謎の魔法使い ランス=G=ロッド
「いや。誰だよ」
「だから言ったじゃないか。ランス=G=ロッドだよ」
先ほど一撃でドラゴンを撃ち抜いてみせた杖を自慢気に振りかざしながら、魔法使いは言った。
「ランスロットなら知ってるけど」
「あんな裏切り者と一緒にしないでくれ」
「ランスなら知ってるけど」
「失敬な。ボクはあんなふしだらでだらしない猿みたいなエロ人間ではないよ!」
ぶうと頬を膨らませて、不満たらたらのランス。
「そもそも。さっきから聞いていれば。ボクはれっきとした女の子だぞ!」
確かに。
顔つきだけはややボーイッシュだが、出るところはしっかり出ているし、声も身体付きも立派な女の子である。
「じゃあ、なんでランス?」
「君の物差しで測るな。別に女の子がランスでもいいじゃないか」
「悪かった。こっち? この世界? では、普通の名前なんだね」
「いや、男性の名前ですけど?」
「???」
「~~~」
無言と謎のにらみ合い笑顔合戦が続く。
ついに折れたか、彼女は顔を真っ赤にしながら、あわあわ言い繕い出した。
「い、いいじゃないか! 別に! 女の子が! ランスでもっ!」
「そんなに恥ずかしいんだったら、名前変えたらいいじゃん」
「名前にー、魔力宿るからぁ、ぐすっ、変えられないんだもん……」
ちくしょう。かわいい。反則かよ。
「わかったよ。泣くなよ。ランスちゃん」
「……ぅん。わかればよろしい」
杖を立て直し、すまし顔。つい泣いてしまったことをなかったことにしようとするランスちゃん。
ここは話を合わせておこう。何か別の話題にでもしよう。
でもあまりに何も共通点がないので、一文字だけ話題がずれた。
「Gは、GカップのG?」
「光の速さで失礼な! 確かにそのくらいはありますがっ! ただのミドルネームだい。何の略かは知りません!」
「知らないんだ」
「知らない。うちの家系、ノリで生きてたから。両親親戚、みんな死んじゃったけど」
いや、うん。さらっと重い設定出てきましたね。
つい哀れみの気持ちを抱いていると。
「同情は一枚の銀貨にもならないよ。別に気にしてないし。ほんと」
じと目で睨むランスさん。もしかして心とか、読めたりします?
「てかさ。何でランスロットとかランスとか、普通に知ってんの?」
「記憶イメージを見せてもらってるの。君、明らかにこの辺の人じゃないからね」
「あ、そう」
さらっとすごいことされてんな。
「そう。とりあえず失礼の塊だけど、人畜無害ではあるね。君」
生まれてこの方。女の子を襲ったことはございません。
でもリアルにこっちだけ覗き見されてるの、ちょっとずるいな。
どれ。
「めぐみんみたいな格好しやがって」
「失敬にもほどがあるぞ。君は一々何かに例えないと気が済まないのか? これがボクのセンスで、個性なんだよ」
「エクスプロー――」
「するかっ!」
ポカ。杖で殴られてしまった。
ただ、叩き方に加減があるのが窺えて、根は優しいのかもしれない。
「そういやさ」
「何だい」
「どうして俺なんか助けてくれたんだ」
「ふむ。さっきから開幕死にかけた割に、肝が据わっているね」
「そこは生死感が軽いのかも。あはは」
昔からもっと命大事にしろって、言われてたもんなあ。
それはいいんだ。
どうしてこの子は。わざわざ危険を冒してまで、俺をドラゴンから助けてくれたのだろうか。
それこそ、一枚の銀貨にもならないのに。
「簡単なことさ。実に取るに足らない、シンプルな理由だ」
でもランスは、それがさも大事なことだと言わんばかりに。
両手を広げて、笑って言った。
「君と一緒だと退屈しない。バカみたいな大冒険ができそうな――そんな予感がしたからだよ」
そんな、宝石のような笑顔を振りまかれては。
俺はもう、君の手を取るしかないのだった。
でも、神様。
昼寝してただけで謎に異世界転移させるの、やめてもらっていいですか。