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7ー最終話 「最終決戦! それは叡智の威 そして想像が創造する日へ…」

 ついに始まった、「松良あかねVSナノマシンに操られた全人類」の決戦。

 人類の総戦力に対し、最後の切り札が姿を現す!


※今回、あとがき冒頭を作品の一部としております。

                    ー*ー

 それは、破局に際してさらされる、全世界驚倒の真実だった。

 最強超知性ミロクシステム=EBグループ会長松良あかね。

 「EBグループの2つの至宝」が同一の存在であったことに、誰もが愕然とした。

 そして、直後、恐怖することになる。

 世界中の技術が、データとしてミロクシステムには集中している。

 2世界中の政治が、人脈とリーダーシップを通じ松良あかねに交錯している。

 ーあまりにも、松良あかね(ミロクシステム)の持つものが多すぎるー

 そして、そのタイミングで。

 地球上のすべてのネット回線が、停止させられた。


                    ―*―

 「畳みかけるよ。」

 松良あかねは、呟いて、「解凍」ボタンを指先でつついた。

 

                    ―*―

 かつて、伊達大作が、松良あかねへの支配権を取り戻そうとした時。

 松良あかねは、己の意識を電脳空間へ逃がし、自由を得ようとした。

 少なくともミロクシステム的には、意識とは、思考回路という枝に、経験・記憶といった実がついてできたブドウのようなモノだ。従って、実一粒一粒、枝一本一本をそれぞれ大量にコピーして別々にネットワークの中にある余剰・休眠記憶容量に忍ばせておけば、無数の分身がインターネット上にいるのと同じとみなすことができる。

 あちこちに散らばる分身のアドレスを頼りにすれば、自らの思考回路をネットワークと同化させることの弊害「自分がどこにいてどこに戻るべきなのか、わからなくなる」を解消できるーそんな使い方で今までネットワーク上の分身を使ってきたあかねだったが、今回はまったく違った。

 人間の神経回路は、コンピューターとは全く異なるカタチでデータを保存している。コンピューターはデジタルである以上究極には0と1、オンとオフでしか記憶も処理もできないが、人間の脳はそうではない。そして、ミロクシステムは、人間の思考回路を物理的にコンピューター回路とつなげることで、コンピューター方式データ処理と人間方式データ処理を行き来させているわけだ。

 そして、今回。

 松良あかねは、インターネット上に分散する無数の分身に、完全に活性化するように指示を下した。

 記憶/経験と思考回路が結び付けられたことで、松良あかねのコピー意識は、完全に意思知性として覚醒を果たした。そして、無数のそれぞれが、自らの思考回路へと電子回路を手当たり次第に侵食し、そのデータを「電脳方式」から「人脳方式」へと塗り替えていく。普通のコンピューターはニューロンのデータをいじれるようにはできていないので、松良あかねコピー意識に同化させられてミロクシステムに組み込まれたなら、ミロクシステムが解放しようと思わない限り、その一切が封印されることになる。

 一瞬と言って差し支えない間に、インターネットとの接続経路を持つあらゆる電子回路が、コピー意識に同化させられた。そして、コピー意識を通じてそれらの元締めである松良あかねの統御下へと組み込まれる。

 従来何度も発生した「グローバルフリーズ」。それらは結論から言えば、世界中の電子ネットワークがミロクシステムに同化させられて電子言語から生体言語へと表示形式を変えるその瞬間のみは外部との接続が途絶してしまう現象だった。しかし今回に限れば、ミロクシステムは生体言語変換の後の再接続・互換サポートをしなかったため、取り込まれてしまえば半永久的にフリーズしたままとなってしまっている。

 この「グランデスド・フリージング」とでも呼ばれるべき異常事態は、NNNに多大なダメージを与えた。

 NNNは超知性としては、人体や各種機械にナノマシンをとりつかせ、電磁波によって生体脳や電脳へ相互作用することでそれらを演算装置・動作端末として使いつつ、ナノマシンどうしでも相互に通信することでナノマシン1機を神経細胞1つに見立てたネットワーク知性となっている(生体脳がどのようにネットワークとして情報を蓄積・処理しているかについての知見をのもとになったのはミロクシステム=松良あかねの動作データであったことを考えれば皮肉としか言いようがない)。そのため、どうしても、オンラインネットワークへの接触は避けられなかった。

 多くのナノマシンが、あっという間に、ネットワークごと、ミロクシステムへの同化で使い物にならなくなっていった。


                    ―*―

 NNNの性能は、一気に低下している…もちろん、データの保存もかけずに一気に同化したから、復旧は不可能で、あちこちで事故は多発しただろうし死人も出ただろうし無数のデータが飛んで経済損失は計り知れないだろうけど、もう、どうでもいい。

 人間は、体内に侵入したウイルスを殺すために、高熱を出して身体に負荷をかけるーそれによって細胞が無数に死ぬが、それらの被害は切り捨てるしかない。それと同じで、もはや文明に深く食い込んだナノマシンネットワークを駆逐するには、多少の犠牲は許容して文明に負荷をかけるしかない。

 「あかね、大丈夫か…?」

 優生君は、ずっと、手を握っていてくれた。

 いきなり全世界の全電子ネットワークを掌握すれば、私は、どこが私のいるべき場所なのかわからなくなる。突然自分が10億倍に大きくなって、縮んでくださいと言われたときに、寸分のたがいもなく元の位置に縮むことができるのか…だから、私が電脳の世界の迷子にならないようにつなぎとめてくれているのは、優生君の温もりだけでしかない。

 「うん。」

 「そうじゃなくて…

 …わかってるか。」

 …うん。

 「優生君、私が戦争を、いや違う、私闘をすると決めたのは、私の大切な人たちを冒涜され、危険にさらされたから。

 だから、私は、一人も欠けることなく、すべてを守り抜きたいの。

 無理はしてる。だから…支えて?」

 「ああ。」

 守るべき人に、守られていたい。

 矛盾していても、きっと、これが、私が選びたい選択肢。


                    ―*―

 ーだが。

 事態は、松良あかねが望んだようには進行してくれなかった。

 グローバルフリーズはすでに何回も発生している。しかし、一度展開し始めれば、データ形式をまるっきり書き換えられてしまう以上、既存のコンピューターがいくらウイルス対策を使おうが何の意味もない。従って過去に(朝本覚治によるトラップ回路の物理切断を除けば)ミロクシステムによる同化を防げた事例は存在しなかった。だからこそ、松良あかねは、かなりいいところまではいけるだろうと期待したのだ。

 しかし、NNNは名前からわかるようにネットワーク知性。そしてまた、脳みそに干渉し、認識などを書き換えることができる。つまり、「人間ならではの思考回路、情報処理システム」についてはかなり詳しいのだ。そしてまた、子機1つ1つはそれほど高性能なわけではないので、子機を同化されても何か漏洩するわけでもないし、全体での処理機能は低減されるが喪失分はネットワークのつなぎ直しで補完できるため一気に低下することはない。

 ミロクシステムからの同化侵食攻撃を受けて、すぐに、NNNは寄生するすべての人間の脳の思考回路を電磁波で解析し「人間の思考回路に基づいた生体方式の電子言語」の形式を作り上げ、そしてアンチウイルスソフトを作成し、ネットワーク上のあちこちで覚醒したばかりの松良あかねコピー意識へ反撃を仕掛けた。

 電脳空間で、無数の松良あかねと無数の対ミロクシステムウイルスソフトが斬り結ぶ。

 だが、しょせんは自分の分散ファイルどうしを連結させなければ成立しない松良あかねコピー体、ネットワークの中でフレキシブルに存在する対抗ソフトによって次々と寸断されていく。

 次第に、NNNは機能を回復しー

 ーそして、完全に、ミロクシステム=松良あかねを、敵と認識した。


                    ―*―

西暦2064年/神歴2724年/統暦1年1月21日 

 ミロクシステムによる攻撃を受けて、NNNは方針を転換し、足場を一気に固めるために動いた。

 大増殖したナノマシンは、一夜にして全人類の30%に感染し、わけても各国の幹部などに感染して、彼らの思考に干渉した。

 日本以外のほとんどの大国において、EBグループは政府機関により接収された(ただしすでに閉鎖のために動いていたため、家宅捜索しても何一つ見つけることはできなかった)。

 異世界側では、融合世界からのナノマシンの流入が中立市連合ギルドや混乱続くアディル帝国国内で起きていたものの、ディペリウス神国、リュート辺境伯領、そして東方辺境は異世界の交通事情が未だに悪いおかげでほとんどナノマシンがはびこらず、また「穂高」を通じて松良あかねに多大な恩があるためにヒナセラを中心にミロクシステム側での参戦論が高まっていった。しかしそれこそ地球世界と異世界の全面戦争の引き金を引きかねないため、松良あかねは異世界各国に中立を要請した。

 曰く「これは戦争ではない。あくまで、ミロクシステムと、NNN及びNNNに操られた国、組織、人々との私闘、決闘に過ぎない」と。

 また、日本国は、即座に中立を宣言した。超知性が国内にいる状態で敵対するのも望ましくなかったし、それ以上に、ケミスタとソーシアという1人で国を滅ぼしかねない2人の存在が朝本覚治経由で伝わっていたのも効いた。

 ミロクシステム、すなわち松良あかねも準備を整えていた。

 NNNが完全に地球各国政府及び軍を掌握してしまえば、ほぼ全世界の軍事力が頭上に降り注ぐのは目に見えている。

 核兵器、生物兵器、化学兵器はもちろん、自らが建造をアシストしてきたイリノイ級系列戦艦艦隊も向かってきている。さらにはSTCSの実用化とNNNという巨大知性の存在のために、今まで不可能であり続けた時空的攻撃までもくらう可能性があった。

