再び招かれたのですが
「佐藤 晴斗さん。ようこそ女神の部屋へ。晴斗さん、あなたは死んだのです。」
「……えと。俺……また死んだんですかね?」
俺は女神様の部屋を再び訪れていた。
俺の2度目の人生はおよそ1ヶ月と言う時間を経て終わったらしい。
「随分と落ち着いていらっしゃるのですね。あんな殺され方をされたというのに……。」
目の前の女神様はそんなことを言ってきた。
「えっと……?」
今回の女神様は燃えるような赤髪で碧眼の女神様だ。全体的に小柄な体型をしており、『ロリっ子』属性が付くような子だ。
このロリ女神様も顔はとても整っている。まだまだ子どもと言うべきあどけなさが残るが、ただならぬ雰囲気を醸し出している。
「――えっとですね。ハルトさんは魔物の群れに首を噛みちぎられまして……。その……首と体が別れました。」
「……。そりゃあ死にますね。」
そんな死因を聞かされたおれは。またもや落ち着きながらそう言った。
――だってトラックかと思ったのに熱中症だったとかくだらない死にかたをしたこともあるのだ。あんな魔物に首噛みちぎられたなんて予想の範疇だ。
「本当に落ち着いていらっしゃいますね。」
「いえいえ。俺2回目なんですよ、死ぬの。もうなんか慣れました。1回目はありえない死に方したし、異世界は全然優しくないから自分1人で頑張ったんですよ。」
「でも、辛いことだけではなかったのではないですか?」
「――」
言葉が出てこない。この女神様は酷い人だ。頑張ってソクラテスさんをきっかけに好きになりかけた世界のことを思い出さないようにしてたのに......。
「ウッ……。」
言葉の代わりにそんな嗚咽を漏らす。
口は乾いて動かないが頭では走馬灯のように異世界での思い出が駆け巡っていた。
長いようで短く、短いようで長い回想を抜け、
「あの……。すみません。俺もう一度あの世界に行けたりします?」
俺は一通り落ち着いてそんなことを聞いていた。
「ハルトさん。先程あなたは1度死んで異世界で暮らしたと言っていましたよね?」
「……はい。1度死んでからこの世界に転生しました。」
あぁ、無理そうかも。実際何回も生き返ることが可能なら色んなことが狂うだろう。
「そうですか。では可能ですよ。ですが……。」
そこで女神様は1度言葉を切った。
「えっ。可能なの?!」
「はい。ですが、あの世界の蘇生方法は腕のいいヒールマスターなどが遺体に蘇生魔法『リザレクション』を使用することで生き返れます。」
なるほど。蘇生の方法はあるらしい。もう一度あの世界に戻れるかもと聞いて思わず嬉しくなる。
「しかしながら相当な腕じゃないと扱えない最上級光魔法です。あなたが居た『フスト』のような初心者冒険者の街では扱える者はおそらく……。しかもハルトさんは先程転生者と言ってましたが、転生者は基本1人ですので、リザレクションを扱える者を探してくれる人は……。」
なるほど。無理ゲーだ。俺は転生した後にパーティーなんて募集かけたっきりだし、友達もいない。しかもあの大量の魔物に殺されたのだ。そもそも遺体がない可能性だって有り得る。
俺の人生の第2章は幕をしっかりと閉じたみたいだ。幕を開ける機会までしっかりと無くして。
そんなことを考えていると、
「そういえば転生したと言っていましたが、珍しいですね。普通は転生者はあまり死なないものなのですが......。まあ魔王軍のケルベロスなんかに集られたりしたらその限りではないと思いますが。」
そう笑いながら言ってきた。
「……は?」
おい、今なんか変なこと言ってたぞあんま死なないとか魔王軍のなんちゃらとか......。
「えーっと。すぐコロッと死んだ理由って多分俺がチート持ちじゃないからじゃ......?」
厳密に言えば貰ってはいる。が、1ヶ月も経ってないのだ。貰ってないと言っても差し支えないだろう。
「え?いや、転生者にはチートをっていうのが転生規約にあるのですが......。」
「いや、厳密に言うと貰いはしたんですよ。でも結構経っても貰えなくて......。」
「……。それはおかしいですね。ちなみに何を貰ったのですか?」
「えっと。確か『各最強の冒険者1名』だったはずです。」
「それは……。」
そんな事を言いながら女神様は何かの資料を取り出しペラペラと捲る。
「規約では転生直後何かしらのきっかけがあり、関係を持てるはずなのですが……。もしかしてパーティ加入を断ったり……?」
「いえ。パーティ加入のパの字もなかったです。」
「――」
「――」
しばしの時間気まずい沈黙があり、
「……えっと。ハルトさんの転生担当女神に聞いた方が早いですね。どなたですか?」
「えーっと。名前はきいていないのですが......。金髪で紫の瞳でした。」
「――」
何故か黙る女神様。そして気まずそうに、
「転生前の世界って日本ですか?」
「ですよ。」
「――はぁ。ほんとに……。」
なんか疲れた表情をしながら大きいため息……。疲れてますね。
「えっと……。リザレクションまでは時間があるので先輩の所に行ってきます。少し座って待っててください。」
「先輩なんですか?!」
まさかのあれとこれは先輩後輩の関係なのか?! あれが先輩なのによく出来た女神様に育ったな。
いや、あれが先輩だったから反面教師となって良い後輩ができたのかもしれない。
「そうですよ。ほんと先輩がすみません。では行ってきます。」
「あの……! 俺も行っていいですか?」
あんの女神に会えるチャンスだ。文句のひとつぐらい言ってやる!!!
