83.病人を集めてみたらアーレが不貞寝した
「こうして見るとにぎやかだな」
「普通に狭いって言うんだよ」
まあ……そうだね。狭いね。
今、本家の中には、十人ほどの女性と子供がごろごろしている。
それでも多少スペースに余裕はあるが、残念ながら囲炉裏の近くは占領されてしまった。居場所を奪われたナナカナが私のすぐ傍に立っている。
まだまだ冬真っ盛りである。
日ごとに寒さが深まってきた昨今、秋の終わり辺りから体調を崩すことが多くなった白蛇族。
ここ最近は一日二回は必ず呼ばれるようになり、その人数が増えてしまい……いよいよ対抗策を試行することにした。
今現在調子の悪い者と、よく体調を崩す者を、集めてみた。
要するに、ここに集めて簡易的な入院という形にした。
さすがに往診の回数が増え過ぎたせいだ。
一夜で六回も呼ばれたのはつらかったが、それより。
私に気を遣って呼ばなかったせいで、患者の病状が少し悪化したことの方が気掛かりだった。
その相手が子供だというなら、猶の事である。
というわけで、患者を集めてみた。
いっそ一緒に住んでしまえばすぐに対処もできるし、そもそもこの時期の白蛇族は基本的に寝ているばかりなので、世話の手間もない。
しっかり完治するまで預かって、治ったら帰そうと。そういう試みである。
今は婆様も一緒に住んでいるので、患者も安心だろう。
予想外だったのは、入院生活を希望する人数が多かったことだ。
「こういうことを考えているけど」と提案したら、当人も家族も結構な即決で、泊まり込むことを決めた。
おかげで、近くの空き家だけじゃちょっと間に合わないくらいに参加者が増えた、というのがこれの原因である。
「レインはこれでいいの?」
「何が?」
「族長と二人きりで過ごすの、もう無理なんじゃない?」
……ああ、うん。
「そうだろうな……」
アーレなんてもう不貞寝しているしな。
あまりの参加人数の多さに、彼女も同じ結論に至ったのだろう。
彼女は、病人を連れてくるにしても空き家に突っ込んでおけばいい、と考えていたらしい。私もそれでいいと思っていた。
しかし、予想外に参加人数が多かったゆえの結果がこれである。
あの人は呼ぶ、あの人は呼ばないなんて露骨な贔屓をするわけにもいかないからな。希望者全員を呼んだらこうなってしまった。
「いや、でも大丈夫かな?」
「そうか?」
「みんなはここに残して、族長がレインの家に転がり込めばいいんじゃない?」
「…!」
天才だ。
この子は天才だ!
……夜はここに泊まるし、最近自分の家に帰ることがあまりなかったからな。盲点だった。
よし、折を見て嫁に提案してみよう。きっと不機嫌が治ることだろう。
「というか最初からそうしてほしかった。ここで同棲みたいなことされたら気を遣うから」
「……ごめんな」
全然気づきませんで申し訳ありません。
私も新婚生活に浮かれていたかな……周囲への気遣いが足りなかったな。
こうして私の負担は多少減ったわけだが、代わりに人数が増えれば必然的に家事も増える。
特に消費する水の量が増えるので、何度も川に汲みに行くことになる。
まあ、それくらいは苦もないが。
患者の食料なんかはその家から提供してもらっているので、そっちの心配はない。
やはり病を治すには、栄養を取らないと。
「――レイン」
そんな中、珍しくこの時期外を出歩く戦士がいた。
「どこか行くのか? カラカロ」
外套をまとった前族長の息子、カラカロである。
よかった。
この寒い時期に下着姿同然なのは、見る方も寒い。……あの外套の下は薄着なんだろうけど。
「ちょっと森まで。母は元気か?」
預かった患者の中に、カラカロの母親……義理が、二人いる。
どちらも四十を少し過ぎた、この集落では高齢に当たる人たちだ。
体調は崩しがちだが、見た感じではまだまだ若いと思うんだが……この部族の平均寿命を考えると、もう危ないのかな。
……まあ、それでも彼にはまだ四人の母親がいるわけだが。
前族長は嫁を取り過ぎだろう。
「今朝連れて行ったばかりだ、変化はない。今は寝ているよ」
そして私は水汲み中だ。言わずとも見ればわかるだろう。
「結局何人集まったんだ?」
そう、冬に患者を集めるという試行は、今回が初めてなのだそうだ。
これまでは、基本的に婆様に薬を貰って寝ていることしかできなかった。
婆様も高齢なので、夜の往診はさすがにできなかったと言っていた。
無理をしたら、今度は婆様が倒れるから。
なんというか……医療って難しいな。
治す方も治りたい方も人間だから。共倒れになるのは最悪のケースだろう。
「十人くらいかな」
「多いな」
「多いよな。私も驚いた」
そもそも、まだ集落に来て一年も経っていない、どこの馬の骨かわからない私に身を預けるという選択をする者が多かったのに驚いた。
多少は受け入れられていると思っていいのだろうか。
「今から魔骨鶏の卵を拾いに行くつもりだ。あとでおまえの家に届けるから、母に食わせてやってくれ」
お、卵か。カラカロは優しいな。……母親六人は大変だろうに。
「ありがたいが、あなたは大丈夫か?」
冬の白蛇族は、私の想像以上につらそうだ。
もしかしたら、私の想像以上につらかったりもするかもしれない。
私も今や一員ではあるが、彼らの特徴は継いでいない。だから正確にどれほど身体に影響が出ているのかはわかりかねる。
「身体だけは頑丈だからな。問題ない。そもそも身内を預けて任せっぱなしというわけにもいかんだろう」
「……そうだな。身内を預けて任せっぱなしは、ダメだよな」
何気ない言葉だったのだろう、しかし今の私には少し響くものがあった。
「気を付けてな」
「ああ」
カラカロは戦士らしく、足早に行ってしまった。魔骨鶏の卵か……冬でも拾えるんだな。
「卵か」
卵は栄養価が高い食材だし、ぜひ患者に食べさせてやりたい。
……卵かぁ。
犬の卵もそろそろ孵りそうだし、子供も卵生……実際はちょっと違うらしいが、まあそんな感じらしいし。
最近何かと縁があるな。
…………
身内を預けて任せっぱなし、か。
正確には違うが、どうしても祖国に置いてきたケイラ・マートを思い出してしまう。
こちらから出したケイラの身を案じた手紙には、ほとんど具体的な返事はなく。
ただ、「レインティエ殿下の傍にいたい」とだけ書かれていた。
彼女は身内ではないが、身内同然だと思っている。
そんな彼女の要望が、私と一緒にいることだという。
今この状況は、私が王城に彼女を預けて任せっぱなし、という思い違いをしてしまっている。
…………
やはり、向こうの状況がわからないと、なんとも言えないな。
……もう一度手紙を出してみるか。もうちょっと詳しい事情を教えてほしいところだ。




