった。
突き出た岩槍に貫かれたソレから、肉片と液体が滴る。
「おま……せっかくおばちゃんにオマケしてもらったトマト……えぇー」
潰れて崩れた果肉と同じものを頬張りながら嘆く声。
「荷物と……自分の位置を入れ替える【異能】? いや、これはさっきまでこいつが背負っていた物……瞬間移動か?」
岩槍を操る者が、一人呟きながら腕を振るうと、またも地面は隆起し今度は数多の石弾が射出された。
「――いやいやいや。冒頭でも『人が行き交う』って言ってんじゃん。こんな往来でそんなんすなよ」
「! 石弾が、達する前に砕けた?」
パラパラと地に落ちる礫の弾丸。
束の間の静寂の後、渦中の二人を中心に、人混みは騒々しく散っていく。
「その、手の出血……まさか――」
「え? あ、これ。力んだらトマト潰れちゃった――って、あーーー! オレのトマト!」
再びの嘆き。卑しいようにも映るその姿を見据え、岩繰りの青年は続ける。
「まぁ、無手で受けるなんてありえないか……なら、防御系の? だがそれでは岩槍を避けた瞬間移動の説明が――」
自問自答に、ハッとしたような表情を浮かべ。
「そうか。わかったぞ……! 間合いに入った途端砕けた石弾! 自らを任意の座標へ転移! 空間を支配する異能! 聞いたことがある……なるほど、噂通り厄介な!」
「……ん?」
言葉の端に見られる気の高揚。
それに呼応する様に、周囲の地面は盛り上がり。
「その、人の理を逸脱した異能! まさに人類の敵ぃ!」
「でっか……声も」
幾層にも組み合わさった岩の塊が、腕を振り上げた巨人の体を成す。
「ここで、死すべき、存在いぃぃぃぃい!」
巨人の方にとりつきながら吠えると。
巨大な岩塊の拳が大地へと振るわれ、轟音を鳴らし砂塵を巻き上げた。
「はぁ、はぁ……木端微塵、だぁ……」
その者の奥の手ともいえる一撃。
それが成ると、巨人は役目を終え瓦解。
「俺が、俺が『レベル付き』を仕留めたぞ……!」
崩壊する足場、無数に降り注ぐ岩塊。
それらが鳴らす騒音が、自らの功績を称える賞賛の拍手のように悦に――
「――――言っとくけど」
「……へぁ?」
崩壊の音に遮られずに、届く声。平坦で、怒気も、覇気も込められていないような。
場違いな声色。
「俺は、お前らと違って、真っ当に成長してるだけ。なんだわ」
「なぁーーーー!?んぉまえ、一体――!」
ため息。
落下する岩塊に立ちながら――
「マジ聞き飽きたって。何なんだって……そっちが言ってんじゃん――」
『レベル付き』。
「それは……お前がそうだから――」
「そんな化け物じみた力使うより」
跳躍。
「こっちのがよっぽど人間してると思うけどなぁ」
「は? まさか、こんな……こんなものに――」
地を打つ岩石群。
それらが奏でる破壊の騒音の中、とても矮小で、どこかチープに聞こえる打音が――
「お粗末なんて言うなよ。気にしてんだから」
空に響き渡った。