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【外伝】なぜか親友の娘と同居する事になったんだがどうすればいい!?

作者: 下端野洲広

箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

「ん?」


 ある日曜日にラノベを読んでいると、ブーブーと携帯電話が鳴っている事に気付く。

 携帯電話を手にして画面を確認すると『祭川誠也』と表示されていた。誠也は俺こと神白弘人の親友であり、小学生の時からすでに5年以上付き合いが続いている。


 何か用でもあるのだろうかと思いながらも通話のボタンを押す。


「もしもし、誠也か?」


 いつもならすぐにうるさいくらいの明るい声が返ってくるのに、今日はやけに静かで少し不思議に思った。


「・・・弘人に相談がある。今から出てこれないか?」


 いつになく真剣な声音に思わず身構えてしまう。いつもの誠也を知っている俺としては違和感しかない。これは余程の相談内容なのだろうと思い、俺は気を引き締めた。


「今日は暇だから大丈夫だ。どこに行けば良い?」


 誠也が指定してきたのは近所にある喫茶店である。静かな雰囲気が漂っている所でもちろん行った事はあるけど、誠也と一緒にという意味では今まで1度も利用した事が無かった。

 これだけ普段と違う言動だと俺まで謎の緊張感がこみあげてくる。とりあえず部屋着から着替えて喫茶店へと急いだ。




「態々呼んじまってすまねえ」


 誠也が頭を下げてくる。普段のおちゃらけた感じとはかけ離れた態度を見ると、何か良くない事が起こったのではないかと思ってしまう。


「気にするな。それよりも相談というのは何だ?」


 俺は早速本題を促す。一体どんな内容なのだろう。金銭面か人間関係か、はたまた何か事件に巻き込まれたのか。

 中々話し始めない誠也に少しやきもきしていると、ようやくポツリと一言呟いた。


「か、彼女の事を教えてくれ・・・」

「はぁ?」


 俺の脳内で疑問符がいくつも浮かび上がる。身構えてきた結果出てきた言葉があまりにも意味不明だったからだ。彼女って一体だれの事だ?それに何を言おうとしてるのか。


「だ、だから、ソロで歌ってた彼女の事だ!」

「ソロで歌ってた・・・?ああ、加賀美さんか」


 これには少し説明が必要である。まず俺は今コーラス部に所属していて、先日に合唱コンクールの地区大会があったのだ。

 誠也は応援するために会場へ来ていて、俺が所属しているコーラス部の自由曲にソロパートがあり、それを歌っていたのが加賀美さんという訳である。


「か、加賀美さんって名前なんだな!頼むから色々と教えてくれ!」


 俺の両肩を掴んで強く揺さぶってくる誠也。頭が揺れて気分が少し悪くなってくる。


「ちょっと待て!少し落ち着けよ!」

「す、すまねえ・・・」


 すぐにシュンとなって落ち着く誠也。こんな姿は珍しいけど、今までの言動で何となく事情が掴めた気がした。


「とにかく最初から話を聞かせてくれ」

「お、おう。実は・・・」


 誠也がはポツポツと事情を話し始める。余計な前置きが色々と多かったけど、要約すると加賀美さんのソロパートを聴いて完全に心を奪われたらしい。つまりは一目惚れという事である。

 あまりに深刻な表情をしているものだから変に身構えてしまったけど、結果的に見ると悪い事ではなさそうで一安心である。


「だいたい分かった。それにしても誠也が加賀美さんの事を知らないとは思わなかったな」

「2年になってからはレギュラーを取る事で頭が一杯だったんだよ」


 誠也はサッカー部に所属しており、1年生の頃からかなり注目されていた。ただ、俺達が通っている高校のサッカー部は全国大会の常連と言われる程の名門であり、誠也のレベルでもレギュラーの座を獲得する事はかなり難しかったのだ。