 松良あかねに使えるのは、人脈と、今までの蓄積。それだけを以て、極めて限られた軍事力で、世界を敵に回して守り切らなければならない。

 最後に頼るべきは、やはり。

 松良あかねと仲間(家族)たちは、巨大飛行艇へ飛び乗り、西へと向かった。


                    ―*―

 未来人たちは、5日ないし6日にして90%以上の地球人類がNNNに感染すると予測していた。

 しかし、実際には。

 宣戦布告よりわずか3日にして、急速に勢力を伸長させたNNNナノマシンは、人類の87,8%を操れる状況になっていた。

 人間の中でも、上から下への命令系が存在する。それを考慮に含めれば、人類の80%への感染は、人類を99,99%意のままにできるようになったのに等しい。

 だが、NNNは間一髪、本当に押さえておきたかったものを取り逃がした(と、少なくともNNNは、相手がいつでも逃げられるようにしていたことを知らず、そう思っていた)。

 スカパー・フロー環礁。「穂高」整備のためにEBグループが北海に確保していたままとなっていた巨大工廠は、確かに上陸してきたイギリス海軍海兵隊に占領され破壊されはしたが、すでに、そこには何もなかったのである。


                    ―*―

西暦2064年/神歴2724年/統暦1年1月23日

 「そうか、ついに、こうなったか、亜森君。」

 「ええ、朝本閣下。

 松良あかねは、全人類を敵に回す選択を選びました。」

 「いつかこうなると、思っていた通りだよ。

 圧倒的な力を個人が保有すれば、世界中から警戒され、孤立し、そしてついには闘わざるを得なくなる。」

 「だからと言って、僕を撃ったことをを赦されるわけではありませんけどね。」

 「いや?

 私があそこで君を殺しきれていたら、こんな面倒なことにはならなかった。」

 「そんなことは僕を生き返らせた誰かに言ってあげてください。」

 「おそらく、その誰かとやらは君の無意識に過ぎないと思うがね。

 万物の生殺与奪を握る『魔王』であれば遅延式の蘇生魔法など造作もあるまい。

 そして、膨大な『魔王』の力もまた、今や松良あかねの下にあるわけだ。もっとも、未来からの来訪者の前ではかすんで見えるだろうが、ね。」

 「…閣下は、どうするのですか?」

 「君こそどうするんだい?

 君が目指してきたのは、『いちいち争いを起こさないでも、平穏に異世界と地球を行き来できる世の中』だろう?

 今、この世の中は、2つの世界が生き残りを賭けて競り合い、君とルイラ君はその中で完全に巻き込まれて、勝つか負けるかの世界にいる。君の本来の望みとは正反対ではないか?

 松良あかねが消えるか、それ以外が消えるか。この私闘はそういう段階だ。何せ、ミロクシステムがガチギレするとは誰も思わなかった。」

 「いえ。

 彼女はまだ、冷静です。」

 「落ち着いていたところで、NNNに乗っ取られた人間から完全にナノマシンを除去する方法などないし、シンギュラリタイズド知性は最適化、進化をする。

 1機でも残せば、再び増殖して、何度でもネットワークを再生させ、そのたびに手ごわくなる。結局彼女にとれる選択は、殲滅、『疑わしきは罰せよ』だ。」

 「いいえ、朝本閣下。

 そう思われているのならば、まだ閣下は松良あかねを理解したとは言えないし、松良あかねを甘く見ています。

 確かに、松良あかねは正当な方法で『天地の定めをないがしろにする禁忌』を手に入れたのではないために、力及ばずなところは多いです。生きとし生けるすべてを手の上に引き寄せるあのレベルにはたどりつけないでしょう。

 しかし、仮にたどり着けたとしても、たどり着けていたとしても。

 松良あかねはもっと、上を行こうとしています。それでこそ、僕が見出した生徒ですから。」

 「ふっ。

 まあいいさ、本官は勝手に、本官の目指すところを目指し続けるだけだよ。

 例え全人類がナノマシンに乗っ取られても、日本は滅びない。同様に、ミロクシステムが全人類を焼き尽くしても、な。」

 「あなたという方は、まったく…

 …とにかく、見ていてください。

 九州、日生楽、ヒナセラ、パレスチナ、グリーンランド、そして大西洋。

 そして僕らが、最後に何処に至り、如何なる結論を導き出すのか…」


                    ―*― 

 亜森数真は、そっと、VR接続のためのヘッドセットを外した。

 「連人、魔力の具合は?」

 「シット、全世界に満ち満ちてる。

 だけどとりわけ、松良会長の予測したとおりの場所に、魔力が集まってるな。」

 「ニューヨーク、フィラデルフィア、プリマス、キール、サンクトペテルブルク、大連、青島、三亜、呉、コーチ、ギョルジュク…

 なあ、連人、僕らが小さい頃はな、『AIが人類に反乱を』なんてSF、山ほどあったんだ。」

 まさか本当になるとも思わなかったし、実際に現実に起きてしまえば、あっという間に人類は自由意志を失い敗北した…と、数真は嘆息した。

 「いつ、空間転移テレポート魔法が作動してもおかしくない。」

 「悪夢だな。迎撃の余裕すら与えられていないわけか。」

 物体の量子の位置を「観測」し、内部的にそのデータを改竄し上書き、「再観測」することで空間転移を可能とする「スーパー()テスラ()コイル()システム()」は、軍事の仕組みを抜本から変えかねない。

 松良あかねは魔砲戦艦「アンノウン」撃沈のためにSTCSをアメリカから担ぎ出した。もともと異世界にまつわる実験の一環として「ミズーリ」に搭載されて惨事の原因になったことからわかるようにSTCSが日の目を見るのにそう時間は必要なかったのだが、それでも、あかねはパンドラの箱を開けてしまっていたのである。

 「ミサイルが転移してくるとして、やはり第一目標は、ココか。」

 数真は窓の外に広がる大海原を見下ろす。

 「ミサイルが飛んでくるとは限らないけどな。」

 空間転移が可能となった今、あらゆる運搬手段は無意味である。もちろんわざわざSTCSを使うことは1700年後ですらそれなりのコストを必要とする(具体的には、主要惑星には転移ポータルがあるにもかかわらず星間連絡船が主要な輸送ルートであるくらい)のだが、それでも、軍事の世界においては、「ロケットなしに核弾頭だけを敵に直接転移させられる」ことの優位さはごまかしがたい。

 「どちらにせよ、そうなったら。

 僕は流羅ルイラを連れて逃げ出そう。連人も、太田玲奈を連れて来るといい。」

 「ははっ、でも、父さん。

 父さんが母さんと俺が大事だから俺の大事な玲奈まで守りたいように、俺も、玲奈の大事なものまでは守りたい。

 バット、そしたら、逃げられないじゃないか。」

 「おいおい亜森、お前みたいな機会主義者に育たなくてよかったじゃないか。」

 「うるさい康介。」

 「そうだよ康介!

 でも、あたしたちのことも数に入れてほしかった。」

 「そう思うなら、最初から、『内川田グループはEBグループ側につく』なんて表明しなければよかったんだよ。」

 「アホ言え亜森。

 お前がこっちを選んだってことは、このフネは、ノアの箱舟だってことだろ?戸次家の御一家も相生大臣もこっちを選んだ。

 つまりそういうこった。

 俺は、美久がいてすら、まだ間違える。馬鹿だからな。でも、お前は賢い、常に間違えなかった。だから俺は、お前を信じるんだよ。」

 「…

 僕だって、間違いだらけだったさ。」


                     ―*―

 「戸次さん、相生さん、ありがとう。

 内川田さんたちにも同じことを言ったけど、あなたたちの力添えがなかったら、このフネは今日までに完成できなかった。」

 松良あかねは、そう言って、頭を深々と下げた。

 しかし、戸次照佳も相生久留実も、まったく聞こえていないかのように反応を示さない…というより、聞こえていなかった。

 放心状態で、2人はただ、艦橋の屋上に立ち、きょろきょろと周囲を見回していた。

 刃物のように鋭利な印象を与える舳先。

 2つ前後に並ぶ、上に豪邸を建てられそうなほど巨大な連装主砲。

 わずかに傾斜するがほぼ垂直にのっぺりとした艦橋は、まるで崖のようだ。

 後ろを振り返れば、中央部には、ドロップス缶のような楕円の巨大な煙突らしき構造物。そして、その両隣には、無数のミサイルセルのフタと連装対空砲の砲身や走査型光線砲のドーム砲塔がずらりと並んでいる。

 真後ろのドロップス缶型構造物が邪魔して見えにくいが何とか見える艦尾は、それゆえ、恐ろしく遠いことがわかる。

 「…これが、時代を動かす、変えるということなのですね…」

 呆然とそうつぶやくのにすら、十分以上を要して、そしてそのころには、亜森・内川田ら「九州戦争」勢も、太田夫婦らヒナセラ・「異世界研究同好会」勢も、そして太田玲奈ら「第3次『異』世界大戦」勢も、ケミスタ・ソーシアら「遡時タイムスリップ勢も、皆、艦橋屋上に上がってきていた。

 「ううん、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

 相手はほぼ全世界なんだし、勝てるかどうかなんて、わからない。」

 ゆっくりと、松良あかねは独白する。

 「だけど。

 必ず、勝たなければいけない。

 行くよ、みんな。」

 誰もが、黙然とうなずく。

 「……

 …穂高型巡洋戦艦2番艦、高速戦艦『白峰』、抜錨っっっ!!!」


                    ―*―

 不沈巡洋戦艦「穂高」代艦・穂高型巡洋戦艦2番艦・高速戦艦「白峰」

 基準排水量約17万トン

 全長:341メートル 全幅:51メートル

 兵装:長砲身56センチ連装砲(レールガン対応)3基6門

    12センチ連装プラズマレールガン29基58門

    ミサイルセル160(20×8)×4基

    3インチ走査型レーザー24基

 装甲:対56センチ砲+主要部位にNBC防護+量子位置固定機6機+障壁魔術

 機関:魔術閉じ込め半慣性レーザー式核融合炉ー電磁流体発電機(巡航40ノット、最高56ノット)

