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ヘンドリック様に手を引かれ大通りを走る。人の波に紛れる様に人の合間を縫いながら。


「抱き上げてもよいのだが?」

「かえって目立ちます!」


 走りながら、笑いながら大通りを駆け抜け、人通りの少ない裏通りに入った所で歩みを緩め息を整えた。


「もう! あんな目立つ事やめて下さい!」

「ははっ! すまない」


 謝りつつも反省はしていないのかヘンドリック様は楽しそうに笑っている。

 ……楽しそうならいいかな、と思ってしまうんだから大分ヘンドリック様に絆されているな、と思ってしまう。


「ちょっと早いが孤児院に向かおうか。距離があるが途中で子供達に甘いお菓子でも買おうか」

「いいですね!」

「疲れていないか? 足は大丈夫か?」

「リックが用意してくれた靴は踵が高くないので平気です。ところで」

「ん?」

「先程聖女とかナントカおっしゃってましたけど、あれは何です?」


 突然膝をついたのでびっくりして何を言ったのか頭に残っていない。だって! この国の国王が膝をつくって!


「ああ……うん」

「うん、じゃなくて!」

「そのうち分かるだろう」

「?」


 ヘンドリック様は教えてくれる気はないらしい。一体何でしょうね?


「子供達に持っていくのはクッキーとか飴でいいと思うか?」

「そうですね。日持ちしますし多めに持っていきたいですね」


 孤児院や貧民街の子らは甘いお菓子など滅多に口に出来ないはず。ヘンドリック様が即位してからは今まで横領されていた分の助成金もきちんて入っているはずだとは思うけど、子供達全員のお菓子を買う余裕はないはずだ。


「どれ位買えばいいだろうか?」

「王都の孤児院の子供の数は確か五〇人前後だったはずです」


 孤児院関係の書類は私も見たので覚えていた。多少前後するかもしれないが。

 ヘンドリック様とお菓子を売る店に入り、袋詰めしてあるクッキーと飴を多めに買ってゆっくりと街の中を歩いていく。


「孤児院からさらに奥の裏通りから貧民街になる。貧民街をなくしたいのだが……」

「……仕事が、働く先があればよいのですが」


 大通りや街の中心はあんなに活気があったのに歩いて来られる距離でもあっという間に街の印象が変わる。

 人々の住まいもどう見ても富や財には無縁の様な佇まいの景色になってきて、ヘンドリック様が言われる通りに貧民街が近いのだろうと肌で感じる事が出来た。


「その角を曲がった先が孤児院だ」


 ヘンドリック様の言葉に頷く。

 ところで護衛がつくという話だったんですがどこにいるんでしょうね? 人通りが少なくなったのに全然それらしき人が見えないんですけど。走った時に撒いたわけじゃないですよね?

 ヘンドリック様が何も言わないのだから問題はないんでしょうが。


 角を曲がると周囲よりも大きな建物が見えた。あれが孤児院ですか。


「……随分と建物が古くなっているようです」

「……そうだな。新しく建て替える事を考えた方がいいか」


 開きっぱなしの門から孤児院に入る。ヘンドリック様がドアをぎぎいと軋む音と共に開けた。


「いらっしゃいませ」

「久しぶりだ」


 出迎えてくれたのは優しそうな老婆と壮年の女性だった。この二人が孤児院を管理してくれているのだろう。


「リック様、お久しぶりです」


 二人が恭しく頭を下げた。ヘンドリック様が国王だと分かっていらっしゃるのかしら?


「貴族だとしか言ってない」


 ヘンドリック様がこそりと私の耳元に囁く。

 

「妻のリーナだ」

「ご結婚されたんですね。おめでとうございます」


 ふわりと二人が笑みを浮かべながら祝福を述べたが、本当に嬉しそうで私の心も温かくなる。


「でも貴族の奥様にここはちょっと……」

「気にしなくて結構ですよ? 建物は大分古い様ですが掃除が行き届いているのが分かりますので」

「あ、ありがとうございます!」


 二人が感激したと言わんばかりの表情で、ぱっと顔を輝かせた。


「子供達は全員入れる食堂に集まっていますが……」


 どうしますか? と聞きたそうに老婆が言葉を濁す。

 多分寄付だけして終了、って事もあるかと思ったんでしょうね。

 そんな事しませんが。


「案内していただけるかしら?」


 二人に食堂に案内されながらヘンドリック様と資金繰りや食事事情などを聞く。

 やはりヘンドリック様が即位される前はかなり困窮していたらしいが、今は余裕があるほどではないが子供達もきちんと食べられる様になったらしい。

 それでもこの二人の格好を見てもつぎはぎがしてあったり、建物のあちこちに穴が開いていたりとまだまだ足りなさそうだ。


 ……今度お茶会でも開いて寄付を募った方がいいですかね?

 でも一時的な事ではなく恒久的にどうにかしたいのですが。


 二人に案内された食堂に行くと子供達は騒ぐ事もなく私達を迎えた。

 前もってヘンドリック様が訪問を伝えていたのだろう、貴族相手に失礼がないよう言い付けられていたらしくお行儀よく皆座っている。

 小さなまだ歩かない赤子は大きな子が抱っこしていた。


「畏まらなくていいのよ? いつも通りにしてね。誰か私に中を案内してくれないかしら?」


 はーい! はい! と元気な声が聞こえて笑みが浮かんだ。子供達の元気な声はいいものですね。

 女の子達が集まり私の手を引いていく。ヘンドリック様には男の子が集まっていた。


「お姫様ですか?」

「違うよ! 金色の髪だからきっと聖女様だよ!」

「えー!」


 わいわいとおしゃまな女の子達は私の格好や容姿に興味があるらしいが、先程ヘンドリック様の口からも聞こえた変な言葉が混じっていた。


「聖女様って?」


「聖女様は隣の国から来た王妃様なの!」

「聖女様のおかげで私達ちゃんと食べられるようになったの!」

「金色の髪で優しくて綺麗なんだって!」

「お姉さんも金色の髪だし優しそうだもの」

「聖女様だよ!」


 いやいやいやいや……。何て突っ込んだらいいのか。



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