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「はいはい! まだ決まったわけではありませんが、なるべく早くに皆がお勉強出来る様にしたいと思います」


 パンパン! と手を打って興奮し収拾がつかなくなった子供達を落ち着かせる。


「お勉強するには色々必要なものがありますから皆にも何がしたいか聞いていきます。が、まずはおやつにしましょうか。私の旦那様が皆にお菓子を買ってくれましたので。……先生方、子供達にあげてもよろしいですか?」


 勝手に仕切っちゃったわ、と慌てて職員の方に確認の視線を向けると職員は笑顔を浮かべて頷いてくれた。


「ではこれもお勉強の一環にしましょうか。ちょっと皆立って年の順に並んで」


 子供達がガタガタと立つと年長の子達が仕切って並びはじめる。その間に子供達の数を数えると五四人だった。


「はい、では年長さん九人は前に並んで。年長さんが隊長でそれぞれ六人の隊を作って下さい。赤ちゃんは私が抱っこしますから」


 赤ちゃんを抱っこしていた子から赤子を受け取り、あやしながら子供達の動きを見ていた。

 あーでもないこーでもないと言いながら六人ずつに別れた。


「あの、奥様……赤子は私が……」


 職員が恐る恐る手を差し出してきたが大丈夫ですよ? と断る。

 私は子守りもした事があるので大丈夫なんですよ? よく一緒に遊んでいた子達の弟妹の子守もしていましたしね。


「はい、上手に六人ずつ別れる事が出来ましたね。ではその六人で纏まって座って下さい。クッキーと飴が入った袋、クッキーと飴を置く紙を渡しますので皆に数が同じになるように年長さんが中心になって分けて下さいね」


 数の数え方は年長さんは分かっているらしいので大丈夫だろう。職員に袋を子供達に渡してもらう。

 はしゃいでいる子を嗜めている子。おとなしくしている子。小さくても仕切っている子と様々な様子だ。

 クッキーと飴玉って食べた事ない子もいるだろうに分かるのかなと思って見ていると孤児院に来る前に食べた事があるという子がちゃんと説明していた。


「……リーナ、赤子を抱くのも子供達を導くのも慣れているな……?」

「ええ。よく面倒を見ていましたので。リックも赤ちゃん抱っこします?」


 赤ちゃんといっても首も座っていますし慣れていないだろうリックが抱っこしても大丈夫でしょう。


「……してみる」


 そっとヘンドリック様が手を出したので赤子を渡す。居心地が悪いのか泣きそうになる赤子にヘンドリック様が慌てるが、手をこうして、お尻を優しくポンポンして、と指導すれば赤ちゃんも落ち着いた様子だ。


「ミルクはどうしてます? 離乳食も作れていますか?」

「近くの母乳の出がいい母親に頼んでいます。離乳食もどうにか」

「そう……赤ちゃんを育てるなんて大変ですのに……」


 職員に確かめると職員は大丈夫ですと頷いた。

 子供達も職員も痩せてガリガリだ。赤子もとてもおとなしいいい子だ。小さくとも環境が分かっているのかもしれない。


「赤子は孤児院の前に捨てられていました。今の国王陛下になってからでよかったです。以前であればこの子は生きられなかったでしょう」

「……辛かったですね」

「いえ。今の陛下には本当に感謝しております」


 ヘンドリック様と顔を見合わせ互いに笑みを浮かべた。


 お菓子を分ける子供達は自分のが少ない、そっちが多いなどと喧々轟々している。年長の子は説明したり、うるさい子に注意したりと面倒見がいい。

 貧しいながらも助け合って生きてきた事が見てとれた。


「はい、分ける事ができましたか?」


「あの……余ります……」


 自信なさそうに一人の年長さんが手を上げた。


「余った分は先生の分です。さて、皆何個になりましたか?」

「クッキーが二個と飴が三個です」


「ではそれが自分の分です。数が数えられて計算が出来れば自分の分が多いか少ないか分かる事が出来ます。またズルをしてないかも分かります。ここにはいい子達ばかりでズルをする子はいなかったみたいですね。さぁ、まずは皆一枚クッキーを食べましょう。一枚ですよ?」


 やったー! と一斉に皆クッキーを頬張るとぱーっと表情が華やかになった。

 おいしい! 甘い! とあちこちから歓声が湧く。

 まだある、もっと、と自分の目の前のお菓子に涎が垂れてきそうになっている。


「はい、ここでまたちょっとお勉強です。今皆クッキーを一枚食べました。残りはクッキー一枚と飴が三個です。この残りのお菓子は勿論自分の分です。さて、残りをどうしましょうか? 今全部食べてもいいですし、今は食べないで後で食べてもいいです。クッキーは早めに食べた方がいいですが、飴はしばらくの間腐ったりする事もありませんから明日でもいいし、明後日でもいいです。一人ずつ紙に渡したので自分の分が分かりますよね? 今食べないで後で食べたい子は紙に先生に名前を書いてもらって先生に預けるように。今全部食べちゃいたい子もいると思いますが、それでもいいです。ただ、後で食べると取っておいた子が食べている時に羨んだりはしないように。今食べるのを我慢して後から食べるだけで皆数は同じく貰ったんですから。さ、皆どうします?」


 食べちゃう! とバリバリ一気に食べちゃう子。クッキーだけ食べて飴は大事に残す子。飴を食べ残りを包む子と様々だ。

 どうしたらいいか色々考える様になって欲しい。きっと今まではそんな余裕もなかっただろうが、これからは私がそんな余裕ないような事にはさせないので!


 行動を見ているだけでも計算力が高い子、後先考えずに進む子、と同じ環境でも性格は様々なのだ。

 残した子達は大事そうに紙に包み、先生に名前を書いてもらって預けていた。

 

「先生方も後で食べて下さいね」

「ありがとうございます」


 二人が頭を深々と下げた。



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