 とはいえ、今はレギュラーを取って活躍しているから流石というしかない。


「そういやそうだったな」

「んな事よりも早く教えてくれ!」

「分かった分かった」


 俺は軽く溜め息を吐きながら説明を始める。

 加賀美さんの本名は加賀美瀬莉香(せりか)さん。俺と誠也が高校2年生になった頃に転校してきたのだ(理由までは分からない)。

 腰まで伸びている艷やかな黒髪にモデル並かそれ以上の綺麗な顔立ちとスタイルを持つだけなく性格も良い。さらに頭脳明晰で運動も出来るまさにパーフェクト女子と言って良いだろう。

 しかも日本で有数の大企業である加賀美コーポレーションの社長令嬢という肩書きもあり、神様はなんて不公平なんだと思わずにはいられない。


 そんな加賀美さんだけど、コーラス部に入部したきっかけは新入生歓迎のオリエンテーションでコーラス部の合唱を聴いて感動したからだそうだ。

 もちろんというべきか、加賀美さんのスペックの高さは入部してからも遺憾なく発揮された。声量の大きさもさる事ながら何よりも透き通るような美しい歌声は聴く人全てを魅了するかのようであった。

 入部して日が浅いにもかかわらずあっさりとソロパートの座を勝ち取り、地区大会で優勝出来たのは彼女の力によるところが大きい。


「・・・なんつーか、凄すぎねえか?」


 俺が一通り説明を終えた時に誠也が最初に呟いた感想である。


「俺もそう思う」


 あそこまでスペックの高さを見せられると嫉妬する輩も出てくるはずだけど、今のところ見たことは無い。これも一切嫌味の無い性格の良さというか人望の為せるわざなのか、もしくはあまりにもレベルが高いから比較すら出来ないのだろうか。


「か、彼氏っているのか?」

「分からん。聞いた事無いしな」


 ちなみに告白されたという話も聞いた事は無い。普通であればかなり告白されそうだけど、あまりに高嶺の花なので男子の方が怖気づいてしまうのだろう。


「そうか・・・。まずは俺を知ってもらわねえと始まらねえか。よし!」


 誠也は何かを決意したかのような表情になると、俺にこう告げてきた。


「頼む弘人!加賀美さんに俺の事を紹介してくれ!」

「はぁ!?いきなり何言い出すんだ!そもそも俺だってそこまで親しい訳じゃないぞ」


 同じ部活に所属しているとはいっても、加賀美さんとの接点はあまり無い。精々合わせ練習をする時に一言二言話すくらいである。その程度の間柄でどう声を掛けて紹介しろというのだろうか。


「そこを何とか頼むぜ!」


 誠也が頭を下げてくる。俺の知る限り誠也はこれが初恋のはずだから、出来れば応援をしたいという気持ちもある。ただ、どう考えてもいきなり誠也を紹介するのは不自然としか言いようが無い。


「悪いけど無理だ・・・」


 俺が首を横に振ると、誠也はガックリとした表情になる。


「そ、そうか・・・。いや、無茶な事を言ってすまねえ」

「力になれなくてごめん」

「はは、気にするな。教えてくれてありがとよ!」


 明るく振る舞ってはいたが、浮かない表情は隠しきれていなかったのだった。




 その後しばらくの間は良い案が思い浮かぶ事もなく、普段通りの日々を過ごした。誠也も最初は少し元気が無い様子だったけど、サッカー部の練習が忙しくなってからは考えている余裕も無くなったのか徐々に元の状態に戻りつつあった。


