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「リック、リックは私の旦那様でいいのかしら?」

「設定か? それでいい」

「はーい!」


 らららん、と鼻歌が出そうになるのを堪える。

 だって! ずっと猫被ったままの生活だったんですもの! ちょっと位なら走ったりしてもいいかしら?


 色々期待に胸膨らませながらヘンドリック様に手を引かれ、淡い光を放つ光り苔が生える迷路みたいな通路をしばらく歩くとヘンドリック様がここだ、と先程と同じように取手を回し薄暗い通路から出た。

 壁伝いに歩いていたのに出口は階段を登って上にあった。隠し通路はヘンドリック様が言ってらした出口、小屋の床下に繋がっていたらしい。


「俺はもう何度も使っているから迷わないがリーナが使う時は迷うか……」

「リックと一緒の時だけしか使わないので大丈夫です」


 いくらお転婆と言われていた私だって無謀な事はしない。私一人で使う気はないし、それ位は私だってちゃんと分かっています。


「ところで、何も言わずに出てきて本当によかったのかしら?」

「ふっ……今更だな。今日は二人で休みだから起こしに来るなと言いつけてある。昼頃までは気づかれないんじゃないか? 気づいたら気づいたでまたか、と思われるだけだ」


 ヘンドリック様は笑いながらそんな事を言った。でも、ヘンドリック様がいなくなるのには慣れているのかもしれないけれど私までいいんですかね?


 とはいってもここまで来て城に戻るつもりは毛頭ありませんが。

 この小屋はお城からの抜け出し口としてだけ存在しているらしい。本当に何もない小さな小屋からヘンドリック様に手を引かれて外に出た。

 朝早い時間だし、王家所有地という事らしく周囲に人影はない。そこから王都の中心にある大通りに向かうにつれ人の波が段々と増えてきた。



「すごい人ですねー」

「あまりキョロキョロしてると人波に連れて行かれるぞ」


 ぎゅっとヘンドリック様と繋いでいる手に力を入れる。

 さすが大国といわれるイーデンスの王都だといわんばかりの人の多さだが、ヘンドリック様は慣れているのか迷う素振りもなく朝市に向かう。

 大通りにも屋台がいっぱい出ていていい香りや煙、威勢のいい声も聞こえて私はどうしても視線がキョロキョロしてしまうのですが。


「先に何か食べるか? 朝市で買い物するわけでもないし」

「はい!」

「あっちに簡易テーブルを並べている広場がある。食べたいものを買いながらそっちに向かう事にしよう」

「はい!」


 何がいいかなーとヘンドリック様と一緒に屋台を冷やかしながら見ていく。肉の串焼きやスープ、パンや食べやすく切られた果物を売っている屋台もある。

 私の故国オルフェは食糧難なのに国土の広いイーデンスには何の影響もないみたい。


「イーデンスは不作とは縁がないみたいですね」

「そんな事はない。やはりオルフェと近接している地域は作物が軒並み不作だ。勿論オルフェと同じように支援してある。我が国は広く気候が異なる地域があったから助かった。オルフェはしばらく苦しいだろうな……」

「そうですね……でも陛下のおかげで本当に助かりました」

「勿論これからも何かあれば助けるつもりだ」

「……ありがとうございます」


 雑踏の中での会話は周囲には気づかれないだろう。

 元々先王に人身御供で嫁ごうとしていた私を陛下も陛下の家臣も大事にしてくれている。それだけでもありがたい事だ。


「リーナ、王都名物パンの揚げ焼きだ。食べるか?」

「はい」


 二人で色々な食べ物を買い、広場でそれらを美味しくいただき、その後は市場で色々な売り物を眺め、ヘンドリック様は値を確認していた。

 私の国の王族は気軽に市井に出ていたけれど普通王族は簡単にそんな事はしない。私の国とはいってもここイーデンスに比べたら精々田舎領主位の規模でしかないんだから比べるのも間違っている気はするけれど。

 何にせよ普通は王族どころか貴族だってほいほいと市井に出る事なんてないだろうに。


「リックは慣れてますよね?」

「まあね。一応教育はされてはいたけれど放置されていたからな」


 先王は財や富、名誉など民の為に使うのではなく独占し欲に塗れていたらしく、王太子だったヘンドリック様にさえ嫉妬を向ける程だったらしい。

 施政者としても親としても失格だと言わざるを得ないだろう。

 病に倒れ、意識は戻ったが動ける状態ではなく今は王家保養地で療養している。

 ……幽閉とも言うんでしょうけど。


「陛下が即位されて国も民も助かりましたね」

「……そうであればよいが。何しろ我が身にも忌まわしい血が流れているからな。もしかしたら俺も変わってしまうかもしれない」


 横を歩くヘンドリック様に視線を向けるとヘンドリック様は顔を顰め、口元にはやるせない苦笑。

 自分の血筋を忌まわしいなんて……。


「大丈夫です。リックが間違いそうになったら私が引っ叩いてあげます。……不敬で処刑になりますかね?」


 ヘンドリック様が目を大きく見開き足が止まる。後ろから歩いて来た人がぶつかりそうになったので慌ててヘンドリック様と繋いでいた手に力を入れて引っ張るとヘンドリック様がはははっ! と声を上げて笑い出した。


「俺を引っ叩いて! ははっ! 是非頼む!」


 ……楽しそうで何よりです。


「救いの聖女でもある我が賢妃よ! 我を正しき道に導いてくれ」

「ちょ! ちょっ! な、何をっ! やめてっ! 目立ちますってば!」


 突然ヘンドリック様がその場に膝まついて叫ぶと私の手を取り恭しく手に口づけした。


 やーめーてー! 目立ってます!!!


 私達の周囲がざわざわとしはじめた。


「おっと、まずいな……バレないうちに逃げないと。リーナ走れるか?」

「勿論です!」


 

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