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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
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07.白蛇族の集落





「……意外と」


 意外と、規模が大きい。

 それにちゃんとした家もあれば畑もある。家畜もいる。


 夕陽に染まる白蛇(エ・ラジャ)族の集落は、私が想像していた以上に蛮族蛮族していなかった。


 昔の生活についての本を紐解いた情報では、隙間風がひどく大雨でも降れば簡単に潰れそうな簡易テントのような住居で、狩りと森の恵みだけで暮らしているものだとばかり思ったが。


 そんなことはなかった。

 背の低い板張りの小さな平屋が三つか四つほど集まり、それが一つのグループのようになっている。そのグループが……結構多い。

 見た目は全然違うものの、聖国フロンサードの片隅にあるような村くらいには、発展しているかもしれない。


 ナナカナから事前に聞いていた情報によると、白蛇(エ・ラジャ)族は二百人前後が住む、こちら側(・・・・)ではそこそこ人数の多い部族になるらしい。

 二百人といえば、少し大きな村レベルだろうか。

 

 …………


 大雑把に、その二百人の内の半分は男だとしよう。

 白蛇(エ・ラジャ)族では、男は全員戦士として育てられるという。よほどの問題や向き不向きでなれない場合もあるが、多くがそのまま戦士となる。


 アーレ・エ・ラジャやタタララのような戦士が、百人。


 最初こそ心配していたが、霊海の森を越える最中、何度も見た。

 タタララが強いのは腹筋を見れば納得できるが、華奢な普通の女性に見える……それもまだ少女であるアーレ・エ・ラジャが強いのは、結構な衝撃だった。「どうだ強いだろう。これが族長の力だ」と勝ち誇った顔で言うアーレ・エ・ラジャが幼く見えて可愛かったのも結構な衝撃だった。あれが私の嫁になると思うと結構ドキドキした。


 今では彼女たちの戦士としての腕を疑う気持ちはない。

 だからこそ、思う。


 ――こちら側(・・・・)の部族は、白蛇(エ・ラジャ)族以外も、全部がこんなに強いのだろうか、と。


 この集落だけでも百人だ。

 百人。


 ……たった百人で、もしかしたら、聖国フロンサードの総戦力の半分は潰されるかもしれない。それくらいの戦力だと思う。


 道理で昔から「蛮族には手を出すな」などという、貴族間では有名な噂話があるはずだ。

 出所も真意もわからないが、フロンサードの貴族なら誰もが一度は聞く言葉である。


 ――完全に同意である。下手にちょっかいを出したら火傷では済まないだろう。





「族長が帰ったぞ!」


 アーレ・エ・ラジャが叫ぶと、ぱらぱらと白蛇(エ・ラジャ)族の女性たちが現れる。


「――本当に連れてきたの!?」


「――男だわ! 向こう側(・・・・)の男だわ!」


「――見てあの髪! おしっこみたいな色してる!」


「――普通の人間なんてはじめて見た……」


 若干ちょっと文句を言いたいことを言われたりもしつつ、女性たちは族長の歓迎そっちのけで私の方に注目している。……おしっこみたいな色は初めて言われたな。子供の声じゃなかったら本当に文句を言っていたかもしれない。


 白蛇(エ・ラジャ)族。


 よくよく見ると、露出の多い老若男女……まあ男は小さな子供がいるくらいだが、全員どこかに白蛇の鱗……白鱗と呼ばれる特徴がある。


 アーレ・エ・ラジャは首に。

 タタララは右手に。

 ナナカナは左肩から左の二の腕辺りまで。


 興味津々という顔で私を見ている白蛇(エ・ラジャ)族の女性たちも、所々その特徴がある。

 長く日中で活動しても焼けない色白の肌で、白鱗の特徴があり、しかしそれ以外はバラバラだ。髪の色も瞳の色もあまり統一感がない。


 なんでも昔は近親婚を繰り返したらしいが、それがよくないと知ってからは、友好的な他の部族の血を入れたらしい。

 その結果、白蛇(エ・ラジャ)族の特徴はそのままに、でも髪と瞳だけはよその部族の血の影響を濃く受けたのだとか。


 不思議なもので、婿が来ようが嫁が来ようが、この地で子供が生まれれば、確実に白蛇(エ・ラジャ)族として産まれるそうだ。

 もちろんよその部族も同じ現象が起こるのだとか。


 生まれを左右する。

 それこそ神の御業としか思えない、不思議で神秘的な現象である。


「――静まれい!」


 男を抜かした老若男女の女性たちにきゃーきゃー言われるという、私の人生にはきっともう二度とないだろう奇跡は、遅れてやってきたすごい女性が割り込むことで終了した。


 すごい。

 何がすごいって、動物の頭蓋骨を頭にかぶり、烏的な鳥の羽をいっぱいつけたケープをまとっているところだ。まさに蛮族という感じである。蛮族のシャーマンという感じである。


 女性たちが自然と道を空ける中、女性シャーマンがこれまた頭蓋骨付きの杖をついてゆっくりやってくる。


 すごい。

 霊海の森で見た生命ならざる者より不気味で怖い。すごい蛮族感だ。意外と文明的だと思っていたのに、彼女一人だけで蛮族レベルが桁違いだ。


「婆様。帰ったぞ」


 アーレ・エ・ラジャが婆様と呼んだ女性は、彼女を一瞥するとフンと鼻を鳴らした。


外の男(・・・)など信用できんとあれほど言ったであろう。なぜわしを信じない?」


 え、このシャーマンそんなこと言ったのか。……というかおばあさん扱いなのか。まだ四十歳くらいにしか見えないのに。まだまだ若いと思うが。


「仕方なかろう。ここの男(・・・・)の方が我は信用できない」


「……チッ。確かに仕方ない面もあるか」


 婆様は忌々しげに舌打ちした。でも反論はしないと。


「……フンッ!」


 婆様はじろじろと俺を見て、盛大に鼻を鳴らした。


「言っておくが、あの時はわしの方から捨てたんじゃからな! 向こうの男(・・・・・)などいらんのじゃ!」


 あれ?

 あの時?

 わしの方から捨てた?

 向こうの男(・・・・・)などいらない?


 ……なんか訳あり?


「わかったわかった。婆様の昔の色恋沙汰は何度も聞いたし皆知っている。疲れているのだから今日はもう休ませろ」


「フン! 最近の若いのは年寄りの言うことなど聞きやせん! ――今日中にカテナ様に挨拶だけはさせよ。カテナ様が認めなんだらさすがに受け入れられんぞ」


「わかっている」


 カテナ様?


 ……どうやらこの集落には、族長やシャーマン以上の重鎮がいるらしい。





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