71.商人ルフル
ルフル団とは、物々交換の行商隊のようなものらしい。
「あ、意外と……」
本当に、意外とちゃんと行商隊の体を成していた。
勝利を約束されたスペアリブで昼食を取った後、集落の誰かが叫んだ「ルフル団が来たぞー」の声に合わせ、私たちの家も動き出した。
物々交換用に用意しておいた、何が何だかよくわからない物を詰めた木箱を抱えて外へ出た。
遠目に見えるのは、かなり雑な作りだが、立派な二頭引きの大型馬車が三台。隊列を組んでやってきたようだ。
私たちはどうも出遅れたようだ。
すでに白蛇族の人たちがわーわー言いながら群がっており、ちょっと入れるスペースがない。
「行ってくる」
私とアーレと婆様は足が止まったが、ナナカナは行った。ナナカナだけじゃなく遅れてきた子供たちも飛び込んでいく。
……子供はすごいな。スペースがなくても割り込むようにして飛び込んでいくな。
「少し待とうか」
「ああ。今の内にルフルに挨拶に行こう。おまえのことも紹介したい」
あ、そうか。ルフルさんの行商隊だから、ルフル団か。
「おーす、アーレ」
この人がルフルか。
戦牛族と同じくらい背丈が高い男である。
確か風馬族だ。
背は高いが、戦士のように肉厚というわけではなく縦長である。頭の一部の髪の色が違うのは、馬の特徴を継いでいるかららしい。とても足が速い部族だそうだ。
「揉め事終わったんだって?」
「ああ、ジータのバカがごねたせいでな」
「あーそう。その辺はよくわかんないけど、落ち着いたんならいいやぁ」
実にへらへらした男である。フットワークも性格も軽そうだ。
「あ、そうそう。アーレ結婚したんだって? 彼がそれ?」
それってなんだ。……そうだよ、私がそれだよ。
「初めまして、レインだ」
「初めまして、ルフル団の頭領ルフルです。先に行っておくけど僕らは戦士じゃないから、荒事には拘わらないよ」
なるほど。
こちらでは荒っぽい男ばかり見てきたから、こういうタイプは新鮮だな。
「色々噂は聞いてるよ。変わった男が来たとかなんとか。へーそれが彼に貰った噂の指輪かぁ。こんなに青い石なんて存在するんだなぁ。あ、婆様久しぶり。今年も会えたね」
絵に描いたような軽薄さで、彼はぺらぺらしゃべり続けた。
……面白いものだ。
しゃべりながらこちらの反応を伺い情報を集め、へらへら笑っているようで油断は一切していない。
一見すると軽薄だが、そう見せているだけ。
私もかつては王族、いろんな癖のある人たちを見てきた。
中には商人もいた。
下手に出る者に限って胡散臭くて取るに足らないと思わせるくせに、妙な緊張感や違和感があるのだ。油断するなと本能が囁く。
そう、このルフルという男のように。
まるで本物の商人のようだ。
この地にもいるんだな、こういう者が。
ルフル団は、風馬族であるルフルを筆頭に、十二人ほどの構成員で成り立っているそうだ。
風馬族だけではなく、黒鳥族や鉄蜘蛛族、飢栗鼠族に虹羽族といった者たちの混合隊で、得意分野が違う強みを生かしているようだ。
それと聞いたことがなかったのが、薄虎族と赤熊族。
どちらも戦牛族並の強さに特化した戦士の部族で、こういう生活をしているのは珍しいのだか。
特に薄虎族は小さな女の子なのでまだわかるが、赤熊族の男は赤毛の大男で、とても目立つ。見るからに戦士っぽいのにな。
……ルフルも含めて、皆それなりに訳ありなんだろう。
「そろそろいいか」
ルフルの話を聞いている間に、馬車に群がっていた白蛇族が引いていた。向こうは取引が終わったらしい。
「ではルフル、いつものをくれ」
「あ、そう? ルスリスの結婚の話聞かない? ほら知ってるでしょ? 戦牛族の族長キガルスの息子さんの。この前盛大にやったんだよぉ」
「後でな」
「とか言いながら聞かないくせに。アーレはほんと僕の話聞いてくれないからぁ」
「はいはい、後でな。まず塩をくれ」
お、アーレが誰かを軽くあしらう姿なんて初めて見たな。
話し足りなそうなルフルをかわしつつ、私たちはようやく取引に入る。
さっきまでは見えなかった、馬車から運び出され並べられた商品は、どれもこれも私が見たことがないものばかりだった。
どうしても欲しいものは小麦粉だけだったが、いざ商品を見ると興味が湧いてきた。色々見ると欲しくなりそうだ。
「レイン! 向こう!」
人込みに突撃していたナナカナが、珍しく楽しそうな笑顔でやってきて、私の腕を引っ張る。
うん、ナナカナはいつもどこか冷めている印象がある子だから、子供っぽいところを見ると安心ああっ力が強い!