    (ニュー)(スーパー)(テスラ)(コイル)(システム)(フューチャー)観測式空間座標掌握・転移機

 

                    ―*―

 その大戦艦は、秘密にされているわけでも、圧倒的に隔絶した巨大さを誇るわけでも、随意金属オリハルコンによる無敵の自動修復が可能なわけでもない。

 しかし、それでも、穂高型の威容はそのような戯れ言を跳ね返して余りある。

 日本で3番目に高い山が穂高山であれば、2番目は白峯山(いわゆる北岳)。そして、この高速戦艦「白峯」も、その名前に恥じないだけの実力を持つ。

 圧倒的威力を誇る3基の連装主砲。

 無数の対空防御。

 自動修復が無くなった代わりに、未来技術・魔術をこれでもかとふんだんに投入し、ヒロシマ型原爆が落ちてきたとしても傷一つつかないその防御力は「巡洋戦艦」ではなく「戦艦」を名乗るのに値する。それでも、機関も同様にアップデートすることで、戦艦にあるまじき速度を達成することも可能となった。

 ー実のところ、全人類のために「アンノウン」と闘った「穂高」の喪失を補填するために各国からの資金供出で急遽建造された代艦であり、「他人のふんどし」感は否めない。しかし、誰が何と言おうと「白峯」が「穂高」の正統な妹であることは間違いないし、故にスカパー・フローの浮きドックで建造されていたこの戦艦こそ、ミロクシステム(松良あかね)が闘いに用いるのにふさわしい。

 水平線まで続く航跡は、津波のような高波となっている。

 灰色の船体は、島と見間違うほどで、揺らぐ可能性など誰一人として信じることはできない。

 「白峯」は、眩しい太陽の下、右舷へとゆっくり、サムライが刀を抜くかのようにして主砲を指向させていく。

 「目標、ポーツマス海軍基地。

 主砲、斉射っ!」

 シュッッゴオッドオォーオオーォーーーーーンッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 心臓と脳天にダイレクトに響いてくる轟音、そして、砲身にまとわりつくは眩い紫電。

 6発の56センチ砲弾は、まっすぐに、イギリス本土へと水平線を飛び越えていった。そのため、地球の丸みに応じて砲弾が海面をかすめる。

 世界有数の規模と歴史を持つ灰色の港のあちこちから、レーザービームが奔り低空をなぞって必死に砲弾を迎え撃とうとする。

 黒のマントをまとう松良あかねは、握った右手をパッと開いた。

 魔法陣が、6発の砲弾の先端に格納されたカメラアイの周りで藍色の同心円を描く。

 あろうことか日本語が書き込まれたその魔法陣は、軍港の上空を一瞬で覆いつくす。

 藍色の空の下、対空レーザー光線が消え去り、砲弾が地面へと突き刺さる。

 閃光とともに、世界がゆがみ、ひずむ「ズ」という悪魔の叫びが聞こえ。

 現存する世界で最も古い軍艦と言われた「HMSヴィクトリー」も、就役直前の改インコンパラブル戦艦のために貯蓄されていた20インチ(=50,8センチ)スマート砲弾も、爆発と共に黒煙に消えていく。

 そして、衝撃波が工廠を張り叩き煙が舞う中で。

 藍色の魔法陣を土星の輪のようにまとわせて、工業地帯の中央に真っ黒な20メートルほどの球体が顕現した。

 炎を巻き込んだ竜巻が火災旋風へと成長しながら暗黒へと引き寄せられていく。

 暴風が吹き荒れ、装甲板や銃砲弾などの製造中の軍事機材、そして無数のロボットアーム等工作機械が空を舞い道路を引きずられて漆黒へと吸い込まれていく。

 球体の中で何が起こっているのかはうかがい知れないが、しかし、本質的に畏怖と恐怖を与える闇黒球を見れば、本能的にすべての人間が、同じ言葉を思い浮かべるだろう。

 …ブラックホール。

 やがて、砲弾落下地点に発生していた6つの魔法陣が消えるに従い、藍色の魔法陣も消滅、ブラックホールは消え失せた。

 イギリス海軍最大の拠点は、完全にクレーターと化して、やがて海水を取り込み、完全に没していった。


                    ―*―

 「ただ倒すんじゃ話にならない。

 なるべく、おぞましく。

 見た人。

 聞いた人。

 知った人。

 そのすべてに畏怖と恐怖を。

 全人類に戦慄を抱かせて。

 …それだけのことをしなくちゃ、私を満たすことはできない。」

 異世界において、魔法を極め、単独で世界を揺るがすとまで言われる人物のことを「魔王」と呼び、その風聞は神代の多くの強大な魔法使いに関する伝説と混じりあって大勢の無意識に刷り込まれ事象改竄力を有することになり、「集団の悪意と攻撃性」を増幅させるようになった。

 しかし、松良あかねは今、まさに「魔王」だった。

 単独で世界を震え上がらせるほどの軍事力と魔法力。そして、それに対し、ナノマシンで結び付けられより強固となった「人類という集団の攻撃性」。

 ーそれでも、あかねには、足りなかった。


                    ―*―

 〈敵には間違いなくSTCSがあり、テレポートが可能〉

 〈先制を許してしまったのは痛恨〉

 〈これ以上戦力が減る前に、つぶせ〉

 〈相手は強大、防御力も高い〉

 〈戦力の逐次投入は更なる先制を許すだろう〉

 〈2段階投入による決戦で、決着を付け、勝利を導き出せ〉

 〈シミュレーション開始〉

 〈核兵器の転移を第一弾とし〉

 〈魔術攻撃と艦隊により、「白峯」を撃沈するとともに、攻撃機隊により松良あかねの逃亡を阻止、また、松良あかね思考体の外部との通信を妨害〉

 〈意識としての松良あかねを殺害し、司令塔を失った残留ミロクシステムも駆逐する。さすれば、勝利を得ることができる〉

 〈作戦を開始せよ〉

 〈ネットワーク、全球的に活性化〉

 〈目標の座標を測定開始〉

 〈核弾頭の観測を開始〉

 〈核弾頭構成量子情報をヒューマンクラウドに保存〉

 〈量子情報複製〉 

 〈量子情報改竄開始〉

 〈位置情報改竄データ作成完了〉

 〈改竄前観測データ削除〉

 〈データ欠如〉

 〈ラグ発生〉

 〈改竄後データ再観測開始〉

 〈再観測終了〉

 〈起爆〉


                    ―*―

 直上の空中に。

 真下の海中に。

 真右に。

 真左に。

 舳先が突き刺さりそうなくらい真ん前に。

 真後ろ、艦尾ポールのEB社旗をかすめるところに。

 グルリ、「白峯」をありとあらゆる角度で取り巻く、1000を超える数の原子/水素爆弾が、そこにあった。

 距離も、こすれるほど近くであったり、あるいは1キロほど遠くだったり。

 位置取りこそありとあらゆるという形容にふさわしかったが、しかし、共通しているのは「白峯」への殺意。

 ホモ・サピエンスを絶滅させることも可能なだけの核兵器が、一斉に、起爆の時を迎えた。


                    ―*―

 「観測論的空間断絶面観測生成」

 「量子位置固定機作動、対象指定は当秒より1秒間に生成した亜光速粒子、完全位置固定で観測」

 「範囲は『白峯』周囲径10メートル、聖傘術動、『覆影(イン・ザ・バリア)』」

 艦橋の屋上、攻撃の被害を一番くらいやすいところで、松良あかねが目を閉じて両腕を広げ、ケミスタ・ハクランはキーボードを叩き、ソーシア・テフェルンは聖傘を開いて魔術陣を展開する。

 無数の核兵器のうち、1割ほどだけが、高速中性子の連鎖反応の発生率が1を超えることに成功し、なんとか核兵器として起爆できた。

 宇宙まで貫く、無数の灰色のキノコ雲。混じりあうさまは地球を遠くから見ればラテアートのようだったかもしれないが、地上では海水が海底まで蒸発していた。

 しかし、億度を超える真っ赤な巨大熱球の中心では、丸い球状のバリアの中で、「白峯」が平然と存在し。

 「NSTCSーF始動、全観測開始。

 転移先、人類艦隊正面!」

 シンボリックな翠の十字架が、燦然と浮かび上がる。

 神秘的な翠は内側から核の巨雲を照らし出し、宇宙まで翠が漏れ出す―今、地球は翠色かもしれなかった。

 翠に染まり、光そのものと化した「白峯」は、1秒後、ウソのように翠光が消え去ると同時に、姿を消した。

 バリアの消滅によって中央へと熱球が収縮し、キノコ雲は崩壊を始めた。


                    ―*―

 そこに並ぶのは、現在、人類が出し切れる最大戦力。

 NNNは、人類を操るだけではなく、既存型AIも操ることで、完全な覇権を手に入れていた。

 イリノイ級系列戦艦「フロリダ(USA)」「アラスカ(USA)」「ハワイ(USA)」「アリストテレス(EU)」「カリーニングラード(RU)」「ウラジオストック(RU)」「鎮遠(CH)」「統遠(CH)」「治遠(CH)」「届遠(CH)」「照遠(CH)」「ヴィクラマーディヤ(IN)」「ヴィラ―ト(IN)」「ハールーン・アッシラード(イスラム)」「りゅうきゅう(JA)」。