「いいですよ。では行きましょう。」
女神様はそう言って歩き出す。俺はそのちっこい背中を追いかけた。
「そいえば女神様って名前なんですか?」
「私ですか? 私は『マレス』です。」
「マレスさんでいいですかね?」
「大丈夫ですよ。」
「そういえばマレスさんはいつからここにいるんですか?」
「いつからかなんて覚えてませんよ。膨大な時間をここで過ごしたので......。」
「そうですか……。」
そんな雑談をしながらしばらく歩いた。
ちなみに雑談の内容はほとんどがマレスさんの苦労話だった。あの女神に相当苦労をかけられているらしい。マレスさんがほとんどの後処理をしているらしく、とても大変だそうだ。
そんな女神の部屋につくと、
「先輩? 入りますよ?」
そう言葉少なめに言って扉を開けた。先の砕けた口調から信頼関係が伺える。
扉の奥には、
「あら? どうしたのよマレス?」
呆けた面でスナック菓子を食べている女神がいた……!!
「どうしたもこうしたもないですよ。先輩の不手際で死んだ子を連れて来たんですよ。」
そう言ってマレスさんは早速本題にはいった。
「ん……? その子のこと? その子誰よ?」
やべえこの女神1ヶ月前のこと忘れてやがるよ。どんだけ残念な女神様なんだよ。
「覚えてませんか? ハルト君ですよ。サトウ ハルト。」
「あーーー!! 居たわねそんな子。もう随分前だから忘れてたのよ。」
あぁ。ダメだこの子。ってか素で忘れてんのかよ!少し悲しいぞ。
「先輩この子にチート持たせてないですよね。そのおかげて死んじゃったんですよ!」
「あー忘れてたのよ。......でもあげてもあげなくても死んだと思うわよ?だって引きこもりだし。」
「おいこらくそ女神。お前どんだけ引きこもりに恨みあるんだよ!あとあの世界じゃちゃんと働いてたし!引きこもってなんかいないから!」
ことの成行を黙って見ていた俺は堪らずそう叫んでいた。
「ちょっと先輩?! 反省してますか?!」
「ハルトだったかしら?ごめんね?」
やべえ。こいつ清々しいほどに反省の色が見えない。なんかほんとマレスさんが浮かばれない。多分思ってる以上に苦労者だ。
「お前ふざけんなよ?! お前のせいで死んだんだからな?! お前人間の価値舐めんなよ?! 相当高くつくからな!!」
「何自分が価値のある人間だと思ってるんですか? 残念ながら私の見通す目によると、あんたなんか100円で充分だわ!! クスクスー。」
「お前言わせておけば! こんのくそババアが! お前何歳だよ! 言ってみろよ! あ? お前どうせ2000歳ぐらいだろうが! そんな年齢詐称の女神よりは価値が高いと思うよこの年増女神が!! お前ピチピチの高校生に勝てると思ってんのか?
あ? このくそババアがぁ!!」
そんな風にまくし立てると、
「ぐすっ……、うっ、うええええええええっ、うわあああああああああ……!!」
なんと。このいい歳した女神は泣いてしまった。少し言いすぎたかなと思っていると、
「あの……。ハルトさん?リザレクションがかけられたみたいで生き返ることができますが……。」
「……!! まじですか! 生き返ります!!」
「作用ですか。ではまた私の部屋まで。そこから現世に送り出します。……あの、先輩? その……チート管理お願いしますね?」
俺たちは未だ泣いている女神の部屋を後にした。
「はい。ではこの門を潜れば生き返りますよ。もう生き返れないので気をつけて生きてくださいね。」
「はい。ありがとうございます。その......あの女神に謝っといて下さい。少し言いすぎました。」
「大丈夫ですよ。先輩には少し指導も必要でしたから。少し効きすぎたみたいですが……では、次会う機会がないことを祈っています。」
「ありがとうございます。では。」
そう言って門をくぐる。ここから俺の快進撃が始まる。なんせ次からはチートがあるのだ。存分に俺つえぇ!! をするとしよう。ここから俺の魔王を倒す英雄伝の始まりだ!!!
そんなことを思いながら数歩進む。すると視界が白く光り……。
皆様が読んだ感想を教えてくださると嬉しいです。
ダメだしや、誤字脱字などでも、教えてくださいね。
皆様の感想は全て読ませて頂き、今後に活かしたいと思います。
ここまで読んでくださった皆さん本当にありがとうございました。