 このままお互いが交わる事は無いかと思い始めたある日、きっかけは突然訪れた。


 久しぶりに誠也と2人で休日にショッピングモールへ出かけたのだ。

 その日はゲームの発売日で、長い行列を並んでようやく買えた事にホッとしつつ雑談していると、2人の男に1人の女性が言い寄られている場面に遭遇したのだ。


「君可愛いねぇ~。俺達と遊びに行こうぜ〜」


 2人の男は金髪にピアスと明らかにチャラ男といったところである。


「いえ、これから予定がありますので」


 そして女性の方はあの加賀美さんであった。


「はは、予定なんてすっぽかしちまえよ。俺達と遊んだ方が絶対楽しいって〜」


 加賀美さんが何度断っても2人の男はしつこく迫っていて、表情から見ても困っている事は明らかである。

 周りにはかなりの通行人が居たけど、誰もが見て見ぬ振りをしている様子であった。


「あいつら・・・」

「ああ、ちょっとまずいかもな」


 ついに痺れを切らしたのか男の1人が加賀美さんの腕を強引に掴む。


「ちょっとくらい良いだろ。ほら、付いてこいよ!」

「きゃっ、やめてください!」


 やばい、このままじゃ連れて行かれる。止めようと思って隣を見るとすでに誠也の姿は無かった。


「ちょっと待て!彼女が困ってるだろうが!」


 誠也が2人の男へと詰め寄る。


「何だお前は!?邪魔すんじゃねえ!」

「迷惑してんのはお前等の方だ!」


 誠也と2人の男がどんどんヒートアップしていく。このままじゃまずいと思った俺は周囲を見回していると、巡回中の警備員2人を偶然見つける事が出来た。


「すいません!」


 俺はすぐに警備員に駆け寄って手短に事情を説明すると、2人の警備員は快く協力を受け入れてくれたので現場へと急いで戻る。


「こら、何をやっているんだ!」


 警備員の1人が大声で叫ぶと、2人の男はまずいという表情をしてすぐに走り去って行く。


「ふう、何とかなったか・・・」

「すまねえな弘人。警備員を呼んでくれたのか」

「あのままじゃ収拾が付かなそうだったしな」


 2人でホッと一安心していると、加賀美さんがこちらへと視線を向けてくる。


「ありがとうございます、神白くん」

「いや、俺は大した事してないよ。お礼を言うなら彼に言ってくれ」

「助けていただいてありがとうございます。あの、お名前は・・・」


 加賀美に見つめられると、誠也は急に挙動不審になり始める。


「え、えと、さ、さ、祭川誠也っす!弘人とは親友っす!」


 あまりにおかしな自己紹介だったので俺は吹き出しそうになったけど、このままではずっと緊張しそうなので助け舟を出す事にした。


「おいおい、自分から親友って言うか普通?」

「べ、別に間違ってねえだろ!ま、まさか弘人は俺の事親友だと思ってねえのか!?」

「さあ、どうだろうな」

「な、何だと〜!」


 誠也が叫んだところで加賀美さんから笑い声が聞こえるきた。


「ふふふ、お二人はとても仲が良いのですね。ご紹介が遅れました、私は加賀美瀬莉香と申します。よろしくお願いしますね、祭川くん」

「は、はい、よろしくっす!」


 誠也の返事を聞いて加賀美さんはクスクスと笑う。


「ふふ、面白い人。もし宜しければ近くの喫茶店でお話ししませんか?先程のお礼もしたいので」

「でもこの後予定があるんじゃなかった?」


 俺の質問に加賀美さんは首を横に振る。


「いいえ、あれは断るための方便です。それともこの後何かご予定があるのてすか?」

「いや、俺達は買い物をしてちょうど帰るところだったから特に予定はないよ。誠也も良いよな?」

「お、おう、どんと来い!」


 またしても変な返事に加賀美さんは笑顔になる。


「良かったです。では行きましょう」


 ーーーこれが誠也と加賀美さんの出会いであり、祭川莉緒、もとい莉緒ちゃんへと繋がる始まりの物語である。

お読みいただきありがとうございます。

今回は外伝という位置づけで、主人公の高校時代まで遡っています。視点は主人公である弘人ですが、メインは親友の誠也となります。

もし好評ならまた外伝という形でもう少し続きを書こうと思います。

また、本作を読んで本編に興味を持たれた方は本編も読んでもらえるととても嬉しいです。↓


https://ncode.syosetu.com/n3422hh/1/

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