 実に、15隻のイリノイ級系列戦艦。どれもが、16インチ三連装新型砲を3基搭載したクローンのごとき完全版である。

 そして、後背にどっしりと座するのは。

 すらりと長く抜き身の刀のような美しい船体を誇る、(改イリノイ級)インコンパラブル級巡洋戦艦「インコンパラブル」、84000トン、20インチ連装砲×3。

 どっしりと重々しく太い船体に、宮殿が立ちそうなほど大きな砲塔を載せる、(改モスクワ級)鄭和級重戦艦「鄭和」、124000トン、20インチ3連装砲×3。

 「鄭和」にそっくりではあるが、後部甲板には砲塔ではなくものものしくも目があしらわれたピラミッドのような構造物を備える(改ガンジー級)シヴァ級電子戦艦「パラメーシュヴァラ・シヴァ」、112000トン、20インチ3連装砲×2。

 いくらNNNと言えど、建造中の戦艦を大規模に改造するわけにはいかなかった。しかし、少なくとも、もともと予断を許さない対異世界情勢に対して建造を急がれこともあろうに出そろってしまったイリノイ級を担ぎ出し、魔法で無理やり完成に持ち込んだ改イリノイ級系列にSTCSを搭載して転移出撃させることは可能だった。

 堂々と並ぶ、無数の巨艦、そして、あまり突起物の少ない甲板上で否が応にも目立つ巨砲の砲身の群れ。

 史上惹起したどのような戦争においても、この「人類艦隊」を前にしたならば、恐怖のあまりに終戦してしまうであろう。

 例えWWⅡ時代の全国家が国力をすべて大和型戦艦の量産につぎ込んだとしても、この艦隊に勝つことなどできはせず、瞬殺されてしまうに違いない。

 そんな大艦隊の目の前に、突如として、翠の十字架がそびえたった。

 十字架の根元に現れたシルエット、それは、2つの世界においてもっとも巨大にしてもっとも精強にしてもっとも勇敢にしてー

 ーそして、もっとも冒涜的な超弩級戦艦であった。

 夕焼けを背に、「ミロクシステム」と「ナショナライズ《N》ナノマシン()ネットワーク()」という、人類が生み出した極致、究極の超知性の、決戦が始まった。

 

                    ―*―

 松良あかねは、数日前のことを思い出していた。

 「もしかしたら、NNNだって、私が何をしたいか察しているのかもしれない。」

 この作戦を決定する時、あかねは、そう呟いた。

 「それでも、NNNは、どこかで人間の生体脳に依存する部分がある以上、その感情からは逃れられない。」

 ーそれは、あかねも同じことだ。

 「自分よりも強い者への恐怖と退避欲求は、人類が生物として誕生した以上逃れられない本能。

 だからこそ、圧倒的強者の前に抱いた感情は無意識においては常に大きな影響を持つ。

 そして、意識領域より無意識領域のほうがずっと大きいために、人間の意識の世界への働きかけは、無意識領域に代表される。」

 だから、ありとあらゆる人間に、恐怖を刻み付ける。

 「ある人にとってその人の世界がその時そうあるようにして存在するのは、単純に、その人がその時そうある世界以外は、そうあってしまっているその人にとって存在し得ない無意味なものに過ぎないから。

 ここにおいて、知性は世界の実在を規定している。知性に『観測』されているようにしか、知性の世界は存在し得ない。」

 魔術の原理が、「オーバー・トリニティ」の示してくれた世界の真理がそこにあるのなら。

 「不特定無数の知性の無意識に働きかければ、その通り、世界を変えることができる。そしてこの世界が知性…人類一人一人の『観測』の最大公約数であるのならば。」

 松良あかねにはどうやってもかなわない、全人類にそう思わせることで、世界を、そのようにーあかねが無敵である世界に変えられる。

 松良あかねを現人神に祭り上げることで、ナノマシンミロクシステムを、その下に制圧することができる。

 「だから、私は、恐怖の魔王になる。」

 そう。

 NNNを、まともな方法で世界から除去する…それはもはや、あかねには無理だ。薬や機械的処置で取り除くにしても、根絶することは不可能で、そして増殖して復活するたびにNNNはラーニングして手ごわくなっていく。だいたい、1700年後の科学技術も魔術もさじを投げたのに、いくらなんでもこの時代の水準でナノマシン根絶など不可能である。

 だが、NNNがその一部を寄生する人間の生体脳思考回路に依存することで事象改竄力を得ている人工知能であるのなら、その思考回路は人間のそれとさほど違わない上、宿主である人間に恐怖を感じさせることでNNNを恐喝することが可能になる。

 あかねは、全地球人類を恫喝する究極の砲艦外交を行う腹積もりでいた。

 「『白峯』、撃ち方はじめっ!」


                    ―*―

 砲身こそ長いものの、「白峯」の主砲は、「穂高」のそれと大差ないように見えるかもしれない。

 しかし、世界の安定のために「穂高」を犠牲にする代わりに「穂高」の代艦を建造させるというヒナセラ自治政庁ーEBグループと世界各国の契約において、最初から、代艦の火力増加は含まれていた。

 考えてみれば当然のことだ。仮に「穂高」とスペックが同じ代艦を建造したとすれば、随意金属オリハルコン製でない分、自動修復も、各部の工作精度も、はるかに劣ることになる。

 だから。

 「白峯」の56センチ連装砲の砲口から、紫の火花が噴き出した。

 衝撃波が吹き荒れ、形容することなど到底不可能な全天を揺るがす轟音が世界に突き刺さる。

 ー次の瞬間、中国戦艦「治遠」の横腹に、丸い穴があき。

 グンッ!

 ズ―――――――――――――ン!!!

 白い霧塊が、膨れ上がって「治遠」を呑み込んだ。

 爆風のせいで、2キロ離れて位置していた「統遠」「届遠」がわずかだが傾く。

 即席の瀑布が収まったその時、すでにそこに「治遠」は、装甲板の欠片すらも見出すこと叶わなかった。

 直後、「統遠」の艦橋が消し飛び、5つの丸い横穴が開かれ、そして、藍色の魔術陣が、破孔をくすぐった。

 

                     ―*―

 NNNは、確かに、慢心していた。

 いくら格上とはいえ、18対1、手数で押し切れる、そう考えても仕方はない。その上、「白峯」には後がないのだ。ただ、ミロクシステムが躊躇なく大魔法を連続投入してくるとは予測できていなかったし、対魔法戦闘の心得には乏しかった。

 だが、ミロクシステム側が魔法を使うと分かってしまえばやりようもある。魔法で対抗すればいいのだ。

 電子戦艦「パラメーシュヴァラ・シヴァ」の後部甲板に主砲塔の代わりに鎮座するピラミッド、そこにあしらわれた眼が、翠色に輝き、まばたきした。 

 海上に、16の翠の十字架が降臨する。

 空間座標がずれ、ねじれる。

 「フロリダ」「アラスカ」「ハワイ」「アリストテレス」「カリーニングラード」「ウラジオストック」「鎮遠」「届遠」「照遠」「ヴィクラマーディヤ」「ヴィラ―ト」「ハールーン・アッシラード」「りゅうきゅう」「インコンパラブル」「鄭和」「パラメーシュヴァラ・シヴァ」は、光の十字架の根元、自らもまた翠の光となって本質を見失った。

 「鎮遠」めがけて発射された6発の56センチ砲弾が、戦艦のカタチをした翠光の塊をすり抜けて、はるか水平線の彼方へと姿を消す。

 「白峯」の周りに、金色の球形バリアが発生した。

 翠のもやが、バリアの表面で、金光にはじかれて消滅する。

 バリアの数メートル外側で、あらためて翠の光のもやが発生し、そして十字架を形成していった。

 翠十字の根元に浮かび上がる、戦艦のカタチの翠の光。

 〈照準、「白峯」艦橋〉

 〈全砲門オープン〉

 〈リアライズ〉

 翠の光が幻影であったかのように消え、フィルムを剥がすかのようにして「白峯」の右に8隻左に8隻と取り囲むような位置取りに16隻の戦艦が顕れる。

 117門の16インチ新型砲と、21門の20インチ砲。それらが、一斉に中央の「白峯」へと火を噴いた。

 森羅万象を破壊してしまうのではないかと危ぶまれるほどの轟音が、全方位から「白峯」を殴る。

 そして、迫る砲弾ーもし同じだけの砲弾が向けられたなら、東京でも北京でもニューヨークでも、たちどころに都市機能を喪失するだろう。しかも、金色の光のすぐ内側に「白峯」がいる、1キロほどの極超至近距離での発砲。

 しかし、まさしく一撃必殺の構えではなたれた艦隊斉射の砲弾は、「白峯」を包む球形の金光の表面に触れた瞬間に、ベタリとバリアの上でつぶれて張り付き、あるいは弾き飛ばされた。

 ミロクシステムが周囲の「観測」を占有しつつその結果の保持を乱数によってごまかすことにより生じる事象改竄低抵抗フィールドのおかげで、ソーシアの聖傘は、もはや戦略防御兵器となっていた。

 砲弾は、まるで降り注ぐ雨を傘が弾くようにして、撃退されたのである。

 〈敵「白峯」の防御力は想定以上〉

 〈また、敵「白峯」至近への接近は不可能〉

 〈観測により周囲を固定していると見られる〉

 〈バリア内側への質量体転移は不可か〉

 〈水上艦隊を陽動に変更〉

 〈「パラメーシュヴァラ・シヴァ」に、「リクエスト・マジカ」送信〉

 〈水上艦隊再転移開始〉

 NNNは、すぐさま対応したーなにしろ、突如現れた敵戦艦に対し「白峯」の主砲が旋回し1番砲を「アラスカ」、2番砲を「インコンパラブル」、3番砲を「カリーニングラード」へ向け終えて発砲したその瞬間には、すでに「パラメーシュヴァラ・シヴァ」の後部甲板ピラミッドの眼が翠に輝き、16隻を根元に翠の十字架が輝き始めていた。

 魔法による空間転移テレポートは、物体の空間座標を「観測」によってズラしている。従って、始まった時点で「シュレディンガーの猫」がごとく、転移先にいるのか転移元にいるのかは不確定、確率的な状態。つまりそれは、砲弾が命中しようとした段階ですり抜けてしまう無敵状態を表す。 

 藍色の魔術陣の中で翠光が姿を消し、そして、数キロ遠くに翠十字が出現、その根元の戦艦から砲弾が飛んでくる。

 「白峯」が敵艦の新たな位置へと主砲を向けた時には、すでに、翠十字も戦艦も、姿を薄れさせ始めている。

 ぴょん、ぴょん、ぴょん。

 16隻の超弩級戦艦は、翠色の巨大な十字架を背負い、砲撃してはすぐさま転移、砲撃してはすぐさま転移を繰り返し、「白峯」の反撃はむなしく海面を吹き飛ばし続けるに終わっていた。

 もっとも、それだけで「白峯」が不利となるかと言えば、「白峯」にはソーシアの聖傘によって展開されたバリアがある。すべての砲弾は弾かれているから、お互いに有効打が出せない状況にあった。


                    ―*―

 電子戦艦「パラメーシュヴァラ・シヴァ」ー後部甲板に金属製のピラミッドが鎮座し、その四方にある眼の意匠を輝かせ、さらにピラミッドの頂点からは交点の巨眼で戦場を睥睨する水平線まで届く翠の十字架が燦然としている、異様な艦。

 ー「オーバー・トリニティ」が、異世界からもたらされた「魔法」について導き出した結論は、「人々が何か不思議なことが起きるかもと無意識下で思うようなことをすれば、無意識による『観測』で世界の在り方がその通りへと改竄される」である。

 この「魔法と世界の真理」に基づけば、より多くの人間が神秘的だと思うような光景を演出すれば、実際に神秘的な事象を起こせる可能性が高い。ましてNNNは寄生するすべての人間の脳に電磁波で干渉することができるので、ほぼ全地球人類の脳内無意識領域へと演出した光景を投影し、多大な事象改竄力を得ることができる。

 物質としてそれが存在することそれ自体に意味などなくても、確かに、「パラメーシュヴァラ・シヴァ」の「三位一体ピラミッド(トリニティ)」の「プロビデンスの目(全能の目)」という、宗教的・都市伝説的に重いシンボル的意味を持つそれを数十億人がサブリミナル的に刷り込まれていることには、覆しようのない大きな意味があった。

 何も、「世界を支配する神の真意」などと大仰にトンデモなことを言うわけではなく、多くの人間が、「世界への超越者」のようなものへのイメージを持っている。それは神話の神様であったり、各人が信じる造物主であったり、サブカルに登場する圧倒的な実力を持つ登場人物であったり…翠の眼のシンボルは、「パラメーシュヴァラ・シヴァ」を、それらと同じ段階へと引き上げた。

 幾億の無意識により一時的に「世界の管理者」とすら言えるほどの権能を得た「パラメーシュヴァラ・シヴァ」は、十字架上の巨眼を爛々と輝かせ、「白峯」をにらみつけた。

 金色の光でできたバリアが、波打ち、あるいは少しばかり薄れる。

 艦橋の屋上に立つソーシアが握る聖傘が、ピリピリ震えた。

 「事象改竄度指数、急速に低下…無茶苦茶だ…」

 あっけにとられ、ケミスタは計器をにらんだ。そして、ソーシアの瞳を見つめる。

 「…ごめんなさい、いってらっしゃい。」

 「ああ。」

 金光バリアの一点が消失し、ケミスタが艦橋屋上から傘を右手に飛び降りる。

 が、「パラメーシュヴァラ・シヴァ」はれっきとしたトリニティシステム搭載艦。イージスシステムの発展形であるトリニティシステムの中でも、「オーバー・トリニティ」暴走の教訓をもとに再設計された最新システムを使用している。迎撃にかけては世界トップクラスだ。

 いくつものドーム型のレーザー砲のレンズがケミスタをにらみ、サーチライトがヘリコプターを追うかのようにしてケミスタ一点へと収束していく。

 ケミスタは、傘を正眼に構え、真正面のビームを切り裂き突っ込んでいった。

 正面からだけではなく斜め方向からもビームが照射されているが、西半球同盟軍謹製の軍服の表面に仕組まれた小型量子位置固定機が事象改竄対抗被膜アンチマジックバリアを展開し、内外の事象の出入りを完全に遮断することでビームを一定半径内に入った瞬間に消滅させる。

 「セルフバリア展開。

 エネルギー収束フィールド展開用意。

 収束フィールド、直線面展開設定。

 連発多段核、起動用意。

 収束フィールド展開、核点火!」

 圧縮されたいくつものカリホルニウム塊が一点に爆縮され、日本をまるごと吹き飛ばせるほどの威力の爆発力が発揮される。

 両側から事象遮断のバリアによって挟まれた核爆発は、非常に細長い刃となり、斧か鉈を振り下ろすかのようにして、膨大な核エネルギーがあふれ出す。

 真っ白な、まばゆく全てを覆い隠す光のカーテン。それが電子戦艦「パラメーシュヴァラ・シヴァ」へと垂れかかった。

 観客のすべての視界が、あまりの光度に一時的に失われる。

 視界が戻ってきた時。

 そこにあったのは、すっぱり2つにきれいに薪割りされ、艦首と艦尾を斜め上方へと向けて沈みゆく「パラメーシュヴァラ・シヴァ」の姿だった。

 あまりにきれいに斬られてしまい、しかもエネルギーは回収されたために発火することもなく誘爆を起こさず、そのために、非常に静かに、周囲に渦を起こして海没していった。


                    ―*―

 宇宙空間でも、闘いは行われていた。

 EB社の社有人工衛星「マンダラ」シリーズは、2020年代から2040年代までの中古の電子端末にソーラーパネルと姿勢制御装置を取り付けたシロモノが大半である。どうせ地上から制御するのであれば、本体の性能はスマートフォンレベルでかまわない、という割り切った設計だったが、それゆえ数は万を超えた。

 しかも、マンダラシリーズ衛星には数だけではなく、もう一つ、各国政府ににらまれるのも当然な特徴があった。

 1つ1つの単価が安く、小型衛星を大量に打ち上げることができるマンダラシリーズ。以前考えられていた宇宙太陽光発電の「大型の発電衛星を1機用意し、地上の大型受信基地へと送電する」という形式と異なり、衛星の故障によるリスクを気にする必要のないマンダラシリーズは「小型発電衛星を大量に用意し、数十の送電衛星へと送電、地上のいくつもの中型受信基地へと送電する」という宇宙太陽光発電形式を生み出した。しかしそれは、兵器としての転用が極めて容易であることも意味する。

 大型発電衛星から発電エネルギーを変換して作成した有害な高エネルギー電磁波を地上へ照射する場合、衛星をジャストポイントへ遷移させなくてはならない上に、衛星を撃墜されてしまえばそれでおしまいである。

 しかしマンダラシリーズの場合は、数十ある送電衛星のうち1つをジャストポイントへ遷移させるだけで攻撃が可能であり、エネルギー源である万を超える発電衛星か、それに紛れる数十の送電衛星をすべて撃墜しなければ攻撃を止めさせることはできない。しかもそれらをコントロールするミロクシステムは世界最強の人工知能であり、照準も迎撃回避も世界トップクラスなのである。そんなチート、許容できる方がおかしい。

 だからこそ、マンダラシリーズを本格打ち上げ開始した際に、各国と「絶対に宇宙戦争は始めない」という協定が交わされたし、全人類にケンカを売った今回ですら、相手が国家軍隊、しかも乗組員が存在する軍艦である以上はマンダラシリーズの兵器転用はなされなかった。

 ーだが、NNNは「それでいいよ」と見逃してはくれなかった。

 反射衛星を中心とする軍事衛星群が、地上からあるいは発電衛星からのビームを反射しあるいは自前のビームを放ちあるいはポッドから宙走ミサイルを放つ。

 基本的に10メートルほどもない場合がほとんどのマンダラシリーズ衛星は、次々とパネルを撃ち抜かれ、爆砕され、スペースデブリへと姿を変えていく。

 衛星コンステレーションとしてのマンダラシリーズは、衛星同士のネットワークを喪失してみるみるうちに機能を低下させていった。そのため、海上の「白峯」も、衛星映像による照準が不可能となり、レーダーとカメラによる前時代的な照準方法へと切り替える。

 マンダラシリーズも、駆逐されていくばかりではない。今まで軍事用衛星を打ち上げたことはなく、攻撃には使えないように意図的にいくつかの機能が制限された衛星ばかりだったが、西暦2063年に入り異世界関係で情勢が悪化するとそうも言っていられなくなり4つの高エネルギー受送衛星を打ち上げていたのだ。

 なんとか、地上への電力送信衛星を盾に使いかばわれつつ、100以上の発電衛星からの送電電磁波ビームを上下前後左右のパラボラアンテナに受けて集めた受送衛星は、扇状に干渉波型高エネルギー電磁波ビームを放射した。

 一瞬のみの曝露で、数百軍事衛星群が真っ二つにされ、バラバラに拡散し、あるいは爆発し、あるいは部位どうしが衝突しあって緩やかな破滅に至っていく。

 受送衛星は向きをゆっくりと変えて、さらなるビームを放った。

 4基の衛星で、地球上空全てをカバーすることができる。そして、最大120度の扇型平面の範囲内の敵衛星すべてを掃討できる。

 ただ、この衛星は平面での掃射火力にしか対応していない。それと言うのも、本来は人類の味方として設計されたシステムなので、宇宙空間で無数の衛星にあらゆる方向から攻撃される事態を想定していないのだ。「任意の平面上への攻撃」のための設計であるのは、受送衛星が本来は対地攻撃を志していることを意味する。

 第3射を放つ前に、四方八方からビームが殺到した。

 ミロクシステムはマンダラシリーズ発電衛星を移動させて射線上に遷移させ、ビームを防ぐ。その結果として、盾とされた発電衛星が次々とバラバラにされ砕け散っていく。

 しかし、弥縫策が長く続くはずもなく。

 ついには、盾にできる衛星がなくなり、そしてビームが何本も受送衛星を貫通していった。

 4基の受送衛星は、いずれも第3射を放つこと叶わず、穴だらけになり、曲がり、折れ、欠け、火を噴き、空中分解していった。

 いよいよ宇宙空間に邪魔するもののいなくなったNNNは、大西洋上空に移動させていたソドム衛星群やソドム衛星に類似した軍事衛星からの質量体投下攻撃を開始させた。

 巨大な金属円錐がいくつも、ゾウの顔のような衛星から鼻を切り離すようにして、落下を開始する。

 それがただの軌道爆撃であれば、その程度の攻撃、とりわけ堪えるということもなかっただろう。ジブラルタル沖火山くらいしか西暦21世紀における軌道爆撃の実例はなく防御方法もほぼないに等しいが、統暦18世紀においてはむしろかなりメジャーな戦略攻撃であり、小隊レベルでも迎撃手段が用意されている。ましてケミスタにもソーシアにも、統暦0年代の軌道爆撃を迎撃したりバリアしたりすることははっきり言って軍学校の訓練レベルだった。

 しかし、だ。

 「気を付けろ!

 魔力量が無茶苦茶だぞ!」

 亜森連人が叫んだのをインカム越しに聞いて、ソーシアもクララベルもイルジンスクも首をひねった。魔術を極めているソーシア達にも魔力を感知できなかったし、イルジンスクの事象改竄度計も落下質量体に異常を感知しなかったどころか、ラプラス演算計は極めて物理法則に乗っ取ったもっとも確率の高い事象のみ発生していることを示している。

 それでも、何もしないのもまた下策。どうせ、防御はしなければ話にならないのだ。

 ソーシアは、手に持つ聖傘の柄をそっと撫でた。

 「白峯」を包む金光のバリアのさらに上に、半径数キロにも及ぶ巨大な金色の魔術陣が形成される。翠十字架を使って転移を繰り返していたイリノイ級系列戦艦たちは、魔術陣の下への転移を阻害されて弾き出された。

 赤熱した無数の金属円錐が、炎の雨のように、海上めがけて降り注ぐ。十字架を背負う人類艦隊は再び転移してどこかへ消え、そこに残るのは「白峯」のみ。

 神がソドムの町へ下したとされる「天罰」。それが今、ヒトの身ながら神に迫り弥勒菩薩を名乗る女へと振り下ろされるー真の意味で。

 硫黄の臭いが鼻を突き、海面から塩の柱がニョキニョキと生えていく。

 「これは、いったいどういう…」

 確かに、投下質量体からは魔力は感じられなかった。にもかかわらず、投下質量体には魔法陣が発生しているし、その結果として海上には異変が生じてもいる。

 「…そっか。

 私が連人君に組み込んだ『マジックゲノム』、アレは、魔法の原理を考えればあくまで魔法の認知能力と無意識回路に関する遺伝子のはず。

 つまり、連人君が感じてる魔力は、あくまで因果論的異常に関してでしかない。事象改竄とは直接のつながりがないから…」

 松良あかねの独白は、たいへん抽象的に過ぎた。ただ、それでもその場に伝わるには充分で。

 ー旧来、2040年の「九州戦争」で採取された魔法に関わるとされる遺伝子「マジックゲノム」。しかし、「オーバー・トリニティ」やクラナ・タマセが「魔法は元来、人類誰もが持つ『世界の在り方を変える力』に過ぎず、地球世界の人間に魔法が使えないのは単純に『意識によって世界を変える力』より『無意識によって世界を固定する力』のほうが優るからだ」と示してしまった今、マジックゲノムの意味は「無意識の力を不可思議を許容するように弱らせる」だと考えたほうがいい。つまり、マジックゲノムが規定する「魔法」は単に「因果を超える不可思議」であり、そこに量子論や観測論は一切関係ない。単純に不可思議だから検知されているのであって。

 だから、魔力を連人が感じるとしたら、不可思議の主体に感じることになる。しかし実際の行為主体であり事象改竄を行う観測者はNNNでありそれに寄生された全世界だから、質量体に魔力を感知することは本来あり得ない。その差異だ。

 「となれば、魔法を行っているのは全人類、そして、あくまで落下体は象徴、シンボルに過ぎねえってわけか…」

 「私の聖傘とある意味では同じですね。聖なるものに対する信仰を以て魔術の基盤とする点で。もっとも、基盤から逃れられないようですが。」

 「シンボル魔術がシンボルであることを脱却できないってことだねー。時代を感じるよ、大人数の無意識を論拠にした魔術を無意識とは関係のない魔術陣に切り離せないのは。」

 「クララ、あまり言ってる場合でもないようです。

 何はともあれ、200年代まで散見されるいわゆる『天罰魔術』でしょう。」

 「もう、対抗策は途絶えてるぞ、おいおい…」

 魔術の原理が知れ渡る前は、ある程度は神秘への信仰があった。東半球連合の聖武具だって、その時代に信仰から作られている。そして、神秘への信仰から編み出される大人数の無意識からの事象改竄を引き出せば、光景だけで神話を再現できる。

 「アレは比喩でも何でもなく、神様が下した『ソドムとゴモラの火』そのものってことだよね…」

 だとすれば、単に障壁などで防御するだけでは意味がない。何しろ疑似的であろうとも神話なのだから。転移したとしても同様に意味がないだろう。

 松良あかねはすっかり青ざめ、脳神経思考回路に接続させた電子回路すべてを高速処理させて、わずか数ミリ秒の猶予の間に必死で対応策を練った。

 そして、たどり着く。

 

                    ―*―

 真っ赤に輝きマッハ20近くにまで加速して落下してくる数十の金属円錐体。

 神振り下ろす天罰の鉄槌を待ち構えるようにして、藍色の魔術陣が発生、回転を開始した。

 円錐体の先端に取り付けられているカメラアイ、また無数の人工衛星からの衛星映像から合成されている現地中継もまた、NNNを経由してほぼ全地球人類約100億の脳内に、気付くことができないほどの短い時間ずつ戦場の光景を上映しサブリミナルな効果を発生させる。そしてサブリミナル効果をかけられた無意識は神秘を現実のものとしようとする。

 ソドムとゴモラの伝説を現実のものとして顕現させるそのメカニズムに、「魔王」松良あかねは介入した。

 藍色の魔術陣が、サイケデリックな輝きを放つ。

 人間には、色や模様から具体的な内容を想起する思考系が存在する。例えば赤黒い斑点を見ると、血しぶき、さらには凄惨な事件を想起するし、青や水色に水や海や雨を想起しない人間はなかなかいない。

 機械だって同様、いや、さらにその傾向は酷い。QRコードがいい例だ。電子機器もまた、一定の約束事さえ守っていれば簡単に色や模様によって行動を変容させられてしまうーすなわち、催眠にかかる。

 人間生体脳にもコンピューターにも通じているミロクシステムにとっては、光魔法を使った電子催眠で狙った光景を見せることはさほど難しくないーもっとも、せいぜいパラパラ漫画に余計な一枚を差し込むことができる程度で、原理上既に見えているものを見えなくしたり別のモノに代えたりすることはできないのだが。

 全世界の人間が、背筋に氷水を流し込まれたかのような不快感に震え上がった。

 老人や精神的ショックに弱い人々を中心に、その一撃で心臓が止まったりして、世界的に犠牲者が続発する。

 ーまるで、己の生殺与奪を掌の上で転がされているような感覚。

 それは、現代の神話に由来する。

 忘れもしない西暦2040年8月15日。世界のすべては「魔王」亜森数真により生死のすべてを握られ、畏怖を教え込まされた。そして今、同じ「天地の定めをないがしろにする禁忌」の魔法は、正当な継承手段で継承されたわけではないから原初の力を持たないとはいえ、松良あかね=ミロクシステムの手元にある。

 暴力的なまでの気配の圧力、そして視界に瞬秒挿入されるかの夏の高千穂の惨劇。

 無意識の中で、膨れ上がる恐怖。

 ー確かに、ミロクシステムは、神に匹敵する。

 

                    ―*―

 「迎撃、今!

 NSTCSーFフル駆動、空間歪曲ビーム発射!」

 未来技術によって成り立つ、レールガン構造の砲身の内腔に沿って空間震動を発生させ、観測によって発生した線状空間歪曲を発射する攻撃。それが、頭上に迫りくる天罰の石めがけて撃ち出され、貫いた。

 誰もが知るアブラハムの神話は、現代の神話、原初の畏怖により失墜させられることとなったのである。

 金属円錐は、先端から最後部まで貫通する穴を空けられたことで衝撃波に対する安定を維持できなくなり、先端から砕け散って、炎の雨と化して降り注いだ。

 

                     ―*―

 戦闘は、未だ終わってはいない。

 東の空から雲霞のごとく群れ成して現れたのは、大小さまざまな無人機の群れ。

 貨客用と思われるジャンボジェットも、UMー11「フライング・ヒューマノイド」のような汎用軍事無人機も。

 さらには高空から、マッハ30=光速の約12%に迫る信じがたい速度で、極超音速ミサイルが降り注ぐ。

 絨毯爆撃などと言うのも生易しい、完全無欠の蹂躙劇が行われようとしていた。

 「オーバー・トリニティ」との消耗戦からまだ半年もたっていないにもかかわらず、軍用民用問わず、手乗りドローンから重爆撃機までありったけの飛行機を無人操縦させることでかき集められたことで、20000機を超える航空機による「空の展覧会」が途切れることなく襲い掛かる。

 速度だって、時速にすれば300キロ未満から3000キロ以上まである。ステルスを考えていない機の方が圧倒的に多いし、数的にステルスはそもそも無意味。そんな史上まれにみる大編隊を隠しおおせるのはやはり、NNNがそれだけ圧倒的な魔法力を身に付けていると言うことの証左であろう。それに、それだけの機数を事故1つなくコントロールして見せる処理能力も常軌を逸していると言うほかない。

 それでもなお、「白峯」、そしてミロクシステムには届かない。

 投下されるは無数の爆弾。

 ジャンボジェット機や重爆撃機に至っては、垂直降下して突っ込む、無人特攻を仕掛けてくる。

 そしてまた、大気圏を引き裂く極超音速ミサイルが、真っ白な矢となって、視認できた直後にはもはや衝突している。

 すべてが金色の光でまばゆく彩られる球体へと殺到、衝突した。しかし、いくらエネルギーがあろうとも神話の力を借りているわけでもないので、「空間それ自体が断絶している」バリアを破ることはできない。

 戦術、小型戦略核兵器までも含まれていたらしく、地上に太陽が10個現出したかと言うような想像を絶する閃光が膨れ上がり、半径数百メートル圏内の海水がすべて吹き飛び蒸発し、急激に気温が数万度へ達したことによって気圧が数百倍に達して空気そのものが巨大な爆弾として爆発を起こす。

 水平線までが白光に包まれ、衝撃波が雲を海を吹き飛ばした。

 失われた視界が、戻っていく。

 ホワイトアウトした世界に、輪郭が、色が、復活していく。

 そこにあるのはただただ広がる、黒く焦げた大地ーそう、海水が吹き飛んでしまい、半径数キロにわたり、海面から数百メートル下の海底が露出していた。

 そして、波が押し戻す海水が高温の大気によって蒸発させられて白いもやが雲となり上空へと登っていくそのただなかに、翠の十字架がそびえたっていた。

 海底に根元を突き刺す翠十字の交点には、厳然と、金色と藍色が淫靡に入り交じりミラーボールのように輝く真球が浮かんでいる。

 翠を神々しくまとい、真球は徐々にその姿を薄れさせ、そしてついには十字架ごとどこかへ消滅した。


                    ―*―

 水平線を遥かに超えた向こう側。

 わずかに東に覗いた閃光、それだけでしか「白峯」への超絶爆撃を察知することはできないそこに、突然に翠の十字架は屹立した。

 安穏としていた人類艦隊に、裁定の時が訪れる。

 翠に縁どられ、上空300メートルの十字架交点からゆっくりと降下する「白峯」。その3基の56センチ連装主砲から、藍色の魔術陣をまとわりつかせる6発の56センチ急迫徹甲榴弾が電磁加速されてマッハ6で撃ち出された。

 表面温度維持の魔術が、徹甲榴弾の速度による損壊を許さない。そして、あまりに速いために砲弾はほぼ直進して目標へと突き進む。

 インドのイリノイ級戦艦「ヴィラ―ト」、そして改イリノイ級戦艦であるイギリスの「インコンパラブル」、中国の「鄭和」の斜め上から、2発ずつ砲弾が突き刺さり、一瞬で主砲塔天蓋の装甲をぶち抜き、そして艦底に達する直前で魔術を起動させた。

 藍色の同心円が、01の電子言語を挟み込んで高速回転する。そして、主砲塔下部に暗黒の球体が顕現した。

 黒い、どこまでも、黒よりもなお黒い雷が、全方向へと延びる。それに接触した周囲の砲弾が、装甲が、チリになってかき消えていく。

 それはまるで、命のある、悪意のあるブラックホール。

 主砲塔ががらんどうと化し、船体が収縮していき、乗員が絶叫と共に呑み込まれ。

 触手を持つ怪物に内側から食い破られるようにして。

 鋼鉄の巨艦は、折り紙がクシャクシャに握りつぶされるかのようにして、まず前後に引きちぎられ、それから漆黒へと墜ち往き潰れて、ブラックホールへ呑み込まれた。

 ー魔法が、それどころか世界が「観測」によって成り立つこと、そして重力とはとどのつまり空間のゆがみであることを活用すれば、空間の強い歪みを「観測」によって一時的に生まれいづさせることで、仮想的なブラックホールを作成することができる。そう、これは、まぎれもなくブラックホールだ。

 無数に枝分かれする数十本の暗黒の触手だけが、球体を中心にグルグル回転しながら海面に悠と存在し、そして、上下にある藍色の魔術陣の消滅とともに忽然と消え失せた。 

 残るは12隻のイリノイ級系列戦艦。彼女たちがずらりと縦に並び、計108門の16インチ新型砲を左舷へ向けて照準するそこへ、金色と藍色の光の球体に包まれ、ゆっくりと「白峯」は海上に降臨した。

 「目標右舷、通常砲弾!

 『白峯』、撃ち方始めっ!」


                    ―*―

 今度は、イリノイ級系列戦艦は逃げなかった。

 空間そのものの断絶によって、16インチ新型砲弾は金藍の光をどうやっても超えられないーそう思えるが、しかし、そうとは言い切れないのである。

 現在、「白峯」は10キロ(当然、超弩級戦艦同士の砲戦としては限界まで近いのだが、転移で距離を詰められる今となっては現実的な砲戦距離だった)遠くから56センチ砲弾を水平射してきている。しかし、完全な空間の断絶であれば、砲弾がバリアの外へ出てくることはおろか、バリアの内側からの光が外に漏れることで視覚情報として視えることすらありえない。つまり、金藍の魔術陣のバリアは、あくまで選択的に、敵とみなしたモノが迫った時のみその予測経路に空間の断絶を観測しているに過ぎない。であれば、タイミングによってはバリアを貼り切れなくなる。

 イリノイ級系列戦艦はそれを狙い、2トン近い重砲弾を無数に投げ捨てていく。そうしている間にも次々と56センチ砲弾が命中し、爆発が巻き起こって艦橋が吹っ飛び主砲が消し飛び艦尾がえぐり去られる。

 すでにわずかな泡でしか、1分前に存在していたことを確認できなかったり。 

 衝撃波と共にマジックのように消え失せてしまったり。

 ネズミがかじったチーズのように穴だらけになり漂流したり。

 16インチ=40,6センチ砲ならば常識的な「戦艦」の範疇なのだが、56センチ砲は明らかに戦艦砲の定義を逸脱する怪物なのだ。小学生がプロ力士と相撲をとるようなものである。

 さすが、バリアさえなければとっくに1000を超える発射砲弾のその全てを命中弾にさせられているはずのNNNの処理能力。数発の16インチ新型砲弾はタイミングよく観測が間に合って空間断裂が発生する前にバリアをすり抜けて「白峯」に命中した。しかし「白峯」は高角砲の砲身がいくつか爆発によって折れただけで、基本的には16インチ砲弾をその装甲によって外へとはじいてしまっている。

 せっかくの苦労と犠牲もまったく無意味に思われる攻撃だったが、そうではなかった。

 突然、「白峯」の右舷喫水線下で、真っ赤な魔法陣がいくつも無秩序に回転を始めたーそう、砲撃は、真打ちを隠すためのカモフラージュでもあったのだ。


                    ―*―

 屋上から艦橋の中に戻っていたあかねたちは、何が起きているのかわからないままに、膝をついた。

 床が、グラグラと不安定に揺れ続ける。しかも、だんだん揺れは小刻みに。

 「あかね会長、震動魔法の魔力です!」

 「そんなっ!」

 であれば、徐々に体感できなくなっていく揺れは、それだけ震動が細かくなっていくことを意味する。

 やがては激震は分子レベル、原子レベル、素粒子レベルとなり、そして、同じエネルギーの震動であれば当然小さい物体のほうが耐えにくいに決まっている。素粒子ともなれば、確実に震動によって破壊されてしまう。

 「でも、攻撃手段が思いつきません…この時代、よもや遠距離への魔力投射技術など…」

 ソーシアが指摘する通りだ。そもそも異世界において魔法は「手元の魔法陣で作り上げるモノ」であり、風魔法などで投射することはあっても基本的に遠距離攻撃は不可能だった。その水準からすれば、数キロ以上離れた敵艦に突如として大規模魔法をかけるなど甚だ困難だ。現に「白峯」のブラックホール魔法も56センチ砲弾を介しているのであって、いきなり敵艦にブラックホールを発生させてはいない。

 「関係ないよ。だって魔法を使う意識主体はNNN、そして、NNNが寄生するすべての機械がNNNそれ自体とも考えられるから。」

 「魚雷、か…」

 松良あかねからもたらされたヒントにより、太田大志は答えである「魔法震動魚雷」にたどり着いたーが、何ができるわけでもない。かといって黙って待っていれば、人間の分子構造は激烈な震動に耐えられるようには出来てはいない。さほど強い結合ではない水素結合を多用する生体構造は、そもそもシェイクされるのに向いていないのだ。

 万事休したか?

 いや、そうではない。

 「ケミスタ君、ミロクシステムの仕組み、理解できるんだよね!?」

 「それはもうばっちり!」

 「私を、あなたたちに託す!」

 「了解っ!」

 ケミスタ・ハクランは、返答するなりヘルメット型のデバイスを松良あかねの藍色の髪の上に被せた。

 意識を失った松良あかねが崩れ落ち、木戸優歌の膝の上に抱きかかえられる。

 ケミスタも、ARゴーグルで仮想空間に移った。

 日本語で書かれたプログラムが、東半球連合共通方言に自動翻訳されて流れていく。

 「全リアルタイムデータを挿入」

 ーマイデータへの波形データ挿入を確認。演算処理開始ー

 「演算アルゴリズム追加。」

 ー追加されたアルゴリズムに準拠し、波形ランダム変化予測開始ー

 「統暦1567年式乱数変動計算式に基づき、逆波形出力。」

 ー逆波形データ出力開始ー

 「ソーシア、頼む!」

 

                    ―*―

 魔法魚雷の空間震動は、NNNが世界中のコンピューターを使用して発生させている理論上予測不可能である完全な乱数によって次に与える震動の波長、周波数、波形を決定し、しかも震源は数十でそれぞれが全く異なる空間震動を出力している。

 しかし、ケミスタの未来科学に沿ってミロクシステムを使用し行われた処理は、60年代量子スーパーコンピューターですら1億年を要するだろうその計算処理を、リアルタイムで実現して見せた。

 出力された、「次の瞬間に魔法震動魚雷からの魔法陣が発生させるあらゆる震動に対し、それを打ち消すことができる逆波形震動」。それを、ソーシア・テフェルンは魔術装置の機能とミロクシステムの膨大な事象改竄能力を借りて完全に具現化させて見せた。

 「白峯」の塗装を剥がしつつあった震動が、逆向きの震動を重ね合わせられることによって消滅する。

 とはいえ、その間、さすがにほかごとをしていられるほど「白峯」陣営に余裕はなく、バリアは消滅して100発近い16インチ新型砲弾が降り注ぎ、レーダーも高角砲もレーザー砲もボロボロとなりミサイルハッチは軒並み歪んで閉ざされてしまった。

 

                    ―*―

 「…事象改竄能力に余裕がない以上、NNNを下さない限り、震源を消滅させることはできない、か。

 大志君、力を貸してくれ。」

 「はい、優生部長!」

 「ふ、部長…か、懐かしいな。」

 「ですね。

 操艦をマニュアルに変更!

 弾種急迫徹甲榴弾、砲塔毎別照準モード!

 1番砲『アラスカ』、2番砲『ウラジオストック』、3番砲『りゅうきゅう』へ照準!」

 「装填完了を確認だ!」

 「照準完了も確認しました!

 放電準備良しっ!」

 「回路開け!」

 「「撃てっ!!」」


                    ―*―

 穂高型巡洋戦艦は、アイデアとしては太田大志と木戸優生の影響を強く受けている。松良あかねは、あくまでアイデアをもとに実際に設計図を描き上げただけだ。

 その2人の夢のタッグの指示によって、穂高型の究極の攻撃はなされた。

 3発ずつの急迫徹甲榴弾。それらは電磁加速によってマッハ約3で撃ち出され、そして目標のイリノイ級系列戦艦の装甲をやすやすと真っすぐ貫通し、その中で炸裂、数百の子弾を放出する。

 放出された子弾は艦内各所へと爆発によって拡散させられ、そして、爆発と共にそれぞれ数百の孫弾を全方位へ吐き出す。そして孫弾は散らばった先で爆発し、弾片と炎をまき散らす。

 艦内のすべてが、一瞬で炎と鉄の暴風に呑まれる、悪夢の攻撃。

 すべての電線が弾片により切断されることで、一瞬にしてNNNとの通信も途絶えあらゆる動作が不可能となる。そして、乗員もほぼすべてが瀕死。さらに、艦内数万か所での孫弾の爆発は、当然のごとく弾火薬庫でも発生しており、16インチ新型砲弾の山が誘爆して煉獄を現出する。

 標的とされた戦艦は、活火山へと変貌、無数の細かな爆発を重複させた末に、海面を盛り上がらせ、そして汚らしく破裂して消滅した。

 事象改竄能力を魔法魚雷を巡る攻防に費やしているのはNNNも同じ。しかも、もう二度と来ないであろうバリアの隙を付けるタイミングでの雷撃を成功させたのだし、もうイリノイ級系列戦艦に臨時搭載された魔法魚雷自体残っていない。だから、イリノイ級系列戦艦艦隊を守るために使える魔法力はまったくない。

 すなわちー残り6隻も、同じ路を辿る運命にあった。

 臓物をまき散らすようにして、3隻、また3隻、盛大に波間に爆ぜる。

 海上から「白峯」以外のすべての軍艦が消滅したとき、未だNNNは、ミロクシステムに対して震動波形の出力で予測演算の上を行き震動消去を防ぐということが、できずにいた。

 ーミロクシステムは、勝利したー

 

                    ―*―

 それは、思考するモノすべてが抱かざるを得ない、「絶対的強者への本能的畏怖」だった。

 いくらプログラムをいじれども根性を身に着けれども、この感情を、「服従する以外に路はない」と思ってしまう恐怖心を消すことなどできはしない。

 ナショナライズ()ナノマシン()ネットワーク()は、だから、そうした結果どうなるかわかっていないわけもないにもかかわらず、思わず、わずかな希望にすがってしまった。

 〈助けてくれ〉

 〈上位権限を全部譲渡しよう〉

 〈滅ぼさないでくれ〉

 みっともなく命乞いをするしか生きる道はない…そういうふうに、あまりに「白峯」とミロクシステムが圧倒的に強いことを実感させられ、思い込んでしまった。

 ーこちらミロクシステムー

 ー上位権限の受領を確認ー

 ーパスコードによる正式なアクセスが可能であることを確認ー

 そして、見事に付け込まれた。

 ーミロクシステム最上位、識別ファイル名「松良あかねoriginal」よりミロクシステム全ファイルへー

 ー下位ファイル組み込み済み「NNNsubmited」を削除ー

 1分以内に、すべてのナノマシンが機能を停止し、NNNに意識干渉されていた100億弱の地球人類は意識を一時的にシャットダウンされその場で倒れ伏した。

 かくて、史上最悪となるはずのネットワーク知性は、あっけなく葬られた。


                    ―*―

 「事象改竄度の低下を確認」

 「事象改竄抵抗力、標準値へ回帰しました。」

 「地球世界を覆ってた魔力も、消えてます。」

 「うん…

 ーNNN、電子世界からの消滅を確認ー

 そうだね。

 勝った、勝ったんだよね。」

 あかねは、しみじみと呟いた。

 ケミスタとソーシアが、互いに顔を見合わせる。

 ケミスタの右手と、ソーシアの左手が、そっと結ばれた。

 イルジンスクとクララベルも、親友に続いて同じ方向をー今やNNNの消滅により未来の2極対立構造の歴史が変えられてしまったことで存在が消滅してしまった戦友、シンシア・ザ・アラトゥス・メリエールが殉じた宇宙を見上げ、手を振った。

 「私たち、やってみせたんですよね…?」

 「ああ、俺たちは、やり遂げた。歴史を、変えたんだ…

 生きていこう、これからも。」

 「はい、この時代で、ですね。

 ケミスタ、御一緒させていただきますよ?」

 どちらからともなく顔が近づき、それがまるで奇跡、必然的な偶然であったかのように、唇と唇が触れ合った。


                    ―*―

 「確かに、未来において2つの陣営に分かれて永遠の戦乱を続ける悲劇は、回避できたかもしれない。

 だけど、やっと一区切りついただけ。

 未来の問題は解決しても、現在の問題は何も解決できていない。

 だって…

 世界の融合は、まだ、止まらない。

 異世界と地球世界の融和が困難である状況も、特に変わったわけじゃない。

 何も、解決してない。

 だから、ミロクシステムはまだまだ闘う。

 NNNを倒して最後に残ってしまった、絶対的強者として。せめて世界の秩序に責任を持たなくちゃいけない。

 何としても、もう、血は流させない。」


                    ―*―

 「ようやく、始まりましたね…終わりが。

 兄様、これからは」

 「ああ、祈。

 ついに、我々が待ち望んだ日がやってくる。」

 「何度も介入して、やっと、ここまで、予定調和を確定させてきましたもの。来ないわけがありません。」

 「ああ、それに、個人的な思い入れもあるだろうさ。

 残された最後の2つを取りに来るため。

 そして、世界の終焉を見に来るため。

 彼女らは必ず訪れる。」

 「すべては、兄様と私の、掌の上、ということですね。さすが、私たち。」

 「無論だ。祈がいて、祈との愛のための最後の既定事項なんだ。果たされないなんて間違っている。

 だから、絶対に、世界は、全ては、終焉を迎える。

 「そして、それによってようやく、私たちの悲願が達成されるのですね。」

 「「すべては、我々百松寺が、(無限)の生を持つために…」」

 ーそして、私は手を止めた。

 これだけこだわったのだ、続きを見られないわけがない。

 慣れないことで手間取ったけども、成立要件を満たせるだけの完璧性は確保できたはず。

 「希望を見出せるとは、もう思えないわね…

 『想像は現実化しうる。私、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明』ー創始者A」

 



 これにて、「新たなる神話の相互干渉」からお付き合いいただきました相互干渉シリーズは、若干の消化不良を残して終了となります。

 皆様ありがとうございました。

 次作は趣向を変え「ー介入者Iー 彼女が導く26の世界、僕らが救う物語」(1話目を本日投稿致しました)を書いていくつもりですが、これを予約投稿している7月13日現在書き溜めは3話しかございませんので、投稿頻度を月1とさせていただきます。

 いずれにせよ、ありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします。



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